

相続手続きは、専門家に頼まず自分で進めることも十分に可能です。ただし、すべての人に向いているわけではありません。まずは、自分のケースが「自分でできる」タイプか「専門家に頼んだほうがよい」タイプかを見極めることが、遠回りを避ける第一歩になります。
次のような場合は、自分で手続きを進めやすいといえます。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。借金や葬式費用を差し引くなどした遺産の額(課税価格)がこれ以下なら、原則として相続税はかかりません。
自分で進める前に、良い点と大変な点の両方を知っておきましょう。
比べること | 自分でやる | 専門家に頼む |
|---|---|---|
費用はどれくらい? | 書類の取得費などの実費だけ | 実費に報酬が加わる |
手間と時間は? | 書類集めから申請まで自分で動く | 大部分を任せられる |
ミスのリスクは? | 漏れがあるとやり直しになる | 専門家が確認してくれる |
平日に動ける? | 役所や金融機関へ行く日が要る | 動く日を減らせる |
どんな人に向く? | 相続人が少なく財産がシンプルな人 | もめている・財産が複雑な人 |
自分でやる最大のメリットは、専門家への報酬を節約できることです。財産の内容を自分で把握でき、手続きの知識が身につく点も利点です。一方で、手間と時間が大きくかかり、ミスや漏れがあるとやり直しになるリスクがあります。

次の5つの質問に「はい」か「いいえ」で答えてみましょう。「いいえ」が多いほど、専門家の力を借りたほうが安全です。
5つとも「はい」なら自分で進めやすく、「いいえ」が1〜2個なら、その部分だけ専門家に頼む「一部依頼」も考えましょう。
相続人同士でもめている場合は、ほかの答えにかかわらず、早めに弁護士へ相談しましょう。
相続手続きとひと口にいっても、内容は多岐にわたります。「何を・いつまでに・どこへ」を1枚で押さえておくと、期限切れを防げます。

自分で進める人が押さえておきたい主な手続きは、次のとおりです。
手続き | いつまでに・どこへ | 自分でできる? |
|---|---|---|
死亡届の提出 | 死亡を知った日から7日以内(国外は3か月)・市区町村役場 | できる(葬儀社が代行することも多い) |
年金の受給停止 | 厚生年金は10日、国民年金は14日以内・年金事務所 | できる |
健康保険の資格喪失・世帯主の変更 | 14日以内・市区町村役場 | できる |
相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から3か月以内・家庭裁判所 | 相続放棄はできる/限定承認は難しい |
準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内・税務署 | 所得が単純ならできる |
相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内・税務署 | 財産が複雑なら税理士向き |
相続登記 | 相続の開始と取得を知った日から3年以内・法務局 | 不動産が1〜2件ならできる |
預貯金の解約・名義変更 | 期限なし・各金融機関 | できる |
年金は、日本年金機構にマイナンバーが登録されていれば、原則として年金受給権者死亡届の提出を省略できます。登録の状況によっては届出が必要なため、年金事務所に確認しましょう。2024年4月1日より前の相続で、同日までに不動産の取得を知っていた場合の相続登記は、2027年3月31日が期限です。
亡くなった直後は、相続そのものよりも先に済ませる届出があります。
死亡届、年金の受給停止、健康保険の資格喪失・世帯主の変更が該当し、期限は早見表の上3行のとおりです。
これらは葬儀と並行して進めることが多く、慌ただしい時期です。まずは目の前の届出から片づけましょう。
死亡届の出し方と、その後に続く手続きは次の記事で確認できます。
葬儀などが一段落したら、相続そのものの手続きに入ります。
このうち期限があるのは、相続放棄・準確定申告・相続税申告・相続登記の4つです。順番は、次の「自分でやるときの流れ」で説明します。
自分で進めるうえで最も怖いのが、期限切れです。主な期限を過ぎたときの影響は次のとおりです。
3か月以内に判断できそうにないときは、期間内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます。相続税の申告は、遺産分割がまとまっていなくても期限までに必要です。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「事情があって話を進められず、相続放棄や単純承認を決める3か月の期限を過ぎてしまいそう」という相談が寄せられています。
3か月の数え方と、期間を延ばす手続きは次の記事で詳しく解説しています。
亡くなった人に所得があった場合の準確定申告は、こちらで確認できます。
相続税の申告期限を過ぎたときのペナルティは、次の記事で確認できます。
相続登記の義務化の対象や過料については、こちらをご覧ください。
ほかの手続きも含めた期限の一覧は、次の記事にまとまっています。

自分で進めるときに気になるのが、平日にどこへ行けばよいかです。窓口ごとに手続きをまとめておくと、1回の訪問で済ませやすくなります。
死亡届、健康保険の資格喪失、世帯主の変更などを行います。相続人を確定するための戸籍謄本も、ここで取り寄せます。
戸籍謄本は郵送でも請求でき、本籍地が遠くても最寄りの役場でまとめて請求できる「広域交付」もあります。広域交付を使えるのは本人・配偶者・父母や子などに限られ、兄弟姉妹の戸籍は請求できません。
年金を受けていた人が亡くなったら、受給を止める届出をします。亡くなった月までの年金で受け取っていない分(未支給年金)は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。
年金証書や戸籍謄本、請求する人の口座がわかるものなどが必要です。
未支給年金を誰が受け取れるかは、次の記事で確認できます。
法務局では、不動産の相続登記を申請します。登記はオンラインや郵送でも申請でき、平日に窓口へ行かずに済ませることもできます。
法務局では、戸籍の束の代わりに使える「法定相続情報一覧図」の写しを無料で交付してもらえます。
金融機関では、預貯金の解約や名義変更を行います。口座は亡くなったことを伝えると凍結され、手続きの方法や必要書類は金融機関ごとに異なるため、事前に案内を確認しましょう。
法定相続情報一覧図の作り方と使える場面は、こちらで解説しています。
口座が凍結されたときの解除の流れは、次の記事で確認できます。
税務署では、準確定申告と相続税の申告を行います。相続税の申告書は、亡くなった人の住所地を管轄する税務署に出します。e-Taxや郵送でも提出できます。
家庭裁判所では、相続放棄や限定承認の申述、自筆の遺言書の検認を行います。申立先は亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、相続放棄の申述書は郵送でも提出できます。
相続税の申告を自分でできるかの目安は、次の記事で確認できます。
ここからは、相続手続きを自分で進める場合の流れを、順番に見ていきます。基本的にこの順番どおりに進めれば、大きな抜け漏れを防げます。各手続きの詳しい進め方は、それぞれの記事で確認しましょう。
最初にすべきは、遺言書があるかどうかの確認です。遺言書があれば、原則としてその内容に沿って分けることになり、その後の流れが変わります。
自筆の遺言書を見つけても、勝手に開封してはいけません。公正証書遺言と、法務局で保管されている自筆証書遺言以外は、家庭裁判所で検認(遺言書の内容や状態を確認してもらう手続き)が必要です。
検認の申し立て方と、その後の流れは次の記事で確認できます。
次に、誰が相続人なのかを確定させます。そのために、亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍をすべて集め、相続人を漏れなく確認します。相続人を1人でも見落とすと、あとで遺産分割をやり直すことになりかねません。
自分が相続人にあたるか、範囲や順位を整理したい場合はこちらが参考になります。
続いて、プラスの財産とマイナスの財産の両方を調べます。預貯金・不動産・有価証券などの資産に加え、借金や保証債務などのマイナスの財産も必ず確認しましょう。借金の有無は、相続放棄を検討するうえで重要な判断材料になります。
財産の調べ方を財産の種類ごとに知りたい方は、次の記事をご覧ください。
財産の全体像が見えたら、そのまま相続するか、放棄するかを判断します。借金が明らかに多いなら、財産も借金もいっさい引き継がない相続放棄という方法があります。
プラスかマイナスかはっきりしない場合は、プラスの財産の範囲内でだけ借金を引き継ぐ限定承認も選べます。ただし、限定承認は相続人全員で共同して申し立てる必要があります。期限は、どちらも前の早見表のとおり3か月です。
相続放棄の進め方は、こちらで詳しく解説しています。
相続することを決めたら、相続人全員で誰が何を取得するかを話し合います。これを遺産分割協議といい、全員の合意ができたら遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・押印(実印)します。相続人が1人でも欠けた協議は無効になるため注意しましょう。
協議書の具体的な書き方やひな形は、こちらの記事で詳しく確認できます。
協議書と一緒にそろえる印鑑証明書などは、次の記事で確認できます。
相続手続きでは、どの手続きでも共通して必要になる書類があります。代表的なのは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本、住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書です。
戸籍は、法定相続情報一覧図を作っておくと、何度も戸籍の束を出さずに済みます。手続きごとに求められる書類は異なるため、提出先ごとに確認しましょう。
書類の種類や取り寄せ方法は、こちらで詳しく解説しています。
分け方が決まったら、財産ごとに名義変更を進めます。預貯金は解約・払い戻し、不動産は法務局で相続登記を行います。相続税がかかる場合は、税務署への申告・納付も必要です。
不動産の名義変更(相続登記)を自分でやる方法は、こちらが参考になります。
自分で進める場合、専門家への報酬はかかりませんが、書類の取得費用や登記の税金などの実費は必要です。主な目安は次のとおりです(2026年9月時点)。
項目 | 費用の目安 |
|---|---|
戸籍謄本 | 1通450円 |
除籍・改製原戸籍謄本 | 1通750円 |
住民票・印鑑証明書 | 1通300円程度 |
登記事項証明書 | 1通490〜600円(請求方法で異なる) |
相続登記の登録免許税 | 課税標準額(固定資産税評価額)×0.4% |
法定相続情報一覧図の写し | 無料 |
不動産がなければ、実費は戸籍などの取得費が中心です。不動産がある場合は、課税標準額に比例する登録免許税が大きな出費になります。
専門家に頼むと、上の実費に報酬が加わります。報酬は依頼先と頼む範囲で大きく変わるため、「どの手続きを任せるか」を決めてから見積もりを取りましょう。
自分でできる部分は自分で進め、難しい手続きだけを頼めば、費用を抑えられます。
依頼先ごとの費用相場と、費用を安く抑える方法は次の記事で解説しています。
弁護士に頼む場合の費用は、こちらで掲載事務所のデータとあわせて確認できます。
かかる期間はケースによって大きく変わります。戸籍の収集と、相続人全員の署名・押印をそろえる工程に、特に時間がかかりやすい点を押さえておきましょう。
平日に時間が取れない人は、郵送やオンラインで済む手続きを先に進めると効率的です。
期限のある手続きは、郵送の往復にかかる日数も見込んで早めに動きましょう。
次のような場合は、はじめから専門家に相談したほうが安全です。
依頼先は、困っている内容で決まります。もめごとや交渉は弁護士、相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士が中心です。相続人同士の交渉を本人の代わりに引き受けられるのは、原則として弁護士だけです。
【データで見る】弁護士が入った相続トラブルの4割超は「協議」で解決している
弁護士ドットコムが保有する、相続弁護士ドットコムの掲載事務所の解決事例1,212件を解決方法で分けると、協議(話し合い)が514件(42%)と最も多く、調停が279件(23%)、審判が155件(13%)、訴訟が142件(12%)でした。
弁護士に依頼しても、裁判所の手続きに進まず話し合いで決着するケースが少なくありません(集計:弁護士ドットコムが保有する解決事例1,212件、2026年9月時点・当社調べ)。
話が通じない相続人がいて手続きが進まず、弁護士に頼むべきか調停を起こすべきか迷っている、という相談も「みんなの法律相談」に寄せられています。
弁護士・司法書士・税理士のどこに相談すればよいかは、次の記事で違いを比べています。
手続きの代行をまとめて頼みたい場合の依頼先の選び方は、こちらで確認できます。
最後に、自分で進めるときにつまずきやすいポイントを押さえておきましょう。
「まず自分でやってみて、難しければ頼もう」と考える方は多いですが、途中まで進めた書類を作り直すことになり、かえって費用や時間がかさむ場合があります。複雑だと感じたら、早い段階で相談するほうが結果的に得なこともあります。
後から相続人や財産が見つかると、遺産分割協議をやり直すことになりかねません。戸籍は出生までさかのぼって集め、財産は借金も含めて漏れなく調べることが、やり直しを防ぐ最大のコツです。
「自分でできそうか判断がつかない」というときは、無料相談を活用しましょう。自分でできる部分と頼むべき部分を切り分けるだけでも、その後の進め方がぐっと楽になります。
【データで見る】掲載事務所の6割超が初回相談を無料にしている
相続弁護士ドットコムの掲載事務所の料金表681件のうち、初回相談を無料としている事務所は432件(63%)でした。
自分で進めるか決める前に、無料の初回相談で「どこまで自分でできるか」を確認しておくと安心です(集計:相続弁護士ドットコムの掲載事務所の料金表681件、2026年9月時点・当社調べ)。

弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、相続手続きに関する相談が999件寄せられています。内容を分けると、必要書類・戸籍が244件と最も多く、次いで専門家への依頼・費用が194件でした。
相続人の非協力・連絡がつかないが121件、期限・放置が121件、その他が319件と続きます。自分で進める人がつまずきやすいのは、書類集めと相続人との調整です(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=999)。
A. 足りないと言われた戸籍を、今ある戸籍の記載からさかのぼって取り寄せます。結婚や転籍、戸籍の作り直し(改製)のたびに新しい戸籍ができるため、出生までつながっていないことがよくあります。
どの戸籍が不足しているかは、指摘した提出先や、戸籍を請求する役場の窓口で確認しましょう。
法務局に書類を出したところ、父の出生から婚姻までの戸籍と、先に亡くなった兄の戸籍が足りないと言われた、という相談も「みんなの法律相談」に寄せられています。
出生から死亡までの戸籍を集める手順は、次の記事で解説しています。
A. 進められます。遺産分割協議は全員が集まらなくても、電話や郵送で内容を確認し合い、全員が合意すれば成立します。
協議書は郵送で回して署名・押印してもらい、印鑑証明書も同封してもらいます。連絡がつかない相続人がいる場合は、自分だけで進めるのは難しいため、専門家に相談しましょう。
A. 亡くなった相続人の立場を、その人の相続人が引き継ぎます。これを数次相続といい、遺産分割協議には引き継いだ人全員の参加が必要です。
前の相続の名義変更をしないまま次の相続が起きると、協議書を相続ごとに作ることになり、必要な戸籍も増えます。放置するほど手続きが複雑になるため、早めに名義変更まで済ませましょう。
父名義の実家の名義変更をしないうちに母が亡くなり、2代分の手続きが必要になった、という相談も「みんなの法律相談」に見られます。
数次相続で必要になる手続きと注意点は、次の記事で確認できます。
相続手続きは、相続人が少なく財産がシンプルなケースなら自分でも進められます。まずは5つの質問で、自分で進めるか一部を頼むかを判断しましょう。
自分で進める場合は、早見表で「何を・いつまでに・どこへ」を確認し、3か月・4か月・10か月・3年という期限を意識しながら、遺言書の確認から名義変更まで順番に進めましょう。郵送やオンラインで済む手続きを活用すれば、平日に窓口へ行く回数も減らせます。
相続人同士でもめているとき、相続放棄や相続税申告の期限が迫っているとき、戸籍の収集や財産の調査が複雑なときは、早めに専門家の力を借りましょう。
手続きを途中で止めて作り直すと、かえって時間も費用もかさみます。まずは弁護士への初回相談で、自分でできる範囲と、相続人との話し合いや期限内の手続きなど任せたほうがよい部分を切り分けてもらうと安心です。

大阪弁護士会所属。元国税職員の弁護士が、法務と税務の両面から相続問題の解決をサポートします。相続税に配慮した遺言書の作成や事業承継にも対応しております。相続問題や事業承継について不安や疑問のある方は、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。