

相続人が確定したら、次に「何の財産があるか」を調べます。銀行口座、不動産、株式などのプラスの財産と同時に、借金やローンなどのマイナス財産も調べなければなりません。民法の第896条では「相続が発生すると、法定相続人は被相続人の財産に属した、一切の権利義務を承継する」と記載されています。
一切の権利義務を承継するということは、被相続人に借金があるとそちらも相続することとなります。見えない借金こそが、相続で最も危険な存在です。プラスの財産とマイナスの財産を漏れなく把握することが、後々のトラブル防止に直結します。家族に伝えられない借金なども存在するため、財産をすべて調査することで遺産相続も単純承認、限定承認、相続放棄を判断することができます。
そのため、遺産分割協議や相続放棄などの手続きを進める前に、まず相続財産調査を行うことが重要です。
相続財産調査を行わないまま遺産相続を進めると、後から思わぬトラブルが発生するおそれがあります。相続財産には預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。相続人は被相続人の権利義務を承継するため、財産の内容を正確に把握しないまま相続手続きを進めることは大きなリスクとなります。
相続財産調査を行わない場合に最も注意したいのが、借金やローンなどのマイナス財産の見落としです。被相続人が生前に消費者金融や銀行から借り入れをしていた場合、その債務も相続の対象となります。
特に、家族に知らせていなかった借金や連帯保証債務は見落とされやすい傾向があります。プラスの財産だけを把握して相続した結果、多額の借金も引き継ぐことになれば、相続人の生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。相続財産調査では、預貯金や不動産だけでなく、借金やローンの有無についても確認することが重要です。
相続財産の内容が分からなければ、相続するべきかどうかを適切に判断できません。
相続人は、相続開始を知った時から原則3か月以内に、単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを選択する必要があります。この期間は「熟慮期間」と呼ばれています。
しかし、財産調査が不十分なままでは、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いのか判断できません。その結果、本来であれば相続放棄や限定承認を選択すべきケースでも、期限を過ぎて単純承認とみなされるおそれがあります。相続財産調査は、適切な相続方法を選択するための前提となる重要な作業です。
相続税の申告が必要な場合、相続財産を正確に把握していなければ適切な申告を行うことができません。
例えば、預貯金や不動産の一部を把握していなかった場合、本来より少ない財産額で申告してしまう可能性があります。反対に、債務や葬儀費用など控除できる項目を見落とした場合は、本来より多くの税金を支払ってしまうこともあります。
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。期限までに正確な申告を行うためにも、早い段階で相続財産調査を進めることが重要です。
相続財産調査が不十分なまま遺産分割協議を行うと、後から新たな財産が見つかり、相続人同士のトラブルに発展することがあります。
例えば、遺産分割協議が終わった後に預貯金口座や不動産が見つかった場合、その財産をどのように分けるかについて再び話し合わなければなりません。また、特定の相続人が財産の存在を把握していたにもかかわらず他の相続人へ伝えていなかった場合には、不信感が生じて紛争に発展することもあります。
相続人全員が納得して遺産分割を進めるためには、まず相続財産を漏れなく調査し、全体像を共有することが大切です。
相続財産調査は、やみくもに銀行や役所へ問い合わせればよいわけではありません。必要書類を準備したうえで、プラスの財産とマイナスの財産を順番に調査していくことが大切です。
一般的には、以下の流れで進めます。

相続財産調査を行うためには、まず必要書類を準備します。金融機関や証券会社、市区町村役場などへ問い合わせる際には、被相続人との関係を証明する資料の提出を求められることが一般的です。主に必要となる書類は以下のとおりです。
【相続財産調査で必要な書類】

画像の通り、財産は「対象になるもの」と「対象にならないもの」に明確に分かれます。
画像左側にある現金・預貯金、不動産、株式、自動車、家具・家財などは、すべて遺産分割の対象です。これらの共通点は、故人が生前に所有していた「個人の財産(所有権)」であるということです。これらは相続人全員の共有財産となり、誰がどの割合で引き継ぐかを話し合い(遺産分割協議)で決める必要があります。
画像右側の財産は遺産分割の対象外ですが、それぞれ「なぜ対象外なのか」の理由が異なります。ここを誤解するとトラブルの元になります。
生命保険金(受取人指定あり)や遺族年金
これらは「故人の財産」ではなく、残された遺族の生活を保障するために、最初から「遺族固有の財産」として給付されるものだからです。そのため、遺産分割の話し合いで分け合う必要はありません。
銀行の自動振込・一身専属権
生活保護や年金の受給権、公営住宅使用権あるいは一定の委任契約に基づく自動振込などは、「その人本人だからこそ認められていた権利(一身専属権)」です。これらは本人の死亡と同時に消滅するため、誰かに引き継がれることはありません。
その他
実務上、非常に多くの方が迷うのが「香典」や「葬儀費用」の扱いです。
香典:対象外
香典は、故人に対してではなく「喪主や遺族への贈与」とみなされるため、遺産分割の対象にはなりません。
葬儀費用:原則として対象外(遺産から差し引くことは可能)
葬儀費用は故人が亡くなった「後」に発生する債務であるため、厳密には遺産分割の対象(マイナスの財産)には含まれません。原則としては、葬儀を主催した「喪主」が負担するものとされています。しかし、実務では相続人全員の合意の上で、故人のプラスの財産(預貯金など)から精算することが一般的です。
相続財産調査では、プラス財産だけでなくマイナス財産の確認も欠かせません。主な調査対象は以下のとおりです。
借入状況については、CIC・JICC・KSCなどの信用情報機関へ情報開示請求を行うことで確認できます。
借金を見落としたまま相続すると、後から多額の債務を負担することになる可能性があります。特に相続放棄や限定承認を検討している場合は、優先的にマイナス財産の調査を行いましょう。
財産調査が完了したら、最後に財産目録を作成します。
財産目録とは、相続財産の内容や評価額を一覧にまとめた資料です。法律上の作成義務はありませんが、遺産分割協議や相続税申告を円滑に進めるために作成しておくことをおすすめします。
財産目録には、預貯金や不動産などのプラス財産だけでなく、借金やローンなどのマイナス財産も記載します。
財産目録を作成しておけば、相続財産の全体像を把握しやすくなり、相続人同士での情報共有もスムーズになります。また、相続放棄や限定承認を検討する際の判断資料としても活用できます。
被相続人の預貯金を調査する場合は、まず通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを確認します。取引していた金融機関が分かったら、各金融機関へ残高証明書の発行を依頼しましょう。
残高証明書を取得すると、被相続人名義の口座残高や取引状況を確認できます。また、通帳が見当たらない場合でも、金融機関によっては戸籍謄本などを提出することで口座の有無を調査できる場合があります。
近年はネット銀行を利用しているケースも増えているため、スマートフォンのアプリやメール、郵便物なども確認し、口座の見落としがないよう注意しましょう。
株式や投資信託を保有している場合は、証券会社から送付される取引報告書や残高報告書、配当金通知書などを確認します。証券口座が分かったら、証券会社へ問い合わせることで保有資産を確認できます。
また、近年はネット証券を利用する人も増えているため、郵便物だけでなくメールやスマートフォンのアプリも確認することが重要です。
証券会社が分からない場合は、証券保管振替機構(ほふり)へ開示請求を行うことで、どの証券会社に口座を保有しているかを確認できる場合があります。株式や投資信託は評価額が変動するため、相続開始時点での評価額もあわせて確認しておきましょう。
不動産を調査する場合は、固定資産税納税通知書や権利証(登記識別情報通知)などを確認します。これらの書類が見つかれば、不動産の所在地や所有状況を把握できます。
所有する不動産を漏れなく確認するためには、市区町村役場で「名寄帳」を取得する方法が有効です。名寄帳には、その自治体内で被相続人が所有している不動産が一覧で記載されています。
また、不動産の相続税評価や遺産分割を行う際には、「固定資産評価証明書」を取得して評価額を確認することも重要です。複数の自治体に不動産を所有している場合は、それぞれの自治体で調査を行いましょう。
財産調査が完了したら、いよいよ「自分で進めるか」「誰かに頼むか」の判断をする局面です。自分で調べることで費用は最小限に抑えられますが、時間的負担は相当です。一方、専門家に頼むと費用がかかりますが、時間を大幅に節約できます。
自分で調査する最大のメリットは、費用が最小限で済むことです。役所や銀行の手数料だけで、総額1~2万円程度で完了します。
しかし、平日に何度も役所や銀行に足を運ぶ必要があります。特に複数の本籍地や複数の金融機関がある場合、その労力は想像以上です。
調査漏れのリスクも高まります。プロは経験から「何を確認すべきか」を知っていますが、素人は見落としやすい項目があります。
相続放棄の3ヶ月期限を考えると、自分で調べる場合は期限が「きつい」のが現実です。

司法書士と行政書士は、書類作成やコンサルティングはできますが、相続人間の交渉や債権者との交渉を代理することができません。つまり、調査は完了しても、その後に揉めた場合や借金発覚時には、別途弁護士を探す必要があります(ただし、認定司法書士は140万円以下の事件に限り簡易訴訟代理が可能だが、控訴審の代理はできない。また自ら関与した簡裁判決の上訴提起も除く)。
いわゆる「たらい回し」を避けるためには、最初から弁護士に依頼することが最も効率的です。調査から協議、借金対応、相続放棄手続きまで、全てを一つの事務所で完結させることができます。
弁護士に一括依頼する最大のメリットは、「たらい回しを避けられる」ことです。相続調査から協議、借金発覚時の対応、相続放棄手続きまで、全て同じ弁護士が対応します。
弁護士は、複数の相続人間の交渉を代理できます。借金が発覚した場合も、弁護士が債権者と直接交渉して、返済額を減額したり分割払いにしたりすることができます。
費用は着手金で20~50万円程度、成功報酬として分割額の10~15%程度が相場です。「調査の完全性」「後々のトラブル予防」「時間の節約」という観点から考えると、決して高い投資ではありません。
相続人が全て確定し、財産と借金も把握できたら、いよいよ遺産分割協議へ進みます。相続関係説明図と財産目録を作成して、全体像をまとめることが重要です。
平日に役所や銀行を回る時間がない、借金がないか不安、色々な専門家がいて誰に頼むべきか分からない——。そのような方は、調査からトラブル解決まで、唯一全ての代理人になれる弁護士にご相談ください。
借金やローンの有無は、CIC・JICC・KSCといった信用情報機関へ開示請求することで確認できます。また、クレジットカードの利用明細や督促状、金融機関からの郵便物なども重要な手掛かりになります。ただし、個人間の借金や保証債務などは信用情報機関で把握できない場合もあるため、契約書類や郵便物もあわせて確認することが大切です。
相続財産調査は自分で行うことも可能です。金融機関で残高証明書を取得したり、市区町村役場で名寄帳を取得したりすることで、預貯金や不動産の状況を調査できます。ただし、複数の金融機関や不動産がある場合、借金の有無を確認する場合などは時間と手間がかかります。調査漏れが不安な場合は、弁護士などの専門家へ相談することも検討しましょう。
本籍地の市区町村役所で取得できます。2024年3月から戸籍広域交付制度が開始され、本籍地以外の役所でも取得が可能になりました。郵送申請も可能で、手数料は1通あたり450円程度です(戸籍謄本450円、除籍謄本750円、改正原戸籍謄本750円)。
自分で調査する場合は2~3ヶ月程度、弁護士・司法書士に依頼する場合は3~4週間程度が目安です。相続放棄の3ヶ月期限を考慮すると、早めの依頼が推奨されます。

弁護士登録番号41073。相続・遺産のほか、マンション管理や医療問題、刑事問題まで幅広く対応。一橋大学商学部商学科(国際金融専攻)卒業後、生命保険会社勤務を経て首都大学東京法科大学院に入学。その後、馬場亨二法律事務所を設立。文部科学省研究開発室主任専門官、日本プロ野球選手会 公認選手代理人、世田谷区支援事業委託事業審査委員、東京簡易裁判所民事調停委員、総務省参与などの実績を持つ。趣味は釣り、剣道、ゴルフ。