

相続手続きは、弁護士などの専門家に依頼しなくても、自分で行えます。相続手続きには、次のような内容があります。
相続手続きにかかるお金は、大きく分けると役所や裁判所に払う実費と、専門家に払う報酬の2つです。まずは全体像を早見表で確認しましょう。
依頼先 | 費用の目安 | 向いているケース |
自分で手続きする | 実費のみ 約3,000円〜 | もめていない。財産が少ない |
弁護士 | 相続放棄 1人5万〜10万円/遺産分割調停 着手金2〜8%+報酬金4〜16% | もめている。手続き全般を任せたい |
司法書士 | 相続登記 不動産1件あたり10万円前後 | 不動産の名義変更が中心 |
税理士 | 相続税の申告 遺産総額の0.5〜1%程度 | 相続税の申告が必要 |
行政書士 | 遺産分割協議書の作成 数万円程度 | 書類作成や名義変更が中心 |
金額はいずれも目安です。同じ手続きでも事務所によって料金は変わるため、依頼を決める前に見積もりを取って比べておきましょう。
なお、手続きの具体的な進め方や、自分でできるケースと専門家に頼むべきケースの見分け方は、別の記事でくわしく解説しています。

弁護士ドットコムが保有する「みんなの法律相談」に寄せられた相続の相談30,302件のうち、相続手続きの費用に関する相談は119件でした。
内訳で最も多いのは「費用を誰が払うのか・どう分担するのか」で24件、次いで「弁護士費用」22件、「司法書士の費用」17件と続きます。
金額そのものより、「この費用は誰が負担するのか」で悩む人が最も多いのが実情です。誰が払うのかは後ほどくわしく説明します。
(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=119)。
収入印紙の額は申立て1件あたりの金額です。相続放棄は相続人ごとに申立てを行うため、3人が放棄するなら収入印紙も3人分かかります。
相続登記の登録免許税は、不動産の課税標準額(固定資産課税台帳に登録された価格)に0.4%をかけた額です。たとえば課税標準額が2,000万円の土地と建物なら、8万円になります。
相続放棄そのものにかかる費用は、専門家に頼むかどうかで変わります。放棄を検討している場合は、次の記事も参考にしてください。
1通あたりは数百円ですが、相続手続きでは同じ書類を提出先の数だけ用意することになります。銀行が3行、証券会社が1社、法務局が1か所なら、戸籍一式を5組そろえるのが基本です。
この負担を減らせるのが法定相続情報一覧図です。法定相続情報一覧図とは、亡くなった人と相続人の関係を1枚にまとめた書類で、法務局に戸籍一式を提出すると認証を受けたうえで交付してもらえます。
交付手数料は無料です。通数に決まった上限はありませんが、申出書に書いた利用目的に照らして必要な通数の交付を受ける、というのが基本です。戸籍の束を1枚に置き換えられるので、金融機関をいくつも回る場合ほど、書類代と手間の両方が軽くなります。
以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
相続手続きは自分でも行えますが、相続人同士で遺産の分け方について争いがある場合や、手続きに時間や手間を割けない場合などには、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家の力を借りることをおすすめします。以下では、それぞれの費用相場について解説します。
相続に関する相談先 | 主な対応業務 |
弁護士 | ・遺産分割協議、調停、審判の代理 |
税理士 | ・相続税の申告 |
司法書士 | ・不動産の相続登記 |
依頼先を選ぶ基準は、料金の安さよりも「何を頼みたいか」です。 もめているなら弁護士、不動産の名義変更なら司法書士、相続税の申告なら税理士、というように担当できる業務が法律で決まっているためです。
誰に頼むかで迷っている場合は、依頼先ごとの守備範囲と選び方をまとめた記事もあわせて読んでみてください。
弁護士は、相続に関する紛争解決も含めたほとんどの手続きを任せられます(ただし、相続登記は司法書士に、相続税申告は税理士に依頼することが一般的です)。
弁護士に相続手続きを依頼した場合の費用は、どの手続きを依頼するかによって異なります。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合には、相続人1人あたり5万〜10万円程度の費用がかかります。弁護士は、相続放棄の申立てに必要な書類を作成するだけでなく、依頼者の代理人として申述書の提出をし、裁判所から依頼者へ質問があった際に代理回答を行えます。
遺産分割調停の申立てを弁護士に依頼する場合には、取得する遺産額に対して2〜8%程度の着手金と、4〜16%程度の報酬金が発生します。
着手金は結果にかかわらず先に払うお金で、原則として返ってきません。報酬金は手続きが終わったあとに、実際に取得できた遺産額に応じて払います。このほかに実費や日当がかかる場合もあるため、見積もりでは着手金・報酬金・実費のどこまでが含まれているかを必ず確認しましょう。

相続弁護士ドットコムの掲載事務所の料金表681件を集計したところ、遺産分割の着手金は中央値22万円でした。最も多いのは22万円で93事務所、次いで33万円が65事務所です。
相続放棄は中央値7.7万円、初回相談を無料としている事務所は64.6%にのぼります。費用が心配な段階でも相談だけなら負担なく試せます。複数の事務所で見積もりを取り、金額と対応範囲を比べてから決めるとよいでしょう。
(金額を確認できた事務所のみを母数としたため項目ごとに件数が異なります。着手金n=246、相続放棄n=54、初回相談n=680。2026年8月時点・当社調べ・税込)。
相続に関する弁護士費用の金額については、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
司法書士は、登記手続きの専門家として、相続登記を行う資格があります。相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合の費用は、不動産1件あたり10万円前後であるケースが一般的です。
この10万円前後は司法書士に払う報酬だけの金額で、別に登録免許税がかかります。課税標準額2,000万円の不動産なら、報酬10万円+登録免許税8万円で、合計18万円ほどが目安です。
また、司法書士の中でも「認定司法書士」という資格がある場合には、請求金額が140万円以下の遺留分侵害額請求について、相続人を代理して相手方と交渉することができます。
ただし、代理できるのは裁判外の交渉や和解までです。遺留分侵害額請求の調停や審判は家庭裁判所の手続きにあたるため、請求額が140万円以下であっても認定司法書士は代理人になれません。認定司法書士に遺留分侵害額請求を依頼する場合の費用は、司法書士によって異なるので個別に確認しましょう。
相続登記そのものの費用は、次の記事でくわしく解説しています。
税理士は、相続手続きにおいて、主に相続税の申告手続きを担当します。税理士に相続税申告を依頼した場合の費用相場は、遺産総額の0.5〜1%程度です。
遺産総額が5,000万円なら25万〜50万円が目安です。相続税の申告が必要ない場合、この費用はかかりません。
申告が必要かどうかは基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで決まるため、まず遺産の総額を把握しておきましょう。
行政書士は、役所などに提出する公的な書類を作成する専門家として、争いのない遺産分割協議書の作成や、自動車などの遺産の名義変更を行う資格があります。
行政書士に遺産分割協議書の作成を依頼した場合の費用は、数万円程度であることが一般的です。
戸籍の収集や財産の調査までまとめて頼む場合は、10万円前後になることもあります。一方で、不動産の相続登記、相続税の申告、相続人同士の交渉は行政書士には依頼できません。書類作成が中心で、もめていない相続に向いた依頼先です。
頼める業務の範囲が士業ごとに違うため、料金の安さだけで選ぶと、結局ほかの専門家にも頼むことになって二重に費用がかかることがあります。
相続手続きの費用は、すべてを一人の相続人が負担しなければならないわけではありません。費用の性質によって、相続人全員で分担するもの、依頼した相続人が負担するものに分けて考えると整理しやすくなります。
ただし、相続人の間で明確なルールを決めないまま費用を立て替えると、後から「誰が払うのか」「遺産から精算してよいのか」でもめることがあります。支払う前に、何の費用を誰が負担するのかを相続人間で共有しておくことが大切です。
費用の種類 | 負担しやすい人 |
相続登記費用 | 不動産を取得する相続人 |
相続税申告費用 | 申告が必要な相続人、または相続人間で分担 |
弁護士費用 | 依頼した相続人 |
相続人全員のために必要な費用は、相続人間で合意すれば、遺産から支払ったり、立て替えた相続人に遺産から精算したりすることがあります。たとえば、相続人調査のための戸籍取得費、財産調査に必要な残高証明書の取得費、遺産分割協議書の作成費用などは、相続人全員に共通する手続きのための費用と考えやすいものです。
もっとも、遺産から支払えるかどうかは、相続人間の合意によって変わります。亡くなった人の預貯金を勝手に引き出して支払うことは避け、誰が立て替えるのか、後でどのように精算するのかを確認してから進めましょう。
相続税の計算では、亡くなった人の債務や葬式費用など、一定のものは遺産総額から差し引けます。一方で、相続人が自分のために依頼した専門家費用まで、当然に相続税の計算上控除できるわけではありません。税務上の扱いは費用の性質で変わるため、相続税申告がある場合は税理士に確認すると安心です。
相続人全員の利益になる費用は、相続人同士で話し合って分担することがあります。分担方法は、法定相続分に応じて分ける、取得する遺産の割合に応じて分ける、相続人全員で均等に分けるなどが考えられます。
たとえば、相続人全員で遺産分割協議を進めるために必要な書類取得費や、全員が合意して依頼した専門家費用は、相続人間で分担しやすい費用です。一方で、特定の相続人だけの希望で依頼した調査や相談の費用は、相続人同士で話し合って分担することは難しいでしょう。
費用を分担する場合は、次の3点をしておくと後のトラブルを防ぎやすくなります。
弁護士や司法書士、税理士などへ個別に相談・依頼した費用は、原則として依頼した相続人が負担すると考えるのが基本です。たとえば、特定の相続人が自分の取り分を守るために弁護士へ相談した場合、その費用を他の相続人に当然に請求できるわけではありません。
一方で、相続人全員の合意により、代表者が専門家へ依頼するケースもあります。この場合は、依頼前に費用の負担方法を決めておくことが重要です。誰のための依頼なのか、どこまでの業務を依頼するのか、見積もりに何が含まれているのかを共有しておきましょう。
弁護士に任せた場合の費用の負担については、次の記事でくわしく解説しています。
相続手続きの費用を安く抑えたい場合には、手続きを自分で行うと良いでしょう。自分一人ではなく、他の相続人や親族に代わりにやってもらう方法もあります。手続きを分担して進めてもよいでしょう。
他の相続人に手続きを依頼する場合には、相続人全員の合意で、相続人の中から代表相続人を決める必要があります。
すべての相続手続きを一人の代表相続人に任せてもよいですし、複数の代表相続人を決めて、分担して手続きを進めてもらう形もあります。
遺産分割協議書を作成する際に、遺産の分け方と共に、その手続きを行う代表相続人を記載しておくと、手続きがスムーズです。また、手続きによっては、代表相続人を届け出るための書類がある場合もあります。くわしくは手続きの窓口に問い合わせましょう。
相続人ではない親族に手続きを委任する場合には、委任状が必要です。委任状の形式は特に決められていないことが多いですが、手続きによっては書式が用意されている場合もあるので確認しましょう。
委任状を一から作成する場合には、紙に「委任状」というタイトルと、委任する相手の住所・氏名、委任したい手続きの内容、日付を記載して、署名し、実印を押印します。手書きでもパソコンで作成しても構いません。
委任状の悪用防止のため、委任する内容は「相続に関する一切の手続き」という抽象的な書き方ではなく、「銀行口座の預金解約払戻しの手続き」などと具体的に書くようにしましょう。
経済的な理由で弁護士に依頼することが難しい場合には、法テラスを利用して相続手続きを弁護士に依頼するという方法もあります。
法テラスとは「日本司法支援センター」の通称で、国が設立した法律支援団体のことです。法テラスの「民事法律扶助」を利用することで、弁護士費用を立て替えてもらい、分割払いで返済できるようになります。
「民事法律扶助」を利用するためには、経済的な条件に当てはまる必要があります。また、審査のために手続きに時間がかかる場合があります。くわしくは法テラスの窓口にお問い合わせください。
相続手続きを自分で行う場合の費用には、手続きにかかる費用と、必要書類を取得するための費用などがあります。また、弁護士などの専門家に依頼する場合には、さらに依頼するための費用がかかります。
費用を抑えるためには、自分で行うだけでなく、他の相続人や親族に依頼したり、法テラスを使用したりするなどの方法があります。
ただし、手続きが難しいと感じた場合には、無理せず専門家に相談しましょう。事務所によって費用が異なるので、相見積もりを取って比較検討するとよいでしょう。
遺産の分け方で意見が食い違っている、連絡の取れない相続人がいる、相続放棄の期限(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月)が近い——こうした場面では、費用を惜しんで自分で進めるとかえって時間もお金もかかることがあります。
まずは弁護士への初回相談で、自分のケースで何を誰に頼むべきか、総額はいくらになりそうかを確認しておきましょう。初回相談を無料にしている事務所も多く、見積もりを比べるだけでも判断の材料になります。

1999年京都大学法学部卒、郵政省・総務省などの勤務を経て、2008年弁護士登録、2024年1月、大阪市北区堂島に「田阪法律事務所」を設立。相続全般について豊富な経験を有し、特に財産の使い込みや遺言無効といった難しい案件に注力している。