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未支給年金とは、亡くなった人に支払われるはずだった年金のうち、亡くなるまでに受け取れていなかった分のことです。
年金は「後払い」のしくみになっています。偶数月(2月・4月・6月…)の15日に、その前の2か月分がまとめて振り込まれる決まりです。
たとえば9月に亡くなった場合、8月分・9月分の年金はまだ振り込まれていないことが多く、その分が未支給年金になります。年金を受け取っていた人が亡くなると、ほとんどのケースで未支給年金が生じます。
ただし、年金を受け取り始める前に亡くなった場合など、そもそも支払うべき年金がないときは未支給年金は生じません。
年金は、受け取っていた人が亡くなった月の分まで支給されます。月の途中で亡くなっても日割りにはならず、その月の1か月分がまるごと対象です。
たとえば9月2日に亡くなっても、9月30日に亡くなっても、9月分の年金は同じように受け取れます。
似た言葉に遺族年金がありますが、これは別物です。未支給年金は「亡くなった人がもらうはずだった"過去の分"」、遺族年金は「残された家族のために"これから"支払われるお金」です。
この記事で扱うのは、前者の未支給年金です。
ここが未支給年金でいちばん誤解されやすいところです。結論から言うと、未支給年金は亡くなった人の相続財産には含まれません。
未支給年金は、法律で決められた一定の遺族が「自身の権利」として受け取るお金です。最高裁判所も、未支給年金は遺族に直接与えられた権利であり、相続財産には含まれないと判断しています。
亡くなった人から"引き継ぐ"のではなく、遺族が"もともと持っている"権利として受け取る、というイメージです。
相続財産ではないため、遺産分割協議で分け方を話し合う必要はありません。請求した遺族が、そのまま受け取れます。
そのため、ほかの相続人の同意がなくても、条件を満たす遺族が単独で請求できます。
相続財産の範囲そのものを整理しておきたい方は、あわせて次の記事も参考になります。
未支給年金は相続財産ではないので、相続放棄をしても未支給年金は受け取れます。借金などのために相続放棄を選んでも、未支給年金だけは遺族が受け取れる、ということです。
相続放棄とは、プラスの財産も借金も、いっさい引き継がない手続きをいいます。相続放棄そのものの流れは、次の記事でくわしく解説しています。
ただし、一つ大きな注意点があります。未支給年金の"請求"は問題ありませんが、亡くなった人名義の口座からお金を引き出して使うと、相続財産を処分したとみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります(民法921条)。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも、「相続放棄をする前に未支給年金を請求してしまい、単純承認(相続を認めたこと)になるのか不安」という相談が寄せられています。
たとえば、口座にすでに振り込まれていた年金や預金を葬儀費用にあてる、といった行為です。未支給年金は「年金事務所に請求して受け取る」ものなので、故人の口座には手をつけないようにしましょう。
なお、相続放棄をして未支給年金を受け取っても、その未支給年金を故人の借金の返済にあてる義務はありません。あくまで受け取った遺族自身のお金として使えます。
未支給年金は、誰でも受け取れるわけではありません。受け取れるのは、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族に限られます。
「生計を同じくしていた」とは、簡単にいえば生活のお財布が一緒だったという関係です。同居していた家族は基本的にこれにあたります。
別居していても、あきらめる必要はありません。単身赴任や施設への入所、仕送りをしていた場合など、経済的なつながりがあれば「生計同一」と認められることがあります。
たとえば、次のようなケースは生計同一と認められる可能性があります。
別世帯だった場合は、仕送りの記録などをもとに「生計同一関係に関する申立書」を提出して請求します。

未支給年金を請求できる遺族には、次の順位があります。上の順位の人がいる場合、下の順位の人は請求できません。
この順位は、亡くなった人と生活のつながりが深い人から順に受け取れるようにする趣旨です。上位の人が請求できるのに手続きをしないと、下位の人はそのままでは受け取れません。家族のなかで誰が請求するかを早めに決めておくとスムーズです。
子が2人いるなど、同じ順位の人が複数いるときは、そのうちの1人が代表して全員分を請求します。1人に支給されれば、全員に支給されたものとしてあつかわれます。
生計を同じくしていた遺族が誰もいない場合、未支給年金は受け取れません。この場合、未支給分は支給されず、国庫に入ります。
受け取れる金額は、亡くなった月と、直前の支給日からの経過月数で決まります。基本は「まだ振り込まれていない月の分」の合計です。
年金は偶数月の15日に前2か月分が支払われます。そのため、亡くなった月によって未支給となる月数(1〜3か月分)が変わります。目安は次のとおりです。
亡くなった時期 | 未支給となる月数の目安 |
|---|---|
偶数月の前半(支給日前)に亡くなった | 3か月分 |
偶数月の後半(支給日後)に亡くなった | 1か月分 |
奇数月に亡くなった | 2か月分 |
たとえば9月(奇数月)の20日に亡くなった場合、10月15日に支払われるはずだった8月分・9月分(2か月分)が未支給年金になります。
年金の受け取りを遅らせる「繰下げ受給」を選び、まだ一度も年金を受け取らずに亡くなった場合でも、未支給年金は請求できます。
ただし請求できるのは、65歳時点で本来受け取れた年金額をもとに計算した分です。繰下げによる増額分は反映されない点に注意しましょう。
未支給年金は、遺族が自分で請求しないと受け取れません。大まかな流れは次のとおりです。
公的年金(国民年金・厚生年金)の未支給年金は、年金事務所または街角の年金相談センターで請求します。
企業年金やiDeCoなどの私的年金は、加入していた基金や保険会社など、それぞれの窓口に確認が必要です。
公的年金の未支給年金を請求するときの主な必要書類は、次のとおりです。
請求先や状況によって必要書類が変わることがあるため、事前に年金事務所へ確認しておくと安心です。
年金を受け取っていた人が亡くなると、本来は「年金受給権者死亡届」の提出が必要です。ただし、マイナンバーと基礎年金番号が結びついていれば、この死亡届は原則として提出不要です。
ここで間違いやすいのが、死亡届が不要でも未支給年金の請求は自動では行われないという点です。お金を受け取るには、遺族が自分で未支給年金の請求書を出す必要があります。
未支給年金の請求には期限があります。受給権者の年金の支払日の翌月の初日から5年で時効になり、それを過ぎると受け取れなくなります。
気づいたら、なるべく早めに手続きを進めましょう。
請求してから実際に振り込まれるまでには、数か月程度かかることがあります。時期には幅があるため、急ぐ場合は年金事務所に見込みを確認しましょう。
一般的には、先に「未支給年金決定通知書」などが届き、そのあと指定口座に振り込まれます。書類に不備があるとさらに時間がかかるため、記入漏れや添付書類の不足がないか確認してから提出しましょう。

未支給年金を受け取ると、税金が気になります。ポイントは、相続税はかからないが、所得税の対象にはなるという点です。
未支給年金は相続財産ではないため、相続税の課税対象にはなりません。
「年金だから相続税がかかるのでは」と心配される方もいますが、公的年金の未支給年金についてはその心配は不要です。
受け取った未支給年金は、受け取った遺族の一時所得としてあつかわれ、所得税・住民税の対象になります。一時所得とは、宝くじの当せん金のように、一時的・臨時的に得た所得のことです。
一時所得には年間50万円の特別控除があります。その年のほかの一時所得と合わせて50万円を超えなければ、所得はゼロになり、確定申告は不要です。
たとえば未支給年金が40万円だけなら、50万円の特別控除の範囲内なので申告は不要です。
一方、未支給年金40万円に加えて、生命保険の満期保険金など他の一時所得が30万円あり合計70万円になった場合は、50万円を超えた20万円が対象になります。さらにその2分の1の10万円を、ほかの所得と合わせて申告します。
未支給年金だけで50万円を超えるケースは多くないため、実際には申告が不要な場合がほとんどです。
相続があると、亡くなった人自身の所得を申告する準確定申告が必要になる場合があります。これは、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に行うもので、遺族が受け取る未支給年金(一時所得)とは別の手続きです。
ここまでは公的年金(国民年金・厚生年金)の話でした。企業年金やiDeCoなどの私的年金は、税金のあつかいが変わります。
確定給付企業年金や、確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の加入者が亡くなり、遺族が死亡一時金などを受け取る場合、そのお金はみなし相続財産として相続税の対象になります。
確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の死亡一時金は、死亡後3年以内に受け取りが確定すれば死亡退職金として相続税の対象、3年を過ぎてからなら受け取った遺族の一時所得(所得税)の対象になります。5年を経過すると受給権が消滅します。
生命保険会社の個人年金保険も、亡くなった人が保険料を負担していた場合、相続税の対象となります。死亡退職金・遺族一時金として相続税がかかる場合の非課税枠
私的年金からの死亡一時金が死亡退職金としてあつかわれる場合、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使えることがあります。
みなし相続財産や非課税枠のしくみは、次の記事でくわしく解説しています。
私的年金は種類ごとに課税のあつかいが細かく分かれます。金額が大きくなりそうなときは、税理士に確認しておくと安心です。
公的年金の未支給年金は、事実婚(内縁)の配偶者でも請求できる場合があります。戸籍上の婚姻がなくても、生計を同じくしていた事実が認められれば対象になり得ます。
この場合は、生計同一を示す書類などが必要になります。判断がむずかしいときは、年金事務所に相談しましょう。
なお、事実婚のパートナーが「遺族年金」を受け取れるかどうかは、より厳しく判断されます。未支給年金と遺族年金では要件が異なる点も覚えておきましょう。
死亡の連絡が遅れると、亡くなった月の翌月以降の年金まで振り込まれてしまうことがあります。このもらいすぎた分は返還が必要です。
後日、日本年金機構から返納の案内が届くので、その指示に従って手続きします。未支給年金(受け取ってよい分)と、返す必要のある過払い分は別物なので、混同しないようにしましょう。
あとで請求されて慌てないよう、亡くなったことは早めに年金事務所へ連絡しておくと安心です。
年金記録の誤りなどで、本来支払われるべき年金が支払われていなかった「支給漏れ年金」が、亡くなったあとに見つかることがあります。
この場合も、未支給年金と同じように、生計を同じくしていた遺族が請求して受け取れます。
未支給年金は、亡くなった人が受け取るはずだった年金の未受給分で、生計を同じくしていた遺族が受け取れます。
相続財産ではないため相続放棄をしても受け取れ、相続税もかかりません。受け取った分は一時所得ですが、50万円の特別控除の範囲なら申告は不要です。
請求期限は5年です。もらい忘れないよう、早めに年金事務所で手続きしましょう。
とくに借金があって相続放棄を考えている場合は、注意が必要です。未支給年金の請求はできても、故人の口座のお金に手をつけると相続放棄ができなくなることがあります。
判断に迷うときや、相続放棄と未支給年金の受け取りをどう進めればよいか不安なときは、専門家に相談し、あなたのケースで何に気をつければよいかを確認しておきましょう。
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VSG相続税理士法人溝の口オフィス代表税理士。実務の傍ら、執筆やセミナー講師を務める。東京地方税理士会所属。VSG相続税理士法人では、相続税申告において日本最大級の実績とノウハウにより、顧客の立場に立って一番有利な相続アドバイスを行う。グループの行政書士・司法書士・社会保険労務士法人と連携をとり、あらゆる相続の悩みに対応している。