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結論からいえば、相続税の申告は自分で行うことも可能です。国税庁の資料や税務署の相談窓口を活用しながら、必要な書類をそろえて申告書を作成すれば、専門家に頼まずに進められるケースもあります。
ただし、すべての人が自分で無理なくできるわけではありません。財産の内容や相続人の状況によって、自分でやりやすいケースと、専門家に頼んだほうがよいケースに分かれます。まずは自分がどちらに近いかを確認しましょう。
次のような場合は、比較的自分で申告しやすいといえます。
現預金は金額がはっきりしていて評価に迷いにくく、相続人が少なければ書類集めや話し合いも比較的スムーズです。こうした条件がそろっていれば、手間はかかっても自分で進められる可能性が高まります。時間に余裕があり、コツコツと書類を集めたり調べたりするのが苦にならない人であれば、なおさら自分での申告に向いているといえます。
反対に、次のような場合は自分での申告が難しく、専門家の力を借りたほうが安心です。
とくに土地の評価や特例の適用は専門的で、判断を誤ると相続税を納めすぎたり、あとで税務署から指摘を受けたりするおそれがあります。また、生前の贈与や名義預金など、うっかり見落としやすい財産があるケースも、自分だけで正確に判断するのは簡単ではありません。これらに当てはまる場合は、無理に自分で進めず、早めに相談先を検討しましょう。
そもそも、相続税の申告はすべての人に必要なわけではありません。遺産の総額が「基礎控除」を超える場合に必要になります。
基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算します。たとえば相続人が3人なら、基礎控除は4,800万円です。遺産の総額がこれを超えなければ、原則として申告は不要です。
ただし、配偶者控除や小規模宅地等の特例を使って相続税が0円になる場合は、特例を受けるために申告が必要です。「税額が0円だから申告もいらない」と考えて手続きをしないと、特例が使えず、本来かからなかった相続税を課されてしまうおそれもあります。「自分でやるかどうか」を考える前に、まずは申告そのものが必要かを確認しましょう。

自分で相続税を申告する場合、大きく次の6つの手順で進めます。相続の開始から10か月という期限があるため、順番に、かつ早めに動いていきましょう。
まず、誰が相続人になるのかを確定します。亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍をたどって確認します。
過去の戸籍まで取り寄せると、思いがけず前の配偶者との子どもや認知した子どもが判明することもあり、相続人の範囲が変わることがあります。誰が相続人かは基礎控除の額にも関わるため、最初に正確に押さえておくことが大切です。本人、配偶者、直系親族(父母や子など)であれば、戸籍証明書の広域交付制度により、本籍地以外の市区町村窓口でも戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本をまとめて取得できます。
次に、どんな財産がどれだけあるかを調べます。預貯金・不動産・株式などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含めて洗い出します。
財産の把握が不十分だと、あとで申告漏れになったり、分け方をやり直したりすることになりかねません。生命保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」、亡くなる前の一定期間内の生前贈与も、相続税の計算では対象になることがあるため、幅広く確認しておきましょう。財産の範囲や調べ方は、次の記事でくわしく解説しています。
調べた財産について、それぞれ相続税の計算に使う評価額を求めます。現預金はそのままの金額ですが、土地や建物、非上場株式などは、決められた方法で評価する必要があります。
とくに土地の評価は方法が複雑で、同じ土地でも評価の仕方によって金額が変わることがあります。土地の形状や利用状況に応じた補正など、専門的な知識が求められる場面も多くあります。ここは自分でやるうえで最もつまずきやすいポイントの一つです。評価額しだいで税額が大きく変わるため、慎重に進めましょう。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い、誰がどの財産をどれだけ取得するかを決めます。これを遺産分割協議といい、まとまった内容は「遺産分割協議書」にまとめます。
配偶者控除や小規模宅地等の特例は、誰がどの財産を取得したかによって使えるかどうかが変わります。分け方が税額にも影響するため、丁寧に話し合いましょう。遺産分割協議書の作り方は、次の記事も参考になります。
財産の評価と分け方が決まったら、相続税の申告書を作成します。申告書は複数の表で構成され、財産の一覧を作る表、控除や特例を計算する表、最終的な税額を出す表などが連動しています。
申告書の様式や記載例は国税庁のホームページで公開されており、e-Tax(電子申告)にも対応しています。ただし、どの表にどの財産を書くか、特例をどう計算するかなど、専門的で迷いやすい部分もあります。判断に迷うときは、記入例を確認しながら、税務署の相談窓口も活用して進めましょう。
作成した申告書を、被相続人が亡くなった時の住所地を管轄する税務署に提出し、相続税を納めます。相続人の住所地ではない点に注意しましょう。
申告と納税の期限は、いずれも相続の開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。納税は原則として現金一括のため、納税資金の準備も忘れずに進めましょう。
自分で申告する場合も、相続人や財産の内容を証明する書類が必要です。おもなものは次のとおりです。
区分 | おもな書類 |
|---|---|
身分関係を示すもの | 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、マイナンバー確認書類 |
分け方を示すもの | 遺言書の写し、または遺産分割協議書の写しと相続人全員の印鑑証明書 |
財産の内容を示すもの | 不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書、生命保険金の支払通知書 など |
これらは、市区町村役場や金融機関、法務局などに一つずつ申請して集めます。取り寄せに時間がかかるものも多いため、自分でやる場合は早めに動き出すことが大切です。財産の種類が多いほど書類も増えるため、期限から逆算して計画的に集めましょう。

自分で相続税を申告することには、良い面と注意すべき面の両方があります。費用の面だけで判断せず、両方を理解したうえで決めることが大切です。
自分で申告する最大のメリットは、税理士に支払う報酬を抑えられることです。相続税の申告を税理士に依頼すると、遺産の額に応じた報酬がかかります。財産の内容がシンプルで自分でも対応できるなら、その費用を節約できます。
また、自分で手を動かすことで、相続財産の全体像や相続税のしくみを自分自身で把握できるという面もあります。財産の状況を自分の目で確認できるため、その後の手続きや家族への説明にも役立ちます。
一方で、自分で申告するデメリットもあります。まず、書類集めや評価計算に多くの手間と時間がかかることです。仕事や家事のかたわらで進めるのは、想像以上に負担になることがあります。
さらに、財産の評価や特例の適用を誤ると、本来より多く納めすぎたり、逆に少なく申告してあとから指摘を受けたりするリスクがあります。申告内容に誤りや財産の申告漏れがあると、税務署の調査を受け、加算税や延滞税といった余分な負担が生じることもあります。
とくに、納めすぎても税務署が自動的に教えてくれるわけではないため、払い過ぎに自分で気づけないと、そのまま損をしてしまうこともあります。費用を抑えられる分、正確さは自分で担保しなければならない点に注意が必要です。
ここまで手順を見てきましたが、相続人同士で遺産の分け方がまとまっていない場合、自分での申告は一気に難しくなります。ここは税理士の視点から補足します。
相続税の申告書を完成させるには、誰がどの財産をいくら取得するかが決まっている必要があります。ところが、遺産分割の話し合いがまとまらないと、この「取得分」が確定しません。
つまり、分け方が決まらないうちは、正確な税額の計算も申告書の完成もできないのです。
手順のなかでも「遺産分割協議」でつまずくと、その先に進めなくなってしまいます。財産の評価や書類の準備をどれだけ自分で進めても、最後の分割で止まってしまえば申告は完成しません。
とはいえ、遺産分割がまとまらなくても申告期限そのものは延びません。この場合は、いったん法定相続分で分けたものと仮定して期限内に申告・納税する「未分割申告」を行います。
問題は、未分割の状態では、配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えないことです。これらの特例は「実際に取得した財産」に適用されるためです。その結果、本来より多い相続税をいったん現金で納めることになり、資金面でも不利になります。もめているほど、こうした不利益が現実になりやすいといえます。
なお、申告のときに「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を提出しておけば、そのあと3年以内に分割がまとまった段階で特例を適用し、払い過ぎた税金の還付を受けられます。ただし、この手続き自体にも要件や期限があり、もめている状況では対応が後手に回りがちです。
未分割申告をするにも、また特例をあとから適用するための「分割見込書」を出すにも、相続人の状況を整理して手続きを進める必要があります。争いがあると、こうした手続きの一つひとつが滞りがちです。
「自分でやれば安く済む」と思って始めても、もめている相続では途中で行き詰まってしまうことが少なくありません。時間だけが過ぎて期限が迫り、かえって不利な状況に追い込まれることもあります。分割で対立がある場合は、自分だけで抱え込まず、早い段階で専門家に相談することが解決への近道です。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも、遺産の分け方でもめて相続税もかかり、このまま解決できないと不安だという相談が寄せられています。
自分での申告が難しい場合、相談先は「税理士」と「弁護士」のどちらがよいのでしょうか。困っている内容によって、頼むべき相手は変わります。

税務の計算が複雑になるケースでは、税理士への依頼が向いています。具体的には、土地や非上場株式など評価が難しい財産がある、遺産が高額である、特例の適用が複雑といった場合です。
財産の評価や特例の判断を誤ると、納めすぎたり、あとで指摘を受けたりするおそれがあります。実際、相続税の申告では多くの人が税理士に依頼しており、専門的な判断が必要な場面ではその安心感は大きいといえます。報酬はかかりますが、適正な評価や特例の活用によって、結果的に負担を抑えられる場合もあります。
一方、遺産の分け方でもめているケースでは、まず弁護士に相談するのが適しています。税理士は税額の計算は専門ですが、相続人同士の対立を法的に解決する役割は担いません。
分け方が決まらなければ、そもそも正確な申告ができません。弁護士が間に入ることで、法的な根拠にもとづいて分割を進められ、期限内の申告にもつなげやすくなります。当事者同士では感情的になりやすい話し合いも、代理人を介することで冷静に進められることが多いものです。話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停に進みます。手続きの流れは、次の記事でくわしく解説しています。
財産の種類や量によって大きく異なります。現預金中心で相続人が少なければ比較的短く済みますが、不動産が複数ある、相続人が多いといった場合は、書類集めや評価計算にかなりの時間と手間がかかります。
仕事の合間に進めると数か月がかりになることもあるため、10か月の期限から逆算して早めに着手しましょう。
申告書の様式の入手や、基本的な書き方については、税務署の相談窓口で案内を受けられます。ただし、税務署は個別の節税の相談や、具体的な財産評価の代行までしてくれるわけではありません。
一般的な書き方は税務署、複雑な判断は税理士、と役割を分けて考えるとよいでしょう。事前予約が必要な場合もあるため、利用するときは早めに問い合わせておくと安心です。
申告後に誤りや財産の申告漏れに気づいた場合は、修正申告をして不足分の税金を納めます。反対に、納めすぎていた場合は「更正の請求」で還付を受けられます。自分で早めに気づいて修正すれば、税務調査で指摘されるより負担が軽く済むことが多いです。
逆に、調査で指摘されてからの修正は、加算されるペナルティが重くなる傾向があります。不安がある場合は、提出前に専門家に確認してもらうと安心です。
相続税の申告は、財産が現預金中心で相続人が少なく、複雑な特例が不要といった条件がそろえば、自分で行うことも可能です。手順は、相続人の確定・財産調査・評価・遺産分割・申告書作成・申告納税の順に進めます。
一方で、土地や非上場株式の評価、高額な遺産、遺産分割でのもめごとがある場合は、自分での申告は難しくなります。とくに分割がまとまらないと申告そのものが進まず、未分割申告で特例が使えず不利になることもあります。
相談先は、税務が複雑なら税理士、分割でもめているなら弁護士、と分けて考えるのがポイントです。遺産の分け方で対立していて申告も不安、という場合は、判断を誤ると相続税の負担が重くなりかねません。まずは一度、弁護士の初回相談で、分割の進め方と申告の見通しを確認してみましょう。早めに動くことが、スムーズな申告と余計な負担の回避につながります。
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VSG相続税理士法人溝の口オフィス代表税理士。実務の傍ら、執筆やセミナー講師を務める。東京地方税理士会所属。VSG相続税理士法人では、相続税申告において日本最大級の実績とノウハウにより、顧客の立場に立って一番有利な相続アドバイスを行う。グループの行政書士・司法書士・社会保険労務士法人と連携をとり、あらゆる相続の悩みに対応している。