

「うちは財産が少ないから大丈夫」「兄弟仲が悪いわけではないから問題ない」と思っていても、相続が始まると状況が変わることがあります。親が元気なうちは表に出なかった不満が、財産の分け方を話し合う場面で一気に出てくるためです。
最高裁判所の「令和6年司法統計年報(3家事編)」では、認容・調停成立した遺産分割事件7,903件のうち、遺産価額が5,000万円以下の事件は6,164件で、約78%を占めています。
この統計からも、相続争いは億単位の資産家だけの問題ではないことがわかります。相続でもめるかどうかは、財産額の多さだけでなく、家族関係・財産の種類・生前の関わり方によって左右されます。

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議をして、誰がどの財産を取得するのか決める必要があります。法定相続分は目安になりますが、実家・預貯金・株式などを実際にどう分けるかまでは自動的に決まりません。
また、遺言書があっても「長男に財産を任せる」など内容があいまいだと、相続人の間で解釈が分かれることがあります。遺言書は、財産と相続させる相手をできるだけ具体的に書くことが重要です。
遺言書の種類や正しい作成方法については、以下の記事でくわしく解説しています。
もともと兄弟姉妹の仲が良くない家庭では、相続の話し合いが感情的になりやすい傾向があります。過去の不満や親との関係性の差が、「なぜ自分の取り分が少ないのか」という主張につながるためです。
相続では、単にお金を分けるだけでなく、親にどう扱われてきたか、誰が家族を支えてきたかという気持ちの問題も絡みます。感情的な対立が強い場合は、当事者だけで解決しようとしないことも大切です。
兄弟間の遺産相続割合や揉めずに分ける方法については、以下の記事でくわしく解説しています。
親と同居していた人や介護をしていた人は、「自分は長年親の世話をしてきたのだから多く相続したい」と考えることがあります。一方で、離れて暮らしていた兄弟姉妹は「相続分は平等であるべきだ」と考え、意見が対立することがあります。
介護の貢献は、事情によっては寄与分として考慮される可能性があります。ただし、単に親の世話をしていたというだけで必ず相続分が増えるわけではありません。介護の期間、内容、費用負担、親の財産維持への貢献などを資料で整理することが重要です。
介護などの貢献を相続で考慮する寄与分については、以下の記事でくわしく解説しています。
親から一部の子だけが住宅購入資金、学費、事業資金などの援助を受けていた場合、相続時に不公平感が生まれやすくなります。「兄だけ家を買うときに援助してもらった」「妹だけ生前に多くもらっていた」といった不満が、遺産分割協議で表面化します。
このような生前贈与は、特別受益として考慮される場合があります。生前にもらった財産を相続時にどう扱うかを整理しないまま話し合うと、相続人同士の対立が長引きやすくなります。
生前贈与や援助を相続でどう扱うか(特別受益)については、以下の記事でくわしく解説しています。
実家や土地などの不動産は、預貯金のように簡単に分けることができません。誰かが住み続けるのか、売却して現金で分けるのか、取得する人が他の相続人に代償金を払うのかによって、結論が大きく変わります。
安易に共有名義にすると、将来売却や建て替えをするときに共有者全員の同意が必要になり、次の世代でさらにもめる可能性があります。不動産がある相続では、目先の公平感だけでなく、将来の管理や処分まで考えて分け方を決める必要があります。
不動産の相続手続きの流れや費用、必要書類については、以下の記事でくわしく解説しています。
親の預金通帳やキャッシュカードを特定の相続人が管理していた場合、他の相続人から「勝手に引き出したのではないか」と疑われることがあります。実際には親の生活費や医療費に使っていたとしても、記録が残っていないと説明が難しくなります。
使い込みを疑われた場合は、感情的に反論するよりも、通帳、領収書、介護費用、医療費、施設費などを整理して説明することが大切です。不明な出金がある場合は、早い段階で資料を確認しましょう。
遺産の使い込みが疑われるときの証拠の集め方や取り戻す手続きについては、以下の記事でくわしく解説しています。
前妻の子、認知した子、養子、代襲相続人などがいる場合、相続人の範囲が複雑になります。家族の中で存在を知られていなかった相続人が戸籍調査で判明し、話し合いが進まなくなることもあります。
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。一人でも相続人を漏らしたまま作成した遺産分割協議書は、原則として有効であるとはいえず、そのような協議書を作成しても不動産の登記手続や銀行口座の解約手続などを進めることができないのが原則です。
誰が相続人になるのか(法定相続人の範囲や順位)については、以下の記事でくわしく解説しています。

相続人の間で意見がまとまらないと、遺産分割協議が進みません。誰か一人でも反対している状態では、原則として遺産分割協議は成立しないためです。
協議が止まると、預貯金や不動産などの相続手続きも進めにくくなります。特に、相続人同士が連絡を取れない、話し合いの場に出てこない、印鑑を押してくれないといった場合は、解決まで時間がかかります。
遺産分割協議書のひな形や自分で作成する方法については、以下の記事でくわしく解説しています。
遺産分割協議がまとまらないと、金融機関での預金払い戻しや、不動産の名義変更が進まないことがあります。相続手続きには、戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など、多くの書類が必要になるためです。
不動産については、相続登記の申請義務化にも注意が必要です。法務省は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があると案内しています。相続の話し合いが長引く場合でも、期限のある手続きは別途確認しておきましょう。
期限のある相続手続きと間に合わない場合の対処法については、以下の記事でくわしく解説しています。
相続人同士の話し合いで解決が難しい場合、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。裁判所の案内では、遺産分割について相続人間で話合いがつかない場合、家庭裁判所の調停または審判の手続を利用できるとされています。
調停では、調停委員を介して話し合いを進めます。調停でもまとまらない場合は、審判に移行し、裁判官が分割方法を判断することがあります。当事者だけで話し合いが止まっている場合は、調停を選択肢に入れましょう。
遺産分割調停の流れや有利に進める方法については、以下の記事でくわしく解説しています。

相続割合でもめている場合は、まず法定相続分を確認しましょう。法定相続分とは、民法で定められた相続人ごとの相続割合です。
相続人の組み合わせ | 法定相続分の例 |
配偶者と子 | 配偶者2分の1、子2分の1 |
配偶者と親 | 配偶者3分の2、親3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1 |
ただし、法定相続分はあくまで原則的な分け方を定めたものです。遺言書、生前贈与、寄与分、遺留分、不動産の評価などによって、実際の分け方は変わることがあります。
生前贈与を受けた相続人がいる場合は、特別受益を整理します。たとえば、住宅資金や事業資金など、多額の援助を受けていた場合、相続分を計算するときに考慮されることがあります。
一方、親の介護や事業への貢献などによって財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人がいる場合は、寄与分が問題になります。特別受益と寄与分は、どちらも相続人同士の不公平感に直結しやすい論点です。
遺言書の内容により、特定の相続に遺産が多く配分される場合、他の相続人の遺留分を侵害している可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹(及びその代襲相続人)以外の一定の相続人に保障された最低限の取り分です。
遺留分を侵害された場合は、遺留分侵害額請求を検討することになります。ただし、請求には期限があります。遺言書の内容に納得できない場合は、早めに権利関係を確認することが大切です。
遺留分の計算方法や請求できる人については、以下の記事でくわしく解説しています。
すでにもめている場合は、まず相続人と相続財産を一覧化しましょう。話し合いが感情的になっているときほど、誰が相続人なのか、どの財産があるのか、評価額はいくらなのかを整理する必要があります。
整理するもの | 確認資料の例 |
相続人 | 戸籍謄本、法定相続情報一覧図 |
預貯金 | 通帳、残高証明書 |
不動産 | 登記事項証明書、固定資産税通知書 |
借金 | 借入明細、督促状、信用情報 |
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に判断する必要があります。相続税申告は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。もめている場合でも、期限のある手続きだけは先に確認しましょう。
相続手続きで必要な書類とその取り寄せ方法については、以下の記事でくわしく解説しています。
相続の話し合いでは、「長男だから」「親の近くにいたから」「自分だけ損をしている」といった感情的な主張になりがちです。しかし、感情だけで話すと、相手も反発し、協議がさらに進まなくなります。
話し合いでは、財産目録、通帳、領収書、不動産評価、介護記録などの資料をもとに、争点を整理しましょう。相手を責めるよりも、「どの資料を確認すれば納得できるか」を共有することが解決への近道です。
相続人同士で直接話すと感情的になる場合や、一部の相続人が協議に応じない場合は、遺産分割調停を検討しましょう。調停では、家庭裁判所で調停委員を介して話し合いを進めます。
調停は、相続人の一人または複数人が、他の相続人全員を相手方として申し立てます。裁判所を通すことで、財産資料や主張を整理しながら話し合えるため、当事者だけでは進まなかった協議が動き出すことがあります。
相続人同士で直接話すたびに口論になる、連絡を無視される、強い言葉で責められるといった場合は、弁護士への相談を検討しましょう。無理に当事者だけで話し合うと、関係がさらに悪化することがあります。
弁護士に相談すれば、法的な見通しを整理したうえで、相手方との交渉や調停対応を任せることができます。感情的な対立が強いほど、第三者を入れるメリットは大きくなります。
親の預金が大きく減っている、通帳を見せてもらえない、不動産や株式の存在を隠されている疑いがある場合も、早めに相談した方がよいケースです。
使い込みや隠し財産の問題では、資料の収集や確認方法が重要になります。感情的に問い詰める前に、どの資料を確認すべきか、どのような請求ができるかを整理しましょう。
遺産分割調停に進みそうな場合、遺留分侵害額請求をしたい場合、不動産の評価や売却で意見が割れている場合は、法律的な判断が必要になります。特に、不動産がある相続では、評価額、共有、代償金、相続登記など複数の問題が絡みます。
どの専門家に相談すべきか迷う場合は、まず弁護士に相談して全体像を整理するとよいでしょう。税金が中心なら税理士、登記が中心なら司法書士と連携することもあります。
相続を弁護士に依頼するメリットや費用については、以下の記事でくわしく解説しています。
相続トラブルを防ぐうえで、遺言書の作成は有効な方法です。誰にどの財産を相続させるのかを明確にしておくことで、相続人同士が一から話し合う負担を減らせます。
ただし、遺言書の内容が不公平すぎると、遺留分をめぐって争いになることがあります。遺言書は「書けば安心」ではなく、相続人が納得しやすい内容に整えることが重要です。
自筆証書遺言の書き方や例文については、以下の記事でくわしく解説しています。
財産目録とは、預貯金、不動産、株式、保険、借金などを一覧にしたものです。財産の全体像がわからないと、相続人は何をどう分ければよいのか判断できません。
財産目録を作っておけば、相続開始後の調査負担を減らせます。通帳や証券口座、不動産の資料、保険証券、借入資料などの保管場所も、家族がわかるようにしておくと安心です。
生前贈与や介護の負担は、相続でもめやすいポイントです。親が特定の子に多額の援助をした場合や、特定の子が長期間介護をしていた場合は、後から説明できるように記録を残しておきましょう。
贈与契約書、振込記録、介護費用の領収書、施設とのやり取り、通院付き添いの記録などがあると、相続人同士で事情を共有しやすくなります。記録は、家族を疑うためではなく、将来の誤解を防ぐために残すものです。
相続は、法律、税金、登記、不動産、家族関係が重なる問題です。家族だけで話し合おうとしても、何を基準に判断すればよいかわからず、かえって対立が深まることがあります。
相続でもめる可能性があると感じたら、生前の段階で弁護士、税理士、司法書士などに相談しておくとよいでしょう。早めに専門家を入れることで、家族の不満が争いに発展する前に整理できる可能性があります。
相続でもめる家族には、遺言書がない、介護の負担に差がある、不動産がある、生前贈与の差があるなど、いくつかの共通点があります。大切なのは、「うちは大丈夫」と思い込まず、相続人・財産・分け方・期限を早めに確認しておくことです。

東京大学理学部卒業後、同大学院法学政治学研究科を修了。あさひ法律事務所や大手事務所の支店長を経て現事務所を設立した。冤罪弁護の経験も持つ。「社会的に弱い立場の人を助けたい」という信念から、高品質なリーガルサービスの提供と弁護士費用の低価格化を追求。相続分野では不動産を含む遺産分割に強みを持ち、遺言書作成や家族信託などの生前対策から、複雑な遺産分割協議まで幅広く対応する。依頼者の味方として親身に寄り添い、最適な解決策を提案している。登録番号47298(埼玉弁護士会)