


よかれと思ってやったことが、あとで大きな負担につながることもあります。まずは、実家の相続でつまずきやすい「やってはいけないこと」を7つ見ていきましょう。
「とりあえず兄弟で平等に共有名義」にするのは、その場は公平に見えても、あとで後悔しやすい選択です。
共有だと、売却や建て替えには共有者全員の同意が必要で、一人でも反対すると動かせません。
さらに、共有者が亡くなるとその持分が次の世代に相続され、権利者がどんどん増えて収拾がつかなくなります。会ったこともない親族と、売却の話し合いをしなければならなくなることもあります。
賃貸に出すといった管理は持分の過半数で決められますが、売却や建て替えは全員の同意が必要です。「今は決められないから、とりあえず共有」は、いちばん避けたい選択です。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「姉弟3人で実家を共有で相続したが、住んでいた姉が退去したあともゴミ屋敷のまま放置され、共有名義のせいで売却や片付けが進まず困っている」という相談が寄せられています。
「まだ売る予定もないから」と、名義を故人のままにして相続登記を放置するのも危険です。
2024年4月から相続登記は義務になり、取得を知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象になることがあります。この義務は、2024年より前に相続した実家にもさかのぼって適用されます。この場合の申請期限は、原則として2027年3月31日までです。
放置している間に次の相続が重なると、相続人が増えて手続きはさらに大変になり、売りたくても売れない状態になりがちです。
義務化の期限やペナルティは、次の記事でくわしく解説しています。
だれも住まない実家を、空き家のまま放置するのも避けたいところです。
管理されない空き家は傷みが早く、固定資産税の負担も続きます。倒壊や不法侵入などで、近隣トラブルや管理責任を問われることもあります。
管理が不十分で「特定空家」や「管理不全空家」に指定され、市区町村から勧告を受けると、固定資産税の軽減が外れて負担が数倍になるおそれもあります。
さらに、無人の実家は相続人どうしのトラブルにも発展しやすく、だれかが無断で使ったり物を持ち出したりして、争いになることもあります。
「みんなの法律相談」にも、「両親が亡くなって無人になった実家に、ほかの相続人が無断で私物を持ち込んだり遺産を持ち出したりしていて、どう対処すればよいか」という相談が寄せられています。
だれも住まないと決まったら、貸す・売る・手放すのどれにするかを、なるべく早く検討することが大切です。
「空き家は危ないから」と、無計画に解体して更地にするのも要注意です。
建物を壊して更地にすると、土地の固定資産税の軽減(住宅用地の特例)が外れ、翌年から税負担が増えることがあります。
解体には数十万円から百万円以上の費用もかかります。売却や活用の見通しを立てないまま先に壊すと、税負担と解体費の両方で、かえって損をしかねません。
解体するなら、買い手や活用先のめどを立ててから動くほうが、無駄が出にくくなります。
空き家を売る特例(後述)は、建物を残したまま使えることもあるため、壊す前に使える制度を確認しましょう。
慌てて相続直後に売り急ぐのも、やってはいけないことの一つです。
相続登記や遺産分割が済んでいないと、そもそも売れません。買い手を焦って探し、相場より安く手放して後悔することもあります。
一方で、放置しすぎると特例の期限を逃すこともあるため、「焦らず・でも先延ばしにしすぎず」が大切です。
特に、空き家を売る特例には「相続開始から3年を経過する日の属する年の年末まで」といった期限があるため、焦りすぎず、しかし期限は意識して進めるのがコツです。
売却には使える特例(後述の空き家の3,000万円特別控除など)もあるため、要件を確認してから進めるのが得策です。
プラスの財産だけに気を取られ、借金や連帯保証を確認せずに相続するのは危険です。
借金や連帯保証(保証債務)も相続の対象で、実家を相続したあとに、想定外の請求が来ることがあります。相続人は、プラスの財産だけを選んで受け取ることはできません。
特に連帯保証は表に出にくく、気づかないまま引き継いでしまいやすいので注意が必要です。
連帯保証の債務が残るケースは、次の記事で確認できます。
「思い出のある実家だから手放せない」と、感情だけで判断するのも避けたいところです。
気持ちは大切ですが、維持費・固定資産税・通いにくさなどの現実も踏まえて決めないと、抱え込んだ人にあとで負担がのしかかります。
一人が思い入れで抱え込むと、維持費や管理の負担がその人に偏り、あとで兄弟間の不公平にもつながります。
残す・手放すのどちらにしても、費用や手間を数字で見比べたうえで、家族で話し合って決めましょう。

では、実家の相続はどう進めればよいのでしょうか。次のステップで、順番に進めるのが基本です。
何よりも先にやるのは、何を相続するのか(相続財産)と、だれが相続人かの確認です。ここがあいまいなまま進めると、あとで話がひっくり返りかねません。
実家などのプラスの財産だけでなく、借金や連帯保証といったマイナスの財産も含めて洗い出します。預貯金や証券、ほかの不動産も忘れずに確認します。
戸籍をたどって相続人を確定し、全体像をつかんでから、次の判断に進みます。
プラスとマイナスのどちらが多いかで、相続するか放棄するかの判断が変わるため、この確認が出発点になります。
何が相続財産にあたるかは、次の記事でくわしく解説しています。
だれが実家を取得するかが決まったら、そのまま放置せず、早めに相続登記をします。
相続登記には3年の期限があるうえ、名義が相続人になっていないと、実家を売ることも担保に入れることもできません。
早く名義を変えておけば、売却や活用にもスムーズに移れます。放置するほど、集める戸籍や関わる相続人が増え、手間も費用もかさんでいきます。
実家を分けるときは、共有を避けるのが基本です。主な分け方は次のとおりです。
分け方 | 内容 | 向いているケース |
代償分割 | 一人が実家を取得し、他の相続人にお金を払う | 住み続けたい人がいる |
換価分割 | 実家を売って現金を分ける | だれも住まず現金化したい |
現物分割 | 財産ごとに分ける(実家は一人へ) | ほかにも分けられる財産がある |
共有以外の方法で分ければ、あとで「売れない・動かせない」という共有の問題を避けられます。
代償分割では、実家を継ぐ人にまとまった現金が必要になります。用意が難しいときは、売って分ける換価分割のほうが現実的なこともあります。どの方法が向くかは、住み続けたい人がいるか、現金化したいかで変わります。
不動産の分け方は、次の記事でさらにくわしく解説しています。
借金のほうが多い、実家がいらないなど、相続したくない事情があるなら、相続放棄や限定承認を検討します。
これらは、相続が始まったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。過ぎると、原則として単純承認となり、借金も含めてそのまま相続することになります。
調べが間に合わないときは、家庭裁判所に申し立てて期間を延ばしてもらえる場合もあります。まずは借金の有無を早めに確認し、迷ったら期限が来る前に専門家へ相談しましょう。
相続放棄の期間の数え方や延長は、次の記事でくわしく解説しています。
実家を相続したあと、どう活かすか(または手放すか)の選択肢を整理します。大きく分けて、住む・貸す・売る・手放すの4つです。
どうする | 主な内容 | 向いているケース |
住む・貸す・活用 | 自分が住む/人に貸す/土地活用する | 使い道や立地に見込みがある |
売る | 売却して現金化する | 使う予定がない |
手放す | 相続放棄・国庫帰属で手放す | 負担のほうが大きい |
実家を活かす方法には、自分や家族が住み続ける、人に貸す、建て替えや駐車場などに土地活用する、といった選択肢があります。
自分や家族が住むなら、住まいの費用を抑えられます。貸せば家賃収入になりますが、入居前のリフォーム費用や、その後の管理の手間がかかります。
駅から遠い、建物が古いといった場合は、借り手がつきにくいこともあります。土地活用は初期費用が大きいので、収支の見通しを立ててから判断します。
なお、貸す・活用する場合も、名義を相続人に変える相続登記は先に済ませておく必要があります。立地や建物の状態に応じて、無理のない方法を選びましょう。
だれも住まず活用の予定もなければ、売却して現金化するのも有力です。現金なら相続人どうしで分けやすく、共有のトラブルも避けられます。
一定の要件を満たせば、空き家を売ったときの3,000万円特別控除で、譲渡益から最大3,000万円を差し引ける場合があります(相続人が3人以上のときは1人あたり2,000万円)。
この特例は、相続開始から3年を経過する日の属する年の年末まで、といった売却期限もあります。また、制度自体の適用期限も2027年12月31日までの売却とされています。
1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された建物であることなど細かい要件があるため、使えるかどうかは税理士に確認しましょう。
「いらない実家」を手放す方法もあります。
借金のほうが多ければ相続放棄、プラスの財産はあるが土地だけを手放したいなら相続土地国庫帰属制度、という選択肢があります。
ただし国庫帰属は、建物があると使えず更地にする必要があり、10年分の管理費にあたる負担金もかかります。相続放棄も、実家だけを選んで手放すことはできず、ほかの財産もまとめて放棄することになる点に注意します。
国が土地を引き取る制度の要件や費用は、次の記事でくわしく解説しています。
実家の相続でもめないためには、亡くなってからの対応だけでなく、親が元気なうちの準備が大きく効きます。
いちばん基本の対策が、遺言書です。だれが実家を引き継ぐかを遺言で決めておけば、相続人どうしの遺産分割の話し合いがいらず、もめごとを防げます。
特に、実家を継ぐ人とほかの相続人がいる場合は、代償金の考え方も含めて遺言に書いておくと、分け方でもめにくくなります。
公正証書遺言にしておくと、形式の不備で無効になる心配が少なく、家庭裁判所の検認も不要で、残された家族の負担も軽くなります。
遺言書の種類や書き方は、次の記事でくわしく解説しています。
遺言とあわせて、実家の名義や権利関係を、生前に整理しておくことも大切です。
古い名義のままだったり、すでに共有になっていたりすると、相続のときに手続きが複雑になります。
たとえば、祖父母の代の名義のまま残っていることに気づかず、相続のときに何代分もの手続きが一度に必要になる、というケースもあります。
登記の状態を確認し、必要なら生前のうちに整えておきましょう。
計画的に財産を渡す生前贈与や、判断能力の低下に備える家族信託も、実家の相続対策として有効です。
家族信託は、認知症などで親が管理できなくなっても、家族が実家を管理・売却できるようにするしくみです。判断能力が下がると口座も不動産も動かせなくなるため、その前の備えとして役立ちます。
ただし、家族信託は親が元気なうちにしか始められず、生前贈与も渡し方によっては贈与税がかかります。
どの対策が合うかは家族の状況によって変わるため、専門家に相談すると安心です。
家族信託が必要なケースと注意点は、次の記事でくわしく解説しています。
まずは、感情的にならずに、事実(財産の内容・評価・費用)を全員で共有することが大切です。だれが得か損かの前に、正確な情報をそろえるのが第一歩です。
実家の評価額でもめやすいので、不動産会社の査定などで、だれもが納得しやすい客観的な金額を用意しておくと話が進みやすくなります。
それでもまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停で、調停委員会(裁判官1名・調停委員2名)を交えて話し合う方法があります。当事者だけで解決が難しいときは、早めに弁護士に相談しましょう。
親の借金は、通帳の引き落とし、郵便物(督促状や請求書)、契約書やカードなどから手がかりを集めます。生前に、親に直接、借入や保証の有無を聞いておけると確実です。
複数ある信用情報機関に開示を請求すると、借入やクレジットの状況を確認できます。ただし、個人間の借金や連帯保証は記録に残らないこともあるため、契約書や郵便物もあわせて確認します。
相続放棄の判断に関わるため、3か月の期限を意識して早めに調べましょう。
親の借金を相続してしまう前に知っておきたいことは、次の記事で解説しています。
相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかかりません。たとえば相続人が3人なら、基礎控除は4,800万円になります。
また、居住用の宅地は「小規模宅地等の特例」で、一定面積まで評価額を最大80%減らせる場合があります。これが使えると、実家があっても相続税がかからない、ということも珍しくありません。
ただし、同居していたかどうかなどの要件があり、使えるかどうかは状況しだいです。判断は税理士に確認すると確実です。
実家の相続でやってはいけないのは、共有名義にする・相続登記や空き家を放置する・無計画な解体・売り急ぎ・借金の確認漏れ・感情だけの判断です。
正しい進め方は、借金も含めて財産と相続人を確認し、3か月以内に相続放棄の要否を判断したうえで、早めに相続登記をして、共有を避けて分けることです。
相続した実家は、住む・貸す・売る・手放すの中から、費用や立地を踏まえて選びます。親が元気なうちに遺言や家族信託で備えておくと、もめごとをさらに防げます。
「兄弟でもめそう」「借金があるか不安」「実家をどうすべきか決められない」——迷ったら、早めに弁護士に相談すると安心です。
相続放棄には3か月の期限があり、空き家対策や特例にも期限があるため、判断が遅れると選べる道が狭まります。まずは初回相談で、あなたの家のケースで何をどう進めればよいかを確認してみましょう。

東京大学法学部卒。現在は茨城県内複数箇所のほか、東京にも事務所を構え、190社超の顧問企業の対応をはじめとする企業法務から相続・離婚・交通事故・労働問題・刑事事件まで幅広い案件に対応。相続分野では、遺産分割、遺留分侵害請求、遺言無効確認等の交渉・調停・訴訟対応を手がける。登録番号37939(第二東京弁護士会)