不動産の相続手続きは、大まかに以下の流れで進行します。
遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って不動産を相続します。そのため、まずは遺言書があるかどうかを確認しましょう。
遺言書は、被相続人が自ら保管していることもありますが、公証役場や法務局で保管されている場合もあります。公証役場や法務局にも照会を行い、遺言書を見落とさないようにしましょう。
なお、公正証書遺言および法務局で保管されている自筆証書遺言を除き、遺言書を発見した際には家庭裁判所の検認を受けなければなりません(民法1004条1項)。
遺言書によって相続する人が指定されていない不動産については、遺産分割によって相続する人を決めます。 遺産分割に先立ち、相続人と相続財産を確定しなければなりません。相続人については戸籍謄本などから、相続財産については遺品などを手掛かりとした調査を行って確定します。
相続人または相続財産の把握漏れがあると、遺産分割がやり直しになるおそれがあるので、慎重に調査を行いましょう。
遺産分割の方法は、相続人全員の協議によるのが原則です。遺産分割の方法について合意できたら、その内容をまとめた遺産分割協議書を締結しましょう。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判によって遺産分割の方法を決めます。調停は話し合いの手続き、審判は家庭裁判所が遺産分割の方法を決定する手続きです。
調停が成立した場合は調停調書、審判がなされた場合は審判書によって、それぞれ遺産分割の方法が示されます。
遺言書または遺産分割によって相続する人が決まった不動産については、その所在地を管轄する法務局または地方法務局において、相続登記の手続きを行う必要があります。
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相続登記によって不動産の所有者として公示されると、第三者に対して所有権を対抗できるようになります。たとえば不動産を売却または賃貸する際には、あらかじめ所有権移転登記を得ることが必要です。
また、2024年4月1日以降は、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の手続きを行うことが義務付けられます。
2024年3月31日以前に相続不動産の所有権を取得した場合であっても、所有権の取得を知った日又は2024年4月1日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記の手続きを行わなければなりません。
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相続によって不動産を取得したら、早めに相続登記の手続きを行いましょう。
相続した不動産を含めて、課税対象財産(相続財産など)の総額が基礎控除額を超える場合は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告・納付を行う必要があります。
※基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
不動産のうち、土地については「小規模宅地等の特例」の適用を受けられることがあります。小規模宅地等の特例の適用を受ける場合は、相続税額がゼロになる場合でも、相続税の申告が必要となる点にご注意ください。
相続した不動産の分け方(分割方法)には、以下の4種類があります。
「現物分割」は、相続財産を物理的に分ける方法です。 不動産のうち、土地については分筆した上で現物分割をすることができます。面積に応じて公平に分けやすいメリットがある反面、土地が細分化しすぎて使いにくくなる場合があります。 建物については、原則として現物分割はできません。
「代償分割」は、一部の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。 一部の相続人だけが不動産の相続を希望している場合は、代償分割によってすべての相続人のニーズを満たせる可能性があります。ただし代償金が準備できない場合は、代償分割を行うことは困難です。
「換価分割」は、不動産を売却して代金を分ける方法です。1円単位で公平に不動産を分割することができますが、物件の立地などによっては買い手が付かないこともあります。
「共有分割」とは、不動産を複数の相続人による共有とする方法です。 複数の相続人が不動産の相続を希望する場合や、遺産分割の結論を保留したい場合などに選択されることがありますが、共有者間におけるトラブル発生のリスクが高いのが難点です。
相続財産である不動産は、遺産分割および相続税の申告を行う際に、その価値を評価する必要が生じることがあります。
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遺産分割の場面では、相続する遺産について相続人間の公平を図るため、預貯金などとは異なり、額面が明確でない不動産の価値評価を行う場合があります。この場合は実勢価格を基準とするのが適切であるため、不動産業者の見積もりや不動産鑑定士の評価などを用いることが多いです。
相続税の申告を行う際には、税法の規定に従って不動産の価値を評価します。具体的な評価方法については、税理士などのアドバイスを受けましょう。
不動産の相続には、以下の費用がかかることがあります。
相続した不動産には、以下の税金が課されることがあります。
課税対象財産(相続財産など)の総額が基礎控除額を超える場合には、原則として相続税が課されます。
※基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
相続登記の手続きを行う際には、法務局に登録免許税を納付する必要があります。
相続人以外の者が遺贈によって不動産を取得した際には、不動産取得税が課されます。相続人が取得した不動産については、不動産取得税は非課税です。
毎年1月1日時点における登記簿上の所有者に対して固定資産税が課されます。
遺産分割協議・調停・審判への対応を弁護士に依頼する際には、弁護士費用がかかります。具体的な金額は依頼先の弁護士によって異なるので、依頼前に必ず確認しましょう。 「日本弁護士連合会弁護士報酬基準」(現在は廃止)に基づき、遺産分割に関する弁護士費用の目安額を紹介します。
経済的利益の額 | 弁護士報酬 |
---|---|
300万円以下 | 経済的利益の額の8.8% |
300万円超~3,000万円以下 | 経済的利益の額の5.5%+9万9,000円 |
3,000万円超~3億円以下 | 経済的利益の額の3.3%+75万9,000円 |
3億円超 | 経済的利益の額の2.2%+405万9,000円 |
※最低11万円、争いのない部分については相続分の時価の3分の1
経済的利益の額 | 弁護士報酬 |
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300万円以下 | 経済的利益の額の17.6% |
300万円超~3,000万円以下 | 経済的利益の額の11%+19万8,000円 |
3,000万円超~3億円以下 | 経済的利益の額の6.6%+151万8,000円 |
3億円超 | 経済的利益の額の4.4%+811万8,000円 |
※争いのない部分については相続分の時価の3分の1
不動産の相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士費用がかかります。具体的な金額は依頼先の司法書士によって異なりますが、登記1件当たり5万円から15万円程度が標準的です(登録免許税などは別途)。
不動産の相続に当たっては、主に相続登記の手続きにおいて、以下の書類を揃える必要があります。
不動産を相続する際には、遺産分割や相続登記をはじめとして、さまざまな手続きを行う必要があります。トラブルなくスムーズに不動産を相続するためには、弁護士にサポートを依頼しましょう。