

まず遺産分割の基本的な知識を抑えましょう。対象となる財産や期限、相続人について解説します。

遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続人の間で分けることです。被相続人の死後、その財産は法律上、相続人全員の共有物となります。その共有物を、相続人間の合意または法律に基づいて分割するのが遺産分割です。
遺産分割の対象になる財産と、ならない財産があります。以下の表をご確認ください。
遺産分割の対象 | 説明 |
|---|---|
対象になる財産 | 現金・預金、不動産(土地・建物)、株式・投資信託、自動車、家具・家財など |
対象にならない財産 | 生命保険金(保険金受取人が指定されている場合)、銀行の自動振込、遺族年金、一身専属権(身分に基づく権利)など |
生命保険金は、保険金受取人が指定されている場合、指定された受取人固有の財産となるため、遺産分割の対象にはなりません。また生命保険金が遺産総額と比べて過大な場合でも、特別受益として持ち戻しの対象となる場合があります。
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遺産分割には直接的な「期限」がありません。しかし、放置するとさまざまなリスクが生じます。以下の3つの期限に注意が必要です。
相続税が発生する場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納税しなければなりません。遺産分割が未決定でも申告は必要です。
2024年4月から、相続で取得した不動産の登記が義務化されました。正当な理由なく期限内に登記しないと、10万円以下の過料を課せられる可能性があります(不動産登記法164条1項)。
遺産分割での調整請求は、相続開始から10年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、基本的には特別受益や寄与分の権利を主張できなくなり、法定相続分による分割となります。

遺言書がない場合、遺産分割は相続人同士で協議(遺産分割協議)をして分割内容を決めます。法定相続分に従う場合のケースで説明します。
民法では、亡くなった人の財産を引き継ぐ権利を持つ人(法定相続人)とその優先順位が明確に定められています。配偶者は常に相続人となります。配偶者以外の親族は、以下の順位に従って配偶者と一緒に相続人になります。
配偶者は常に相続人
第1順位:子ども(直系卑属)
子どもが既に亡くなっている場合、孫がいればその孫が引き継ぎます(代襲相続)。
第2順位:親や祖父母(直系尊属)
第1順位の人が誰もいない場合に相続権が回ってきます。
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡き後はその子どもである甥・姪)
第1順位・第2順位の人がともにいない場合にのみ相続人となります。
このように、先の順位の人が1人でもいれば、後ろの順位の人には相続権が回りません。トラブルを防ぐためにも、まずは誰が相続人になるのかを正しく把握することが重要です。
遺産のすべてを配偶者が相続します
子どもがすべてを相続し、人数に応じて等分します。
両親が相続人となり、すべてを相続します
兄弟姉妹がすべてを相続し、人数に応じて等分します。
配偶者が1/2、子ども全員で1/2です。子どもが複数いれば、1/2を人数で等分します。例えば、子どもが3人の場合は1/2を3等分するので、それぞれ1/6となります。
配偶者が2/3、親が1/3になります。
配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。
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遺産分割をスムーズに進めるには、正しい順序で手続きを進めることが重要です。ここでは、遺産分割の全5ステップを解説します。
まず初めに確認すべきことは、被相続人が遺言書を残しているかどうかです。遺言書があれば、基本的には遺言書の内容に従って遺産分割を進めます。遺言書は、自宅の金庫やタンスの中、銀行の貸金庫、法務局などを確認してみましょう。
公正証書遺言の場合は、公証役場で遺言書の有無を照会できます。また、相続人であれば被相続人の銀行口座やクレジットカード明細から、貸金庫の利用を推測することも可能です。
また遺言書を見つけても、すぐに開封しないようにしましょう。自宅などで見つかった封印された遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の全員が立会のもと開封しなくてはいけません(遺言書の検認)。
ただし、相続人の遺留分を侵害する遺言書の場合、遺留分を有する相続人から侵害額請求を受ける可能性があります。この場合は、遺言書の内容を前提としつつ、遺留分侵害額請求への対応を進める必要があります。
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遺言書が確認され、検認などの必要な手続きを終えたら、いよいよ具体的な遺産の手続きに移ります。
遺言書がある場合、原則として「遺産分割協議」を開く必要はありません。遺言書で指定された「遺言執行者(手続きを進める代表者)」または相続人が、遺言書を役所や銀行に提出することで、1人でスムーズに不動産の名義変更や預貯金の解約手続きを進めることができます。
ただし、遺言書に書かれた内容であっても「相続人全員」が同意すれば、遺言とは異なる割合で遺産を分け合うことも可能です。また、遺留分の侵害がある場合は、話し合いや金銭での清算(遺留分侵害額請求)を並行して進めていくことになります。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。法定相続分を基本としつつ、相続人全員の合意があれば、異なる割合での分割も可能です。
しかし、協議の過程で意見が対立する可能性があります。特に、特別受益(生前贈与)や寄与分(介護などの貢献)について異なる主張がある場合は、長期化する傾向があります。弁護士に助言を求めることで、スムーズな協議が実現します。
協議がまとまったら、必ず遺産分割協議書を作成してください。口約束では法的効力がなく、後々トラブルになります。また相続人の一部が協力的でなく、遺産分割協議がなかなかまとまらないケースもあります。
遺言書がない場合、次に相続人が誰であるかを確定する必要があります。被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を取得し、隠し子や前婚の子などがいないか確認してください。相続人の漏れがあると、後々トラブルになります。
同時に、相続財産の全体像を把握することも重要です。預金口座、不動産、株式、借金など、プラスの財産もマイナスの財産も調査します。相続放棄や限定承認を検討している場合は、この段階で判断する必要があります(期限は相続の開始があったことを知った日から3ヶ月)。
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遺産分割協議とは、相続人全員が集まり、遺産をどのように分けるかについて話し合うことです。全ての相続人が参加する必要があります。1人でも欠けていると協議は無効になります。
協議を進める際は、事前に相続財産の一覧表を作成し、各相続人に共有しておくと話がスムーズです。また、相続人同士の関係が良くない場合や、意見が対立する場合は、協議が長引いてしまい、相続税申告や登記などの期限も迫ってきますので、弁護士の立会いのもとで進めることをお勧めします。協議がまとまったら、次のステップに進みます。
遺産分割協議でまとまった内容を、法的効力をもつ文書として記録するのが遺産分割協議書です。これがないと、相続人間での約束が曖昧になり、後々トラブルになる可能性があります。
遺産分割協議書には、「被相続人の氏名」「遺産分割の内容」「各相続人の署名・押印」などを記載します。相続人全員が署名・押印し、印鑑証明書を添付することで、法的効力が生じます。弁護士や司法書士に作成を依頼することで、法的な誤りを防ぐことができます。
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遺産分割協議書が完成したら、いよいよ不動産の登記変更や税金申告を進めます。不動産は相続登記(名義変更)を3年以内に済ませる必要があります。銀行の預金は、各銀行に遺産分割協議書と相続人の印鑑を持って手続きを行います。
相続税が発生する場合は、相続開始から10ヶ月以内に申告・納税を完了させてください。自分たちで対応できない場合は、司法書士や税理士に依頼することをお勧めします。

遺産分割の方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
現物分割 | シンプルで分かりやすい | 完全等分が難しいことがある |
代償分割 | 相続人が希望する財産を取得できる | 代償金の準備が必要 |
換価分割 | 現金で公平に分けられる | 仲介手数料や税金がかかる |
共有分割 | 一時的に決定できる | 後々のトラブルが多い(非推奨) |
遺産分割には、4つの主な方法があります。遺産の種類と相続人の事情に応じて、最適な方法を選択してください。
現物分割とは、不動産は長男が取得、預金は次男が取得するというように、財産をそのままの形で相続人に分ける方法です。最も簡潔で、相続人間の価値評価が容易です。不動産を現物で相続したい場合や、預金と株式など異なる資産を分ける場合に適しています。
ただし、遺産が完全に相続人の数で等分できない場合は、この方法は使えません。例えば、遺産が一軒の家だけで相続人が2人の場合、どちらか一方が家を取得し、もう一方は相応の代償金を受け取る必要があります(代償分割)。
代償分割は、1人の相続人が不動産などの主要資産を取得し、その他の相続人に対して現金を支払う方法です。長男が実家を引き継ぎたい場合によく使われます。相続人間で合意できれば、シンプルで実行しやすい方法です。
注意点として、代償金を支払う側に十分な現金がなければ、実行が困難になります。また、後々「代償金を支払っていない」といったトラブルが生じる可能性があります。代償金の支払い期限や方法を明確に遺産分割協議書に記載することが重要です。
換価分割は、不動産や株式などを売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。現物分割では等分が難しい場合に使われます。また、相続人が遠く離れて暮らしており、不動産の共有が困難な場合にも適しています。
この方法の利点は、各相続人が公平に現金を受け取れることです。しかし、売却には仲介手数料や税金がかかります。また、不動産を売却する際は、複数の不動産会社から査定を取ることで、適切な価格での売却が可能になります。
共有分割は、複数の相続人が同じ財産を共有する方法です。例えば、実家の土地を兄弟で1/2ずつ共有する場合です。ただし、この方法には注意が必要です。
例えば、共有者の一人が不動産の売却を決めたくても、他の共有者の同意がなければ売却できません。また、共有者が亡くなると、その相続人がさらに共有者に加わり、関係者が増えて決定が困難になります。さらに、固定資産税の支払い義務も生じるため、長期的には大きな負担になります。可能な限り、現物分割や換価分割を選択するのが良いでしょう。

相続人同士の意見が対立し、協議がまとまらない場合があります。このような場合は、家庭裁判所での調停や審判に進むことになります。
協議がまとまらない場合、相続人の一人が家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停では、調停委員が相続人双方の意見を聞き、中立的な立場から解決策を提案します。
調停は非公開で行われるため、プライバシーが守られます。また、合意に至った場合の調書は、確定判決と同じ効力を持ちます。しかし、調停がまとまるまでに数ヶ月から数年の時間がかかることもあります。
認知症などで判断能力がない相続人がいる場合は、成年後見人の選任が、行方不明者がいる場合は不在者財産管理人の選任が必要になる場合があります。
不動産のみが遺産の場合、遺産分割が特に難しくなります。
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや有利に進める方法を解説
調停で合意に至らない場合、家庭裁判所の審判に進みます。審判では、裁判官が遺産分割の内容を決定します。これは法的な決定であり、相続人はこれに従う義務があります。
審判では、法定相続分を基本としながら、寄与分や特別受益などの事情を考慮して、具体的な遺産分割を決定します。裁判官の決定に不服がある場合は、抗告することができますが(抗告の期限は、審判書送達日の翌日から2週間以内)、二度目の審査が行われるため、時間と費用がさらにかかります。

遺産相続・遺産分割の過程では、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。事前に理解することで、対策を講じることができますので、よくあるパターンをいくつか紹介します。
被相続人の死後、複数の相続人がいるにもかかわらず、一部の相続人が無断で遺産を使用・処分することがあります。例えば、預金を無断で引き出すなどの行為です。
このような場合は、その相続人の相続分から減額する方法もあります。ただし、立証に時間がかかるため、早期に証拠を集めましょう。話し合いで解決が望まれますが、当事者間で合意に至らないケースも多くあるため、早い段階で弁護士と相談し、返還請求を進める必要があります。
被相続人の借金が後から発覚することがあります。相続はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐので、借金があった場合、相続人は借金を返済する義務を負う可能性があります。ただし、相続開始から3ヶ月以内に相続放棄を申し立てることで、借金の返済義務を免れることができます(相続放棄をするとプラスの財産の相続も放棄することになります)。
このようなケースの場合、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があります。マイナスの財産よりプラスの財産が多い場合は、すべてを相続する「単純承認」で問題ありません。
一方で、相続したプラスの財産の範囲内で借金などのマイナスの財産を弁済する方法が「限定承認」です。プラスとマイナスのどちらが多いかわからないケースなどで「限定承認」は有効です。相続放棄と限定承認には期限があり、「相続開始を知った日」から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。3ヶ月を過ぎてしまうと自動的に「単純承認」となるため、注意が必要です。
関連記事:相続放棄できる期間は3か月!期限を延長する方法はある?期限を過ぎてしまった場合の対処法も解説
被相続人が生前に特定の相続人に多く財産を与えていた場合(特別受益)、遺産分割時にその金額を差し引く仕組みがあります。例えば、長男だけが大学費用や住宅購入資金をもらっていた場合、その金額を長男の相続分から減額します。
一方、介護などで被相続人に大きく貢献した相続人(寄与分)の場合、相続分の加算が可能です。ただし、寄与分の認定は難しく、一般的な親子間の扶養義務では認められません。具体的な寄与と金額の立証が必要です。

遺産分割は単なる財産分けではなく、親族間の感情や利害が複雑に絡み合う問題です。「親の介護を長く担当した」「兄弟姉妹と仲が悪い」「相続人の一人が行方不明」といった事情がある場合、協議がスムーズに進まない可能性があります。
弁護士に遺産分割の代理交渉を依頼する最大のメリットは、親族間での直接的なトラブルを回避できることです。弁護士が相続人間の交渉を代わって行うため、感情的な対立を防ぐことができます。
また、弁護士は法律知識に基づいて適切な相続分や権利を主張します。特別受益(生前贈与)や寄与分(介護などの貢献)の計算は複雑です。弁護士の助言があれば、法的に有利な立場での交渉が可能になります。さらに、調停や審判に進む場合でも、弁護士の代理があると、複雑な手続きがスムーズです。
弁護士費用は事務所によって異なりますが、着手金については最低20万円以上は見込んでください。ただし、初回相談は無料で受け付けている事務所も多いため、まずは無料相談を活用してください。
弁護士に相談することで、自分たちだけで進めるよりも、トラブルが少なく、時間も短縮できます。親族間で顔を合わせて揉めたくない、複雑な遺産分割に対応したいという場合は、早期に弁護士へ相談することをお勧めします。
遺産分割協議に直接的な期限はありません。ただし、相続税申告が必要な場合は10ヶ月以内、不動産の相続登記は3年以内に完了させる必要があります。特に相続税申告の期限が近づいている場合は、急いで協議を進めることが重要です。
相続人が認知症で判断能力がない場合は、成年後見人を家庭裁判所に申し立てて選任する必要があります。成年後見人が遺産分割協議に参加することで、協議が有効になります。行方不明の相続人がいる場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることで対応できます。
遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書に全相続人が署名・押印した場合、原則としてやり直しはできません。ただし、重大な錯誤や詐欺がある場合は、例外的にやり直しが認められることもあります。詳しくは弁護士に相談してください。
法律的には、相続人全員で作成することは可能です。ただし、内容に誤りがあると、後々トラブルになる可能性があります。特に複雑な遺産や相続関係の場合は、司法書士や弁護士に依頼することをお勧めします。
