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遺産相続
更新日:2026/07/06

遺産の使い込みが発覚したら?財産を取り戻す証拠の集め方と手続き

監修者
田辺晶夫
埼玉県>さいたま市
サンライツ法律事務所
田辺晶夫
遺産の使い込みが発覚したら?財産を取り戻す証拠の集め方と手続き
親が亡くなった直後、親の銀行口座を確認したところ、不自然な金額が引き出されていた。引き出した相手は「親に頼まれた」「生活費だ」と言い張るが、その説明が整合しない。遺産分割の前に被相続人(亡くなった人)の遺産を他の相続人が使い込む事例は実際によくあります。この記事では、使い込みの証拠を集める方法から、法的請求、回収、時効まで、実務的な手順をお伝えします。
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亡くなった親の預金に「不自然な引き出し」……遺産の使い込み?

遺産分割を始める際、親の銀行口座を確認すると「このお金、誰が使ったのか」という不自然な引き出しがあると、使い込みへの疑念が浮かびます。特に親が入院中や認知症を発症した後や死後に多額の現金が引き出されていると、より強い疑いを感じるのではないでしょうか。

そのような状況は決して珍しいケースではありません。むしろ、多くの相続紛争の背景には、遺産の使い込みが隠れています。大切なのは「その引き出しが本当に親の意思だったのか」を冷静に確認することです。

入院中や認知症の発症後などの出金は使い込みの疑い

親が重い病気で入院していた時期や、認知症の進行で判断能力が著しく低下していた時期に、親本人がATMで引き出したり、銀行で手続きしたりすることは、物理的に、あるいは精神的に不可能なケースがあります。

それなのに、通帳には多額の出金記録が残っている。その場合、出金したのは実は別の誰かで、親は知らされていなかった可能性が極めて高いと考えられます。

親族の誰かが親の通帳やキャッシュカードを管理していた場合は、より注意が必要です。管理者が「親に頼まれた」と主張しても、客観的な証拠がなければ、その言葉を信じるべきではありません。

遺産の使い込みが疑われたときの対処法

遺産の使い込まれた場合の対処法

遺産の使い込みの疑いがあれば、下記の手順で対処しましょう。

①まずは遺産を使い込んだ相手と協議をする

遺産の使い込みの疑いがあれば、まずは相手と協議をしましょう。相手が認めてくれれば、その後の遺産分割はスムーズに進みますが、「親が自分に『使ってくれ』と言った」「親の生活費や医療費に充てた」など使い込みを否定する可能性があります。

その主張が本当に信じられるのかどうか、客観的な資料で検証する必要があります。もし親の医療費が使途だというなら、医療機関の領収書と出金額は合致しているでしょうか。生活費なら、その時期の親の生活環境(入院していたのか、在宅だったのか)と整合性がありますか。

相手との協議がまとまらない場合は、遺産分割調停、不当利得返還請求や損害賠償請求などの裁判の検討が必要ですが、どちらにせよ客観的な証拠が必要となります(証拠の集め方は後述)。

②遺産分割調停の申し立てを行う

相手方との話し合いで合意に至らなかった場合、遺産分割調停で解決する道があります。

遺産分割調停とは、親族間での遺産配分の話し合いがまとまらない際、家庭裁判所の調停委員を介して解決を目指す手続きです。当事者同士の感情的な対立を避け、客観的な視点で公平な合意を目指せるのが特徴です。

ただし、遺産分割調停でスムーズに解決できるのは、主に「使い込みを相手が認めている場合」です。特に生前の使い込みについては、相手が否認を続けると調停での解決は極めて困難になります。

生前の使い込みを相手が認めない場合や、調停でも協議がまとまらない場合は、「不当利得返還請求」などの裁判手続きが必要になります。 相手が話し合いに応じる可能性が低い場合には、調停を経ずに直接裁判へ進むケースも少なくありません。

この判断には相続人の数、遺産総額、時効の有無など複雑な検討が必要となるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

③「不当利得返還請求」「不法行為にもとづく損害賠償請求」の裁判

遺産分割調停で解決できない場合や、相手が使い込みを頑なに認めない場合は、地方裁判所へ訴訟を提起します。この際、主に「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」という名目で争うことになります。

「不当利得返還請求」は、相手が法律上の正当な理由なく得た利益(使い込んだお金)を返すよう求めるものです。一方、「不法行為に基づく損害賠償請求」は、勝手に預金を引き出した行為を「違法」とし、それによって生じた損害を埋め合わせるよう求めるものです。実務上は、両方をセットで主張するのが一般的です。

これらの裁判で最も重要なのは「客観的な証拠」です。本人の通帳履歴や、当時の本人の判断能力(認知症の有無)、介護記録などを照らし合わせ、相手の主張を崩さなければなりません。

裁判で「使い込み」が認められれば、判決によって相手の財産を差し押さえることも可能になります。非常に高度な法的手続きとなるため、証拠収集の段階から弁護士のサポートを受けることが、勝訴への大きな足掛かりとなります。

遺産の使い込みの証拠の集め方

遺産の使い込みの証拠の集め方

「使い込みの可能性がある」と感じても、それを法的に立証するには、相応の証拠が必要です。特に遺産の返還を求める「不当利得返還請求権」や「損害賠償請求」などの手続きをする場合は、請求する側に立証責任があります。ここでは遺産の使い込みの一般的な証拠の集め方について解説します。

銀行口座の記録

銀行口座の取引履歴(通帳)は、いつ、いくら引き出されたかを記録しています。銀行に保管されている払戻請求書や振込依頼書が残っていれば、署名や筆跡を親のものと比較できます。

またどこのATMをいつ使用したのかなども調べることが可能です。もし、故人が行動できない時間帯などにそれらの記録が残っていれば証拠となり得ます。

介護記録やカルテ、医療費の領収書も使い込みの証拠に

親が入院していた時期や、介護施設に入所していた時期の記録を確認してください。親の動きが客観的に記録されています。

例えば、認知症が進行していた時期に「親がATMで50万円を引き出した」という記録があれば、その時期の認知症進行度を医師の診断書で証明することで、親本人による引き出しの可能性を大きく下げられます。

また、親の医療費や介護費用の領収書を集めて、相手が主張する「医療費に充てた」という金額と比較してください。多くの場合、出金額が領収書額を大きく上回っています。その差額が、相手が個人的に使った可能性のある金額です。

しかし、個人でこれらの証拠を集めるには手続きも非常に煩雑なため、大変な手間がかかります。早い段階で弁護士などの専門家に依頼することでスムーズな手続きが可能になります。

遺産の使い込みの証拠集めには弁護士会照会が有効

遺産の使い込みの証拠集めでもっとも有効な方法が、弁護士法23条の2に基づく「弁護士会照会」です。これは、弁護士が弁護士会を通じて、金融機関や官公庁に情報開示を要求する制度です。

銀行は、弁護士会からの照会には法的な応答義務があり、通常は協力します。これにより、通常は非公開の口座情報や、隠された財産を明らかにできることもあります。相手が「別の口座に預けてある」と言い張る場合も、弁護士会照会で実態が分かることが多くあります。

使い込まれた遺産を取り戻すための時効

遺産の使い込みへの対応で最も重要となるのが、時間との戦いです。使い込まれた遺産の返還を求める権利には「時効」があるため、不審な点に気づいた時点でスピーディに行動を起こさなくてはなりません。

ここでは、実務上セットで主張されることが多い「不当利得返還請求」と「不法行為に基づく損害賠償請求」の2つの時効と、注意すべき期限について解説します。

不当利得返還請求の時効(2020年4月以降の使い込み)

2020年(令和2年)4月1日の民法改正以降に行われた使い込みについては、以下のいずれかが経過した時点で時効を迎えます。

・権利を行使できると知った時から5年

・権利を行使できる時から10年

ここでいう「知った時」とは、単に引き出しに気づいた時点だけでなく、「返還を請求できる(不法な使い込みである)と客観的に認識した時」を指します。証拠集めや相手との交渉、調停・訴訟の準備を含めると、5年という期間は決して長くはありません。

2020年3月以前の使い込みは「旧法」が適用される

生前の使い込み事案では、侵害行為が2020年3月31日以前に行われていることも少なくありません。この場合、改正前民法のルール(附則10条4項)が適用されるため、時効は一律で「使い込みが行われた時から10年」となります(「知った時から5年」という制限はありません)。いつ使い込まれたかによって基準が変わるため、通帳の履歴と日付を必ず確認してください。

不法行為に基づく損害賠償請求の時効(3年に注意)

使い込みに対して「損害賠償」を請求する場合の時効は、不当利得とは異なりさらに短くなります(民法724条)。

・損害および加害者を知った時から3年

・不法行為の時から20年

使い込みの事実と「犯人(特定の相続人など)」が分かった時点から、わずか3年で時効にかかってしまいます。3年が経過すると不法行為での請求はできなくなり、不当利得返還請求のみで戦わなければならなくなるため、より迅速な対応が必要です。

期限を迎えると奪われたお金は戻らない

時効を過ぎてしまえば、法的な請求権そのものが消滅し、相手に「返してください」と主張できなくなります。その時点で、奪われたお金を取り戻す道は閉ざされてしまいます。「怪しい」と思ったら放置せず、まずは取引履歴を開示請求し、時効が完成する前に専門家へ相談しましょう。

警察はなぜ動かない?「親族相盗例」の壁と法的な罰則

遺産の使い込みが発覚し、警察に相談しても「家族間の問題だから」と突き放されてしまうケースは少なくありません。なぜ警察は動いてくれないのでしょうか。その背景には、日本の刑法が定める「親族相盗例」という特殊な特例ルールが存在します。

家族間の窃盗・横領は刑が免除される「親族相盗例」とは

刑法第244条1項(および第255条による準用)では、以下の親族間で起きた窃盗や詐欺、横領などの罪について、「その刑を免除する(処罰しない)」と定めています。

・配偶者

・直系血族(親・子・祖父母・孫など)

・同居の親族

ここでいう「同居の親族」とは、同じ戸籍に入っているかどうかではなく、「実際に同じ住居で日常生活を共にしている親族」を指します。

国家権力(警察・検察)は「家族内の争いにむやみに介入すべきではない(法は家庭に入らず)」という理念に基づいているため、これらの関係性での使い込みは刑事事件として立件されません。

「別居の兄弟姉妹」による使い込みは警察が動く可能性も

親族相盗例によって刑が免除されるのは、あくまで上記の範囲に限られます。

例えば、「別居している兄弟姉妹」や「同居していない相続人の配偶者」が親の預金を勝手に引き出したようなケースでは、刑は免除されません。法律上は「親告罪」という扱いになり、被害者(親や他の相続人など)が警察へ正式に「告訴」を行えば、刑事事件として立件し、相手を処罰の対象とできる可能性があります(刑法244条2項)。

「受任通知」で相手の暴走を止め、話し合いのテーブルに着かせる

弁護士に依頼した最初の行動が、相手への「受任通知」です。これは、弁護士が相手に対して「この案件についての交渉は、本人ではなく私の事務所と行う」と通知するものです。

この通知を受け取ることで、相手の多くは態度を変えます。それまで無視していた話し合い要請に、応じざるを得なくなるのです。また、相手が「もう全部使ってしまった」と言って、資産を隠そうとする動きも、この段階で一時的に止められます。

受任通知後は、弁護士が相手と交渉を進めます。多くのケースは、ここで合意に至ります。訴訟まで進むのは、全体の一部です。

遺産の使い込みがあった場合は弁護士に相談を

遺産の使い込みは弁護士に相談を

この問題の解決には、確実に法的専門知識が必要です。一人で相手と向き合っては、心身ともに疲弊し、冷静な判断ができなくなります。

プロの弁護士が間に入ることで、問題が解決する確度は、劇的に上がります。同時に、精神的な負担も大きく軽減されます。

親族同士の問い詰めは逆効果!第三者の介入で「感情」を「法律」に切り替える

感情的になった親族同士の対話は、往々にして決裂します。「親のために」と心から思う行動が、相手には「責め立て」に聞こえるかもしれません。相手も防衛本能から、「親に頼まれた」と言い張り、譲歩しなくなるのです。

そこに弁護士という第三者が入ると、対話の質が変わります。「法律的にはどうなのか」という客観的な視点が、感情的な応酬を終わらせます。相手も、弁護士の前では虚言をつきにくくなります。

複雑な財産調査から相手とのタフな交渉まで、すべてを代理人に任せる

この問題の解決には、以下のステップが必要です。

  • 銀行や官公庁への照会
  • 相手との交渉
  • 必要に応じた調停や訴訟の準備と実行
  • 勝訴後の回収手続き

これらは全て、高度な専門知識と経験が要求されます。特に、回収戦略を念頭に置いた、戦略的な対応が必要です。

弁護士に依頼することで、これら全てをプロに任せられます。相談者は、弁護士の指示に従いながら、精神的な負担を最小化できるのです。

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相続問題、特に使い込みケースの経験が豊富な弁護士を選ぶことが、解決の確度を高めます。当サイトのネットワークには、全国の多くの弁護士が登録されており、あなたの地域で、相応の経験を持つ専門家を見つけることができます。

初回相談は無料で受け付けている事務所がほとんどです。複数の弁護士に話を聞いて、信頼できるパートナーを見つけてください。

時間が経つほど、奪われたお金は消えていきます。「後で」という判断が、後悔につながります。今すぐ、専門家に相談してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 親が亡くなる前に引き出されたお金も、遺産として取り戻せますか?

はい、可能な場合があります。本人の合意なく引き出されたお金であれば、それは「不当利得」または「不法行為」として、引き出した相手に対して返還を請求することができます。ただし、生前の引き出しについては「本人の意思で渡した(生前贈与)」と主張されることが多いため、当時の親の判断能力などを証拠で証明する必要があります。

Q2. 相手が「もうお金は全部使ってしまったから返せない」と言ってきたらどうすればいいですか?

相手に支払い能力がない場合、勝訴しても実際に現金を回収するのは難しくなります。そのため、可能な限り早い段階で、相手の固有財産(預金口座や不動産など)を「仮差押え」するなど、将来の回収を確実にするための法的な保全措置を講じることが重要です。

Q3. 遺産の使い込みに気づいてから何年以内なら訴えることができますか?

不当利得返還請求権としての時効は、原則として「使い込みを知った時から5年」または「使い込みが行われた時から10年」です。ただし、相手が故意に隠蔽していた場合など、事情によって判断が異なることもあるため、気づいた時点ですぐに弁護士に相談し、時効のカウントを止める手続き(催告など)を行うべきです。

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この記事の監修者
田辺晶夫
埼玉県>さいたま市
サンライツ法律事務所
田辺晶夫(埼玉弁護士会)
東京大学理学部卒業後、同大学院法学政治学研究科を修了。あさひ法律事務所や大手事務所の支店長を経て現事務所を設立した。冤罪弁護の経験も持つ。「社会的に弱い立場の人を助けたい」という信念から、高品質なリーガルサービスの提供と弁護士費用の低価格化を追求。相続分野では不動産を含む遺産分割に強みを持ち、遺言書作成や家族信託などの生前対策から、複雑な遺産分割協議まで幅広く対応する。依頼者の味方として親身に寄り添い、最適な解決策を提案している。登録番号47298(埼玉弁護士会)
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