


遺言書とは、遺言者が亡くなった後に、財産を誰にどのように引き継がせるかなどを記載する書面です。遺言書を作成しておくと、遺産の分け方を自分の意思で指定できるため、相続人同士の話し合いである遺産分割協議を避けられる場合があります。
ただし、遺言書は法律で定められた方式に従って作成しなければなりません。方式に不備があると、遺言書が無効になるおそれがあります。
代表的な遺言書の方式には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。
種類 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で手書きして作る | 費用を抑えて作りたい人 |
公正証書遺言 | 公証人が関与して作る | 無効リスクを下げたい人 |
自筆証書遺言とは、遺言者本人が、遺言書の本文、日付、氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。自分だけで作成できるため手軽ですが、書き方のルールを守らないと無効になりやすいという注意点があります。
公正証書遺言とは、公証役場で、公証人が関与して作成する遺言書です。証人2人の立会いが必要で、作成費用もかかりますが、方式不備によって無効になるリスクは自筆証書遺言より低いといえます。
自分で書くことが難しい場合や、相続人同士のトラブルが予想される場合は、公正証書遺言も検討しましょう。

自筆証書遺言は、いきなり清書するのではなく、まず財産や相続させたい相手を整理し、文案を作ってから手書きするのがおすすめです。
ここでは、自分で自筆証書遺言を作成する流れをステップ方式で解説します。
まず、遺言書に書きたい財産と、その財産を誰に引き継がせたいのかを整理します。たとえば、次のような財産をリストアップします。預貯金不動産株式・投資信託自動車現金貴金属・骨董品借金・債務
財産の内容があいまいだと、相続発生後に「どの財産を指しているのか」が争いになることがあります。金融機関名、支店名、口座番号、不動産の所在や地番など、財産を特定できる情報を確認しましょう。
次に、遺言書の文案を作成します。自筆証書遺言は最終的に本文を手書きする必要がありますが、下書きの段階ではパソコンやスマートフォンで文案を作ってもかまいません。
文案では、「誰に」「何を」「どの割合で」相続させるのかを明確にしましょう。基本的な例文は次のとおりです。ケース別の例文などは、次の章で解説します。
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、遺言者名義の〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇を、長男〇〇〇〇に相続させる。
第2条 遺言者は、下記の不動産を、長女〇〇〇〇に相続させる。
所在 〇〇県〇〇市〇〇町
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
第3条 本遺言書に記載のない財産は、すべて長男〇〇〇〇に相続させる。
令和〇年〇月〇日
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇番地
遺言者 〇〇〇〇 印
自筆証書遺言では、原則として、本文・日付・氏名を遺言者本人が自書し、押印する必要があります。本文をパソコンで作成して印刷しただけでは、自筆証書遺言として無効となります。
日付は「令和〇年〇月吉日」のように日付を特定できない書き方にしないよう注意しましょう。
財産目録とは、遺言書で対象にする財産を一覧にした書類です。財産目録については、本文とは異なり、パソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりすることができます。ただし、自書しない財産目録を添付する場合は、各ページに署名押印が必要です。
遺言書を書き終えたら、封筒に入れて保管方法を決めます。封筒に入れること自体は自筆証書遺言の成立要件ではありませんが、紛失や改ざんを防ぐためには、保管方法を慎重に決めることが大切です。
自宅で保管する場合は、信頼できる人に保管場所を伝えておくか、法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用を検討しましょう。
ここでは、ニーズの多いケースに絞って、遺言書の文例をコンパクトに紹介します。実際に使う場合は、財産の表示や相続人の氏名を正確に記載しましょう。
妻・夫・子どもなど、特定の相続人に全財産を相続させたい場合は、次のように記載します。
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇〇〇に相続させる。
ただし、全財産を一人に相続させる内容にすると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。
配偶者が遺言者より先に亡くなる可能性に備え、「予備的遺言(補充遺言)」を添えておくと安心です。『相続させる』とした相続人が先に亡くなった場合、その部分は原則として効力を生じません(最高裁平成23年2月22日)。あらかじめ次の受取人を決めておきましょう。
妻〇〇〇〇が遺言者より先に、又は遺言者と同時に死亡した場合には、当該財産を長男〇〇〇〇に相続させる。
子どもの間で取り分に差をつける遺言も作成できます。ただし、子には遺留分(原則として法定相続分の2分の1)があります。極端に差をつけると、取り分の少ない子から遺留分侵害額請求を受けることがあります。
遺言者は、長男〇〇〇〇に、遺言者名義の〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇を相続させる。
遺言者は、二男〇〇〇〇に、遺言者の有するその他一切の財産を相続させる。
内縁の妻、孫、友人、団体など、相続人ではない人に財産を渡したい場合は、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書くのが一般的です。
遺言者は、遺言者の有する現金300万円を、〇〇〇〇に遺贈する。
相続人以外へ遺贈する場合は、相続人とのトラブルや遺留分侵害額請求の可能性も考慮しましょう。
財産は、種類ごとに「どの財産か」を特定できる情報を入れて書きます。表示があいまいだと、名義変更や相続登記で受け付けてもらえないことがあります。
金融機関名・支店名・預金の種別・口座番号まで書いて特定します。
遺言者は、遺言者名義の〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇を、長男〇〇〇〇に相続させる。
登記事項証明書のとおり、所在・地番・地目・地積(建物は家屋番号・種類・構造・床面積)を書きます。住所(住居表示)ではなく、登記上の表示で特定します。
遺言者は、下記の土地を、長女〇〇〇〇に相続させる。
所在 〇〇県〇〇市〇〇町
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇・〇〇平方メートル
証券会社名・銘柄・数量・口座番号で特定します。
遺言者は、〇〇証券〇〇支店の口座(口座番号〇〇〇〇〇〇)にある〇〇株式会社の株式〇〇株を、長男〇〇〇〇に相続させる。
生命保険金は、受取人が指定されていれば受取人固有の財産となり、原則として遺言書で分け方を指定する対象になりません。現金は金額を、自動車は登録番号・車台番号を書きます。ゴルフ会員権や貴金属なども、名称や記号番号で特定します。
個別に書ききれない財産は、割合や包括的な書き方でカバーします。
遺言者は、遺言者の有するその他一切の財産を、妻〇〇〇〇に相続させる。
書き漏れを防ぐため、最後にこの一文を入れておくと安心です。
遺言書は「誰に・何を」の書き方ひとつで、相続手続きが止まってしまうことがあります。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「自筆の遺言書で、実家の土地・建物を渡す相手を『◯◯(娘の夫)御一家に』と書いていたところ、『御一家』というあいまいな書き方のために相続登記ができず、実家が父名義のまま空き家になってしまった」という相談が寄せられています。
このケースのように、財産を渡す相手や財産の内容があいまいだと、遺言書自体は有効でも、相続登記や名義変更の手続きが進まなくなることがあります。
渡す相手は、氏名や続柄で一人に特定できるように書き、相続人以外に渡すときは『遺贈する』と書きます。財産も、不動産は登記のとおり、預貯金は金融機関名・口座番号まで書いて特定しましょう。
また、「叔母の自筆の遺言書が2通見つかり、内容が食い違ううえ、財産を渡すはずの相続人の1人が先に亡くなっていて、誰がどのように相続できるのか分からない」という相談も寄せられています。
遺言書が複数あって内容が矛盾するときは、日付の新しい遺言が優先します。作り直すときは、前の遺言を撤回する旨を書いておくと混乱を防げます。また、財産を渡す相手が自分より先に亡くなることもあります。その場合に備えて、次の受取人を決めておく『予備的遺言』を添えておくと安心です。
「すべての財産を特定の兄弟一人に相続させたいが、『すべての財産を◯◯へ相続させる』と一言で済ませてよいのか、財産を一つずつ書き出すべきか分からない」という相談も寄せられています。
誰に何を渡すかを財産ごとに特定して書いておくと、協議なしで名義変更でき、争いも防げます。書き方に不安があるときは、弁護士に確認するか、公正証書遺言も検討すると安心です。
自筆証書遺言の大きなメリットは、自分で比較的簡単に作成できることです。公正証書遺言のように公証役場で作成する必要がなく、証人も不要です。紙とペン、印鑑があれば作成できるため、思い立ったタイミングで準備しやすい遺言書といえます。
主なメリットは、次のとおりです。
メリット | 内容 |
|---|---|
費用を抑えやすい | 自分で作れば公証人手数料がかからない |
すぐに作れる | 公証役場の手続きを待たずに作成できる |
内容を変更しやすい | 新しい遺言書を作り直しやすい |
内容を知られにくい | 自分だけで作成・保管できる |
費用や手軽さを重視する場合には、自筆証書遺言が選択肢になります。自筆証書遺言には、手軽に作れる反面、無効・偽造・変造・紛失のリスクがあります。特に、日付や氏名の記載漏れ、押印漏れ、本文をパソコンで作成してしまうなどの不備があると、遺言書としての効力が認められない可能性があります。
自筆証書遺言は「書けばよい」ものではなく、法律上の書き方を守る必要があります。
自筆証書遺言を作成する際には、遺言無効などのトラブルを避けるため、書き方のルールを守る必要があります。
特に、次のような不備があると、遺言書が無効になったり、相続人同士のトラブルにつながったりする可能性があります。
自筆証書遺言では、本文、日付、氏名を自書し、押印することが基本です。また、内容を訂正・追加する場合は、法律で定められた方式に従って行う必要があります。1つの不備で遺言書全体の効力が争われることもあるため、清書前に必ず確認しましょう。
自筆証書遺言の本文は、遺言者本人が手書きする必要があります。そのため、本文をパソコンで作成して印刷したり、家族に代筆してもらったりすると、自筆証書遺言として無効となります。一方で、財産目録はパソコン作成や資料のコピー添付が認められます。
ただし、自書しない財産目録には署名押印が必要です。
遺言書を書き間違えた場合、単に二重線を引くだけでは不十分です。訂正場所を示し、変更した旨を記載し、署名と押印をする必要があります。また、遺言書が複数枚になる場合や、別紙の財産目録を付ける場合は、ページのつながりや署名押印の有無が問題になりやすいです。
訂正が多くなる場合は、無理に直すより、新しく書き直す方が安全です。
遺言書で特定の人に多くの財産を渡すことはできますが、一定の相続人には「遺留分」が認められています。遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、相続開始後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
全財産を一人に相続させる場合や、相続人以外に多額の遺贈をする場合は、遺留分にも注意しましょう。
自筆証書遺言を作成するためには、遺言能力が必要です。遺言能力とは、遺言の内容とその結果を理解して判断できる能力のことです。認知症などで判断能力が低下している場合には、遺言能力がないとして、遺言書の効力が争われる可能性があります。
相続発生後のトラブルを避けるため、遺言書の作成時点で判断能力に問題がなかったことを示す資料を残しておくとよいでしょう。たとえば、医師の診断書、作成時の録音・録画、弁護士への相談記録などが考えられます。

自筆証書遺言書保管制度とは、自分で作成した自筆証書遺言を、法務局の遺言書保管所で保管してもらえる制度です。自宅で保管する場合に比べて、紛失や改ざんのリスクを抑えやすく、相続開始後の手続きも進めやすくなります。
自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要です。一方で、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管されている遺言書は、家庭裁判所の検認が不要です。検認が不要になる点は、保管制度を利用する大きなメリットです。
法務局で保管されるため、自宅保管に比べて、遺言書が見つからない、誰かに破棄される、内容を改ざんされるといったリスクを防ぎやすくなります。また、保管申請時には、自筆証書遺言の方式に適合しているかについて、外形的な確認を受けられます。
ただし、遺言の内容が法律的に有効かどうかまで保証されるわけではありません。遺留分や財産の書き方など、内容面に不安がある場合は専門家に相談しましょう。
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、遺言者本人が法務局の遺言書保管所に申請します。
項目 | 内容 |
|---|---|
申請先 | 住所地・本籍地・所有不動産所在地などを管轄する遺言書保管所 |
主な必要書類 | 遺言書、申請書、本人確認書類など |
手数料 | 遺言書1件につき3900円 |
注意点 | 本人が出向く必要がある |
保管制度を利用しても、遺言書の内容が相続人間のトラブルを完全に防ぐとは限りません。たとえば、遺留分を侵害する内容や、財産の特定が不十分な内容の場合、相続開始後に争いになる可能性があります。
法務局では遺言の内容について相談に応じてもらえるわけではないため、内容面まで確実にしたい場合は、弁護士などの専門家に確認してもらうことが大切です。
自筆証書遺言を作成した後は、遺言書を紛失しないように保管し、必要に応じて内容の変更や撤回を検討します。
自宅で保管する場合は、遺言書が相続開始後に発見されるよう、信頼できる人に保管場所を伝えておくことが重要です。ただし、自宅保管には、紛失、破棄、隠匿、改ざんのリスクがあります。
遺言書の内容を変更したい場合は、法律上の訂正方法に従って修正するか、新しい遺言書を作成します。新しい遺言書を作成する場合は、変更後の内容が明確になるように記載し、必要に応じて『以前作成した遺言書を撤回する』旨を明記しておきましょう。
遺言者が亡くなった後、自宅で保管されていた自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。検認後は、遺言書の内容に従って、預貯金の払い戻し、不動産の相続登記、有価証券の名義変更などを行います。
遺言執行者を指定しておくと、相続開始後の手続きを進めやすくなる場合があります。
遺言書は自分で作成できますが、相続人関係が複雑な場合や、財産が多い場合、特定の人に多く財産を渡したい場合は、専門家に相談することも検討しましょう。
弁護士・司法書士・行政書士・公証役場それぞれの費用の目安や選び方は、次の記事でくわしく解説しています。
自筆証書遺言の本文は、遺言者本人が自書する必要があります。そのため、本文をパソコンで作成して印刷しただけでは、自筆証書遺言として無効となります。
ただし、財産目録については、パソコンで作成したものや資料のコピーを添付できます。自書しない財産目録には署名押印が必要です。
自筆証書遺言そのものについて、用紙や封筒の種類に厳密な決まりがあるわけではありません。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、余白や用紙サイズなどの様式に注意が必要です。制度を利用する前に、法務省や法務局の案内を確認しましょう。
自筆証書遺言の押印は、必ず実印でなければならないわけではありません。ただし、後から本人が作成したものか争われるリスクを下げるためには、実印を使い、印鑑証明書などとあわせて保管しておくことも検討できます。
遺言書を訂正・追加する場合は、訂正場所を示し、変更した旨を記載し、署名押印する必要があります。訂正方法に不備があると、訂正部分が無効になる可能性があります。訂正箇所が多い場合は、新しい遺言書を作成し直す方がわかりやすいでしょう。
病気や障害などで自筆が難しい場合、自筆証書遺言を作成することは難しくなります。その場合は、公正証書遺言を検討しましょう。公正証書遺言であれば、公証人が関与して作成するため、自分で全文を手書きする必要はありません。
公正証書遺言の作成手順や費用は、次の記事でくわしく解説しています。
遺言書を書いても、遺留分を当然に無視できるわけではありません。兄弟姉妹以外の一定の相続人には遺留分が認められています。遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、相続開始後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
自筆証書遺言は、費用を抑えて自分で作成できる遺言書です。一方で、本文・日付・氏名の自書、押印、財産目録の署名押印など、書き方のルールを守らなければ無効になるおそれがあります。
遺言書の内容に不安がある場合や、遺留分・相続人同士のトラブルが心配な場合は、弁護士に相談しながら作成しましょう。遺言書は、作ること自体よりも「無効にならず、相続開始後に使える内容にすること」が重要です。

愛知県弁護士会所属。相談者様・依頼者様から丁寧にご事情をお伺いして、それぞれのご家庭にとって望ましい解決策を真摯に検討・ご提案いたします。当事者だけでは解決が難しい相続問題も、弁護士が法的に整理して対応すれば解決できます。