

遺産とは、亡くなった人(被相続人)が残したすべての財産と債務のことです。
「財産」と聞くと預貯金や不動産を思い浮かべますが、遺産には借金や保証債務などのマイナスの財産も含まれます。プラスの財産だけを選んで受け継ぐことは、原則としてできません。
まずは「遺産=プラスもマイナスもひっくるめた、亡くなった人の権利と義務のまとまり」とイメージしておくと、この先の話が理解しやすくなります。
遺産の中身は、大きくプラスの財産とマイナスの財産に分かれます。
プラスの財産は、現金・預貯金・土地・建物・株式などです。マイナスの財産は、住宅ローンや借入金、未払いの税金などを指します。
相続では、この両方をあわせて引き継ぐのが原則です。マイナスがプラスを上回りそうなときは、相続放棄や限定承認という選択肢が出てきます。
「遺産」とほぼ同じ意味で「相続財産」という言葉も使われます。どちらも、亡くなった人から相続人へ引き継がれる財産を指す言葉です。
一方で、「相続税がかかる財産」は、遺産とぴったり同じではありません。民法で遺産として分ける対象と、相続税の計算で数える対象は、範囲が少しずれています。
この違いを知らないと、「遺産分割の話」と「相続税の話」が頭の中で混ざってしまいがちです。まずは別物として整理しておきましょう。
この記事を読む目的は、人によって2つに分かれます。
ひとつは「遺産を相続人で分けたい(遺産分割をしたい)」という目的、もうひとつは「相続税がいくらかかるか知りたい」という目的です。
分けるための遺産を知りたい人は、この後の「含まれる財産」「含まれない財産」を中心に読んでください。相続税がかかる範囲を知りたい人は、後半の「民法上の遺産と相続税がかかる財産は違う」を重点的に見ると、必要な情報にたどり着けます。

遺産に含まれるプラスの財産には、次のようなものがあります。
見落としやすいものもあるので、ひとつずつ確認していきましょう。
タンス預金などの現金、銀行や信用金庫の預貯金は、いずれも遺産に含まれます。
亡くなった人の口座は、金融機関が死亡を把握した時点で凍結されるのが一般的です。凍結後は、相続手続きを経ないと原則として引き出せません。
「葬儀費用のためにすぐ使いたい」というときは、一定額まで払い戻せる制度もあります。まずは口座がある金融機関に相続の手続きを確認しましょう。
自宅や土地、マンションなどの不動産も遺産です。被相続人が借りていた土地に家を建てていた場合の借地権も、財産として引き継ぐ対象になります。
不動産は金額が大きく、現金のように簡単には分けられません。そのため、遺産分割でもっとももめやすい財産のひとつです。
上場株式や投資信託、国債などの有価証券も遺産に含まれます。
証券会社の口座で管理されていることが多く、取引残高報告書や証券会社からの通知で保有状況を確認できます。ネット証券の場合は、郵便物が届かず気づきにくいため注意が必要です。
自動車、貴金属、宝石、骨董品、家財道具といった「動産」も遺産です。
価値が高いものは、相続人の間で「誰が引き継ぐか」「いくらと評価するか」でもめることがあります。高価な美術品などは、専門家に評価を依頼するケースもあります。
被相続人が誰かにお金を貸していた場合の貸付金や、事業をしていた場合の売掛金なども、遺産に含まれる財産です。
「返してもらう権利」も相続の対象になる、と覚えておきましょう。契約書や帳簿が残っていないか確認しておくと安心です。
一方で、亡くなった人に関係するお金でも、遺産に含まれない(民法上、相続人で分ける対象にならない)ものがあります。
代表的なものを見ていきましょう。なお、ここで「遺産に含まれない」としたものの一部は、相続税では課税対象になります。その点は後の章でまとめて説明します。
受取人が指定された生命保険金や死亡退職金は、原則として遺産に含まれません。
これらは、受取人として指定された人が自分の権利として受け取るお金(受取人固有の財産)だからです。そのため、遺産分割の対象にはならず、受取人が単独で受け取れます。
ただし、後述するとおり相続税の計算では課税対象(みなし相続財産)になります。「分ける対象ではないが、税金の対象にはなる」という二段構えを押さえておきましょう。
なお、受け取る生命保険金が遺産に比べて極端に高額で、相続人の間の不公平が大きいときは、例外的に遺産分割で考慮される場合があります。
遺族年金や、勤務先から遺族に支払われる給付なども、遺産には含まれません。
これらは、残された遺族の生活を支えるために、遺族自身に支給されるお金だからです。受け取っても、他の相続人と分ける必要はありません。
お墓、仏壇、仏具、家系図といった「祭祀財産(さいしざいさん)」も、通常の遺産とは別に扱われます。
祭祀財産とは、先祖を祀るための財産のことです。これらは遺産分割で分けるのではなく、祭祀を引き継ぐ人(祭祀承継者)が受け継ぎます。
その人だけに認められた権利(一身専属権(いっしんせんぞくけん))も、遺産には含まれません。
一身専属権とは、本人だけに帰属し、他の人には引き継げない権利のことです。たとえば本人の年金受給権や、扶養を求める権利などが当たります。
遺産にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれます。
「亡くなった親に借金があるかもしれない」というときは、この章の内容が判断の分かれ目になります。
住宅ローンや消費者ローン、事業用の借入金、未払いの税金や医療費などは、すべてマイナスの遺産です。
見落とされやすいのが保証債務(誰かの借金の保証人になっていた立場)です。被相続人が保証人になっていた場合、その保証人としての義務も相続の対象になります。
保証債務は書類が手元に残りにくく、後から発覚することがあります。契約書や金融機関からの通知は、念のため確認しておきましょう。
相続では、プラスとマイナスのどちらが多いかで、取るべき対応が変わります。
プラスが多ければ、通常どおり相続して遺産分割を進めます。マイナスが明らかに多い場合は、相続放棄(プラスもマイナスもいっさい引き継がない手続き)を検討します。
プラスとマイナスのどちらが多いか判断しづらいときは、限定承認(受け継ぐプラスの財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ手続き)という選択肢もあります。
限定承認は、相続人全員が共同で手続きする必要がある点に注意しましょう。まずは財産と借金をできる範囲で洗い出し、全体像をつかむことが第一歩です。
相続放棄と限定承認には、原則として「自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期限があります。
この3か月は「熟慮期間」と呼ばれ、相続するかどうかを考えるための期間です。期限を過ぎると、原則としてすべてを相続したものとして扱われるため、注意が必要です。期限に間に合わなそうな場合には、期限内に裁判所で手続きをすることで、期限を伸長することができることがあります。
また、期限内であっても、遺産を売却したり使ったりすると、相続を受け入れた(単純承認した)とみなされ、放棄できなくなることがあります。
相続放棄の手続きの流れや必要書類は、次の記事でくわしく解説しています。

ここからは、相続税がいくらかかるかを知りたい人に向けた章です。
先ほど「遺産に含まれない」とした財産の一部が、相続税では課税対象になります。この「ずれ」を整理しておきましょう。
生命保険金や死亡退職金は、民法上は受取人固有の財産で、遺産分割の対象にはなりません。
しかし相続税では、これらを「みなし相続財産」として課税対象に含めます。みなし相続財産とは、本来の遺産ではないものの、実質的に相続で財産を得たのと同じと考えて、相続税の計算に入れる財産のことです。
なお、生命保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。みなし相続財産の考え方や非課税枠のくわしい内容は、次の記事で確認できます。
相続や遺贈で財産を受け取った人が、被相続人から生前に贈与を受けていた場合、その贈与財産が相続税の計算に加算されることがあります。
対象になるのは、相続や遺贈で財産を受け取った人が受けた贈与です。加算の対象期間は、法改正で相続開始前3年以内から7年以内へ順次延長されています。
これは、亡くなる直前の駆け込み贈与で相続税を不当に減らすことを防ぐしくみです。個別の税額への影響は税理士に確認するのが確実です。
相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があります。
この「法定相続人の数」は、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます(生命保険金などの非課税枠も同じ数え方です)。
遺産の総額がこの基礎控除の範囲内に収まれば、相続税はかからず、申告も原則として不要です。まずは遺産の総額と基礎控除を比べて、相続税がかかりそうかどうかの見当をつけるとよいでしょう。
具体的な税額の計算や、特例が使えるかどうかは、税理士に相談すると安心です。

遺産を分けるにも、相続税を計算するにも、まず「何がどれだけあるか」を確定させる必要があります。
ここでは、財産を調べる基本的な方法を紹介します。
預貯金は、金融機関に残高証明書を発行してもらうと、亡くなった日時点の残高を正確に把握できます。
どの銀行に口座があるかわからないときは、通帳やキャッシュカード、郵便物を手がかりに探します。有価証券は、証券会社からの取引残高報告書で保有状況を確認できます。
なお、残高証明書は死亡時などの基準時点の残高を示すものですので、直前の払い戻しなども確認したい場合には、取引履歴も取得すると、残高の変動も把握できます。
不動産は、市区町村で取得できる名寄帳(なよせちょう)で、その自治体にある被相続人名義の不動産をまとめて確認できます。
名寄帳とは、同じ人が持つ不動産を一覧にした帳簿のことです。あわせて、法務局で登記事項証明書を取得すると、権利関係を正確に把握できます。
また、登記事項証明書では、不動産が担保に入っているかも確認できますので、借金などを発見できることもあります。
借金は、契約書や請求書、通帳の引き落とし履歴から確認します。
それでも把握しきれないときは、信用情報機関に情報開示を請求する方法があります。信用情報機関とは、個人の借入れ状況などを記録している機関のことです。カードローンや消費者金融などの借入れの有無を調べられます。
調べた財産は、財産目録という一覧表にまとめておきましょう。
財産目録とは、プラスの財産とマイナスの財産を種類ごとに書き出した一覧のことです。これを作っておくと、遺産分割の話し合いがスムーズになり、相続税がかかるかどうかの判断もしやすくなります。
遺産は、金額の大きさよりも「分けにくさ」や「不公平感」でもめます。
とくにトラブルになりやすい代表的なケースを知っておくと、早めに手を打てます。
亡くなる前後に、一部の相続人が被相続人の預金を勝手に引き出していた、というトラブルは少なくありません。
被相続人の生前や死後に引き出された使途不明のお金は、遺産として扱われ、他の相続人が使い込んだ人に対して返還を求められる場合があります。心当たりがあるときは、まず取引明細を取り寄せて、お金の流れを確認することが大切です。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「父の死後、妹が管理していた現金が遺産分割で一切開示されず、財産隠しではないかと不安に感じている」という相談が寄せられています。
使い込みが疑われる場合の証拠の集め方や取り戻す手続きは、次の記事でくわしく解説しています。
遺産の大部分が自宅などの不動産で、預貯金が少ないケースも、もめやすい典型例です。
不動産は物理的に分けられないため、「誰が住むか」「売って分けるか」「代わりにお金を払うか」「共有で持つか」などで意見が割れます。話し合いのルールや進め方は、次の記事が参考になります。
生前に一部の相続人だけが多額の援助を受けていた、あるいは特定の相続人が長年介護をしていた、という事情があると、公平さをめぐって対立が生じます。
前者は特別受益(とくべつじゅえき)、後者は寄与分(きよぶん)として、遺産分割で考慮される場合があります。
生前の多額の援助が特別受益にあたるかどうかの判断や計算方法は、次の記事でくわしく解説しています。
一方、介護や家業の手伝いなどの貢献が寄与分として認められる要件や相場は、次の記事が参考になります。
最後に、遺産について読者からよく寄せられる疑問に答えます。
相続する遺産の金額は、家庭ごとに大きく異なります。
一般に、遺産のうち大きな割合を占めるのは不動産と預貯金です。平均額の統計はいくつか公表されていますが、金額の幅が広く、あくまで目安にとどまります。自分のケースでは、まず財産目録を作って総額を把握することが先決です。
ネット銀行やネット証券の口座、暗号資産(仮想通貨)なども、財産的な価値があれば遺産に含まれます。
これらは通帳や郵便物が残らず、家族が存在に気づけないことがあります。パスワードがわからず引き継げないケースも増えています。デジタル遺産のトラブルと備えは、次の記事が参考になります。
遺産分割そのものに、法律上の期限はありません。
ただし、相続放棄は3か月以内、相続税の申告・納付は10か月以内など、期限のある手続きは遺産の範囲がわからないと進められません。そのため、実務上はできるだけ早く遺産を確定させることが望ましいといえます。放置すると、相続人がさらに亡くなって関係者が増え、話し合いが難しくなることもあります。
さらに、相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を考慮できず、法定相続分で分けることになります(2023年施行の民法改正)。この点からも、早めに進めておくと安心です。
遺産とは、亡くなった人が残したすべての財産と債務で、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
生命保険金や死亡退職金は遺産分割の対象にはなりませんが、相続税では課税対象になるなど、民法上の遺産と相続税がかかる財産は範囲が異なります。まずは財産目録を作り、全体像を把握することが、遺産分割にも相続税の判断にも欠かせません。
遺産の範囲は、一見単純に見えて、使い込みや保証債務、みなし相続財産など、判断に迷う場面が少なくありません。
とくに、一部の相続人による使い込みが疑われるとき、借金が多くて相続放棄を検討したいとき、期限が迫っているときは、判断を誤ると不利益を受けるおそれがあります。
そうしたときは、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースで何が遺産に含まれるのか、使い込みへの対応や相続放棄をどう進めるべきかを確認しておきましょう。早めに動くことで、選べる手段が広がります。

東北大学法学部を卒業後、2007年に弁護士登録。福島県内の法律事務所で経験を積んだ後、名取市に拠点を移し、2020年に現在の事務所を開業。遺言作成などの生前の相続対策から、遺産分割協議や分割後の手続きまで相続問題全般に注力し、他士業と連携した柔軟な解決も得意とする。深刻な悩みを抱える依頼者に親身に寄り添い、誰もが気軽に相談できる「かかりつけの弁護士」となることを目指している。初回相談は1時間無料。登録番号35825(仙台弁護士会)