

遺言書とは、亡くなった後に自分の財産を誰へどのように引き継がせるかなどを記載する書面です。
遺言書を作成しておくと、自分の意思に沿って遺産の分け方を指定できるため、相続人同士の話し合いである遺産分割協議を避けられる場合があります。
ただし、遺言書には法律で定められた方式があります。方式に不備があると、せっかく作成しても無効になるおそれがあるため、種類や作成方法を確認したうえで準備することが大切です。
遺言書を作成すると、自分の財産を誰にどのような割合で承継させるかを指定できます。
たとえば、特定の相続人に不動産を相続させたり、相続人以外の人や団体に財産を遺贈したりすることができます。
遺言書には、財産の分け方以外にも、遺言執行者の指定、未成年後見人の指定、推定相続人の廃除、付言事項などを記載できます。
遺言書でできること | 内容 |
|---|---|
財産の承継先を指定する | 誰に、どの財産を渡すか決める |
遺言執行者を指定する | 遺言内容を実現する人を決める |
未成年後見人を指定する | 未成年の子の後見人を指定する |
付言事項を残す | 家族への思いや理由を伝える |
付言事項には法的拘束力はありませんが、財産の分け方を決めた理由や家族への気持ちを伝えることで、相続人が遺言内容を受け入れやすくなることがあります。
関連記事:遺言執行者とは?報酬はいくら払う?選任の手続きから、権限・できないことまでわかりやすく解説
遺言書と似たものに、エンディングノートがあります。
エンディングノートは、家族への連絡事項、医療や介護の希望、葬儀の希望、財産のメモなどを自由に書き残すものです。形式に決まりはありませんが、財産の承継先を法的に指定する効力はありません。
一方、遺言書は法律上の方式を満たして作成することで、財産の分け方などについて法的効力を持ちます。
違い | 遺言書 | エンディングノート |
|---|---|---|
法的効力 | ある | 原則としてない |
作成ルール | 法律上の方式がある | 自由に作成できる |
主な目的 | 財産の承継先を指定する | 希望や情報を家族に伝える |
エンディングノートだけでは相続手続きの根拠にならないため、財産の分け方を決めたい場合は遺言書を作成しましょう。
遺言書の作成は義務ではありません。しかし、遺言書がない場合、相続人は原則として遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを決める必要があります。
相続人全員の話し合いが円満に進めば問題ありませんが、不動産、預貯金、株式などの分け方をめぐって意見が対立することもあります。
遺言書で財産の分け方を指定しておけば、相続人同士の争いを予防しやすくなります。
特に、次のようなケースでは、遺言書を作成する必要性が高いといえます。
遺言書がないと、財産は相続人全員の共有状態になり、遺産分割協議がまとまるまで名義変更や売却が進みにくくなることがあります。
家族に揉めてほしくない場合は、生前のうちに遺言書を作成しておくことが重要です。
関連記事:内縁の妻や事実婚のパートナーに相続権はない!財産を残すため生前にできる対策を解説

遺言書は、法律で定められた方式に従って作成する必要があります。
一般的に利用される遺言書には、次の3種類があります。
それぞれ、作りやすさ、費用、無効リスク、保管方法に違いがあります。
種類 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で手書きして作る | 費用を抑えたい人 |
公正証書遺言 | 公証人が関与して作る | 無効リスクを下げたい人 |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にして存在を証明する | 内容を知られたくない人 |
自筆証書遺言とは、遺言者本人が、遺言書の本文、日付、氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。
紙とペン、印鑑があれば自分で作成できるため、費用を抑えやすく、思い立ったタイミングで準備しやすいというメリットがあります。
ただし、方式に不備があると無効になりやすく、自宅で保管すると紛失や改ざん、発見されないリスクがあります。
なお、財産目録については、パソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりすることもできます。ただし、自書しない財産目録には各ページに署名押印が必要です。
関連記事:遺言書(自筆証書遺言)の書き方は?自分で作成するための例文・見本付きで詳しく解説
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作成する遺言書です。
公証人が関与し、証人2人の立会いのもとで作成するため、方式不備によって無効になるリスクを下げやすい遺言書です。原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配も少なくなります。
一方で、公証人手数料や証人への謝礼、専門家に依頼する場合の費用がかかることがあります。
相続人同士のトラブルが予想される場合、財産が多い場合、判断能力を後から争われるおそれがある場合は、公正証書遺言を検討するとよいでしょう。
関連記事:公正証書遺言とは?メリットや作成手順、自筆証書遺言との違いについても解説
秘密証書遺言とは、遺言者が作成した遺言書を封印し、公証人と証人2人の前で自分の遺言書であることを証明してもらう方式です。
内容を秘密にしたまま、遺言書の存在を明らかにできる点が特徴です。
ただし、本文の内容を公証人が確認するわけではないため、内容や方式の不備による無効リスクは残ります。実務上は、自筆証書遺言や公正証書遺言ほど多く使われていません。
費用を抑えて自分で作りたい場合は自筆証書遺言、無効リスクや紛失リスクをできるだけ下げたい場合は公正証書遺言が選択肢になります。
迷う場合は、次のように考えると整理しやすいでしょう。
状況 | 検討しやすい方式 |
|---|---|
費用を抑えたい | 自筆証書遺言 |
自宅保管が不安 | 自筆証書遺言+法務局保管 |
無効リスクを下げたい | 公正証書遺言 |
相続人同士の争いが予想される | 公正証書遺言 |
どの方式でも、遺留分や財産の特定方法を誤るとトラブルになる可能性があります。内容に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
遺言書は、自分だけで作成することも、弁護士などの専門家に相談しながら作成することもできます。
自分で作成する場合は、自筆証書遺言を選ぶことが多いでしょう。一方、財産が多い場合や相続トラブルが予想される場合は、公正証書遺言や専門家への相談を検討するのが安心です。
自筆証書遺言を自分で作成する場合は、いきなり清書するのではなく、財産と相続させたい人を整理してから文案を作成しましょう。
基本的な流れは次のとおりです。
文案の作成段階ではパソコンを使ってもかまいませんが、完成版の自筆証書遺言では、本文、日付、氏名を本人が手書きする必要があります。
インターネット上のひな形や見本は、遺言書の全体像をつかむうえでは便利です。しかし、ひな形をそのまま使えば必ず意思に沿った相続が実現されるわけではありません。
特に、次の点には注意が必要です。
ひな形はあくまで参考として使い、財産や家族関係に合わせて内容を調整しましょう。
自筆証書遺言では、本文、日付、氏名は本人の自書が必要です。
一方で、財産目録はパソコンで作成できます。預貯金や不動産が多い場合は、財産目録を別紙にして、通帳のコピーや登記事項証明書のコピーを添付する方法もあります。
項目 | 手書きが必要か |
|---|---|
本文 | 必要 |
日付 | 必要 |
氏名 | 必要 |
財産目録 | パソコン作成も可能 |
財産目録を自書しない場合は、各ページに署名押印をする必要があります。
遺言書は、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談しながら作成することもできます。
専門家に相談すると、財産の表示方法、遺留分への配慮、遺言執行者の指定、公正証書遺言にするかどうかなどを検討しやすくなります。
特に、相続人同士の対立が予想される場合や、不動産・事業用財産・相続人以外への遺贈がある場合は、作成前に弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士であれば、遺言書の作成だけでなく、相続発生後にトラブルが起きた場合の交渉や調停・訴訟対応も相談できます。
関連記事:遺言書の作成費用は?弁護士に依頼する場合の相場や自分で作る場合の費用を解説
自筆証書遺言を作成する場合は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法があります。
自宅で保管すると、遺言書が見つからない、紛失する、改ざんされるといったリスクがあります。法務局で保管すれば、これらのリスクを下げやすくなります。
自筆証書遺言書保管制度とは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度です。
法務局では、遺言書の外形的な方式を確認したうえで保管します。たとえば、全文、日付、氏名の自書や押印されていることなどが確認されます。
ただし、遺言書の内容が法律的に有効か、遺留分を侵害していないかまでは審査されません。内容面に不安がある場合は、保管申請の前に専門家へ相談しましょう。
法務局に自筆証書遺言を預ける主なメリットは、次のとおりです。
メリット | 内容 |
|---|---|
紛失や改ざんを防ぐことができる | 相続開始後も原本は法務局で保管され、相続人には遺言書の画像データが交付される |
相続開始後の手続き負担を減らせる | 検認が不要になる |
発見されやすくなる | 遺言者が予め指定した者に、法務局が遺言書の保管を通知してくれる |
自筆証書遺言の手軽さを残しつつ、保管面の不安を減らしたい人に向いている制度です。
遺言書の保管申請をする場合は、遺言書のほか、申請書などを用意して、遺言者本人が法務局で手続きします。
保管申請の手数料は、遺言書1通につき3,900円です。
申請できる法務局は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地などによって決まります。事前に管轄の遺言書保管所を確認し、予約をしてから行くとスムーズです。
関連記事:遺言書(自筆証書遺言)の保管制度とは?メリットや手続きの流れ、注意点を解説
相続開始後に遺言書を見つけた場合、遺言書の種類によっては家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
検認とは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の状態を確認して、偽造や変造を防止するための手続きです。遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。
自宅などで保管されていた自筆証書遺言や秘密証書遺言は、原則として検認が必要です。
一方、公正証書遺言や、法務局で保管されている自筆証書遺言に関して交付される遺言書情報証明書については、検認は不要です。
遺言書の種類 | 検認の要否 |
|---|---|
自宅保管の自筆証書遺言 | 必要 |
法務局保管の自筆証書遺言 | 不要 |
公正証書遺言 | 不要 |
秘密証書遺言 | 必要 |
遺言書の保管者や発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認を申し立てる必要があります。
検認の申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立て後、家庭裁判所から相続人へ検認期日の通知が送られ、期日に遺言書の状態などが確認されます。
検認後に遺言書を使って相続手続きを進めるには、検認済証明書が必要になることがあります。
封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもとで開封する必要があります。
勝手に開封してしまった場合でも、それだけで直ちに遺言書が無効になるとは限りません。ただし、過料の対象になる可能性や、相続人同士の不信感につながるおそれがあります。
封がされた遺言書を見つけたら、開封せずに家庭裁判所や専門家へ相談しましょう。
関連記事:遺言書の検認手続きや期限、検認が終わったらすることをわかりやすく解説
遺言書を作成するときは、主に次の点に注意しましょう。
遺言書は、法律で定められた方式に従って作成しなければなりません。
方式に不備がある場合や、内容が不明確な場合、作成時に遺言能力がなかった場合などには、遺言書が無効になる可能性があります。
遺言書が無効になると、遺言書で指定した財産の分け方を実現できず、遺産分割協議が必要になることがあります。
無効リスクを避けるため、次の点を確認しましょう。
注意点 | 確認すること |
|---|---|
方式 | 日付・氏名・押印などに漏れがないか |
内容 | 財産や相手を特定できるか |
能力 | 作成時に判断能力があるか |
遺言書は、作成時に遺言能力があることが前提です。遺言能力とは、自分が作成する遺言の内容や結果を理解できる能力のことです。
認知症の診断を受けている場合でも、必ず遺言書が無効になるわけではありません。しかし、作成時の判断能力をめぐって相続人同士で争いになる可能性があります。
判断能力を後から争われそうな場合は、公正証書遺言を検討したり、医師の診断書を用意したり、弁護士に相談したりすることが考えられます。
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分が認められています。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分です。遺言書で特定の人に多く財産を承継させる内容にすると、他の相続人の遺留分を侵害することがあります。ただし、遺言者(遺言を書く本人)の意思だけで、相続人の遺留分をなくすことはできません。
遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った人に対して遺留分侵害額請求をする可能性があります。
「長男に全財産を相続させる」「内縁の妻に大部分を遺贈する」などの内容にしたい場合は、遺留分トラブルへの備えも検討しましょう。
関連記事:遺留分侵害額請求とは?請求のやり方や期限、請求された場合の対処法も解説
遺言書は、一度作成したら変更できないものではありません。財産や家族関係が変わった場合は、新しい遺言書を作成するなどして内容を変更できます。
ただし、自筆証書遺言の訂正方法には法律上のルールがあります。単に二重線で消したり、余白に書き足したりするだけでは、訂正部分の効力が争われることがあります。
大きく内容を変えたい場合は、古い遺言書を訂正するよりも、新しい遺言書を作成し直す方がわかりやすいことがあります。
遺言書を作成すると、自分の意思に沿って財産の分け方を指定でき、相続トラブルの予防にもつながります。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。自分で作りやすいのは自筆証書遺言ですが、方式不備や紛失、検認などに注意が必要です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを下げられ、相続開始後の検認も不要になります。
一方で、法務局で保管しても、遺言書の内容そのものの有効性まで保証されるわけではありません。遺留分、認知症、財産の特定、相続人以外への遺贈などに不安がある場合は、弁護士などの専門家へ相談しながら作成しましょう。
