

相続人調査とは、被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本などを収集し、法律上の相続人を確定するための手続きです。遺産分割や相続登記などの相続手続きを進めるためには、まず誰が相続人であるかを明確にしなければなりません。
はじめに、この記事の結論をまとめます。
一見すると家族構成は把握できているように思えるかもしれません。しかし、被相続人に離婚歴があり前妻との間に子どもがいたケースや、養子縁組をしていたケース、認知した子どもがいたケースなどでは、想定していなかった人が相続人となることがあります。
また、相続人は家族の認識だけで判断できるものではありません。金融機関での預貯金の解約や不動産の相続登記などの手続きでは、戸籍謄本によって相続人であることを証明する必要があります。そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、法律上の相続人を確認しなければなりません。
民法では、配偶者に加え、子ども、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹の順に相続人となることが定められています(民法887条〜890条)。相続人調査は、こうした法律上の相続関係を客観的に確認し、適切な相続手続きを進めるための重要な作業です。
相続人調査を行わないまま相続手続きを進めると、後から大きなトラブルに発展するおそれがあります。
遺産分割協議は、原則として相続人全員が参加して行わなければなりません。たとえば、戸籍を確認していなかったために前妻との間の子どもや認知した子どもの存在が後から判明した場合、その人を除外して行った遺産分割協議は無効となる可能性があります。
遺産分割協議が無効になれば、相続人全員で改めて協議をやり直さなければなりません。すでに相続財産を分配していた場合には、再度調整が必要となり、相続人同士のトラブルに発展することもあります。
不動産の相続登記や金融機関での預貯金の解約手続きでは、相続人を証明するための戸籍謄本類の提出が必要となります。家族の認識だけでは相続人であることを証明できず、手続きを進めることはできません。
亡くなった人の口座が凍結されたときの解除の流れや、手続き中の当面のお金の作り方は、次の記事でくわしく確認できます。
相続人調査が長引いたときに特に注意が必要なのが、相続放棄や限定承認(相続した財産の範囲内でだけ借金を返す方法)の期限です。これらの手続きは、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません。
相続人が確定していない状態では、誰が相続放棄を行うべきか、誰が相続手続きを進めるべきかを判断しにくくなります。その結果、必要な調査や検討が間に合わず、期限を過ぎてしまうケースもあります。
期限を過ぎると、原則として単純承認したものとみなされ、被相続人の借金なども含めて相続することになります。また、相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続開始後は、できるだけ早く相続人調査に着手しましょう。
相続放棄や相続税申告など、ほかの手続きの期限と全体の流れは、次の記事で一覧にしています。

相続人調査は自分で行うこともできますが、戸籍収集に時間がかかるケースや、相続人同士のトラブルが予想されるケースでは専門家への依頼を検討するとよいでしょう。相続人調査を依頼できる主な専門家には、弁護士、司法書士、行政書士があります。
戸籍を集めて相続人を確定する作業そのものは、どの専門家に頼んでもできます。違いは、調べ終わったあとに何を任せられるかです。
頼み先 | 任せられること | 向いている人 |
|---|---|---|
自分で調べる | 戸籍の請求・読み取り・相続関係説明図の作成 | 配偶者と子だけが相続人で、転籍が少ない人 |
行政書士 | 戸籍の収集、遺産分割協議書などの書類作成 | 相続人の間に争いがなく、書類づくりを任せたい人 |
司法書士 | 戸籍の収集、相続登記、法定相続情報一覧図の申出 | 不動産の名義変更まで任せたい人 |
弁護士 | 戸籍の収集に加え、相続人との交渉や調停・審判の代理 | 連絡がとれない・もめそうな相続人がいる人 |
相続税の申告が必要な場合は、税理士に依頼すると調査と申告をあわせて任せられます。
司法書士と行政書士は、書類作成やコンサルティングはできますが、相続人間の交渉や債権者との交渉を代理することができません。つまり、調査は完了しても、その後にもめた場合や借金発覚時には、交渉や調停の代理が必要になった時点で弁護士に依頼し直すことになります(ただし、認定司法書士は140万円以下の事件に限り簡易裁判所での訴訟代理が可能)。
相続人調査に限らず、相続全体の相談先の選び方は、次の記事で士業ごとに比べています。
自分で調べる場合、かかるのは主に戸籍の手数料です。戸籍謄本は1通450円、除籍謄本と改製原戸籍(かいせいげんこせき)謄本は1通750円で、本籍地以外の窓口で取る広域交付でも同じ金額です。
通数は結婚・転籍の回数や相続人の人数で変わり、郵送なら定額小為替と切手代もかかります。
【データで見る】弁護士に相続人調査だけを頼む費用は「5万5,000円」が最多
相続弁護士ドットコム掲載事務所の料金表681件のうち、相続人調査を単体で頼むときの料金を示していたのは26件でした。最も多いのは5万5,000円で14件(約54%)、次いで11万円が9件で、中央値は5万5,000円でした。
戸籍の手数料などの実費は別にかかり、相続人の人数や戸籍の通数に応じて加算する事務所もあります(各事務所が記載した最低額を集計。2026年9月時点・当社調べ、n=26)。
調査だけでなく、遺産分割の交渉まで弁護士に頼む場合の費用は、次の記事で相場を確認できます。
戸籍の取得以外も含めた相続手続き全体の費用と、安く抑える方法は、次の記事で確認できます。
次のどれかに当てはまるときは、自分で進めると相続人の見落としや手続きの停滞が起きやすくなります。
兄弟姉妹の戸籍も相続手続きのためなら理由を示して請求できますが、窓口で断られることもあります。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「両親の相続で兄弟の戸籍が必要と言われたが、役所で取れないと断られ、兄弟とも音信不通で困っている」という相談が寄せられています。
次に実際の相続人調査のやり方と手順を解説します。
この作業は、想像以上に手間がかかります。特に亡くなった人が何度も転籍している場合、連続性を保ったまま複数の役所から戸籍を取得する必要があります。
戸籍謄本を取得するプロセスは以下の通りです。まず、亡くなった人の最後の本籍地、もしくは最寄りの役所で取得します。窓口で「出生から死亡までの全ての戸籍謄本を取得したい」と伝えてください。
本籍地が複数ある場合、各地の役所に1通ずつ請求する必要があります。郵送での請求も可能ですが、返送に時間がかかるため、足を運べるなら窓口での取得が確実です。手数料は1通450円または750円で、費用の全体は前述のとおりです。
出生から死亡まで途切れずに集めるコツや、請求書の書き方は、次の記事でくわしく解説しています。
従来は、本籍地がある市区町村ごとに戸籍謄本を請求する必要がありました。しかし、2024年3月から始まった「戸籍広域交付制度」により、本籍地以外の市区町村でも戸籍謄本を取得できるようになりました。
たとえば、被相続人が転籍を繰り返していた場合でも、最寄りの市区町村窓口で出生から死亡までの戸籍謄本をまとめて取得できるケースがあります。複数の役所へ請求する手間を減らせるため、相続人調査の負担を大きく軽減できる制度です。
【戸籍広域交付制度の概要】
亡くなった兄弟姉妹の相続人になる場合、兄弟姉妹本人の戸籍はこの制度では取れないため、本籍地の役所へ窓口か郵送で請求します。父母の戸籍は、自身の直系尊属の戸籍として広域交付で請求できます。
広域交付で取れる戸籍・取れない戸籍の見分け方や、請求の注意点は、次の記事でくわしく解説しています。
【既存図を流用】image1.png(法定相続人の相続順位)/現記事と同じくこのH3の冒頭に置く
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集したら、次に相続人全員の戸籍謄本を取得します。これによって客観的に誰が血縁関係にあり、相続人が誰であるかが確定できます。法定相続人は、以下のように定められています。
それぞれの順位の相続人がどれだけ相続するか(法定相続分)は、次の記事で確認できます。
相続手続きでは、被相続人との親族関係だけでなく、相続人本人が現在も存命であることや氏名・本籍地などを確認する必要があります。そのため、不動産の相続登記や預貯金の解約手続きでは、被相続人の戸籍謄本に加えて、相続人全員の戸籍謄本の提出を求められることが一般的です。
また、相続人の中に亡くなっている人がいる場合は、代襲相続が発生している可能性があります。その際は、代襲相続人の戸籍謄本についても取得しなければなりません。
離婚や再婚で家族の戸籍が分かれていると、ここでつまずきがちです。「みんなの法律相談」にも、「前の夫の戸籍にいる子どもや、夫の前妻との子の戸籍をどう取ればよいかわからない」という相談が寄せられています。

戸籍は、結婚や転籍、法改正による作り直しのたびに新しく作られます。古い戸籍に書かれていた子どもが、新しい戸籍には載っていないことがあるため、1通だけ見て判断しないことが大切です。
古い戸籍の種類ごとの見分け方や、コンビニで取れるかどうかは、次の記事で確認できます。
戸籍謄本を取得する過程で、思わぬ相続人が見つかることがあります。前妻との間の子どもや、認知されていない子どもなど、面識のない相続人が発覚するケースは決して珍しくありません。
このような場合、当事者だけで連絡をとるとトラブルになりやすいため、弁護士を通じて丁寧に対応することが重要です。
代襲相続とは、相続人になるはずだった子や兄弟姉妹が先に亡くなっているときに、その子(孫や甥・姪)が代わりに相続人になるしくみです。この場合は、先に亡くなった人の出生から死亡までの戸籍も集めて、その子どもを確定します。
数次相続(すうじそうぞく)とは、遺産分割が終わる前に相続人の1人が亡くなり、その人の相続人が話し合いに加わる状態です。亡くなった相続人についても、出生から死亡までの戸籍が必要になります。
集めた戸籍に亡くなった相続人が出てきたら、その人の相続人までたどると覚えておきましょう。
数次相続が生じたときの遺産分割の進め方や、放置するとどうなるかは、次の記事で解説しています。
相続関係説明図とは、被相続人と相続人の関係を家系図のように整理した書類です。法律上の相続関係を一目で確認できるため、遺産分割協議や相続登記などの場面で活用できます。
自身で作るときの記載例や、添付する書類は次の記事で確認できます。
相続手続きを進める際には、「法定相続情報一覧図」という制度もあります。両者の違いは以下のとおりです。
項目 | 相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 |
|---|---|---|
誰が作る? | 相続人自身 | 相続人が作り、法務局(登記官)が認証 |
公的な証明になる? | ならない | なる |
何に使う? | 相続関係の整理 | 金融機関、証券会社、法務局への提出 |
どうやって手に入れる? | 相続人自身で作成 | 法務局で申出 |
法定相続情報一覧図とは、戸籍謄本などをもとに相続人が作成し、法務局が認証して発行する公的な証明書です。
通常、金融機関や証券会社、不動産の相続登記などの手続きでは、その都度戸籍謄本一式の提出を求められます。しかし、法定相続情報一覧図を取得しておけば、戸籍謄本の代わりに利用できるケースが多く、複数の相続手続きを効率的に進められます。
一覧図の写しは無料で交付されます。申出の流れや必要書類は、次の記事でくわしく解説しています。
連絡先がわからなくても、その相続人を除いて遺産分割をすることはできません。次の順で進めます。
戸籍の附票(ふひょう)とは、その戸籍に入っている間の住所の移り変わりが記録された書類です。相続人の今の本籍地がわかれば、その本籍地の役所で附票を取り、現在の住所を調べられます。
附票は本人や直系の親族のほか、相続手続きに必要な人も理由を示せば請求できます。広域交付の対象外なので、本籍地の役所に請求します。
住所がわかったら、まずは手紙で連絡します。面識のない相続人には、自身が誰か、誰が亡くなったか、なぜ連絡したかを落ち着いた文面で伝え、返事の期限と連絡方法を書き添えましょう。
返事がないまま時間が過ぎるなら、弁護士を通じて連絡する方法や、家庭裁判所の遺産分割調停を検討します。
「みんなの法律相談」には、「戸籍をたどって亡き叔母の甥・姪の住所までわかったが、手紙を送っても連絡をくれない」という相談も寄せられています。
父親や母親が違う兄弟姉妹が相続人になったときの連絡の取り方は、次の記事で具体的に解説しています。
附票の住所に住んでいないなど、どうしても所在がわからない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。選ばれた管理人が家庭裁判所の許可を得て、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に加わります。
生死不明の状態が7年間続いているときは、失踪宣告を申し立てる方法もあります。ただし、住所がわからないだけで生きていることがわかっている場合は、失踪宣告の対象にはなりません。
附票の住所に住んでいなかったケースとして、「みんなの法律相談」には「叔父の相続で、叔父に父親違いの弟がいるとわかったが、附票の住所には住んでおらず見つからない」という相談があります。
失踪宣告の要件や、行方不明の相続人がいる相続の進め方は、次の記事でくわしく解説しています。
相続人が全て確定し、財産と借金も把握できたら、いよいよ遺産分割協議へ進みます。相続関係説明図と財産目録を作成して、全体像をまとめることが重要です。
財産と借金の調べ方や、財産調査を誰に頼むかは、次の記事で解説しています。
弁護士に一括依頼する最大のメリットは、「たらい回しを避けられる」ことです。相続人調査から協議、相続放棄手続きまで、全て同じ弁護士が対応します。
弁護士は、複数の相続人間の交渉を代理できます。借金が発覚した場合も、債権者との交渉まで続けて任せられます。
相続人調査だけを頼む費用は前述のとおりで、遺産分割の交渉まで頼む場合は別に着手金や報酬金がかかります。「調査の完全性」「後々のトラブル予防」「時間の節約」という観点から考えると、決して高い投資ではありません。
平日に役所や銀行を回る時間がない、借金がないか不安、いろいろな専門家がいて誰に頼むべきかわからない——。そのような方は、調査からトラブル解決まで、相続人との交渉や調停の代理までできる弁護士にご相談ください。
【データで見る】相続人調査の相談で最も多いのは「専門家への依頼・費用」
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」に寄せられた相続の相談30,302件のうち、相続人の調査や確定、戸籍の収集に触れた相談は230件でした。
内訳は、専門家への依頼や費用に触れた相談が69件で最も多く、次いで相続人の連絡先・所在がわからない相談と、戸籍の集め方や読み方の相談がそれぞれ43件でした。
前の配偶者との子など面識のない相続人がいる相談は21件、相続関係説明図・法定相続情報一覧図に関する相談は14件でした(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=230)。
本籍地の数と、窓口で取るか郵送で取るかによって大きく変わります。広域交付を使える人が窓口でまとめて請求できれば、短期間で集まることもあります。
本籍地が遠方に複数あり郵送で請求する場合は、前の戸籍を見てから次を請求するため、往復の郵送期間が重なって長引きます。
本籍地の記載がある住民票の除票を、亡くなった人の最後の住所地の役所で取ると確認できます。除票が残っていなければ、自身の戸籍など手元の戸籍からたどります。
亡くなった人に不動産があり、固定資産税の書類を受け取る相続人を確認するためであることが多いです。市区町村は戸籍で相続人を調べ、「相続人代表者指定届」の提出や、現に不動産を所有している人としての申告を求めることがあります。
届け出たからといって相続放棄ができなくなるわけではありませんが、放棄を考えている場合は提出前に確認しておくと安心です。
相続人代表者指定届の書き方や提出方法は、次の記事で記入例つきで解説しています。
相続人調査は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍と相続人全員の戸籍を集めて、相続人を確定する作業です。配偶者と子だけが相続人なら自分でも進めやすく、費用は戸籍の手数料が中心です。
兄弟姉妹が相続人になる、前の配偶者との子や連絡がとれない相続人がいるといった場合は、専門家に頼んだほうが確実です。
面識のない相続人への連絡や所在がわからない相続人への対応は、進め方を誤ると遺産分割が長く止まります。相続放棄の期限が迫っているときも急ぎましょう。
まずは弁護士への初回相談で、自身のケースで誰が相続人になるのか、行方のわからない相続人にどう連絡し、遺産分割をどう進めるかを確認しておきましょう。

弁護士登録番号41073。相続・遺産のほか、マンション管理や医療問題、刑事問題まで幅広く対応。一橋大学商学部商学科(国際金融専攻)卒業後、生命保険会社勤務を経て首都大学東京法科大学院に入学。その後、馬場亨二法律事務所を設立。文部科学省研究開発室主任専門官、日本プロ野球選手会 公認選手代理人、世田谷区支援事業委託事業審査委員、東京簡易裁判所民事調停委員、総務省参与などの実績を持つ。趣味は釣り、剣道、ゴルフ。