

失踪宣告とは、長い間生死がわからない人について、家庭裁判所が「法律上、亡くなったものとみなす」手続きです。
行方不明のままでは、その人が関わる相続や結婚などの法律関係がいつまでも宙に浮いてしまいます。
そこで、一定の要件を満たす場合に、家庭裁判所への申立てによって「死亡した」とみなし、次の手続きへ進めるようにするのが失踪宣告です。
対象になるのは、従来の住所や居所を離れ、簡単には戻ってくる見込みのない人です。
単に少し連絡が取れないだけでは足りず、長期間にわたって生死そのものがわからない状態が必要です。
失踪宣告が確定すると、その人は法律上亡くなったものとして扱われます。
そのため、失踪した人に財産があれば相続が開始し、相続人が遺産を引き継ぎます。
失踪した人に配偶者がいた場合は婚姻関係も解消され、残された配偶者は再婚もできるようになります。
生命保険金の受け取りや、遺族年金などの手続きも、亡くなった場合と同じように進められます。
「行方不明で何も動かせない」状態から、相続や身分関係の整理へ進めるのが、失踪宣告の大きな効果です。
注意したいのは、「死亡したとみなされる時期」は、失踪宣告が確定した日ではないという点です。
後で説明する普通失踪の場合、行方不明になって生死不明の状態が7年間続き、その7年が満了した時点で亡くなったものとみなされます。
たとえば10年前から行方不明であれば、死亡とみなされるのは「7年が過ぎた3年前の時点」です。
この「みなし死亡の時期」は、誰が相続人になるかや相続分にも影響します。
その時点を基準に相続関係を考えるため、実際の申立てより過去にさかのぼって相続が生じる点を押さえておきましょう。
たとえば、みなし死亡の時期より後に生まれた人は、原則として相続人になりません。ただし、その時点ですでに母親のお腹にいた(胎児だった)場合は、無事に生まれれば相続人として扱われます(民法886条)。
反対に、その時期にはまだ存命だった人が今は亡くなっていれば、その人の相続人(次の世代)が関わってくることもあります。
失踪宣告には、普通失踪と特別失踪(危難失踪)の2種類があります。
どちらに当たるかで、必要な期間と「死亡とみなされる時期」が変わります。
家出や音信不通など、はっきりした原因がないまま長期間連絡が取れないケースが典型です。
こうした場合に、行方不明の人の生死が7年間わからない状態が続くと、普通失踪として失踪宣告を求められます。
7年を数える起算点は、その人の生存が最後に確認された時です。
死亡とみなされる時期は、生死不明になってから7年の期間が満了した時です。

戦争・船舶の沈没・震災など、死亡の原因となる危難に遭った人が対象です。
特別失踪では、その危難が去った後、生死が1年間わからないときに失踪宣告が認められます。
普通失踪より短い期間で認められるのが特徴です。
死亡とみなされる時期も普通失踪とは異なり、危難が去った時とされます。
失踪宣告がとくに役立つのは、相続人の一人が行方不明で、遺産分割が進められないケースです。
遺産の分け方を決める話し合いを、遺産分割協議といいます。
この協議は、相続人全員が参加して合意しなければ成立しません。
一人でも欠けたまま進めた遺産分割協議は無効になり、預貯金の解約や不動産の名義変更もできないまま止まってしまいます。
「連絡が取れないから、その人を抜きに決めてしまおう」ということはできません。
だからこそ、行方不明の相続人がいると相続全体が動かなくなるのです。
失踪宣告や不在者財産管理人に進む前に、まずは行方不明の相続人の居場所を探す努力をします。
手がかりになるのが戸籍の附票です。
戸籍の附票とは、その戸籍に入っている人の住民票上の住所の移り変わりを記録した書類で、相続人であれば取り寄せられます。
附票をたどれば現在の住所がわかり、連絡がついて協議に加われることもあります。
附票を追っても住所が不明だったり、住所はわかっても生死そのものが確認できなかったりする場合に、失踪宣告や不在者財産管理人を検討する流れになります。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「長年連絡が取れない親族の生死を確認して、相続の権利があるのかを知りたい」という相談が寄せられています。
行方不明の相続人について失踪宣告が確定すると、その人は亡くなったものとして扱われます。
ただし、誰が協議に加わるかは、みなし死亡の時期が被相続人の亡くなった時より前か後かで変わります。
前のとき:失踪した人は最初から相続人ではなかったことになります。その人に子がいれば子が代わりに相続人になり(代襲相続)、いなければ残りの相続人だけで協議します。
後のとき:失踪した人はいったん相続人になっています。そのため、失踪した人の配偶者や子がその立場を引き継いで協議に加わります(数次相続)。この場合、残りの相続人だけで進めることはできません。
どちらに当たるかで顔ぶれが変わるので、誰が協議に加わるのかを確認してから進めましょう。
分け方が決まったら遺産分割協議書を作り、預貯金の解約や不動産の名義変更へと進みます。
行方不明の人がいて止まっていた手続きを、順に動かしていけます。
遺産分割の全体の流れや、もめないための進め方は、次の記事でくわしく解説しています。
行方不明の人が「遺産を残す側(被相続人)」であるケースもあります。
たとえば、長年音信不通だった親が生死不明のまま何年も経っている場合です。
この場合も失踪宣告によって親が亡くなったものとみなされ、死亡とみなされた時点で相続人への相続が始まります。
不動産があれば相続登記(名義変更)が必要になります。
相続登記の進め方や必要書類は、次の記事も参考になります。

行方不明の相続人がいるとき、失踪宣告のほかに不在者財産管理人という制度も使えます。
「みんなの法律相談」にも、「相続人の一人が行方不明で遺産分割ができず、不在者財産管理人と失踪宣告のどちらを選ぶべきか迷っている」という相談が寄せられています。
また、似た言葉に認定死亡もあります。どれを使うべきか、違いを整理しておきましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明の人に代わってその人の財産を管理する人のことです。
家庭裁判所が選任し、必要な場合には裁判所の許可を得て、行方不明の人の代わりに遺産分割協議に参加できます。
失踪宣告と大きく違うのは、不在者財産管理人は行方不明の人が「生きている」ことを前提にする点です。
死亡とはみなさないので、失踪宣告のように相続が始まるわけではありません。
不在者財産管理人には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが多くなっています。遺産分割のために選任する場合、他の相続人は行方不明の人と利害が対立するため選ばれず、親族が選ばれるとしても相続人ではない親族に限られます。
不在者財産管理人の選任の申立てにあたっては、家庭裁判所から予納金(管理にかかる費用の前払い)を求められる場合があります。
比べるポイント | 失踪宣告 | 不在者財産管理人 |
どんなときに使う? | 生死が長年わからない | 生きている可能性があり所在だけ不明 |
本人の扱い | 死亡したとみなす | 生存前提で財産を管理 |
相続は始まる? | 始まる | 始まらない(管理人が代理して協議) |
期間の目安 | 半年〜1年程度 | 比較的早く選任される |
使い分けの目安は、行方不明になってからの期間と、生存の可能性です。
生死不明のまま7年以上経っているなら失踪宣告、まだ7年たっていない・生きている可能性が高いなら不在者財産管理人が向いています。
また、相続税の申告には「相続を知った日の翌日から10か月」という期限があり、失踪宣告は確定まで半年〜1年ほどかかります。
行方不明の方が相続人である場合で、期限に間に合わないおそれがあるときは、先に不在者財産管理人を選任して遺産分割を進めるという判断もあります。
もっとも、管理人が協議に加わるには家庭裁判所の許可が必要で、行方不明の人の法定相続分を確保するのが原則です。管理人は行方不明の人の利益を守る立場のため、10か月以内に協議がまとまるとは限りません。
間に合わないときは、いったん法定相続分で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、後で分割できた時点で税額を精算できます。
認定死亡とは、水難や火災などで死亡がほぼ確実なのに遺体が確認できない場合に、取り調べをした官公署(警察など)の報告に基づいて戸籍に死亡を記載するしくみです。
たとえば、水難事故や航空機事故などで亡くなった可能性が極めて高いのに、遺体が確認できないといった場面が想定されます。
家庭裁判所への申立ては不要で、失踪宣告のように7年や1年を待つ必要はありません。
一方、認定死亡が使えるのは、事故や災害の状況から死亡したことがほぼ確実といえる場合に限られます。事故などのきっかけがなく、単に行方がわからない状態が続いているだけでは認定死亡はできず、この場合は失踪宣告によることになります。なお、遺体が見つからない海難事故などでは、発生から数か月経ってから死亡が認定されることもあります。
そのため、長年行方不明の相続人の相続を進めたい場面では、多くが失踪宣告の対象になります。
ここからは、実際に失踪宣告を申し立てる手順を見ていきます。
申立てができるのは、利害関係人です。
具体的には、行方不明の人の配偶者・相続人にあたる人・財産管理人・受遺者など、失踪宣告を求めることに法律上の利害がある人をいいます。
申立先は、行方不明の人が最後に住んでいた住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
現在どこにいるかわからなくても、以前住んでいた場所を基準に申し立てます。
申立てに必要な主な書類は、次のとおりです。
「失踪を証する資料」は、生死不明の状況がわかる資料です。
警察への行方不明者届の受理証明や、返送された手紙、関係者の陳述書などが用いられます。
費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なる)、それに官報公告料5,298円がかかります。
官報公告料は、失踪に関する届出の催告分3,359円と失踪宣告分1,939円の合計で、裁判所の指示があってから納めます。
失踪宣告は、次のような流れで進みます。
審判が確定すると、戸籍に死亡が記載されます。
その後に、相続や保険金などの手続きへと進みます。
失踪宣告は、申立てから確定まで半年〜1年程度かかるのが一般的です。
家庭裁判所の調査に加え、生死を確認するための公告に一定期間を置く必要があるためです。
すぐに結果が出る手続きではないので、相続税の申告期限などが迫っている場合は、早めに動くか、不在者財産管理人の利用もあわせて検討しましょう。
「いったん失踪宣告をした後で、失踪者本人が見つかったらどうなるのか」は、多くの人が不安に思うところです。
失踪宣告は、あとから取り消せる場合があります。
具体的には、本人が生きていたことがわかったときや、みなされた時期とは違う時に死亡していたことがわかったときです。
本人や利害関係人が家庭裁判所に申し立て、取消しの審判を受けます。
失踪宣告が取り消されると、「亡くなった」という前提が消えます。
そのため、失踪宣告をもとに開始した相続(本人が被相続人となる相続)は、開始していなかったこととなります。
すでに(本人が相続人となる相続の)遺産分割を終えていた場合は、本人を含めて分け直すのが基本です。他の相続人全員が、本人の生存を知らなかった場合は、遺産分割をやり直す必要はありません。
相続や保険金として財産を受け取っていた人は、失踪宣告が取り消されると、その財産を返す必要があります。
もっとも、返す範囲は現に利益を受けている限度(現存利益)にとどまります。
手元に残っている分や、生活費に充てて出費をまぬがれた分などが対象です。
失踪宣告に基づいて財産を相続した者がこの財産を第三者に売却するなどした場合の第三者については、売却等の当事者双方全員が「本人はもう亡くなった」と信じて(善意で)行った行為は、そのまま有効として扱われます。
関係者を保護し、取引の安全を守るための例外です。
申立て自体は、利害関係人が自分で行うこともできます。
ただし、戸籍謄本や戸籍附票の収集、失踪を証する資料の準備、その後の遺産分割や相続登記までを一人で進めるのは負担が大きいものです。
弁護士に依頼すれば、失踪宣告の申立てだけでなく、その後の遺産分割協議までまとめて任せられます。
行方不明の相続人がいて相続全体が止まっている場合は、入口から出口まで一貫して相談できる点が安心につながります。
失踪宣告によって死亡したものとみなされるため、生命保険金や遺族年金なども、亡くなった場合と同じように請求できるのが原則です。
ただし、保険金や年金は制度ごとに要件や必要書類が細かく定められています。
たとえば遺族年金は、亡くなった人に生計を維持されていたかなど、受け取る人ごとの条件があります。
実際の請求の可否や手続きは、保険会社や年金事務所など、それぞれの窓口に確認しましょう。
行方不明の相続人がいるからと相続を放置すると、遺産分割が進まないまま時間だけが過ぎていきます。
その間に別の相続人が亡くなると相続関係がさらに複雑になり、預貯金は凍結されたまま、不動産の名義も故人のままになります。
相続登記にも期限があるため、行方不明の人がいて手続きが止まっているなら、失踪宣告や不在者財産管理人の利用を早めに検討することが大切です。
失踪宣告は、生死のわからない人を法律上「亡くなった」とみなし、止まっていた相続や身分関係を前に進める制度です。
普通失踪は生死不明から7年、特別失踪は危難が去って1年が要件で、死亡とみなされる時期がさかのぼる点に注意が必要です。
相続を進めたいときは、生存の可能性や7年の経過、相続税の申告期限を踏まえ、失踪宣告と不在者財産管理人を使い分けましょう。
本人が生存していて失踪宣告を取り消す場合でも、財産の返還の範囲は原則現存利益にとどまります。
行方不明の相続人がいて遺産分割が止まっている、どちらの制度を使うべきか判断がつかない、相続税の申告期限が迫っている——そんなときは、手続きを誤ると時間も費用も余計にかかります。
まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースでは失踪宣告と不在者財産管理人のどちらが適切か、遺産分割や相続登記までどう進めるかを確認しておきましょう。

相続での揉め事は、大事な人が亡くなった直後なので、通常の揉めごと以上の精神的な衝撃があります。お一人で悩まれず専門家に相談してください。一人で悩まれるより良い方法がきっと見つかるはずです。