


不動産の相続は、やることが多く見えますが、大きく4つのステップに整理できます。まずは全体像をつかみ、自身が今どこにいるのかを確認しましょう。
最初に、亡くなった方(被相続人)の遺言書があるかを確認します。遺言書があれば、その内容が原則として優先され、不動産を誰が受け継ぐかもそこで決まります。
あわせて、被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどって、相続人が誰かを確定させます。前妻との子や認知した子など、思わぬ相続人が見つかることもあり、ここがあいまいだと後の話し合いも登記も進みません。
遺言書がない、または不動産の分け方が書かれていない場合は、相続人全員で話し合い、誰がどの財産を受け継ぐかを決めます。これを遺産分割協議といい、合意した内容は遺産分割協議書にまとめます。
協議書には相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添える必要があります。一人でも欠けると、後の相続登記や預金の解約が進みません。相続人全員の合意が、その後の手続きすべての土台になります。
不動産を引き継ぐ人が決まったら、法務局で相続登記(名義変更)をします。遺産分割協議書や戸籍などをそろえて申請する手続きで、2024年から義務になりました。くわしい手順はこの記事の後半で説明します。
遺産全体が一定額を超える場合は、相続税の申告・納付が必要です。相続税には相続の開始を知った日の翌日から10か月という期限があり、期限を過ぎると加算税や延滞税がかかることがあります。
また、被相続人に事業や不動産の家賃収入などがあった場合は、亡くなった年の所得を申告する準確定申告(4か月以内)が必要になることもあります。
相続放棄(3か月)や相続税(10か月)など、期限のある手続きは先に押さえておくと安心です。全体の期限は次の記事で確認できます。
相続人が複数いるとき、分けにくい不動産をどう分けるかが最初の悩みどころです。分け方は大きく4つあり、それぞれ向き・不向きがあります。
分け方 | 内容 | 向いているケース・注意 |
現物分割 | 不動産はそのまま一人が受け継ぐ | 住み続けたい人がいるとき |
代償分割 | 一人が受け継ぎ、他の相続人にお金を払う | 払う人に資金が必要 |
換価分割 | 売却してお金で分ける | 誰も使わない不動産に向く |
共有分割 | 複数人の共有名義にする | 後のトラブルの元になりやすい |
現物分割は、実家に住み続ける人がいる場合などにシンプルです。ただし不動産以外にめぼしい財産が少ないと、受け継いだ人だけが多くを得ることになり、他の相続人との公平さが問題になります。
そこで使うのが代償分割です。不動産を受け継ぐ人が、他の相続人にその分のお金(代償金)を払って調整します。公平さを保ちやすい一方、払う側にまとまった資金が必要な点に注意しましょう。
たとえば3,000万円の実家を長男が受け継ぐなら、弟に1,500万円を払って調整する、というイメージです。
誰も使わないなら換価分割——売ってお金で分ける方法が公平で分かりやすいです。ただし売却で利益が出ると譲渡所得税がかかることがあるため、手取りで分ける前提で考えておきましょう。
相続人全員の共有名義にすると、その場は平等に見えます。しかし後で売る・貸す・建て替えるときに共有者全員の同意と実印が必要になり、一人でも反対すると何も進められません。
時間がたつと共有者の一人が亡くなって相続人が増え、話し合いはさらに複雑になります。特別な理由がなければ、共有分割は避けるのが安全です。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「亡くなった父名義の実家を、同居していた長男が占有し、他のきょうだいと分け方をめぐって揉めている」という相談が寄せられています。名義や分け方をあいまいにしたままだと、こうした争いに発展しやすくなります。
不動産を引き継ぐ人が決まったら、法務局で名義を変える相続登記をします。ここでは要点だけ押さえ、くわしい手順は専用の記事にゆずります。
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象になります。過去に相続した未登記の不動産も対象です。
名義が亡くなった人のままだと、その不動産を売ることも、担保に入れて融資を受けることもできません。放置している間に相続人の一人が亡くなると、その子や配偶者へと権利が広がり、会ったこともない親族と話し合わなければならなくなることもあります。早めに済ませておくほど、手続きはシンプルです。
相続登記の具体的な手順・必要書類・自分でできるか(司法書士に頼むか)は、次の記事でくわしく解説しています。
不動産相続の費用は、手続きの実費と、専門家に頼む場合の報酬に分かれます。ここではおおよその目安をつかんでおきましょう。
名義変更(相続登記)のときに必ずかかるのが登録免許税です。税額は不動産の課税標準額(固定資産税評価額)×0.4%で計算します。このほか、戸籍や住民票などの取得費が数千円程度かかります。
手続きを司法書士に頼む場合は、報酬としておおむね数万円〜10万円前後が目安です(不動産の数や地域で変わります)。費用の内訳や相場の詳細は、上で紹介した名義変更の記事にまとめています。
これらの費用は、原則としてその不動産を相続する人が負担しますが、相続人で話し合って遺産(相続財産)から支払うこともできます。誰がどこまで負担するかは、分け方を決めるときにあわせて相談しておくとスムーズです。
なお、遺産全体が大きい場合は、これとは別に相続税がかかることがあります。次の章で見ていきましょう。
不動産も相続税の対象です。ただし、遺産全体が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えなければ、相続税はかかりません。まずは全体の額で判断します。
土地は路線価方式(道路ごとに定めた価格から計算)または倍率方式で、建物は固定資産税評価額で評価するのが原則です。実際の売買価格そのものではなく、路線価は売買価格のおおむね8割程度が目安とされます。
同じ不動産でも、相続税の評価額と、売るときの価格は別物です。相続税がかかるかを見積もるにはまず評価額を知る必要があるため、土地の評価額の調べ方は次の記事がくわしいです。
被相続人が住んでいた自宅の土地は、小規模宅地等の特例を使えると、330平方メートルまで評価額が最大80%減額されます。自宅の土地の評価が大きく下がるため、相続税がかかるかどうかを左右する重要な特例です。
ただし「配偶者が取得する」「同居していた親族が住み続ける」、別居でも持ち家のない親族が取得する(いわゆる家なき子)など要件が細かく定められており、使えるかどうかは状況によります。適用の可否は税理士に確認するのが確実です。
配偶者が相続する場合は、1億6,000万円、または法定相続分のどちらか多い額まで相続税がかからない軽減があります。適用には申告が必要です。特例や軽減で税額は大きく変わるため、実際にかかるかどうかは税理士に確認すると安心です。
なお、相続税は原則として現金で一括納付します。不動産が多く現金が足りないときは、分割して納める延納や、一定の要件のもとで不動産などで納める物納が認められる場合もあります。納税資金をどう用意するかも、早めに考えておきましょう。

名義変更まで終えたら、その不動産を今後どうするかを考えます。選択肢は大きく、住む・貸す・売る・手放すの4つです。
ご自身や家族が使うなら住む、使わないが手放したくないなら貸して家賃を得る、活用の予定がないなら売る、が基本の考え方です。
貸す場合は家賃収入が見込める一方、入居者の募集や修繕、管理の手間がかかります。家賃収入には所得税がかかり、確定申告も必要になる点も知っておきましょう。
空き家のまま放置すると、固定資産税や管理の負担だけが残り、老朽化が進むと近隣トラブルや、行政から管理を求められる原因にもなります。使う予定がないなら、早めに売却や活用の方針を決めるのが得策です。
売却は、先に相続登記を済ませてから、不動産会社に査定を依頼し、媒介契約を結んで買主を探し、売買契約・引き渡しへと進みます。亡くなった人の名義のままでは売れないため、登記が売却の前提になります。
売却で利益(譲渡所得)が出ると譲渡所得税がかかります。相続で受け継いだ不動産は、被相続人が買ったときの取得日・取得費を引き継ぐため、親が長く所有していた家なら税率の低い長期譲渡になることが多いです。
さらに、相続税を納めた人が一定期間内に売ると、その相続税の一部を経費に加えられる取得費加算の特例で税負担を抑えられる場合があります。
被相続人が一人暮らしだった家を売るときは、要件を満たせば譲渡益から最大3,000万円を差し引ける「空き家の特別控除」を使える場合もあります。適用要件は細かいため、売却前に税理士へ確認しておくと安心です。
使い道がなく売れない土地は、相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえる場合があります。2023年に始まった制度で、審査を通ったうえで負担金(土地の管理費相当・原則10年分)を納める必要があります。
負担金は宅地などで原則20万円が目安ですが、土地の種類や広さで変わります。また、建物が残っている土地や、担保・境界の争いがある土地などは引き取りの対象外です。まずはご自身の土地が対象になるかを確認するところから始めましょう。
不動産を含めて遺産をいっさい引き継ぎたくないなら、相続放棄という方法もあります。ただし相続放棄をすると、預貯金などプラスの財産も含めてすべて放棄することになり、不動産だけを手放すことはできません。判断のしかたは次の記事も参考にしてください。
不動産は分けにくく、金額も大きいため、相続の中でも特にもめやすい財産です。話し合いで解決できないときの進め方を知っておきましょう。
誰が実家を継ぐか、いくらで分けるかで折り合わないと、遺産分割協議は前に進みません。感情的な対立が絡むと、当事者だけでの解決は難しくなります。
協議が成立しないままだと、相続登記も預金の解約も止まり、相続税の申告期限だけが近づいてしまいます。まとまらないと感じたら、放置せず次の手続きに切り替えるのが現実的です。
「みんなの法律相談」にも、「母の引っ越しや実家の整理をめぐって相続人の意見が食い違い、遺産分割協議書がいつまでも完成しない」という相談が寄せられています。話し合いが行き詰まったら、早めに弁護士に入ってもらうのが解決の近道です。
話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てます。調停は、調停委員会(裁判官1名・調停委員2名)が間に入り、双方の話を聞きながら合意を目指す手続きです。
申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で、申立費用自体は数千円程度と高くありませんが、成立までに半年〜1年以上かかることも珍しくありません。調停でもまとまらなければ、裁判官が結論を出す審判に進みます。進め方は次の記事がくわしいです。
「話し合いが平行線」「相手が感情的で交渉にならない」「不利な分け方を求められている」——こうしたときは、早めに弁護士に相談しましょう。相続人の代理として交渉や調停を任せられ、取り分や進め方で不利にならないようサポートを受けられます。
特に、一人が実家を占有している、遺産の内容を教えてもらえない、共有名義を解消したいといった不動産特有のもめ事は、当事者だけでは動かしにくいものです。こじれてからでは選べる手段が狭まるため、迷った段階で一度相談しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
固定資産税は、その年の1月1日時点の所有者に課されます。相続後は、実際に不動産を引き継いだ相続人が納めるのが基本です。
名義変更前でも、相続人の代表者などに納税通知が届きます。誰が負担するかを早めに決めておかないと、立て替えた人と他の相続人との間で後々もめる原因になります。
相続登記は、その不動産を管轄する法務局に申請します。遠方でも、郵送やオンラインで申請できるほか、司法書士に依頼すれば現地に行かずに進められます。売却まで考えている場合は、地元の不動産会社に査定や管理を相談すると、遠くても方針を立てやすくなります。
多くの住宅ローンには団体信用生命保険が付いており、契約者が亡くなるとローン残債が保険で完済されることが一般的です。まずは金融機関に、団信の有無と残債の扱いを確認しましょう。
団信に入っていない場合は、残ったローンも相続の対象になり、不動産を引き継ぐ相続人が返済していくことになります。プラスの財産よりローンの方が大きいようなときは、相続放棄も選択肢に入ります。
不動産の相続は、①遺言・相続人の確認→②分け方を決める→③相続登記→④相続税、の順に進めます。
分け方は現物・代償・換価・共有の4つで、共有は後のトラブルを招きやすいため慎重に。相続登記は2024年から義務化され、3年以内の申請が必要です。
使わない不動産は、売却や相続土地国庫帰属制度、相続放棄といった手放し方も選べます。
相続税がかかるかは遺産全体で判断し、自宅の土地は小規模宅地等の特例で大きく評価が下がることもあります。かかりそうなら早めに税理士へ相談しましょう。
不動産の分け方でもめている、共有名義をどうにかしたい、相手と話し合いにならない——こうしたときは、判断を誤ると取り分や関係に大きく響きます。
こじれる前に、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースに合った進め方を確認しておきましょう。

大阪弁護士会所属。元国税職員の弁護士が、法務と税務の両面から相続問題の解決をサポートします。相続税に配慮した遺言書の作成や事業承継にも対応しております。相続問題や事業承継について不安や疑問のある方は、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。