

住まない実家をどうするかは、大きく分けると「持ち続ける」か「手放す」かの2択です。まずは選択肢の全体像をつかみ、自分にどれが向くかを考えていきましょう。
選択肢 | こんな人に向く | 主な注意点 |
住む | 自分や家族が使う予定がある | 維持費・リフォーム費がかかる |
貸す・活用 | 手放さず収益化したい | 賃貸ニーズと初期費用。空室リスク |
売る | 現金化して分けたい・使わない | 譲渡所得税。空き家3,000万円控除は要件あり |
相続放棄 | 借金や管理の負担が大きい | プラスの財産も放棄。期限は3か月 |
国に返す | 売れない土地を手放したい | 建物は解体が必要。負担金がかかる |
持ち続ける場合は、自分や家族が住む・人に貸す・建物を活かして土地活用するなどの使い道があります。
立地がよく資産価値が見込めるなら、賃貸に出して家賃収入を得たり、将来自分が住んだりする選択も現実的です。
とくに、いずれ子や孫が使うといった具体的な予定があるなら、持ち続ける意味は大きくなります。
ただし、持ち続ける限り、固定資産税や管理の手間はかかり続けます。使う見込みがはっきりしないまま持ち続けると、次に説明する空き家のリスクをかかえることになります。
使う予定がないなら、手放すことも前向きな選択です。手放し方には、売る・相続放棄する・相続した土地を国に返す(相続土地国庫帰属制度)などがあります。
売れば現金が手に入り、相続人どうしで分けやすくなります。借金のほうが多いなど負担が大きいときは、相続放棄という選択もあります。
どの手放し方が使えるかは、実家の状態や借金の有無によって変わります。それぞれ後の章でくわしく説明します。
どれを選ぶかは、次の3つを目安に考えると整理しやすくなります。
相続人が複数いるときは、方針を早めにそろえておくことが大切です。決めないまま時間が過ぎると、負担だけが増えていきます。
どの選択をするにしても、まず相続の手続きを進める必要があります。大きな流れは次のとおりです。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い、誰が実家を相続するかを決めます。この話し合いを遺産分割協議といいます。
決まった内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が実印を押します。相続人が1人でも欠けた協議は無効になるため、全員の参加が必要です。
なお、厳密には、遺産分割協議書へ押す印鑑は、法律上実印でなければならないという決まりはありません。
ただし、実際に遺産分割協議書をもとに不動産の相続登記をするときや被相続人名義の預貯金口座の解約・払い戻しをするとき、相続税の申告をするときに窓口で「遺産分割協議書に相続人全員の実印が押されているか+相続人全員の印鑑証明書が添付されているか」といった点を確認されます。そのため、スムーズに相続の手続きを進めるためには、実印での押印をお勧めします。
不動産の具体的な分け方は、次の記事が参考になります。
相続する人が決まったら、実家の名義を被相続人から相続する人へ変更します。これを相続登記といいます。
相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象になります。
売るにも貸すにも、名義を相続人へ変えておくことが前提になります。義務化の詳しい内容は、次の記事で解説しています。
遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要です。
申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。実家を売るなら、あとで説明する特例が税額に関わってくる場合があります。
遺産分割がまとまらないまま期限を迎えそうなときは、いったん法定相続分で申告し、あとで分け方が決まってから修正する方法もあります。

「とりあえずそのまま」にしがちな空き家ですが、放置には大きなリスクがあります。とくに次の3点は、早めに知っておきましょう。
住宅が建っている土地は、住宅用地特例により固定資産税が大きく軽減されています(200㎡以下の部分は課税標準が6分の1)。
ところが、空き家を放置して「特定空家」に指定され、市区町村から改善の勧告を受けると、この軽減が外れます。その結果、土地の固定資産税は最大で約6倍に跳ね上がります。
2023年12月の法改正では、特定空家になる前段階の「管理不全空家」も、勧告を受けると同じく軽減が外れる対象に加わりました。窓が割れている、雑草が生い茂っているといった状態でも、対象になり得ます。
指定は突然行われるわけではなく、助言・指導、勧告、命令と段階を踏んで進みます。早い段階で片付けや修繕に対応すれば、税負担が増える前に手を打てます。
空き家は、放火や不法投棄、老朽化による外壁や瓦の落下など、近隣に迷惑をかける原因になりがちです。
特定空家で市区町村の命令に従わないと、行政代執行により建物が強制的に解体され、その費用は所有者(相続人)が負担します。命令違反には50万円以下の過料もあります。
さらに、建物が崩れて通行人や隣家に被害が出れば、所有者が損害賠償を求められることもあります。
特別なペナルティがなくても、実家を持ち続ける限り、固定資産税・火災保険料・水道光熱の基本料金などがかかり続けます。
遠方に住んでいる場合はとくに、草むしりや換気、郵便物の確認のために通う手間や交通費もばかになりません。使わない不動産の維持費は、じわじわと家計を圧迫します。
また、人が住まない家は傷みが早く、放置するほど資産価値も下がり、いざ売ろうとしたときに値がつきにくくなります。
放置を避けるには、早めに「手放す」か「活用する」かを決めるのが得策です。代表的な方法を見ていきましょう。
もっともわかりやすいのが売却です。現金化できるため、相続人どうしで公平に分けやすくなります。
売り方には、不動産会社に買い手を探してもらう「仲介」と、不動産会社に直接買い取ってもらう「買取」があります。急ぐなら買取、少しでも高く売りたいならまず仲介、と使い分けます。
売る前提であっても、いったん相続登記で名義を相続人へ変えてからでないと、売却の手続きは進められません。
売って利益(譲渡所得)が出ると譲渡所得税がかかりますが、あとで説明する特例で税負担を抑えられる場合があります。
立地がよければ、賃貸に出して家賃収入を得る方法もあります。ただし、入居前のリフォーム費用や、空室リスクも見込む必要があります。
建物が古くて借り手が見つからない場合は、解体して更地にし、駐車場や賃貸用地として活用する道もあります。家賃収入は不動産所得として、毎年の確定申告が必要になります。
活用は手元に資産を残せる一方で、手間と初期費用がかかります。管理を管理会社に委託すれば負担は減りますが、その分の手数料がかかる点も押さえておきましょう。
老朽化した実家は、解体して更地にしてから売る・活用するケースもあります。解体費用は建物の構造や広さで変わり、木造でも数十万円から百万円を超えることがあります。
注意したいのは、建物を取り壊すと住宅用地特例が外れ、土地の固定資産税が上がる点です。更地にしたまま売れずに持ち続けると、税負担が増えることになります。
解体は、売却や活用のめどが立ってから進めると、無駄な負担を避けられます。
すぐに売れない実家でも、手放す方法はあります。
相続土地国庫帰属制度は「土地」が対象で、建物が建ったままでは利用できません。解体して更地にする必要があり、承認されると10年分の管理費相当額の負担金を納めます。制度の要件は次の記事でくわしく解説しています。

実家に価値がなく、借金や管理の負担ばかりが大きいときは、相続放棄も選択肢になります。ただし、注意すべき点もあります。
相続放棄とは、プラスの財産も借金もいっさい引き継がない手続きです。実家に住宅ローンなどの借金が残っていて、財産より負債が多いようなときに向いています。
ただし、相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、放棄すると実家だけでなくすべてのプラスの財産も相続できなくなります。
「実家はいらないが預貯金は受け取りたい」という選び方はできない点に注意しましょう。
借金があるかどうかがはっきりしないときは、プラスの財産の範囲で借金を引き継ぐ「限定承認」という方法もありますが、手続きが複雑なため、専門家に相談するのが安心です。期限の数え方や延長については、次の記事がくわしいです。
「放棄すれば実家に一切関わらなくてよい」と思われがちですが、これは正確ではありません。
2023年4月施行の改正民法では、放棄した時にその実家を「現に占有している」場合に限り、次順位の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産と同じ注意をもって保存する義務を負うとされています。
たとえば実家に同居していた人が放棄した場合は、引き渡すまで最低限の管理が必要です。逆に、遠方に住んでいて占有していなければ、この保存義務は生じません。
相続人全員が放棄すると、実家を管理・清算する人がいなくなります。この場合、家庭裁判所に相続財産清算人(以前は相続財産管理人と呼ばれていました)の選任を申し立てることになります。
申立てには、清算人の報酬などにあてる予納金として、数十万円から100万円程度が必要になることがあります。放棄したのに費用がかかることもある、と知っておきましょう。
相続財産清算人の役割や費用は、次の記事で解説しています。
実家を売る場合は、税負担を抑えられる特例があります。要件を満たすかどうかで税額が大きく変わるため、早めに確認しておきましょう。
被相続人が住んでいた家(空き家)を売ったときに、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける特例があります。うまく使えば譲渡所得税を大きく減らせます。
ただし要件がこまかく、次のような点が落とし穴になりがちです。
対象は2027年12月31日までの売却で、相続人が3人以上の場合は控除額が2,000万円に下がります。2024年からは、買主が引き渡し後に取り壊しなどをする場合も使えるよう要件が緩和されました。自分が使えるかは、税理士に確認するのが確実です。
相続税を納めた人が実家を売る場合は、取得費加算の特例も使えることがあります。
これは、相続開始のあった日の翌日から3年10か月以内に売却すると、納めた相続税の一部を売却の経費(取得費)に加算できる制度で、譲渡所得税を抑えられます。
納めた相続税が多い人ほど、加算できる金額も大きくなる傾向があります。
空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか有利なほうを選ぶことになる場合があります。税額の有利・不利の判断は、税理士に相談するとよいでしょう。
できます。相続登記は郵送やオンラインでも申請でき、遠方の実家でも自分で手続きを進められます。
必要書類をそろえる手間はありますが、費用を抑えたいなら自分で申請する方法もあります。手続きの流れは次の記事が参考になります。
相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったことになるため、実家の固定資産税を負担する義務はなくなります。
ただし、放棄した時に実家を占有している場合は、引き渡すまでの保存義務が残る点には注意が必要です。
分け方には、1人が相続して他の兄弟にお金を渡す代償分割、売って現金を分ける換価分割、そのまま共有にする方法などがあります。
実家は分けにくい財産のため、安易に共有にすると、あとで売却などに全員の同意が必要になり、もめる原因になりがちです。分け方は早めに話し合っておきましょう。
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を利用して、間に入ってもらいながら分け方を決めることもできます。
住まない実家を相続したら、まず「持ち続ける」か「手放す」かを、立地・築年数・相続人の数から考えます。
放置して特定空家に指定されると固定資産税が最大約6倍になり、強制解体や損害賠償のリスクもあるため、早めの決断が大切です。
手放し方には売却・賃貸や活用・相続放棄・国への返還があり、売るときは空き家の3,000万円特別控除などの特例も確認しましょう。
相続放棄をどうするか迷うとき、相続人の間で方針が分かれるとき、特例が使えるか判断がつかないときは、一人で抱え込まないことが大切です。
判断を誤ると、余計な税負担や、相続人どうしのトラブルにつながることもあります。
そのようなときは、まずは一度、弁護士との初回相談で、自分のケースに合った進め方を確認してみましょう。

中央大学法学部法律学科を卒業後、東京大学法科大学院を修了。2019年に弁護士登録し、国内有数の大手法律事務所に勤務。一般民事から企業法務まで幅広い案件を経験した後、2026年にわかさ法律事務所を開設した。相続分野においては、遺言書作成や信託による生前対策から、複雑な不動産絡みの遺産分割まで様々な相談に対応。依頼者の不安に寄り添い、一人ひとりの事情に合った最善の解決を目指してサポートする。登録番号59169(福岡県弁護士会)