

相続土地国庫帰属制度とは、相続などで取得した不要な土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらえる制度です。管理しきれない土地を持ち続ける負担から解放される手段として注目されています。
親から相続した土地が遠方にあって使えない、管理の手間や固定資産税だけがかかる——こうした「負動産」を、審査を経て国の所有(国庫)に帰属させられるのがこの制度です。引き取ってもらうには、土地の状態についての要件を満たし、審査手数料と負担金を納める必要があります。
これまでは、使わない土地でも固定資産税を払い続け、草刈りなどの管理を続けるしかありませんでした。売ろうにも買い手がつかず、相続人の間で押し付け合いになることも少なくありません。相続土地国庫帰属制度は、そうした「手放したくても手放せない土地」の出口として用意された仕組みです。
ただし、どんな土地でも無条件に引き取ってもらえるわけではありません。建物がある、境界がはっきりしないなど、引き取ってもらえない要件があり、審査手数料や負担金といった費用も必要です。「使える制度かどうか」は、土地の状態と費用を見て総合的に判断することになります。この記事で順番に確認していきましょう。

この制度は、2023年(令和5年)4月27日に施行された比較的新しい制度です。所有者がわからない「所有者不明土地」の発生を防ぐために創設されました。相続した土地を手放せる受け皿をつくることで、管理されない土地が増えるのを防ぐ狙いがあります。
背景には、相続しても登記されず放置される土地が全国で増え、災害復旧や公共事業の妨げになっているという問題があります。同じ時期に相続登記の義務化も始まっており、「登記して、いらなければ国に引き取ってもらう」という流れが整えられました。
実際の利用状況を、法務省の統計(令和8年5月31日現在・速報値)で見てみましょう。
項目 | 件数(令和8年5月31日現在) |
申請件数(総数) | 5,545件 |
国庫帰属が認められた件数 | 2,763件 |
取下げ件数 | 1,023件 |
却下件数 | 81件 |
不承認件数 | 85件 |
注目したいのは、却下・不承認は合わせても約160件にとどまる点です。「どうせ引き取ってもらえない」と思われがちですが、要件を満たして申請すれば、帰属が認められているケースが多いことがわかります。
帰属が認められた土地の種目を見ると、宅地だけでなく農用地や森林も国庫に帰属していることがわかります。「田舎の山や畑は無理だろう」と最初からあきらめる必要はなく、まずは要件に当てはまるかを確認することが、判断の第一歩になります。
申請の前提として、対象の土地が申請者の名義になっている(相続登記が済んでいる)ことが必要です。亡くなった方の名義のままでは申請できません。2024年4月1日から相続登記は義務化されているため、まだの場合は先に登記を済ませましょう。
この制度は誰でも使えるわけではなく、土地をどうやって取得したかによって対象かどうかが決まります。
利用できるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地を取得した人です。売買や贈与で取得した土地は対象になりません。「相続でもらった土地」であることがポイントです。
たとえば、親から相続した土地は対象ですが、自分で買った土地や、生前に贈与で受け取った土地は対象外です。制度の目的が「相続による土地の放置を防ぐこと」にあるため、取得の経緯が限定されています。
土地が複数人の共有になっている場合は、共有者全員で共同して申請する必要があります。1人だけでは申請できません。なお、共有者の中に相続・遺贈以外(売買など)で持分を得た人がいても、相続で持分を得た人が1人でもいれば、全員で申請できます。
そのため、共有地の場合はまず共有者全員の同意を得ることが出発点になります。1人でも反対すると申請できないため、関係がこじれている場合は、早めに話し合いや専門家への相談を進めておくと安心です。

この制度は、引き取ってもらえない土地の要件が細かく定められています。要件は、申請の入口で断られる「却下要件」と、審査の段階で断られる「不承認要件」の2段階に分かれます。
自分の土地が要件に当てはまると、審査手数料を払ったのに引き取ってもらえないことになります。どんな土地が対象外になるのかを、申請前に必ず確認しておきましょう。
次のような土地は、申請しても入口で却下されます。
これらは、そのままでは国が管理を始められない、または引き取るとトラブルになりかねない土地です。たとえば建物が残っていれば解体が、境界が不明なら測量が必要になり、先に解消しておかないと申請しても受け付けてもらえません。
却下要件に当てはまらず申請が受理されても、そのまま放置すると国の管理に過分な費用や労力がかかる土地は、審査の段階で不承認となります。代表的なものは次の5つです。
急な崖があって、崩れると近くの人や隣の土地に被害が出るおそれがあり、崩れ止めの工事などをしないと危ない土地は、引き取ってもらえません。目安として、勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖が対象です。
<想定される具体例>
木や工作物、車などが地面の上にあって、土地の管理や処分のじゃまになる場合は、引き取ってもらえません。ただし、森の木や、危なくない土留め・柵などは、必ずしもじゃまとはみなされません。
<想定される具体例>
地面の下に、取り除かないと土地を使えない物が埋まっている場合は、引き取ってもらえません。広い土地の隅にある小さな配管など、使うのにじゃまにならない物は問題ありません。
<想定される具体例>
隣の土地の所有者などと争わなければ管理や処分ができない土地は、引き取ってもらえません。たとえば、公道に出るための通り道がふさがれている土地(袋地など)や、他人に土地の使用をじゃまされている土地です。
<想定される具体例>
上記のほかにも、次のような土地は管理や処分に大きな手間・費用がかかるため、引き取ってもらえません。
<想定される具体例>
却下要件・不承認要件のどちらも、ポイントは「国がそのまま管理できる、きれいな状態の土地かどうか」です。建物・工作物・ごみ・樹木などを片づけ、境界を明確にしておくことが、引き取ってもらうための準備になります。
「農地や山林は対象外では?」と思われがちですが、農地・山林も対象になり得ます。実際、法務省統計でも農用地や森林の帰属が認められています。ただし、管理に過分な費用・労力がかかると判断されると不承認になりやすいため、状態によります。農地の相続については、こちらもご覧ください。
制度を利用するには、大きく分けて審査手数料と負担金の2つの費用がかかります。
申請時に、土地1筆あたり14,000円の審査手数料を、収入印紙で納めます。審査手数料は、却下・不承認・取下げになっても返還されません。申請前に、自分の土地が要件を満たしそうか、事前相談で確認しておくことが大切です。
国に引き取ってもらえることが決まったら、土地の管理費用の一部として負担金を納めます。負担金は原則として1筆20万円ですが、市街化区域などの宅地・農地・森林の一部は、面積に応じて金額が算定されます。場所や地目によっては20万円を超えることもあるため、事前に確認しましょう。
負担金は、国が引き取った後におおむね10年分の管理にかかる費用を目安に設定されています。複数の土地をまとめて申請する場合は、原則として土地1筆ごとに負担金が必要になる点も押さえておきましょう。
このほか、境界の測量や、建物の解体、ごみ・樹木の撤去など、申請の要件を満たすための準備費用がかかる場合があります。土地の状態によっては、これらの費用が大きくなる点に注意しましょう。
特に、建物が残っている土地は解体が必要で、境界がはっきりしない土地は測量が必要になるなど、準備費用が審査手数料や負担金を上回ることも珍しくありません。これらをかけてまで国に引き取ってもらうべきか、売却や寄付など他の方法と費用を比べて判断することが大切です。
手続きは、おおむね次の5ステップで進みます。
まず、土地を管轄する(または最寄りの)法務局・地方法務局の本局に事前相談します。自分の土地が要件を満たしそうか、申請前に確認できる重要なステップです。事前相談は予約制のことが多く、土地の状況がわかる資料(登記事項証明書や写真、地図など)を持参するとスムーズに進みます。
承認申請書や添付書類(位置図・写真など)を作成し、審査手数料(1筆14,000円)を収入印紙に納めて提出します。書類に不備があると却下されることがあるため、丁寧に準備しましょう。
提出後、法務局の担当者による書類審査と現地調査が行われます。却下要件・不承認要件に該当しないかが確認されます。現地調査には申請者の立会いを求められることがあり、調査に協力的かどうかも審査の進み方に影響します。
承認されると負担金額が通知されます。負担金は、通知が到達した日から30日以内に納付しなければなりません。期限を過ぎると承認の効力が失われるため、忘れずに納めましょう。
負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移り、手続きが完了します。これ以降、その土地の管理や固定資産税の負担はなくなります。いったん国庫に帰属すると、原則として後から取り戻すことはできないため、本当に手放してよいかを家族とよく相談したうえで進めましょう。
「いらない土地を手放す」という意味では相続放棄と似ていますが、対象や効果は大きく異なります。両者の違いを整理しましょう。
比較項目 | 相続土地国庫帰属制度 | 相続放棄 |
手放せる範囲 | 不要な土地だけを個別に手放せる | プラス・マイナスすべての遺産を放棄 |
主な費用 | 審査手数料+負担金 | 収入印紙・郵券など(少額) |
期限 | 明確な申請期限はない | 相続を知った日から原則3か月以内 |
最大の違いは、相続土地国庫帰属制度は「土地だけ」を選んで手放せるのに対し、相続放棄はすべての遺産(預貯金なども含む)を放棄する点です。たとえば、預貯金は受け取りたいけれど田舎の土地だけはいらない、というケースでは国庫帰属制度が向いています。一方、相続放棄をすると、いらない土地だけでなく、ほしい財産も一切受け取れなくなります。

ほしい財産はあるが特定の土地だけ手放したいなら国庫帰属制度、借金が多いなど遺産全体を引き継ぎたくないなら相続放棄が向いています。相続放棄には3か月の期限があるため、迷う場合は早めに専門家へ相談しましょう。
なお、相続放棄をしても、放棄した土地の管理責任がすぐに完全になくなるわけではない場合があります。一方、国庫帰属制度は手続きが完了すれば土地の管理から解放されます。「土地だけを確実に手放したい」なら国庫帰属制度が適しているケースが多いといえます。
要件を満たせず引き取ってもらえない場合でも、手放す方法はあります。
隣地の所有者への売却・贈与、自治体への寄付の相談、不動産業者による買取りなどが選択肢です。条件を整えれば再申請できることもあるため、まずは法務局や専門家に相談してみましょう。
申請書類の作成は、弁護士・司法書士・行政書士に依頼できます(手続きの代理や書類作成の範囲は資格により異なります)。
相続放棄と比較してどちらがよいか迷う場合や、相続全体でもめている場合は、弁護士に相談すると、土地の処分も含めてまとめて対応してもらえます。自分で進めるのが不安なら、まずは事前相談とあわせて専門家の無料相談を活用しましょう。
はい。2023年4月27日の制度開始より前に相続した土地も対象です。何十年も前に相続した土地でも、要件を満たせば申請できます。「昔相続したきり放置している土地」も手放せる可能性があるため、心当たりがあれば一度確認してみましょう。
土地の状態や審査状況によりますが、おおむね半年〜1年程度かかることが多いです。現地調査などがあるため、時間に余裕をもって進めましょう。書類に不備があったり、追加の資料を求められたりすると、さらに時間がかかることもあります。
審査手数料は、却下・不承認・取下げになっても返還されません。一方、負担金は承認後に納めるものなので、不承認になった場合は負担金はかかりません。
相続土地国庫帰属制度は、不要な相続土地だけを国に引き取ってもらえる制度です。法務省の統計でも、却下・不承認は合わせて約160件にとどまり、要件を満たせば帰属が認められているケースが多いことがわかります。
一方で、建物がある・境界が不明など引き取ってもらえない土地の要件があり、審査手数料や負担金などの費用もかかります。相続放棄とどちらが得かは、遺産全体の状況によって変わります。判断に迷う場合は、早めに弁護士などの専門家に相談し、自分に合った方法を選びましょう。
まずは、対象の土地が相続登記済みか、引き取ってもらえない要件に当てはまらないかを確認し、法務局の事前相談を活用するところから始めるのがおすすめです。準備費用まで含めて総額を見積もったうえで、国に引き取ってもらうのが本当に得なのかを冷静に判断しましょう。
