


手続きは多くても、順番に片づければ大丈夫です。まずは全体像と、優先すべきものを押さえましょう。
たくさんの手続きの中で、先に手をつけるべきは、期限があり、過ぎると損をするものです。
具体的には、相続放棄(3か月)、準確定申告(4か月)、相続税の申告(10か月)、相続登記(3年)です。これらは期限を過ぎると、借金を背負う・追徴課税・過料といった不利益につながります。
葬儀や役所の届出に追われるうちに、こうした期限が迫ってくるので、早い段階で頭に入れておきましょう。
反対に、公共料金の解約や免許証の返納など、期限のない手続きはあとに回して構いません。何を先にやるかを分けて考えると、混乱しにくくなります。
親が亡くなったあとの主な手続きを、期限の早い順にまとめると次のとおりです。
期限 | 主な手続き | 優先度 |
7日以内 | 死亡届の提出・火葬許可の申請 | 最優先(葬儀に必要) |
14日以内 | 世帯主変更・健康保険/介護保険の資格喪失・年金の受給停止 | 高 |
3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申し立て | 高(借金があるなら最優先) |
4か月以内 | 準確定申告(親の所得税) | 中(対象者のみ) |
10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 中(対象者のみ) |
3年以内 | 相続登記(不動産の名義変更) | 中(義務・過料あり) |
2〜5年 | 葬祭費・高額療養費・年金・保険金などの請求 | 忘れず請求(時効あり) |
それぞれの詳しい手続きは、このあとの章で順に解説します。手続き全体の流れは、次の記事でも確認できます。
これらをすべて一人で、悲しみの中で進めるのは大変です。きょうだいで分担したり、専門家に頼んだりすることも考えましょう。
誰に何を頼めるかは記事の後半でふれます。まずは「一人で抱え込まなくていい」と知っておくことが大切です。
たとえば、役所の届出は同居の家族、給付金の請求は手続きに詳しい人、相続の話し合いは相続人全員、というように役割を分けると、負担が偏りません。
亡くなった直後は、葬儀に向けた手続きが中心です。順番に見ていきましょう。
親が亡くなると、医師から死亡診断書(または死体検案書)が発行されます。これは死亡届とセットになっており、以降の多くの手続きの起点になります。
死亡診断書は、保険金の請求などで後日コピーが必要になることがあります。提出前に何枚かコピーを取っておくと安心です。
病院で亡くなった場合は、葬儀社に連絡して遺体を搬送・安置します。葬儀社は葬儀の手配だけでなく、死亡届の提出を代行してくれることもあります。
あわてて決めると費用が高くつくこともあります。可能なら、生前に候補を調べておくと落ち着いて選べます。
葬儀の規模や形式は、あとの費用や親族間の受け止めにも影響します。慌ただしい中でも、身近な家族と方針を共有してから決めると、後の行き違いを防げます。
死亡届は、亡くなったことを知った日から7日以内に、市区町村の役所へ提出します。同時に火葬許可を申請すると、火葬許可証が交付されます。
提出先は、亡くなった場所・本籍地・届出人の住所地のいずれかの市区町村です。葬儀社が代行してくれる場合も多いです。
火葬許可証があれば、お通夜・葬儀・火葬を行えます。火葬のあとは、火葬済みの証明(埋葬許可証)を受け取り、納骨まで大切に保管します。
葬儀費用の領収書は、必ず保管しておきましょう。葬儀費用は、相続税の計算で遺産から差し引けるため、金額のわかる書類が必要になります。
なお、葬儀費用を亡くなった親の預金から社会的に妥当な範囲で支払うことは、通常は問題になりにくいとされますが、相続放棄を考えているときは慎重な判断が必要です(後述)。
葬儀が済んだら、期限の近い役所の手続きを進めます。多くは14日以内が目安です。
亡くなった親が世帯主だった場合、14日以内に世帯主変更届を出します。残された世帯員が一人だけのときなど、不要な場合もあります。
健康保険の資格喪失手続きと、保険証の返却が必要です。国民健康保険や後期高齢者医療は14日以内、会社の健康保険は5日以内が目安です。
介護保険を利用していた場合は、14日以内に資格喪失の手続きをし、介護保険証を返却します。
年金を受給していた場合は、受給を止める手続き(年金受給権者死亡届)が必要です。国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内が目安です。
ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されていれば、この届出は原則不要です。止めずに受け取り続けると、あとで返還を求められるので注意しましょう。
電気・ガス・水道・電話・NHK・インターネットなどは、名義変更または解約します。クレジットカードも解約します。
これらに法律上の期限はありませんが、放置すると料金が引き落とされ続けます。落ち着いたら早めに整理しましょう。
運転免許証は警察署、パスポートはパスポートセンター、マイナンバーカードは市区町村へ返納します。急ぎではありませんが、悪用を防ぐためにも手続きしておくと安心です。
親の死後には、請求しないともらえないお金があります。時効があるものも多いので、忘れずに手続きしましょう。
国民健康保険・後期高齢者医療なら「葬祭費」、会社の健康保険なら「埋葬料」として、3〜5万円ほどが支給されます。時効は2年です。
亡くなる前の医療費が高額だった場合、自己負担の上限を超えた分が「高額療養費」として払い戻されることがあります。こちらも時効は2年です。
亡くなった月分までの受け取っていない年金(未支給年金)は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。要件を満たせば、遺族年金の対象になることもあります。時効は5年です。
国民年金の加入者が年金を受け取らずに亡くなった場合、死亡一時金(時効2年)や寡婦年金(時効5年)を受け取れることがあります。どちらか一方の選択になる点に注意しましょう。
これらの給付は、自分から請求しないと受け取れません。何がもらえるかは家族構成や加入状況で変わるため、年金事務所や市区町村の窓口で、まとめて相談すると確実です。
亡くなった親が生命保険に入っていた場合、受取人が保険金を請求します。請求権の時効は3年です。保険証券が見つからないときは、加入していそうな保険会社に問い合わせましょう。
役所の手続きと並行して、遺産の相続を進めます。ここが手続きの本丸です。各手続きには専用の詳しい記事があるので、あわせて参考にしてください。
まず、遺言書があるかを確認します。遺言書があれば、原則としてその内容にそって遺産を分けます。
自宅などで見つかった自筆の遺言書は、開封せずに家庭裁判所の検認を受ける必要があります。検認の手続きは、次の記事で解説しています。
誰が相続人かを確定するため、亡くなった親の出生から死亡までの戸籍を集めます。前の結婚での子など、思わぬ相続人が見つかることもあります。
集める戸籍の種類や取り方は、次の記事にまとめています。
預貯金・不動産・株式などのプラスの財産と、借金・連帯保証などのマイナスの財産を洗い出します。借金の有無は、相続するか放棄するかの判断に直結するため、早めに確認します。
財産と借金の詳しい調べ方は、次の記事で解説しています。
借金のほうが多いなどの場合は、相続放棄(3か月以内)を検討します。相続放棄をすると、プラスの財産も借金もいっさい引き継ぎません。
この3か月の期限は、自分のために相続があったことを知った時から数えます。財産調査が終わらないときは、期限の延長を申し立てられることもあります。
相続放棄の起算日や延長の方法は、次の記事でくわしく確認できます。
親に事業所得や不動産所得があった場合などは、相続人が代わりに所得税を申告します(準確定申告)。期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。
会社員で年金のみだった場合など、申告が不要なこともあります。医療費控除で還付を受けられるケースもあるので、該当しそうなときは税理士に確認しましょう。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合い(遺産分割協議)、合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。
相続人が一人でも欠けた協議は無効です。協議書は、その後の名義変更で必要になります。書き方は次の記事のひな形が参考になります。
遺産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告・納付が必要です。期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
基礎控除以下なら申告は不要です。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うには、期限内の申告が条件になるので注意しましょう。
分け方が決まったら、預貯金の解約・払い戻し、株式や不動産の名義変更を進めます。不動産の相続登記は2024年から義務化され、3年以内に行う必要があります。
相続登記の期限や過料については、次の記事でくわしく解説しています。

最後に、あとで後悔しないための注意点を、弁護士の視点でお伝えします。
金融機関が名義人の死亡を把握すると、口座は凍結され、遺産分割が済むまで原則として引き出せなくなります。
とくに注意したいのが、相続放棄を考えているなら、親の預金を自分のために引き出して使ったり、借金の返済にあてたりしないことです。相続財産を処分したとみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
どうしても当面の費用が必要なときは、遺産分割前でも一定額を引き出せる「仮払い制度」を使えます。凍結後の銀行の手続きは、次の記事が参考になります。
借金や連帯保証が見つかったら、相続放棄を検討します。相続放棄には3か月の期限があるため、借金の可能性に気づいたら早めに動くことが大切です。
あとから借金が判明したケースなど、判断が難しい場面もあります。親の借金と相続放棄の関係は、次の記事でくわしく解説しています。
遺産分割は、きょうだい間でもめやすい場面です。とくに、親の介護をした人としていない人、実家に住み続けたい人と売りたい人など、立場が違うと折り合いがつきにくくなります。
一人が親の預金を管理していて使い道が不透明、生前にお金を援助された人がいる(特別受益)、介護の貢献を評価してほしい(寄与分)といった事情があると、話し合いはさらに複雑になります。
「みんなの法律相談」にも、「父の死後、きょうだいの一人が親の預貯金を管理していて、自分には権利がないと言われ、話し合いが進まない」という相談が寄せられています。
もめそうなときは、感情的にこじれる前に、分け方の基本を押さえておくと冷静に話せます。兄弟間の分け方は、次の記事が参考になります。
専門家は、それぞれ得意分野が違います。おおまかには、次のように使い分けます。
誰に頼むか迷ったときの選び方は、次の記事で解説しています。
忌引き休暇の日数は、法律で決まっているわけではなく、会社の就業規則によります。親(一親等)の場合、5〜7日程度とする会社が多いです。
日数や有給扱いかは会社ごとに違うため、就業規則を確認するか、勤務先に問い合わせましょう。
役所や年金の手続きは、配偶者や子など、身近な遺族が行うのが一般的です。相続の手続きは、相続人全員が関わりますが、代表者を決めて進めることもできます。
負担が大きいときは、きょうだいで分担するか、専門家に依頼するとよいでしょう。
多くの手続きは、郵送やオンラインでも進められます。戸籍は2024年から始まった広域交付で最寄りの窓口でも取れ、相続登記も郵送・オンライン申請が可能です。
どうしても手が回らないときは、専門家に依頼すれば、遠方でも手続きを代行してもらえます。
親が亡くなったら、まず7日以内の死亡届と葬儀、14日以内の役所の手続きを進めます。
並行して、相続放棄(3か月)・準確定申告(4か月)・相続税(10か月)・相続登記(3年)という期限のある手続きを、早い順に押さえましょう。
葬祭費や年金、保険金など、請求しないともらえないお金にも時効があるので、忘れず手続きしてください。
相続放棄を考えているなら、親の預金には手をつけないなど、あとで後悔しない進め方も大切です。
借金が見つかった、きょうだいでもめそう、何から手をつければいいかわからない——こうしたときは、一人で抱え込む必要はありません。
判断を誤ると、借金を背負ったり、余計な税金や過料がかかったりすることもあります。
迷ったときは、まずは一度、弁護士の初回相談で、自分のケースに合った進め方を確認してみましょう。

中央大学法学部法律学科を卒業後、東京大学法科大学院を修了。2019年に弁護士登録し、国内有数の大手法律事務所に勤務。一般民事から企業法務まで幅広い案件を経験した後、2026年にわかさ法律事務所を開設した。相続分野においては、遺言書作成や信託による生前対策から、複雑な不動産絡みの遺産分割まで様々な相談に対応。依頼者の不安に寄り添い、一人ひとりの事情に合った最善の解決を目指してサポートする。登録番号59169(福岡県弁護士会)