

残高証明書とは、指定した日の預金残高を、銀行が公式に証明した書類のことです。相続では、亡くなった方の預金がいくらあったかを正確に示すために使います。
残高証明書には、指定した日(相続では亡くなった日)時点の、その人名義の預金残高が記載されます。普通預金だけでなく、定期預金・積立・投資信託・国債など、その銀行にある資産がまとめて載るのが特徴です。口座の種類・支店名・口座番号ごとに、残高が一覧で示されます。
同じ銀行に複数の口座があっても、名寄せ(その人名義の口座をすべて調べること)によって一覧で示してもらえるため、口座の取りこぼしを防げます。相続では、この「亡くなった日時点で・すべての口座を・正確に」という3点を満たす証明が必要で、それに応えられるのが残高証明書です。
なお、住宅ローンやカードローンなどの借入金は、預金の残高証明書には載りません。借入がある場合は、別途「借入残高証明書」を依頼するか、契約書などで確認します。プラスの財産だけでなく、借金の有無もあわせて調べておきましょう。
また、株式や投資信託を証券会社で持っていた場合は、銀行の残高証明書ではわかりません。証券会社には別に「残高証明書」を請求します。取引のあった金融機関ごとに、もれなく確認することが大切です。
「通帳のコピーがあれば十分では?」と思うかもしれませんが、通帳では正式な証明になりません。理由は次のとおりです。
相続税の申告や遺産分割では、亡くなった日時点の正確な残高が求められます。税務署や他の相続人に対して「この金額で間違いない」と示すには、本人が書いたメモや通帳のコピーでは足りず、第三者である銀行の証明が要るのです。そのため、通帳ではなく残高証明書が必要になります。
残高証明書は、すべての相続で必ず必要というわけではありません。どんなときに要るのかを整理しておきましょう。
相続人が複数いる場合、遺産をどう分けるかを話し合う遺産分割協議では、預金がいくらあるかをはっきりさせる必要があります。残高証明書があれば、正確な金額をもとに公平に分けられ、後の「言った言わない」を防げます。
特に、預金を管理していた相続人だけが金額を知っている状態だと、他の相続人は不信感を持ちがちです。全員が同じ残高証明書を見て話し合うことで、余計な争いを避けられます。
遺産全体が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、相続税の申告が必要です。このとき、預金は亡くなった日時点の残高で申告するため、残高証明書が根拠資料になります。
金額があいまいなまま申告すると、あとで税務署の調査で誤りが見つかり、加算税などがかかることもあります。正確な残高を示せる残高証明書は、こうしたリスクを避けるうえでも役立ちます。財産の範囲や相続税がかかる財産については、次の記事もあわせて参考にしてください。
一方、相続人が一人だけで遺産分割の必要がなく、相続税もかからないような場合は、残高証明書がなくても手続きが進むことがあります。たとえば、相続人が子1人だけで、預金も少額、不動産もない、といったケースです。
ただし、あとで他の口座が見つかったり、相続人の間で金額に食い違いが出たりすることもあります。財産の全体像をはっきりさせておくためにも、取っておくと安心です。
残高証明書は、相続人であれば請求できます。ただし、預金の引き出しとは扱いが違う点に注意しましょう。
預金そのものの払い戻しは、原則として相続人全員の同意が必要です。しかし、残高証明書の請求は、相続人が一人でも単独でできるのが一般的です。財産の状況を確認する行為(保存行為)なので、他の相続人の同意はいりません。
他の相続人と連絡が取りにくい場合でも、自身だけで預金額を確認できるため、まずは残高証明書を取って全体像をつかむとよいでしょう。これは、財産を減らさないための「保存行為」にあたるとされ、一人でも認められています。
相続人本人ではなく、その代わりに誰かが窓口へ行く場合は、委任状が必要です。委任状は請求する本人(相続人)が作成し、実印を押します。誰が誰に何を頼むのかを明記するもので、様式は銀行のホームページなどで用意されていることが多いです。
弁護士などの専門家に相続手続きを依頼している場合は、専門家が代わりに残高証明書や取引明細を取得することもできます。集める書類が多くて負担が大きいときは、専門家に任せる方法も検討しましょう。
残高証明書は、相続が始まったら(亡くなったら)早めに取っておくのがおすすめです。相続税の申告期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月と決まっており、遺産分割の話し合いにも時間がかかるためです。
また、相続放棄をするかどうかを判断するときも、預金や借金がどれくらいあるかを早く把握できると助かります。相続放棄には「亡くなったことを知ってから3か月」という期限があるため、財産の確認は早いに越したことはありません。
残高証明書の取り方は、大きく3つのステップに分かれます。細かな流れや手数料・日数は銀行によって異なるため、ここでは三井住友銀行・三菱UFJ銀行・ゆうちょ銀行の公式サイトの案内をもとに説明します。実際に取るときは各行の最新の案内をご確認ください。
まず、亡くなった方が口座を持っていた銀行に、名義人が亡くなったことを伝え、相続の手続きを申し込みます(相続の届出)。この最初のステップは銀行によって異なります。
たとえば三菱UFJ銀行では、相続の残高証明書の発行にあたり、事前に相続発生の連絡(相続オフィスへの電話など)が必要とされています。
三井住友銀行では、必要書類を準備したうえで、手続きを依頼する店舗に来店して申し出る流れです。ゆうちょ銀行も、相続人が窓口で手続きします(通帳がなくても受付可能とされています)。
この届出をすると、銀行が名義人の死亡を把握し、口座が凍結されます。あわせて、残高証明書を含む相続手続きに必要な書類や流れを案内してもらえます。口座凍結については後半でくわしく説明します。
どの銀行に口座があったかがわからないときは、通帳やキャッシュカード、郵便物、スマホの銀行アプリなどを手がかりに探します。近くの支店に心当たりがあれば、そこで名寄せを依頼するのも有効です。
残高証明書の請求には、主に次のような書類が必要です。銀行によって多少異なるため、事前に確認しましょう。
印鑑証明書は「発行から3か月(または6か月)以内のもの」と期限を指定されることがあります。取る前に、いつ発行したものが必要かを確認しておきましょう。
必要書類がそろったら、手続きを依頼する店舗などで残高証明書の発行を申し出ます。申請書には、証明したい日(亡くなった日)を記入します。ここで証明日を間違えないことが大切です。
受け取りは郵送が中心で、かかる日数は銀行によって差があります。三井住友銀行は受付から約1〜2週間、三菱UFJ銀行は依頼書の受付後3〜4週間程度で郵送されます。ゆうちょ銀行は、口座の記号番号がわかっていれば即日発行できることもありますが、番号が不明な場合や解約済みの場合などは後日の郵送になります。
戸籍については、集めた戸籍一式で「法定相続情報一覧図」を作っておくと、銀行ごとに戸籍の束を出し直さずに済み、複数の金融機関の手続きがぐっと楽になります。三菱UFJ銀行では、この一覧図の写しを出せば、戸籍謄本の提出は原則不要とされています。
発行手数料も銀行ごとに違います。相続の残高証明書は、1通あたり三菱UFJ銀行が770円、三井住友銀行が880円、ゆうちょ銀行が1,100円(いずれも税込)です。
また、定期預金の経過利息計算書など、別の書類を頼むと追加の手数料がかかります。たとえば三菱UFJ銀行では、経過利息計算書が1通2,200円です。複数の銀行に口座がある場合は、それぞれで届出・手数料・日数がかかるため、取引のあった銀行を早めにリストアップして、まとめて動き始めると安心です。

残高証明書を取るうえで、必ず知っておきたいのが「口座凍結」です。ここを理解しないまま動くと、思わぬところで困ることがあります。
銀行は、名義人が亡くなったことを知ると、その口座を凍結します。凍結されると、入金も出金も、公共料金などの自動引き落としもすべて止まります。
なお、役所に死亡届を出しても、その情報が自動で銀行に伝わるわけではありません。銀行は、遺族からの連絡や相続手続きの申し出などで死亡を把握します。
残高証明書を請求すると、銀行に死亡の事実が伝わり、凍結のきっかけになるのが一般的です。「請求したら凍結された」と慌てないよう、順番を考えて動くことが大切です。
凍結されると当面の生活費や支払いに困ることがあるため、必要に応じて次の点を確認しておきましょう。
特に、引き落としが止まると公共料金や家賃、ローンの支払いが滞り、延滞や利用停止につながることがあります。凍結の前に、引き落とし先を早めに切り替えておくと安心です。
なお、凍結後でも、遺産分割前に一定額まで引き出せる「仮払い制度」があります。引き出せる金額は「亡くなった時点の預金額×3分の1×自身の法定相続分」で計算し、1つの金融機関につき150万円までが上限です。葬儀費用や当面の生活費などに使えます。
凍結は、銀行が死亡を知って初めて行われるもので、自動的にされるわけではありません。とはいえ、亡くなったことを隠して勝手に引き出すと、あとで他の相続人とのトラブルになりかねません。凍結の仕組みや解除の流れは、次の記事でくわしく解説しています。
最後に、残高証明書を請求するときに押さえておきたい実務のポイントを4つ紹介します。ここを知っておくと、取り直しや見落としを防げます。
相続の残高証明書は、証明日を「亡くなった日」で指定します。相続税や遺産分割で必要なのは、亡くなった時点の残高だからです。うっかり請求した日の残高を取ってしまうと、取り直しになることがあるので注意しましょう。
同じ銀行に複数の支店・口座があることもあります。請求のときに名寄せ(その人名義の口座をすべて調べてもらうこと)を依頼すれば、把握していなかった口座も含めて証明書に載せてもらえます。銀行によっては指定した支店だけが対象になることもあるため、「全店分で」と伝えると取りこぼしを防げます。
ただし、名寄せは同じ銀行の中だけで行われ、別の銀行の口座まではわかりません。取引のあった銀行それぞれに、個別に残高証明書を請求する必要があります。
定期預金がある場合は、残高証明書に加えて経過利息計算書(既経過利息)もあわせて依頼しましょう。これは、亡くなった日までに付くはずだった利息を計算した書類です。相続税の申告では、この利息分も財産に加える必要があるため、あとから頼み直さずに済むよう、最初にまとめて依頼しておくと効率的です。
残高証明書とあわせて、過去の入出金がわかる取引明細(取引履歴)を取ると、亡くなる前後のお金の動きを確認できます。これにより、生前贈与の有無や、他の相続人による使い込みに気づけることがあります。取引明細は、過去10年分ほどまでさかのぼって取得できる銀行が多いです。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「亡くなった父の預金は30万円ほどしかないと同居していた姉が言うが、生前に多額の引き出しがあった形跡があり、長年の使い込みが疑われる」という相談が寄せられています。取引明細をたどることで、こうしたお金の動きを確認できます。
多額の使い込みが疑われるときや、他の相続人が情報を開示してくれないときは、証拠の集め方や取り戻しの手続きについて、次の記事も参考になります。
残高証明書そのものに有効期限はありません。亡くなった日時点の残高を証明するもので、内容が後から変わらないためです。相続税の申告でも、亡くなった日の残高がわかればよいので、発行から時間がたっていても問題ありません。
ただし、金融機関など提出先によっては、発行から一定期間内のものを求められることがあるので、提出先に確認しましょう。
残高が0円やわずかしかない口座でも、相続税の申告では原則としてすべての口座を確認します。0円であることを証明するために取っておくと、あとで「本当に何も残っていなかったのか」を説明でき、名義預金(亡くなった方が実質的なお金の持ち主だった、家族名義の預金)などの確認にも役立ちます。
提出先の数だけあれば安心ですが、多くの手続きでは原本を返してもらえる(原本還付)ため、1通でも使い回せることがあります。まずは提出先ごとに原本が必要かを確認し、必要な通数だけ取ると、費用を抑えられます。
同時にいくつもの手続きを進める場合は、原本が返ってくるのを待てないこともあります。そのときは、必要な数だけ取るか、コピーで足りるかを提出先に確認しておくとよいでしょう。
残高証明書とは、亡くなった日の預金残高を銀行が公式に証明する書類です。通帳では亡くなった日の正確な残高や定期預金などを示せないため、遺産分割や相続税の申告では残高証明書が必要になります。
請求は相続人が一人でも単独ででき、証明日は「亡くなった日」を指定します。名寄せや経過利息計算書、取引明細もあわせて依頼すると、取りこぼしや使い込みを防げます。
注意したいのは、請求が口座凍結のきっかけになることです。公共料金の引き落とし口座の変更など、凍結前の準備も考えておきましょう。
預金の使い込みが疑われる、相続人の間で金額の食い違いがある、口座凍結でお金の工面に困っている——そんなときは、状況を悪化させる前に手を打つことが大切です。
特に、使い込みの調査や取り戻しには証拠集めや交渉が必要で、当事者だけで進めるのは難しいものです。判断に迷うときは、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースで何をどう進めればよいかを確認しておきましょう。

大阪弁護士会所属。元国税職員の弁護士が、法務と税務の両面から相続問題の解決をサポートします。相続税に配慮した遺言書の作成や事業承継にも対応しております。相続問題や事業承継について不安や疑問のある方は、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。