


成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分になった人に代わって、財産の管理や契約などを支える制度です。
判断能力が下がると、預金の引き出しや不動産の売却、介護サービスの契約などを一人で行うのが難しくなります。そうしたときに、本人を支える人(後見人)を家庭裁判所が関与して定めるのが、この制度です。
成年後見制度を一言でいえば、判断能力が不十分な本人に代わって、信頼できる人が財産管理と生活の支援を行う仕組みです。
本人の財産を守り、必要な契約や手続きを代わりに進めることで、本人が不利益を受けないようにします。
たとえば、認知症が進んだ親に代わって、施設の入所契約を結んだり、預金から生活費を出したりできるようになります。
後見人が担うのは、お金まわりの支援と、暮らしまわりの支援です。
ひとつは財産管理で、預貯金や不動産の管理、支払いなどを行います。もうひとつは身上保護で、介護や医療、住まいに関する契約などを本人に代わって手配します。
なお、後見人が手術などの医療行為に同意する権限(医療同意権)はない、という点は押さえておきましょう。
また、後見人は本人の生活の質を保つために、住まいや介護の方針にも気を配りながら支援します。
高齢化が進み、認知症などで判断能力が下がる人が増えていることが背景にあります。
判断能力が下がると、本人名義の預金が凍結されたり、悪質な契約から身を守れなくなったりします。こうした場面で本人を支える仕組みとして、成年後見制度の役割が大きくなっています。
とくに、一人暮らしの高齢者や、身近に頼れる家族がいない人にとって、制度の重要性は増しています。
「成年後見制度は廃止されるらしい」という話を聞いた人もいるかもしれません。制度そのものがなくなるわけではありませんが、2026年に大きな改正が成立しています。
ここでは要点だけを押さえます。
現在の制度は判断能力の程度に応じて3つの型に分かれていますが、改正では後見と保佐を廃止し、補助に一本化して、本人にとって必要な範囲で利用できるようにする方向です。
判断能力の程度で型を選ぶのではなく、必要な支援を個別に組み立てる形に近づく、とイメージするとわかりやすいでしょう。
これまでは、一度始めると原則として本人が亡くなるまで後見が続きました。改正では、保護の必要がなくなれば利用を終えられる方向に見直されます。
「必要なときに使い、不要になれば終えられる」形に近づくのが、今回の見直しの狙いです。
改正は成立していますが、施行はこれからです。そのため、いま利用する場合は現行制度にもとづきます。
なお、成年後見制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」は、令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。ただし施行は公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされ、現時点ではまだ施行前です。
改正で何がどう変わるかは、別の記事でくわしく解説しています。

成年後見制度は、大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。
どちらを使うかは、判断能力が下がる前か後かで変わります。
法定後見は、すでに判断能力が下がった人のために、家庭裁判所が後見人などを選ぶ制度です。
本人や家族などが家庭裁判所に申し立てて始まります。今まさに困っている場合に使うのが、この法定後見です。
申立てから後見の開始までには、書類の準備や家庭裁判所の調査で、数か月かかるのが一般的です。急いで手続きを進めたい事情があるときは、早めに準備を始めることが大切です。
任意後見は、本人が元気なうちに「判断能力が下がったら、この人にこう支援してほしい」と契約で決めておく制度です。
将来に備えて自分で支援者を選べるのが特徴です。元気なうちに公証役場で契約を結んでおき、判断能力が下がったら家庭裁判所が任意後見監督人を選んで支援が始まります。仕組みは、次の記事でくわしく解説しています。
法定後見は、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれます。
判断能力がほとんどない人は後見、著しく不十分な人は保佐、不十分な人は補助が対象です。後見の対象になる本人を「成年被後見人」と呼び、それぞれ支援する人の権限も異なります。
判断能力が著しく不十分な人が対象の「保佐」については、こちらでくわしく解説しています。
判断能力が不十分な人が対象の「補助」は、支援できる範囲を本人が選べるのが特徴です。
後見の対象になる本人を「成年被後見人」と呼びます。できること・できないことは次の記事で確認できます。
成年後見制度は、「判断能力が下がったら必ず使うもの」ではありません。
具体的な手続きの必要が生じたときに、利用を検討するのが一般的です。
金融機関が本人の判断能力の低下を把握すると、口座が凍結され、家族でも引き出せなくなることがあります。
施設費用や生活費の支払いのために、後見人を立てて口座を動かせるようにする、というのが典型的な場面です。
入院費や施設の月々の支払いが迫っているのに、親の口座からお金を出せない、という相談は少なくありません。
相続が起きたとき、相続人の中に判断能力が不十分な人がいると、そのままでは遺産分割協議ができません。
後見人が本人に代わって協議に参加することで、手続きを進められます。判断能力が不十分な人を除いて進めた遺産分割は、無効になるおそれがあります。
なお、後見人も同じ相続の相続人であるときは、利益が対立するため、別に特別代理人を立てる必要があります。認知症の相続人がいる場合の進め方は、次の記事が参考になります。
本人名義の自宅などを売却する場合も、判断能力が不十分だと本人だけでは契約できません。
とくに本人が住んでいる家(居住用不動産)を売るには、後見人がついたうえで家庭裁判所の許可も必要です。許可を得ずに売却すると原則として無効になるため、順を追って手続きを進めることが欠かせません。
成年後見制度を使うと、判断能力が下がった本人を守りながら、必要な手続きを進められます。
主なメリットを見ていきましょう。
後見人が財産を管理することで、本人の財産を使い込みや悪質な契約から守れます。
判断能力の低下につけ込んだ被害を防げるのは、大きな安心につながります。たとえば、高額なリフォーム契約などを結ばされても、後見人が取り消せる場合があります。
介護サービスの契約や、施設の入所手続き、行政への申請などを、後見人が本人に代わって進められます。
一人では難しくなった手続きを、滞りなく進められるようになります。本人が受けられる介護保険のサービスを、後見人が申請して利用開始につなげることもできます。
後見人は、家庭裁判所へ定期的に報告する義務があります。
第三者である家庭裁判所の監督が入ることで、財産管理の透明性が保たれます。後見人が不適切な管理をしていないか、第三者の目が入る点は、本人にとっての守りになります。
一方で、成年後見制度には、始める前に知っておきたいデメリットや注意点もあります。
後見が始まると、本人の財産は後見人が管理し、家族であっても自由に使えなくなります。
「本人のため」と認められる支出しかできず、家族の都合での使い方は制限されます。たとえば、本人の預金を家族の生活費や孫の教育費に回す、といったことは原則としてできなくなります。
後見人に弁護士や司法書士などの専門職が選ばれると、その人への報酬が毎年発生します。
報酬は本人の財産から支払われ、現行制度では後見が続く限りかかり続けます。費用の相場は、次の記事でくわしく解説しています。
現行制度では、目的が済んでも、本人の判断能力が不十分なままなら後見は原則として途中でやめられません。
この点は、先に触れた2026年の改正で見直される部分です。
後見人になると、財産目録や収支の状況を、原則として年1回、家庭裁判所へ報告する必要があります。
家族が後見人になった場合は、この報告が負担になることもあります。慣れない書類の作成に不安があるなら、専門家のサポートを受ける方法もあります。
ここでは、法定後見を利用するときの手続きと費用の概要を押さえます。
まず、本人の判断能力に関する医師の診断書や、戸籍などの必要書類を準備します。とくに医師の診断書は、後見・保佐・補助のどの類型に当たるかを判断する重要な書類です。
申立てができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族などです。誰が後見人に選ばれるか、家族はなれるのかは、次の記事が参考になります。
必要書類を家庭裁判所に提出し、面接や調査を経て、後見開始の審判が下されます。家庭裁判所が本人や申立人と面接し、必要に応じて親族の意向も確認します。
審判が確定すると、後見の内容が法務局に登記されます。この登記は、後見人であることを証明する「登記事項証明書」として、金融機関などでの手続きに使います。手続きの流れは、次の記事でくわしく解説しています。
申立てには、収入印紙や切手、診断書などの費用がかかります。鑑定が必要な場合は、その費用が加わることもあります。鑑定は必ず行われるわけではなく、診断書で判断できる場合は不要です。
後見開始後は、専門職が後見人になると報酬が発生します。金額は、本人の財産や仕事内容に応じて家庭裁判所が決めます。本人の財産が多いほど報酬も高くなる傾向があり、長期にわたると負担が積み重なります。
申立て費用や報酬の負担が難しい場合に、自治体が費用の一部を助成する制度(成年後見制度利用支援事業など)が用意されていることがあります。
利用できるかどうかは、お住まいの自治体に確認してみましょう。対象や助成額は自治体ごとに異なるため、申立ての前に窓口へ問い合わせておくと安心です。

判断能力の低下に備える方法は、成年後見だけではありません。近年は、認知症などに備えて、元気なうちに家族信託などを準備しておく人も増えています。
代表的な家族信託などと比べて、選び方を整理します。
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理を任せる仕組みです。
成年後見が「本人を守る」ことを重視するのに対し、家族信託は財産の管理や承継を柔軟に設計できるのが特徴です。ただし家族信託は介護や医療の手配(身上保護)はカバーしないため、目的に応じた使い分けが必要です。向くケースは、次の記事が参考になります。
日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が、日常的なお金の管理や福祉サービスの利用を手伝う仕組みです。
財産管理や契約を幅広く任せる成年後見に比べ、支援の範囲が日常的なことに限られる点が違います。大きな財産の管理や不動産の売却などには対応できないため、必要に応じて成年後見と使い分けます。
大まかには、すでに判断能力が下がっているなら成年後見、元気なうちに備えるなら家族信託や任意後見が選択肢になります。
判断能力が下がった後では、家族信託や任意後見の契約はできません。備えを考えるなら、早めに専門家へ相談しておくと安心です。
迷ったときは、財産の状況や家族関係を整理したうえで、弁護士や司法書士に相談すると選びやすくなります。
最後に、成年後見制度についてよく寄せられる疑問に答えます。
「財産を自由に使えない」「報酬が続く」「途中でやめられない」といった使いにくさから、そうした声が出ることがあります。ただし、これは本人の財産を守るための仕組みでもあり、必ずしも「悪い制度」ということではありません。
まれに、後見人と家族の間でトラブルになるケースもあります。実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「祖父の成年後見人の対応が高圧的で、家族と対立している。後見人を変更できないか」という相談が寄せられています。
なお、後見人に不正や不適切な対応があるときは、家庭裁判所に解任や変更を申し立てられます。制度の使いにくさは、2026年の改正で見直される予定です。
申立てのときに家族を候補者にできますが、必ずその人が選ばれるとは限りません。
本人の財産が多い場合などは、家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあります。家族が後見人になれた場合でも、家庭裁判所が選ぶ監督人がつくことがあります。
改正はまだ施行前で、今利用する場合は現行制度にもとづきます。
すでに利用している後見が、改正ですぐに終わったりなくなったりするわけではありません。当面は現行のまま続くと考えてよいでしょう。気になるときは、担当の家庭裁判所や後見人に、改正後の扱いを確認しておくと安心です。
成年後見制度とは、判断能力が不十分になった人に代わって、財産管理と生活の支援を行う制度です。
法定後見と任意後見の2種類があり、財産を守れるメリットの一方、家族でも財産を自由に使えない、報酬が続くといった注意点もあります。2026年の改正で「終われる後見」へと見直される予定ですが、施行はこれからで、今は現行制度にもとづきます。
どの制度が向くか、今すぐ使うべきかは、本人の状況や家庭の事情によって変わります。
口座が凍結された、遺産分割に判断能力が不十分な相続人がいる、後見を始めるか迷っているといったときは、判断を誤ると手続きが滞ったり、費用の負担が続いたりすることもあります。
そうしたときは、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースでは成年後見が必要か、家族信託などの備えが向いているかを確認しておきましょう。早めに動くことで、選べる手段が広がります。

早稲田大学政治経済学部卒業後、2004年に弁護士登録。勤務弁護士や個人事務所経営を経て2026年に現事務所へ合流した。大阪弁護士会にて家事法制委員会副委員長や空家対策関連の公職を歴任する。相続分野においては、依頼者それぞれの宗教心や想いを尊重し、きめ細やかに対応。問題の本質を丁寧に探り、根本的解決を目指す。趣味は古社寺参詣と華道(池坊准教授2級)。大阪弁護士会所属。