


成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面・生活面から支援する制度です。本人が契約をしたり、財産を管理したり、介護・福祉サービスを利用したりする場面で、後見人等が本人をサポートします。
成年後見制度は、大きく分けると「法定後見」と「任意後見」の2種類です。
種類 | 利用する場面 | 後見人等を選ぶ人 |
|---|---|---|
法定後見 | すでに判断能力が低下している | 家庭裁判所 |
任意後見 | 将来の判断能力低下に備える | 本人があらかじめ選ぶ |
なお、成年後見制度については、令和8年4月3日に国会へ提出された「民法等の一部を改正する法律案」が、令和8年6月17日に成立しました。後見・保佐を廃止して補助に一本化することや、必要な範囲で代理権・同意権を個別に定めるオーダーメード型の支援などが盛り込まれています。
ただし施行は一部を除き公布から2年6か月以内とされ、現時点ではまだ施行前のため、本記事では現行制度にもとづく選任手続きを解説しています。
法定後見は、本人の判断能力がすでに低下している場合に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3類型があります。
類型 | 対象となる人の目安 | サポートする人 |
|---|---|---|
後見 | 多くの手続き・契約を一人で決めることが難しい | 成年後見人 |
保佐 | 重要な手続き・契約を一人で決めることが心配 | 保佐人 |
補助 | 一部の重要な手続き・契約に不安がある | 補助人 |
「成年後見人」と呼ばれるのは、法定後見のうち「後見」が開始された場合に選任される人です。本人の財産管理や契約手続きなどについて、原則として広い代理権を持ちます。
ただし、本人の判断能力がある程度残っている場合には、成年後見ではなく保佐や補助の申立てが適していることもあります。診断書の内容や本人の生活状況を踏まえて、どの類型で申し立てるかを検討しましょう。
任意後見は、本人の判断能力があるうちに、将来支援してもらう人を本人自身が選び、任意後見契約を結んでおく制度です。任意後見契約では、将来任意後見人になる人や、代理してもらう内容、報酬などを定めます。
任意後見は、本人の判断能力が低下しただけで自動的に始まるわけではありません。家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、任意後見人の仕事が始まります。
任意後見は「将来に備える制度」であり、すでに本人が契約内容を理解して判断することが難しい場合には利用しにくい点に注意が必要です。その場合は、法定後見の申立てを検討します。

成年後見人の選任、つまり後見開始の申立ては、家庭裁判所に必要書類を提出して行います。必要書類をそろえ、申立書を作成できれば、本人や家族が自分で申し立てることも可能です。
自分で手続きを進めやすいのは、たとえば次のようなケースです。
一方で、次のような事情がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
成年後見人候補者を申立書に書いても、その人が必ず選ばれるわけではありません。家庭裁判所は、本人にとって最も適任と考えられる人を選任します。
成年後見人の選任手続きをスムーズに進めるには、申立書を書き始める前に、申立人・申立先・候補者・類型を確認しておくことが大切です。ここを曖昧にしたまま準備を始めると、書類の集め直しや説明の追加が必要になることがあります。
後見開始の申立てができる人は、本人、配偶者、四親等内の親族などです。四親等内の親族には、子、孫、親、祖父母、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪、いとこなどが含まれます。
本人の判断能力が低下している場合、実務上は家族が申立人になることが多いでしょう。ただし、親族がいない場合や親族による申立てが難しい場合には、市区町村長が申し立てるケースもあります。
後見開始の申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立人の住所地ではないため、遠方に住む家族が申し立てる場合は注意しましょう。
たとえば、申立人である子が東京に住んでいても、本人が愛知県に住んでいる場合、原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所によって、郵便切手の金額、提出書類の運用、面接方法、予約の要否が異なることがあります。手続きを始める前に、申立先の家庭裁判所の案内を確認しておくと安心です。
申立ての際には、成年後見人候補者を記載できます。候補者には、家族や親族のほか、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が考えられます。
ただし、家庭裁判所は、本人の心身の状態、生活状況、財産の内容、親族関係、候補者の適性などを総合的に見て成年後見人を選任します。
そのため、親族を候補者にしても、専門職が成年後見人に選任されることがあります。本人の財産管理が複雑な場合、親族間に対立がある場合、遺産分割や不動産処分など法律上の課題がある場合は、専門職が選ばれやすくなることがあります。
しかし、希望した候補者が選任されなかったことだけを理由に申立てを取り下げられるとは限らないので、注意してください。
法定後見には、後見・保佐・補助の3類型があります。どれを申し立てるかは、本人の判断能力の程度によって決まります。
成年後見人の選任を考えていても、本人が「重要な契約は不安だが、日常的なことはある程度判断できる」という状態であれば、保佐や補助のほうが合う場合があります。
類型の選択に迷う場合は、まず医師に成年後見制度用の診断書を書いてもらい、本人の状態を確認しましょう。家庭裁判所の手続案内や専門家への相談も有効です。

成年後見人の選任手続きは、主に次の流れで進みます。
全体像としては、「書類を準備して家庭裁判所に申し立てる」「家庭裁判所が本人の状態や候補者を確認する」「審判が確定し、登記される」という順番です。
成年後見人の選任を希望する場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、後見開始の申立てを行います。
申立てでは、申立書、本人の戸籍謄本、住民票、診断書、財産資料、収支資料などを提出します。成年後見人候補者がいる場合は、候補者に関する資料も必要です。
申立書には、申立ての理由、本人の生活状況、財産状況、候補者を希望する理由などを記載します。親族を候補者にしたい場合は、本人との関係、これまでの関わり、財産管理を適切に行える事情を具体的に説明しましょう。
また、申立て後に家庭裁判所から追加資料を求められることがあります。通帳の写し、不動産資料、保険証券、年金通知書、施設利用料の資料などは、あらかじめ整理しておくと対応しやすくなります。
申立てが受理されると、家庭裁判所調査官や参与員などが調査し、必要に応じて申立人、本人、成年後見人候補者から面談で事情を聴くことがあります。面談では、申立ての経緯、本人の判断能力、生活状況、財産状況、候補者の適性などが確認されます。
本人の判断能力について、診断書だけでは判断が難しい場合には、医師による鑑定が行われることがあります。
鑑定が行われると、追加の費用と時間がかかる可能性があります。診断書や本人情報シートには、本人の日常生活の様子、金銭管理の状況、契約や手続きで困っている具体例をできるだけ正確に反映させることが大切です。
本人が面談に不安を感じる場合は、普段の生活状況や受け答えの様子を家族が整理しておき、家庭裁判所から聞かれたときに説明できるようにしておきましょう。
家庭裁判所は、提出された資料や調査結果をもとに、後見開始の要件を満たすかどうかを判断します。要件を満たすと判断されると、後見開始の審判がされ、同時に成年後見人が選任されます。
申立時に候補者を推薦していても、家庭裁判所はその候補者に拘束されません。本人の財産や生活を守る観点から、専門職を選任したり、成年後見監督人を付けたりすることがあります。
なお、誰を成年後見人に選任するかという家庭裁判所の判断には、不服申立てができません。親族を候補者にしたい場合は、申立て前の段階で、選任されにくい事情がないか確認しておくことが重要です。
後見開始の審判が確定すると、家庭裁判所から東京法務局に後見登記が嘱託されます。登記が完了すると、成年後見人であることは登記事項証明書で証明できます。
成年後見人は、金融機関での手続き、介護・福祉サービスの契約、本人の財産管理などを進める際に、登記事項証明書の提出を求められることがあります。
登記事項証明書は、成年後見人として活動を始めるうえで重要な書類です。必要になったときに慌てないよう、取得方法や使用場面を確認しておきましょう。
成年後見人に選任された後は、本人の財産や生活状況を確認し、財産目録や収支予定表を作成して家庭裁判所に提出します。金融機関への届出、介護・福祉サービスの契約確認、施設費や医療費の支払い状況の把握なども必要になります。
成年後見人は、選任されたら終わりではありません。選任後も、本人の生活や財産の状況について家庭裁判所に報告する義務があります。親族が成年後見人になる場合でも、本人の財産と自分の財産を明確に分けて管理することが重要です。
家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる際には、一般的に次のような書類を提出します。
書類 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
申立書 | 後見開始を求める書類 | 家庭裁判所の書式を使う |
本人の戸籍謄本 | 本人の身分関係を確認 | 発行から3か月以内が目安 |
本人の住民票または戸籍附票 | 住所を確認 | 本人の住所地が申立先に関係 |
候補者の住民票または戸籍附票 | 候補者を確認 | 候補者がいる場合 |
診断書 | 判断能力を確認 | 成年後見制度用の書式を使う |
本人情報シート | 本人の生活状況等を補足 | 福祉関係者などが作成する想定 |
登記されていないことの証明書 | 既存の後見等登記の有無を確認 | 法務局で取得 |
財産資料 | 預貯金・不動産・負債など | 通帳写し、登記事項証明書など |
収支資料 | 収入・支出を確認 | 年金通知書、施設費資料など |
必要書類は家庭裁判所や事案によって異なる場合があります。申立先の家庭裁判所の案内を確認し、不足がないようにチェックリストを作って進めるとよいでしょう。
また、個人番号(マイナンバー)が記載された書類は、家庭裁判所に提出しないよう注意が必要です。写しを提出する場合は、マイナンバー部分が含まれていないか確認してください。
成年後見人の選任手続きでは、申立手数料、登記手数料、郵便切手、書類取得費用などがかかります。鑑定が必要になった場合や、専門家に依頼した場合は、さらに費用が発生します。
後見開始の申立てでは、申立手数料として収入印紙800円分、登記手数料として収入印紙2600円分が必要です。これに加えて、家庭裁判所との連絡に使う郵便切手も納めます。
郵便切手の金額や納付方法は家庭裁判所によって異なります。申立先の家庭裁判所の案内を確認しましょう。
本人の戸籍謄本、住民票、登記されていないことの証明書、不動産登記事項証明書、残高証明書などを取得する際にも手数料がかかります。本人の財産や家族関係によって、必要な書類の数は変わります。
本人の判断能力について、診断書などだけでは判断が難しい場合、家庭裁判所が鑑定を行うことがあります。鑑定が実施される場合は、鑑定費用の負担が必要になることがあります。
鑑定の有無は事案によって異なるため、必ず発生する費用ではありません。ただし、申立て時点では、追加費用が生じる可能性も見込んでおくと安心です。
弁護士や司法書士に申立書の作成や手続きのサポートを依頼する場合は、専門家報酬がかかります。費用は依頼内容や事案の複雑さによって異なります。
親族間の対立がある場合、候補者の選任について説明が必要な場合、遺産分割や不動産処分が関係する場合などは、費用だけでなく、手続き後のトラブル予防という観点からも専門家に相談するメリットがあります。
成年後見人が選任された後、成年後見人から報酬付与の申立てがあった場合には、家庭裁判所が報酬額を決めます。専門職が成年後見人に選任された場合は、本人の財産から報酬が支払われるのが一般的です。
親族が成年後見人になる場合でも、家庭裁判所の判断により報酬が認められることがあります。ただし、勝手に本人の財産から報酬を受け取ることはできません。
成年後見人の選任までにかかる期間は、本人の状態、必要書類の準備状況、親族関係、鑑定の有無、家庭裁判所の運用などによって変わります。
自分で申し立てる場合、最初に時間がかかりやすいのは書類準備です。戸籍謄本、住民票、診断書、本人情報シート、財産資料、収支資料などをそろえる必要があります。
本人の財産が多い場合や、不動産・有価証券・借金などがある場合は、資料の整理に時間がかかります。施設や病院、金融機関、法務局、市区町村役場など複数の窓口で書類を集めることもあります。
申立て後は、家庭裁判所による書類確認、面談、調査、必要に応じた鑑定を経て、後見開始の審判がされます。審判が確定すると、後見登記が行われます。
急ぎで金融機関の手続きや施設契約をしたい事情がある場合でも、成年後見人が正式に活動できるまでには一定の時間がかかります。相続手続きや不動産売却などの予定がある場合は、早めに準備を始めましょう。
次のようなケースでは、手続きが長引く可能性があります。
特に、相続手続きのために成年後見人の選任が必要になった場合、選任までの期間を見込まずに進めると、遺産分割協議や名義変更が止まってしまうことがあります。
任意後見は、本人があらかじめ任意後見契約を結んでおき、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで始まります。
手続きの流れは、次のとおりです。
法定後見と異なり、任意後見では本人があらかじめ任意後見人になる人を選びます。ただし、任意後見人だけで自由に活動できるわけではなく、任意後見監督人による監督を受けます。
まず、本人と任意後見受任者が任意後見契約を結びます。任意後見受任者とは、将来、任意後見人になる予定の人です。
任意後見契約は、公正証書で作成しなければなりません。公正証書は、公証役場で公証人が作成する公文書です。
任意後見契約では、代理してもらう内容、報酬、財産管理の方法、生活支援の方針などを定めます。本人の希望を反映できる点がメリットですが、契約時点で本人に契約内容を理解する判断能力が必要です。
任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人の嘱託により法務局で登記されます。
本人の判断能力が低下し、任意後見を開始する必要が生じた場合、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者などが、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
家庭裁判所は、本人の状態や契約内容などを確認し、任意後見監督人を選任します。
任意後見監督人は、任意後見人の仕事が適切に行われているかを確認する立場です。任意後見人を監督する人が付くことで、本人の財産や生活を守る仕組みになっています。
任意後見監督人が選任されると、任意後見が開始します。任意後見人は、任意後見契約で定めた範囲で、本人を代理して財産管理や契約手続きを行います。
任意後見は、本人が元気なうちに将来の支援者を決めておきたい場合に向いています。一方、すでに判断能力が低下している場合には、法定後見の申立てを検討することになります。
任意後見を利用する場合、任意後見契約を結ぶ段階と、任意後見監督人の選任を申し立てる段階で、それぞれ必要書類が異なります。
任意後見契約を公正証書で作成する際には、一般的に次のような書類が必要です。
本人の判断能力が低下し、任意後見を開始する段階では、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。一般的には、次のような書類が必要です。
任意後見監督人の選任申立てでも、本人の判断能力や財産状況を確認する資料が必要になります。任意後見契約を結んだ時点で終わりではなく、開始時にも家庭裁判所の手続きが必要である点を押さえておきましょう。
成年後見人の選任手続きは自分で行うこともできますが、次のような場合は弁護士などの専門家に相談した方が安心です。
成年後見人が選任されると、本人の財産管理や法律行為に大きな影響があります。手続き後に「思っていた人が選ばれなかった」「相続手続きが進まない」「財産の使い方について親族間で揉めた」とならないよう、早い段階で見通しを立てることが大切です。
特に相続が関係するケースでは、成年後見人の選任だけでなく、遺産分割協議、相続登記、預貯金の払い戻し、不動産売却なども見据えて対応する必要があります。成年後見と相続の両方に詳しい専門家に相談すると、手続き全体を整理しやすくなります。
成年後見人を選任してもらうには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、後見開始の申立てを行う必要があります。申立ては、必要書類をそろえれば本人や家族が自分で行うことも可能です。
ただし、成年後見人の選任手続きでは、申立人、申立先、必要書類、費用、期間、候補者の選任可能性など、事前に確認すべき点が多くあります。特に、希望した親族が必ず成年後見人に選ばれるわけではない点には注意が必要です。
本人の財産が複雑な場合、親族間に対立がある場合、相続手続きが関係する場合などは、自分だけで進める前に弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

愛知県弁護士会所属。遺言書作成から遺留分・遺産分割まで幅広く相続の対応をしている。相談者に「安心」を提供することをモットーに、司法書士・税理士や不動産・保険等の専門家とも連携し、相談者一人一人の事情に沿ったオーダーメイドの解決をしている。