

「成年後見制度 廃止」と検索して、この記事にたどり着いた人も多いでしょう。
まず押さえてほしいのは、成年後見制度そのものがなくなるわけではないという点です。廃止されるのは、制度の中の「終身制」という仕組みです。
なぜ「廃止」という言葉が広まったのか、順番に見ていきましょう。
これまでの成年後見は、一度始めると、原則として本人が亡くなるまで終われませんでした。この「終わりのない仕組み」を、ここでは終身制と呼びます。
改正で見直されるのは、まさにこの部分です。保護が必要な状態でなくなれば、後見を終われるようにする——それが今回の改正の柱のひとつです。
つまり「廃止」と言われているものの正体は、制度の消滅ではなく、終身制の廃止なのです。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人に代わって、財産の管理や契約などをサポートする制度です。
成年後見人は、本人に代わって預貯金や不動産を管理したり、介護施設の契約を結んだりします。判断能力が下がるとこうした手続きを一人で行うのが難しくなるため、それを支えるのが制度の役目です。
2026年の法改正で見直しは入りますが、判断能力が不十分な人を支えるという制度の役割は、これからも続きます。「制度がまるごと消える」わけではありません。
支える必要がある人がいる以上、制度がなくなることはない、と考えておきましょう。
終身制の廃止を理解するには、これまで何が問題だったのかを知っておくとわかりやすくなります。
「終われない」ことが、どんな負担を生んでいたのかを見ていきましょう。
成年後見を使うきっかけは、「親の不動産を売りたい」「認知症の相続人がいて遺産分割ができない」といった、特定の手続きであることが少なくありません。
たとえば実家を売るために後見を始めても、売却が終わったあとも後見は続き、毎年、家庭裁判所への報告が必要になります。
ところが、その目的が済んでも、後見は原則として途中でやめられませんでした。一度始めると、医師の診断で障害や症状の改善が認められ、家庭裁判所で後見開始審判の取消(民法10条)が認められない限り、亡くなるまで後見が続くとされていたからです。
「用事は終わったのに、後見だけがずっと残る」という状態が、負担として重く受け止められてきました。
後見が続く間は、家庭裁判所への年1回程度の報告や財産の管理を続ける必要があります。専門職が後見人の場合は、その間の報酬も発生し続けるため、終わりの見えない負担になりがちでした。
後見人に弁護士や司法書士などの専門職が選ばれると、その人への報酬が毎年発生します。
報酬は本人の財産から支払われ、後見が続く限りかかり続けます。終身制のもとでは、この費用が本人の存命中ずっと続くことになり、家族にとって見過ごせない負担になっていました。
報酬の額は、本人の財産や後見人の仕事内容に応じて家庭裁判所が決めます。事前に総額を見通しにくいことも、不安の一因でした。
後見人への報酬の相場や、誰が払うのかは、次の記事でくわしく解説しています。
(確認用:成年後見人の費用はいくら?相場・誰が払うか・払えない時の対処法)
手続きが煩雑で時間がかかること、家族が希望しても後見人に選ばれるとは限らないことも、制度が敬遠される理由でした。
とくに財産が多い場合などは、家族ではなく弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることがあります。家族が後見人になれる条件は、次の記事でくわしく解説しています。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「意思疎通ができない父の実家を売って施設費用に充てたいが、成年後見は手続きが煩雑であまり勧められないと言われ、どうすればよいか迷っている」という相談が寄せられています。
こうした「使いにくさ」への声が積み重なったことが、今回の改正の出発点になっています。

ここからは、改正で成年後見がどう変わるのかを見ていきます。
キーワードは、必要なときに必要なだけ使える「終われる後見」です。
改正の柱は、成年後見を「本人にとって必要な範囲で利用できる制度」へと改めることです。
これまでのように「始めたら本人が亡くなるまで続く」のではなく、必要なときに利用し、保護の必要がなくなれば利用を終えられる方向で見直されます。利用する期間や目的をあらかじめ定めて使える形も想定されており、目的を果たせば区切りをつけやすくなります。
これが「終われる後見」と呼ばれる理由であり、終身制の廃止の中身です。
改正後は、後見人にすべてを任せるのではなく、本人にとって必要な範囲で制度を利用できるようになります。
本人にできることは本人が行い、支援が必要な部分だけをサポートするという考え方です。たとえば「預金の払い戻しや施設費用の支払いだけを支援する」というように、必要な範囲に絞って使えるようになる見込みです。
現在の法定後見には、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
改正では、このうち後見と保佐を廃止し、補助に一本化する内容が定められました。判断能力に応じて型を選ぶのではなく、必要な支援を個別に組み立てる形へと変わっていきます。
読者としては、「判断能力が重いか軽いか」で型が決まるのではなく、「どの手続きに支援が要るか」で決まる制度に近づく、とイメージするとわかりやすいでしょう。補助がどんな制度かは、次の記事が参考になります。
ここで注意したいのが、改正はすでに成立しているものの、まだ施行されていないという点です。
なお、成年後見制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」は、令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。後見と保佐の制度を廃止して補助に一本化し、本人にとって必要な範囲で利用できるようにする内容です。
ただし、成年後見制度の見直しに関する部分の施行は、公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされ、現時点ではまだ施行前です。
そのため、いま成年後見を利用する場合は、これまでどおりの現行制度にもとづくことになります。

「では、いま利用している後見は、改正を待たずに終わらせられるのか」——気になるところです。
現行制度でできることを確認しておきましょう。
現行制度でも、本人の判断能力が回復し、後見が必要な状態でなくなれば、家庭裁判所が後見開始の審判を取り消し、後見は終了します。
ただし、判断能力が回復したという医師の診断など、客観的な裏づけが必要です。「家族がもう十分だと思う」だけでは終了できません。
もっとも、認知症のように回復が見込みにくいケースも多く、実際に判断能力の回復を理由に終了できる場面は限られるのが実情です。
一方で、「目的が済んだから」という理由だけでは、現行制度では後見を終わらせられません。
遺産分割や不動産の売却といった当初の目的を果たしても、本人に判断能力が不十分な状態が続いていれば、後見も続きます。ここが、これまで「終われない」と言われてきた部分であり、改正で見直される点です。
あらかじめ本人が元気なうちに契約しておく「任意後見」であれば、状況によっては利用をやめられる場合があります。
任意後見監督人が選ばれる前なら、公証人の認証を受けた書面で契約を解除できます。監督人が選ばれた後は、正当な理由があり家庭裁判所の許可を得たときに解除できます。任意後見の仕組みは、次の記事でくわしく解説しています。
改正で「終われる後見」に変わるなら、「今は始めずに待ったほうがよいのか」と考える人もいるでしょう。判断のヒントを整理します。
親の預金口座が凍結されて生活費が引き出せない、認知症の相続人がいて遺産分割が進まない——こうした事情があるなら、改正を待つ余裕はありません。
たとえば、施設の入居費用や入院費を親の口座から払いたいのに、口座が凍結されていて動かせない、というのは典型的な場面です。
改正はまだ施行前で、いつから新しい制度が使えるかも確定していません。今まさに困っているなら、現行制度で後見を始めるのが現実的です。認知症の相続人がいる場合の進め方は、次の記事が参考になります。
なお、成年後見人の選任手続きは、自分で進めることもできます。流れや必要書類は、次の記事で確認できます。
差し迫った手続きがなく、しばらく様子を見られる状況なら、改正後の制度を待つ選択肢もあります。
ただし、施行時期は公布から2年6か月以内とされているだけで、具体的な時期は確定していません。「待つ」という判断をするなら、その間の生活や財産管理に支障が出ないかを、あわせて考えておく必要があります。
判断能力は少しずつ下がっていくことも多く、「待っているうちに、備えの契約もできなくなっていた」ということが起こり得ます。待つ場合も、次に説明する家族信託や任意後見といった備えを、早めに検討しておくと安心です。
すでに後見を利用している人が、改正でただちに影響を受けるわけではありません。
改正後にどのような経過措置が設けられるかは、施行に向けて明らかになっていきます。現時点では、今の後見はこれまでどおり続くと考え、最新の情報を確認しながら備えておくとよいでしょう。
気になる場合は、担当の後見人や、後見を担当している家庭裁判所に、改正後の扱いを確認しておくと安心です。
「終わりのある形で財産管理に備えたい」という人には、成年後見以外の選択肢もあります。
代表的な家族信託と任意後見を見ていきましょう。
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理を任せる仕組みです。
元気なうちに契約しておけば、判断能力が下がった後も、あらかじめ決めた形で財産を管理・活用できます。不動産の管理や、将来の相続まで見据えた財産の承継を柔軟に設計したい人に向いています。
たとえば、親が持つアパートを子が管理し、家賃収入を親の生活費や施設費に充てる、といった使い方ができます。どんなケースで必要になるかは、次の記事が参考になります。
任意後見は、本人が元気なうちに「判断能力が下がったら、この人に、こういう支援をしてもらう」と決めておく制度です。
誰に何を任せるかを自分で選べるのが特徴で、支援してほしい相手や内容をあらかじめ決めておきたい人に向いています。
元気なうちに「この財産はこう使ってほしい」という希望を、契約の形で残しておける点が安心につながります。
家族信託や任意後見は、判断能力が下がる前に準備しておく必要があります。
すでに判断能力が低下している場合は、これらは使えず、現行の成年後見に頼ることになります。元気なうちに備えるなら家族信託や任意後見、判断能力が下がった後なら成年後見、という大まかな使い分けを押さえておきましょう。
判断能力が下がってから「家族信託にしておけばよかった」と思っても、契約はできません。備えを考えるなら、早めに動くことが肝心です。
最後に、成年後見制度の廃止についてよく寄せられる疑問に答えます。
今利用している後見が、改正によってすぐに終わったり、なくなったりするわけではありません。
改正はまだ施行前で、施行後の経過措置もこれから明らかになります。当面は現行のまま続くと考え、家庭裁判所や後見人からの案内を確認しておきましょう。後見人による財産管理や、家庭裁判所への定期的な報告も、これまでどおり続きます。
「いつでも自由にやめられる」という制度ではありません。
改正後も、後見を終わらせるには「保護の必要がなくなった」と家庭裁判所が判断することが前提です。本人の状況に応じて終われるようになる、という点が、これまでとの大きな違いです。
「不要になったら自動的に終わる」わけではなく、家庭裁判所の関与は残る、と理解しておきましょう。
施行は、公布から2年6か月以内とされています。
具体的な施行日は確定していないため、「◯年から」と断定はできません。制度の利用を検討している場合は、施行時期の最新情報を確認しながら進めるのが安心です。
「成年後見制度 廃止」といっても、制度そのものがなくなるわけではありません。廃止されるのは、一度始めると本人が亡くなるまで終われなかった「終身制」の部分です。
2026年に成立した改正で、保護が必要な状態でなくなれば後見を終われるようになり、必要な期間だけ使える「終われる後見」へと変わります。ただし施行はこれからで、今はまだ現行制度にもとづく点に注意が必要です。
今すぐ支援が必要か、改正を待てるか、家族信託や任意後見で備えるか——判断は家庭の事情によって変わります。
親の口座が凍結された、認知症の相続人がいて手続きが進まない、後見を始めるべきか迷っているといったときは、選択を誤ると生活や財産管理に支障が出ることもあります。
そうしたときは、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースでは今すぐ後見が必要か、改正を待てるか、家族信託などの備えが向いているかを確認しておきましょう。早めに動くことで、選べる手段が広がります。

関東エリアを中心に、個人だけでなく企業の顧問弁護士や法務トラブルにも広く対応する。裁判所から破産管財人に選任された実績を多数持ち、自己破産や任意整理で200件以上、刑事事件で300件以上の取扱経験を有する。相続分野においては、遺産分割や遺言書作成、相続放棄など様々な案件に取り組み、遺言執行者の業務にも対応可能。複雑な問題に対しても状況に応じた迅速かつ丁寧な対応を心掛け、依頼者の権利と今後の生活を守るために尽力する。登録番号39331(東京弁護士会)