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遺言書(自筆証書遺言)の保管制度とは?メリットや手続きの流れ、注意点を解説

遺言書を作成しても、相続人に発見されなかったり、改ざんされたりしてしまっては意味がありません。そこで、自分で作成した遺言書を法務局に保管できる制度が2020年から始まりました。この記事では、自筆証書遺言書保管制度の内容やメリット、注意点などについて詳しく解説します。

自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言書保管制度とは、自身で作成した遺言書(自筆証書遺言)を法務局に保管する制度です。

遺言書には、自身で作成する自筆証書遺言と、公証人役場で作成する公正証書遺言とがあります。自筆証書遺言は、自分だけで作成でき、費用もかからないため、手軽に作成できるメリットがあります。

一方で、自筆証書遺言は、自宅で保管されることが多く、相続人などに発見されなかったり、紛失や改ざんのリスクがあります。

このようなリスクを避けるために、自筆証書遺言書保管制度が2020年から始まりました。

自筆証書遺言書保管制度のメリット

遺言書の紛失や改ざんのリスクがない

自筆証書遺言書保管制度では、法務局が遺言書を保管するため、遺言書を紛失するおそれがありません。

また、相続人などに遺言書を改ざんされたり、隠されたりするおそれもないため、遺言書にまつわる争いを避けることにも繋がります。

遺言書の形式面での不備をチェックできる

自筆証書遺言書保管制度を利用する際、遺言書の形式面の不備がないかを法務局にチェックしてもらえます。 自筆証書遺言には、有効に成立するための要件が厳しく定められています。例えば、遺言者の署名押印がなかったり、日付が書かれていなかったりすると、それだけで遺言書が無効になってしまいます。

法務局で遺言書の形式面のチェックを受けることで、形式の不備により遺言書が無効になることを防ぐことができます。

検認手続きが不要になる

自筆証書遺言書保管制度を利用しない場合、通常は、相続開始後に検認という手続きが必要になります。検認は、遺言書の偽造や変造を防止するために、相続人に対して遺言の存在を知らせ、家庭裁判所で相続人の立ち合いのもとに遺言書の形状、日付、署名、内容などを確認する手続きです。

自筆証書遺言書保管制度を利用すると、検認手続きが不要になります。

遺言書の存在を相続人に通知してもらえる

自筆証書遺言書保管制度を利用すると、相続開始後に、遺言書が法務局に保管されていることを相続人などに通知してもらえます。 遺言書を自宅に保管したまま、相続人に発見してもらえない事態を避けられます。

通知には2種類あります。遺言者が遺言を預けるときに指定した人への通知(指定者通知)と、相続人が遺言を閲覧などした際になされる他の相続人への通知(関係遺言書保管通知)です。

指定者通知は、遺言者が任意に3名まで指定できます。自筆証書遺言書保管制度は戸籍システムと連携しており、戸籍を通じて遺言者の死亡が確認された場合に、指定された人に対して通知がなされます。

関係遺言書保管通知は、指定者通知の有無にかかわらず、相続人の誰かが遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の取得を行った際に、他の相続人に対して遺言書の存在が通知されます。

相続人が全国の法務局で遺言書を閲覧できる

法務局で保管された遺言書は、スキャナーで読み取られて、画像情報として法務局のデータベースにも保管されます。そのため、遠隔地に住む相続人でも、遺言書の原本を預けた法務局に赴く必要はなく、自宅近隣の法務局で遺言書の中身を閲覧できます。

また、遺言書の原本は、相続開始後にも返却されず、代わりに遺言書の画像情報を印刷した証明書が発行されます。この証明書も全国の法務局で発行できるため、相続手続きがよりスムーズになります。

被相続人が遺言書を法務局に保管する手続き

遺言者が遺言書を法務局に保管する流れは、次のとおりです。

  1. 自筆証書遺言を作成する
  2. 保管の申請をする法務局を決める
  3. 申請書を作成する
  4. 保管の申請の予約をする
  5. 保管の申請をする

自筆証書遺言を作成する

自筆証書遺言は、次の要件を満たす必要があります。

  • 遺言者の全文、日付、氏名を遺言者が自署し、押印する。
  • 日付は正確に記載する。(「令和○年○月吉日」は不可)
  • 財産目録はパソコンで作成したり、通帳などのコピーを添付したりすることも可能だが、全てのページに署名押印する。
  • 訂正や加筆する場合には、その場所が分かるように示した上で、訂正・加筆した旨を記載して署名し、訂正・加筆した部分に押印する。
  • 用紙はA4サイズで、余白を確保する。(上部5mm、下部10mm、左20mm,右5mm)
  • 用紙の片面のみに記載する。
  • 各ページの余白内に番号を記載する。
  • ホチキスなどでとじない。

関連記事:遺言書(自筆証書遺言)の書き方は?自分で作成するための例文・見本付きで詳しく解説

保管の申請をする法務局を決める

保管の申請ができるのは、次のいずれかの法務局です。

  • 遺言者の住所地
  • 遺言者の本籍地
  • 遺言者が所有する不動産の所有地

申請書を作成する

申請書は、法務局の窓口で入手するか、法務省のホームページでダウンロードできます

保管の申請の予約をする

保管の申請には予約が必要です。予約は、専用ホームページか、法務局への電話、または法務局の窓口で行えます。

保管の申請をする

予約した日時に、遺言者本人が法務局へ直接行く必要があります。郵送はできません。

必要書類

遺言書の保管の申請に必要な書類は次のとおりです。

  • 遺言書
  • 保管申請書
  • 添付書類(本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写しなど)
  • 顔写真付きの本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書、旅券など)

保管の申請に必要な費用

遺言書の保管の申請に必要な費用は、遺言書1通につき3900円です。必要な費用分の収入印紙を購入し、手数料納付用紙に貼る必要があります。

相続人が相続開始後にできる手続き

遺言書が法務局に預けられているか確認する

被相続人が法務局に遺言書を預けて、通知先の相続人を登録した場合、相続開始後に遺言書の存在が相続人に通知されます。しかし、通知先が登録されていない場合には、相続人が遺言書の存在を知る機会がありません。そこで、相続人は、法務局に対して、遺言書が保管されているか確認することができます。

相続人の誰かが遺言書の保管の有無を取得すると、遺言者が通知先に指定した人がいる場合に、その指定された人に通知がなされます。

手続きの流れは次のとおりです。

  1. 確認を行う法務局を決める
  2. 交付請求書を作成する
  3. 交付請求の予約をする(郵送による場合を除く)
  4. 交付請求をする

遺言書の保管の確認は、全国どこの法務局でも可能です。郵送でも可能です。

必要書類は次のとおりです。必要な費用は、証明書1通につき800円です。

  • 交付請求書
  • 遺言者が死亡したことを確認できる書類(戸籍謄本など)
  • 請求者の住民票の写し
  • 遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本
  • 顔写真付きの本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

遺言書情報証明書を取得する

遺言書を法務局に預けている場合、遺言書の原本は相続が開始しても返却されません。その代わりに相続人は遺言書情報証明書を取得できます。遺言書情報証明書は、法務局で保管されている遺言書の画像情報が印刷されており、遺言書の内容を証明できる書類です。遺言書の原本の代わりとして相続手続きに使用できます。

相続人の誰かが遺言書情報証明書を取得すると、他のすべての相続人に対して、遺言書が保管されていることが通知されます。

手続きの流れは次のとおりです。

  1. 確認を行う法務局を決める
  2. 交付請求書を作成する
  3. 交付請求の予約をする(郵送による場合を除く)
  4. 交付請求をする

遺言書情報証明書の取得は、全国どこの法務局でも可能です。郵送でも可能です。

必要書類は次のとおりです。必要な費用は、証明書1通につき800円です。

  • 交付請求書
  • 遺言者が死亡したことを確認できる書類(戸籍謄本など)
  • 請求者の住民票の写し
  • 遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本
  • 顔写真付きの本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

遺言書を閲覧する

遺言書の内容の確認をするには、遺言書情報証明書を取得する他に、法務局で遺言書を閲覧する方法もあります。

遺言書の閲覧には、遺言書の原本を見る方法と、遺言書の画像情報をモニターで見る方法の2つがあります。原本の閲覧は、原本を保管している法務局のみで行えますが、画像情報のモニター閲覧は全国の法務局で可能です。

相続人の誰かが遺言書を閲覧すると、他のすべての相続人に対して遺言書が保管されている旨の通知がなされます。また、遺言者が通知先を指定していた場合には、その指定先にも通知がなされます。

手続きの流れは次のとおりです。

  1. 原本閲覧かモニター閲覧かを決めて、閲覧の請求をする法務局を決める
  2. 閲覧請求書を作成する
  3. 閲覧請求の予約をする
  4. 閲覧請求をする

必要書類は次のとおりです。

  • 遺言者が死亡したことを確認できる書類(戸籍謄本など)
  • 請求者の住民票の写し
  • 遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本
  • 上記3つの書類の代わりに法定相続情報一覧図を用いることも可能
  • 顔写真付きの本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

必要な費用は、モニター閲覧が1回につき1400円、原本閲覧が1回につき1700円です。

自筆証書遺言書保管制度の注意点

本人が法務局へ行かなければならない

自筆証書遺言書保管制度を利用して、遺言を法務局に預けるためには、遺言者本人が法務局へ行かなければなりません。郵送も不可です。

遺言者本人が、何らかの事情により法務局へ行けない場合には、自筆証書遺言書保管制度は利用できないので注意が必要です。

遺言内容の有効性は確認してもらえない

自筆証書遺言書保管制度では、遺言書の形式面の不備がないかを法務局にチェックしてもらえますが、遺言書の内容の有効性までは確認してもらえません。そのため、自筆証書遺言書保管制度を利用したとしても、遺言書の内容が無効であるとして争いになる可能性はあります。

遺言書の内容の有効性を確認したい場合には、自筆証書遺言を作成する際に弁護士に相談したり、公正証書遺言を作成したりしましょう。

公正証書遺言書との違い

遺言書には、自筆証書遺言の他に、公正証書遺言もあります。自筆証書遺言書保管制度を利用した場合と、公正証書遺言を作成する場合とで、どちらを選べばよいのでしょうか。

まず、自筆証書遺言は、本人が手書きで作成することが前提です。一方で、公正証書遺言は、公証人役場で公証人に作成してもらえるので、本人が手書きできない場合でも作成できます。本人が手書きできない場合には、公正証書遺言を選ぶ方がよいでしょう。

また、自筆証書遺言書保管制度を利用するためには、遺言者本人が法務局へ行く必要があります。一方で、公正証書遺言を作成する際には、公証人に自宅などに出張してもらうことも可能です。遺言者の体調などの理由で法務局へ行くことが難しい場合には、公正証書遺言を作成した方がよいでしょう。

次に、自筆証書遺言書保管制度では、遺言の形式面の不備をチェックしてもらえるのに対し、公正証書遺言の場合には、内容面の不備も確認した上で公証人が遺言の文案を作成します。遺言書の内容面も確認してもらいたい場合には、公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言の場合でも弁護士に相談するなどの工夫が必要です。

自筆証書遺言書保管制度で特徴的なのが、相続開始後に遺言書の存在を相続人に通知してもらえることです。このような通知制度は、公正証書遺言にはありません。

最後に、費用も異なります。自筆証書遺言書保管制度を利用する場合に比べて、公正証書遺言の作成費用は、遺産の種類や金額などに応じて数万円から十数万円程度と、比較的高額です。また、公正証書遺言の作成には証人2名の立会いが必要ですが、証人を自分で手配できない場合には、公証役場や弁護士に手配してもらうことになり、証人1人当たり1万円程度の費用が発生します。費用を安く済ませたい場合には、自筆証書遺言書保管制度を利用した方がよいでしょう。

まとめ

自筆証書遺言書保管制度を利用することで、自筆証書遺言を手軽に安価に作成しつつ、紛失や改ざんのリスクを避けることができます。遺言書は、相続争いを防いで、相続手続きをスムーズに進めるために重要な役割を果たします。ぜひ元気なうちに、遺言書の作成を検討してみてください。遺言書の作成方法がわからない場合には、一度弁護士にご相談ください。

大和幸四郎弁護士の画像
この記事の監修者
監修者の名前
大和幸四郎弁護士
監修者の所属事務所
武雄法律事務所

地元密着型の弁護士です。生前整理アドバイザーの資格を有しており、終活のカウンセリングも行っています。相続問題に25年以上携わってきました。元家事調停委員です。司法書士や税理士などの専門家と連携し、ワンストップで対応が可能です。

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