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認知症の相続人がいる場合の相続手続き、対処法や事前対策を解説

認知症の相続人は、その進行度によっては自ら遺産分割に参加することができないことがあります。この場合、成年後見人を代理で遺産分割に参加させる必要があるなど、相続手続きが複雑になるので注意が必要です。この記事では、認知症の相続人がいる場合の相続手続きについて、対処法や事前対策を解説します。

認知症の相続人も遺産分割協議などに参加できるのか?

認知症の相続人でも、遺産を相続すること自体はできます。

しかし、遺産分割の方法を決定する手続き(=遺産分割協議・調停・審判)には、意思能力がなければ自ら参加することができません。意思能力がない相続人が参加して行われた遺産分割は無効です(民法3条の2)。

判断能力が欠けているのが通常の状態の相続人は、家庭裁判所に後見開始の申立てを行い、選任された成年後見人を代理人として遺産分割に参加させる必要があります

認知症の相続人がいる場合の相続手続き

認知症の相続人がいる場合の相続手続きの流れは、基本的には通常の相続と同じです。ただし、認知症によって判断能力が欠けているのが通常の状態の相続人は、、遺産分割に先立って家庭裁判所に後見開始の申立てを行う必要があります。

遺言書がある場合の相続手続き

被相続人の遺言書が存在する場合は、原則として遺言書のとおりに遺産を分けることになります

遺言書は、被相続人の遺品から見つかる場合があるほか、公証役場や法務局で保管されている場合もあります。公証役場および法務局にも照会を行い、遺言書を見落とさないようにしましょう。

公正証書遺言および法務局で保管されている自筆証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所の検認を受ける必要があります(民法1004条1項)。遺言書を発見次第、遅滞なく検認の申立てを行いましょう。

遺言書の検認については、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:遺言書の検認とは?手続きや期限、検認が終わったらすることも解説

なお、民法の方式に従っていない場合や、遺言能力がない状態で作成された場合などには、遺言書が無効になることがあります。遺言無効を主張する際には、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

遺言書がない場合の相続手続き

遺言書がない場合は、遺産分割協議によって遺産の分け方を決めます

協議がまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員の仲介によって解決を目指します。調停も不成立になった場合は、家庭裁判所が審判によって遺産分割の方法を決定します。

認知症によって意思能力を失った相続人は、遺産分割協議・調停・審判に自ら参加することができません。

意思能力があるかどうかは、遺産分割によって生じる結果を適切に判断できるかどうかによって決まります。認知症が進行している場合は、意思能力がない状態に至っている可能性が高いので注意が必要です。

意思能力がない相続人については、遺産分割協議に先立って、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てましょう。家庭裁判所によって選任された成年後見人は、意思能力がない相続人を代理して遺産分割に参加できます。

後見開始の手続きについては、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:成年後見人の選任手続き、自分でできる?流れや必要書類などを解説

成年後見制度を利用する際の注意点

認知症の相続人がいる状態で、遺産分割を行うために成年後見制度を利用する際には、以下の各点に注意が必要です。

  1. 推薦した人が成年後見人に選任されるとは限らない
  2. 専門家が成年後見人に就任する場合は、月額報酬が発生する
  3. 他の相続人が成年後見人である場合は、特別代理人の選任が必要

推薦した人が成年後見人に選任されるとは限らない

相続人について後見開始の審判を申し立てる際には、成年後見人の候補者を推薦することができます。

ただし、推薦した人がそのまま成年後見人に選任されるとは限りません。家庭裁判所は、本人の利益のために財産の管理を行う適任者を、総合的な観点から選出します。

成年後見人の候補者として親族を推薦するケースがよく見られますが、実際には司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人に選任されることが多いです。

専門家が成年後見人に就任する場合は、月額報酬が発生する

司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人に就任する場合は、成年後見人が家庭裁判所に対して報酬の付与を請求するのが一般的です。
この場合、家庭裁判所は成年後見人および被後見人の資力その他の事情を考慮して、相当な報酬を成年後見人に与えます(民法862条)。

成年後見人報酬の目安額は、各地の家裁によって異なります。例えば、大阪家庭裁判所の場合、管理する財産の金額に応じて以下の目安額となっています。

成年後見人が管理する財産の額 成年後見人報酬の目安額(月額)
1000万円以下 2万円
1000万円超5000万円以下 3万円~4万円
5000万円超 5万円~6万円

出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」(大阪家庭裁判所、令和4年2月)
上記の月額報酬は、遺産分割が完了した後も、本人が死亡するか成年後見が終了するまで発生します。その結果、成年後見人報酬の負担が重くなる場合があるので注意が必要です。

他の相続人が成年後見人である場合は、特別代理人の選任が必要

親族が成年後見人に選任された場合には、成年後見人が本人とともに相続人となることもあります。この場合、成年後見人と本人の利益が相反するため、成年後見人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法860条、826条)。

二度手間にならないように、成年後見人の候補者には相続人ではない人を推薦しましょう。

相続人が認知症になる前に行うべき対策

相続人が認知症になってしまうと、遺産相続の手続きが複雑になる可能性があります。相続手続きの負担を軽減するためには、以下の対策を検討しましょう。

  1. 生前贈与をする
  2. 家族信託(民事信託)を通じて財産を与える
  3. 任意後見契約を締結する

生前贈与をする

財産を与えたい相続人に対して、あらかじめ生前贈与を行っておけば、相続の際に分割すべき遺産が少なくなるため、相続トラブルのリスクが軽減されます。早い段階から財産を活用してもらえる点も大きなメリットです。

贈与税や遺留分侵害に注意しながら、計画的に生前贈与を行いましょう。

家族信託(民事信託)を通じて財産を与える

生前贈与と同じく、親族に財産を預けて(信託譲渡して)管理してもらう「家族信託(民事信託)」も、生前の相続対策として有力な選択肢です。

家族信託の場合、生前贈与よりも多額の費用がかかるのが難点ですが、財産の活用方法を細かく指定できるなどのメリットがあります。信託契約を適切に作り込むことが大切なので、弁護士のサポートを受けましょう。

「家族信託(民事信託)」については、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:民事信託とは? 家族信託との違いや費用、相続対策としての活用例などをわかりやすく解説

任意後見契約を締結する

相続人が任意後見契約を締結すれば、認知症などで判断能力が低下した際に、契約の締結や遺産分割などを代理する任意後見人をあらかじめ指定できます。

成年後見人は家庭裁判所の判断で人選を行いますが、任意後見人は本人自ら選べる点が大きなメリットです。

任意後見受任者には、信頼できる親族のほか、職業倫理に基づく適切な行動が期待できる弁護士などが適任です。任意後見契約の締結を検討する際には、弁護士にご相談ください。

任意後見制度については、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:任意後見制度とは?成年後見との違い・費用・メリット・デメリットなどを解説

まとめ

認知症によって判断能力を失った相続人は、自ら遺産分割を行うことができないので、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てなければなりません。

相続人が将来認知症になるリスクに備えるなら、生前贈与や家族信託を活用する方法や、任意後見契約を締結する方法などが考えられます。

認知症の相続人がいるケースを含めて、遺産相続の手続きやトラブルの解決は弁護士に依頼するのが安心です。相続人・相続財産の調査、遺産分割協議・調停・審判への対応・後見開始の申立ての代理など、幅広くアドバイスやサポートを受けられます。

遺産相続についてお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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この記事の監修者
監修者の名前
太田貴久弁護士
監修者の所属事務所
西川・太田法律事務所

札幌弁護士会所属。相続トラブルは親戚との間で発生します。親戚関係は事件解決後も続くことから、私は、将来を見据えた解決方法を探ることを心がけています。紛争が深刻化する前にお早めにご相談ください。

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