

成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」の2種類に分かれ、法定後見はさらに「成年後見」「保佐」「補助」の3種類に分かれます。成年後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所が適任者を選任する一方、任意後見人は本人が選び、あらかじめ任意後見契約を締結します。

成年後見人は本人の預貯金を管理したり、施設入所契約を結んだり、家庭裁判所へ定期的に報告したりする立場です。ですが、成年後見人になるために、特別な資格は必要ありません。本人の家族であっても、成年後見人に選ばれることがあります。
成年後見制度は本人の財産や生活を守るための制度であるため、候補者に書いた人がそのまま選ばれる制度ではなく、家庭裁判所が本人にとって適任かどうかを判断します。
現行の法定後見制度では、成年後見人のほか、本人の判断能力の程度に応じて保佐人や補助人が選ばれる場合もあります。
なお、成年後見制度については、2026年(令和8年)6月17日に、民法等の一部を改正する法律が成立し、後見・保佐を廃止して補助に一本化することなどが盛り込まれました。
ただし施行は一部を除き公布から2年6か月以内とされ、現時点ではまだ施行前のため、この記事では現行制度を前提に説明します。
判断能力の程度に応じて選ばれる保佐人・補助人について、くわしくは次の記事で解説しています。

成年後見人になれる人にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴や注意点が異なります。
まず「家族や親族」がなる場合、本人の生活歴や性格、希望、家族関係をよく理解している点が大きなメリットです。しかし、親族間で対立があったり財産管理に不安があったりすると、選ばれにくいという側面もあります。
確実な手続きを望むなら「弁護士や司法書士などの専門職」が有力です。法律手続きや財産管理、不動産・相続対応に強いのが特徴ですが、報酬が発生するため本人の財産状況との兼ね合いを考える必要があります。
また、日々の暮らしのサポートを重視するなら「社会福祉士などの福祉専門職」がおすすめで、生活支援や福祉サービスとの連携に強みを発揮します。ただし、財産管理が複雑な場合は、他の専門職と連携して動くケースもあります。
このほか、地域での見守りや継続的な支援に適した「法人・市民後見人」という選択肢もあり、これらは本人の財産の規模や、必要とされる支援内容に応じて適否が判断されることになります。
ポイントは「誰でも自由に成年後見人になれる」ではなく、「欠格事由に当たらず、本人のために適切に職務を行える人が選ばれる」という点です。家族だから選ばれる、専門家だから選ばれるという単純な基準ではなく、本人の状況に合わせて総合的に判断されます。
成年後見人の職務は、大きく分けると本人の財産を管理することと、本人の生活・医療・介護に必要な契約や手続きを整えることです。後者は「身上保護」と呼ばれますが、成年後見人が本人の介護を直接行うという意味ではありません。
家族が候補者になる場合も、日常の介護者としての役割と、成年後見人としての法的な役割を分けて考えることが大切です。
選任の手続きや必要書類など、実際の申立ての進め方は次の記事でくわしく解説しています。
成年後見人には、本人の財産管理や契約などを任せることになるため、法律上、成年後見人になれない人が定められています。これを欠格事由といいます。
家族であっても、欠格事由に当たる場合は成年後見人になることができません。また、欠格事由に当たらなくても、家庭裁判所が本人の利益を守るうえで適任ではないと判断すれば、候補者以外の人が選ばれることがあります。
民法上、成年後見人になれない人としては、未成年者、家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を免ぜられた人、破産者、本人に対して訴訟をした人やその配偶者・直系血族、行方不明者などが挙げられます。申立書に候補者として記載する前に、これらに該当しないかを確認しておきましょう。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「父の債務の連帯保証人どうしである母子は利益相反にあたり、そもそも成年後見人の欠格者になるのか知りたい」という相談が寄せられています。
区分 | 成年後見人になれるか | 理由・確認ポイント |
|---|---|---|
未成年の子や孫 | なれない | 民法上の欠格事由に当たる |
破産者 | なれない | 本人の財産を管理する立場として不適格とされる |
本人と訴訟をしている親族 | なれない | 本人との利害対立があるため |
親族間で対立している家族 | 欠格ではないが選ばれにくい | 本人の利益より親族間の争いが優先されるおそれがある |
遠方に住む家族 | 欠格ではないが慎重に判断される | 本人の生活支援や定期報告を実際に行えるかが問題になる |
欠格事由に当たるかどうかと、家庭裁判所に選ばれるかどうかは別の問題です。たとえば、候補者が欠格事由に当たらない家族であっても、本人の預貯金を使い込んだ疑いがある、相続をめぐって家族間で対立している、本人の財産が多く管理が複雑であるといった事情があると、専門職が選ばれる可能性があります。
成年後見人は家族が候補者になることもできますが、実際には専門職などの親族以外が選ばれる割合が高くなっています。
最高裁判所が公表している令和7年1月から12月までの成年後見関係事件の概況では、成年後見人等と本人との関係について、親族は16.4%、親族以外は83.6%でした。
「みんなの法律相談」には、「重度の認知症の父の土地を売るために親族の一人が成年後見人になりたいが、預貯金が多く持ち家もあるため専門家が選ばれるかもしれないと不安を抱えている」という相談が寄せられています。

親族が選任されたケースの内訳を見ると、最も多いのは「子」で3,647人(52.0%)と、全体の半数以上を占めています。次いで「その他親族」が1,329人(18.9%)、「兄弟姉妹」が1,053人(15.0%)と続きます。
一方で、「配偶者」は523人(7.5%)、「親」は462人(6.6%)にとどまっています。

親族以外の専門職や法人が選任されたケースでは、士業や専門資格を持つ人が上位を占めています。
最も多いのは「司法書士」で11,966人(33.5%)、次いで「弁護士」が8,903人(24.9%)、「社会福祉士」が7,280人(20.4%)となっており、この3つの資格だけで全体の約8割を占める結果となりました。
これ以降は、「その他法人」が2,933人(8.2%)、「行政書士」が2,235人(6.3%)、「社会福祉協議会」が1,615人(4.5%)と続きます。
また、割合としてはわずかですが、「市民後見人」が390人(1.1%)、「社会保険労務士」が214人(0.6%)、「精神保健福祉士」が79人(0.2%)、「その他個人」が60人(0.2%)、そして「税理士」が43人(0.1%)選任されているケースもあります。

なお、最高裁判所の概況で示されている数値は、成年後見人だけでなく、保佐人・補助人などを含む「成年後見人等」と本人との関係を整理したものです。
家庭裁判所は、本人の心身の状態、財産の内容、候補者の職業・経歴、本人との利害関係、親族の意向などを考慮して成年後見人を選びます。
そのため、申立書に候補者を記載しても、家庭裁判所が別の人を成年後見人に選ぶことがあります。
また、誰を成年後見人に選ぶかという判断について、候補者に選ばれなかったことだけを理由に不服を申し立てることは難しいため、申立て前に候補者の適性を整理しておくことが大切です。
家族が成年後見人に選ばれるかどうかは、家族であること自体よりも、本人の利益を守れるかどうかで判断されます。
家庭裁判所は、候補者と本人の関係だけでなく、本人の財産状況、親族間の対立の有無、候補者の財産管理能力、本人の生活支援を継続できるかなどを確認します。本人にとって身近で信頼できる家族であっても、財産管理や親族関係に不安があると、専門職が選ばれる可能性があります。
家族が選ばれやすいケース | 家族が選ばれにくいケース |
|---|---|
本人と候補者の関係が良好で、本人の生活状況をよく把握している | 候補者と本人の間に金銭トラブルや訴訟などの利害対立がある |
他の親族も候補者におおむね賛成している | 相続や財産管理をめぐって親族間で強い対立がある |
預貯金や収支を適切に記録し、家庭裁判所へ報告できる | 過去に本人の財産を不透明に使った疑いがある |
本人の財産が比較的シンプルで、管理内容も複雑ではない | 不動産売却、事業承継、遺産分割など専門的な判断が必要 |
本人の近くに住んでおり、日常的な見守りや関係機関との連絡ができる | 候補者が遠方に住んでおり、実際の支援や報告が難しい |
たとえば、本人の預貯金を日常的に管理してきた子どもが、通帳や領収書をきちんと残しており、他の親族からも信頼されている場合には、家族が成年後見人に選ばれやすいと考えられます。
一方で、本人の財産を誰が使ったのか分からない、兄弟姉妹の間で疑い合っている、本人名義の不動産を売るかどうかで争っているといった場合には、中立的な専門職を選ぶほうが本人の利益を守りやすいと判断されることがあります。
家庭裁判所は、家族を成年後見人に選びつつ、専門職の成年後見監督人を付けることもあります。また、家族と専門職を複数の成年後見人として選び、それぞれの役割を分ける場合もあります。
家族が本人の生活面を支え、専門職が財産管理や法律手続きを補う形にすると、本人の利益を守りながら家族の希望にも配慮しやすくなります。候補者欄には、なぜその家族が本人の支援に適しているのかを具体的に書くことが重要です。
なお、2026年6月17日に成立した改正法では、後見・保佐を廃止して補助に一本化し、本人に必要な範囲で代理権・同意権を個別に定めるオーダーメード型の支援などが盛り込まれました。
制度が変われば、家族と専門職の関わり方や支援範囲の考え方にも影響する可能性があります。実際に申立てを検討する時点では、家庭裁判所や法務省の最新情報を確認しましょう。
親族が成年後見人に就任することと、司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家(第三者)が成年後見人に就任することには、それぞれメリット・デメリットがあります。
実務上は、特に家族が成年後見人に就任することのデメリットが懸念された結果、家族以外の第三者が成年後見人に選任されるケースが多くなっています。
親族が成年後見人に就任することの主なメリットは、成年後見人報酬を節約できる点です。
成年後見人は、家庭裁判所に対して相当の報酬を付与するように請求できます(民法862条)。成年後見人報酬は、本人の財産から支払わなければなりません。
「みんなの法律相談」にも、「交通事故で高次脳機能障害になった母の後見で、弁護士が就いたあと親族に引き継いだ場合、親族後見人にも報酬が必要になるのか知りたい」という相談が寄せられています。
専門家など第三者が成年後見人に就任する場合、報酬付与の申立てが行われた結果、例えば、大阪家庭裁判所では、月額2万円から6万円が標準的な報酬額のめやすとなっています(報酬基準は各地の家裁によって異なります)。
出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」(大阪家庭裁判所、令和4年2月)
これに対して、親族が成年後見人に就任する場合は、金銭的な見返りを求めず、報酬付与の申立てを行わないケースが多いです。この場合、成年後見人報酬を支払わずに済むため、本人の経済的負担が軽減されます。
その一方で、本人の親族である成年後見人は、本人の財産を自己の財産と混同したり、勝手に使い込んだりするケースもあります。
成年後見人は、本人のために善良な管理者の注意をもって財産を管理しなければなりません(民法869条、644条)。
しかし、成年後見人が本人の親族である場合は、預かった資産と自身の資産とを分けて管理する意識が薄い場合があり、その結果、不適切な財産管理が行われることがあります。そのため、本人の利益が害されるおそれがあります。
本人の親族ではない専門家が成年後見人に就任すれば、財産の混同や使い込みなど、親族が成年後見人になる場合のリスクを最小限に抑えられます。
司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家は、職業倫理に基づいて成年後見人としての職務を行います。また、親族も第三者である成年後見人の職務を厳しく監視する傾向にあるため、財産の混同や使い込みなどが行われるリスクは低いといえるでしょう。
その反面、親族以外の専門家が成年後見人に就任する際には、成年後見人報酬を支払う必要があります。
報酬額の目安は、各地の家裁によって異なります。例えば、大阪家庭裁判所の場合、管理する財産の金額に応じて以下の目安額となっています。
成年後見人が管理する財産の額 | 成年後見人報酬の目安額(月額) |
1000万円以下 | 2万円 |
1000万円超5000万円以下 | 3万円~4万円 |
5000万円超 | 5万円~6万円 |
出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」(大阪家庭裁判所、令和4年2月)
成年後見人にかかる費用や報酬の相場、誰が払うのかは、次の記事でくわしく解説しています。
成年後見人は、辞任または解任によって変更できる場合があります。
成年後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任できます(民法844条)。正当な理由として認められるのは、病気・高齢・遠隔地の転居などです。
辞任する成年後見人は遅滞なく、新たな成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)。
また、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所が成年後見人を解任できます(民法846条)。
「不正な行為」とは、成年後見人が被後見人の財産を横領するなど違法な行為または社会的にみて非難されるべき行為、「著しい不行跡」とは、品行がはなはだしく悪いことです。また、「その他その任務に適しない事由」とは、成年後見人の権限を濫用したり、不適当な方法で財産を管理したり、任務を怠ったりした場合です。
後見監督人・成年被後見人(本人)・本人の親族・検察官は解任の申立てができるほか、家庭裁判所の職権で成年後見人が解任されることもあります。
成年後見人が解任された場合は、成年被後見人(本人)・本人の親族その他の利害関係人の請求によりまたは職権で、家庭裁判所が新たな成年後見人を選任します(民法843条2項)。
現行制度では、成年後見は本人が亡くなるまで続くことも多く、途中で柔軟に終了・変更しにくいという課題が指摘されてきました。この点も、2026年6月に成立した改正法で見直しが図られた背景の一つです(施行前)。
成年後見人には本人の家族も選ばれることがありますが、実際には8割程度のケースで、家族以外の専門家が成年後見人に選ばれています。
成年後見人は家庭裁判所が適任者を選任するので、家族が成年後見人になることを希望していても、そのとおりに選ばれるとは限りません。司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家が選任されることも想定しておきましょう。
誰を成年後見人の候補者にするか、家族が選ばれるように申立てをどう進めるか、専門家が選ばれた場合の報酬をどう見込むかは、状況によって判断が分かれます。
候補者選びや申立ての進め方を誤ると、希望どおりの人が選ばれなかったり、想定外の負担が続いたりすることもあります。
まずは弁護士への初回相談で、自身のケースで誰を候補者にできるか、家族が選ばれやすくするために何を準備すればよいかを確認しておきましょう。

慶應義塾大学法学部卒業、一橋大学大学院修了。2009年に弁護士登録後、千葉県弁護士会松戸支部の消費者問題委員会委員長などを歴任した。相続分野では、遺産分割や遺留分侵害額請求、遺言、相続放棄など多岐にわたる相談に対応。依頼者の要望や意思を尊重し、円滑かつ円満な解決に向けた丁寧で親身なサポートを信条としている。心の支えになれるよう誠実に向き合う姿勢が特徴。不動産を含む複雑な相続問題も、法的観点から的確にアドバイスを行う。登録番号40119(千葉県弁護士会)