「補助人」とは、判断能力が低下した人(=被補助人)のために、契約などの法律行為をサポートする人です。家庭裁判所の審判によって選任されます。
認知症などによって判断能力が低下すると、詐欺被害に遭いやすくなる、財産を浪費してしまうなどのリスクが生じます。
補助人が選任されると、本人による法律行為の一部については補助人の同意が必要となります。補助人が契約締結などの是非を適切に判断すれば、本人を詐欺や浪費などのリスクから守ることができます。
補助人には、家庭裁判所の審判によって「同意権」「取消権」「代理権」が与えられます。
家庭裁判所が補助人を選任する際には、補助人に対して、以下の行為の一部に関する同意権を付与できます(民法17条1項、13条1項)。同意権の対象とされた行為については、本人は単独で行うことができず、補助人の同意を得なければなりません。
また、補助人の同意が必要であるにもかかわらず、同意を得ずになされた行為については、本人または補助人が取り消すことができます(=取消権。民法17条4項)。
同意権・取消権の対象とする具体的な行為については、申立ての内容や本人の判断能力の状態などを踏まえて、家庭裁判所が個別に決定します。
補助人には、家庭裁判所の審判により、特定の法律行為について代理権が付与されることがあります(民法876条の9)。代理権の対象とされた法律行為は、補助人が本人の代わりに行うことができます。
補助人が代理人として、代理権の範囲内で行った法律行為の効果は本人に帰属します(民法99条1項)。
ただし、補助人に代理権が付与されるケースは例外的であり、同意権および取消権の付与にとどまるケースが多いです。
補助人と同じく、判断能力の低下した本人をサポートする人に当たるのが「後見人(成年後見人)」と「保佐人」です。後見・保佐・補助の3つは「法定後見」と総称されています。
補助人と後見人・保佐人の間には、主に以下の2点について違いがあります。
後見人・保佐人・補助人が選任されるためには、いずれも本人の判断能力の低下が要件とされていますが、その程度が以下のとおり異なります。
区分 | 本人の判断能力の程度 | 説明 |
---|---|---|
後見 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況(民法7条) | 支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない |
保佐 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分(民法11条) | 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない |
補助 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分(民法15条1項) | 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある |
判断能力低下の進行度としては、後見がもっとも進んでおり、保佐は中間で、補助はもっとも軽いです。初期段階の認知症患者などが、補助開始の対象となります。
後見・保佐・補助では本人の判断能力の程度に差があることに伴い、後見人・保佐人・補助人の権限の内容や範囲についても、以下のとおり差が設けられています。
区分 | 権限の内容 |
---|---|
後見人 | 法律行為全般に関する代理権・取消権(日常生活に関する行為を除く) |
保佐人 | 民法13条1項各号所定の行為に関する同意権・取消権、家庭裁判所によって指定された法律行為に関する代理権 |
補助人 | 民法13条1項各号所定の行為のうち、家庭裁判所によって指定されたものに関する同意権・取消権、家庭裁判所によって指定された法律行為に関する代理権 |
※民法13条1項各号所定の行為については、「 同意権・取消権」の1~10を参照
権限の範囲は、後見人がもっとも幅広く、保佐人は中間的で、補助人はもっとも狭くなっています。
特に補助人の権限については、本人の判断能力の状態などに応じて、家庭裁判所が個別に設定するようになっているのが大きな特徴です。
補助人の選任手続きは、以下の流れで進行します。
補助人の選任は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申し立てます(=補助開始の申立て)。申立てができるのは、以下のいずれかに当たる者です。
補助開始の申立てに必要な費用は、以下の通りです。
補助開始の申立てに必要な書類は、裁判所ウェブサイトをご参照ください。
家庭裁判所が補助開始の申立てを受理した後、家庭裁判所調査官や参与員などが、本人や補助人候補者との面談を行います。面談では、申立ての実情や本人の意見などの聴き取りが行われます。
さらに必要に応じて、本人の判断能力に関する鑑定などを実施し、補助開始にふさわしい状態であるかを家庭裁判所が審査します。
補助の要件が満たされていると判断した場合、家庭裁判所は補助開始の審判を行って、補助人を選任します。
補助人の候補者は申立て時に推薦できますが、家庭裁判所の判断で適任者を選任するため、推薦した人が選ばれるとは限りません。
補助が開始された場合には、家庭裁判所が東京法務局に対して登記を嘱託します。嘱託後1週間程度で、補助の登記が完了します。
補助人は家庭裁判所に対して、本人(被補助人)の財産の中から相当な報酬を付与するよう請求できます(=報酬付与の申立て。民法876条の10第1項、民法862条)。
代理権が付与されていない補助人の報酬は、月額2万円程度が標準的です。
これに対して、代理権が付与されている補助人の報酬は、管理する財産の額に応じて以下のとおり目安が変わります。
管理する財産の額 | 報酬額の目安 |
1000万円以下 | 月額2万円 |
1000万円超~5000万円以下 | 月額3万円~4万円 |
5000万円超 | 月額5万円~6万円 |
補助人は、判断能力の低下した本人のサポート役です。補助人が適切にサポートを行えば、本人を詐欺や浪費などのリスクから守ることができます。
補助人の権限内容は、家庭裁判所の審判によって柔軟に定められます。たとえば認知症の初期段階で、本人に判断能力が相当程度残っている場合でも、必要な限度に応じて補助人のサポートを受けることが可能です。
ご自身の判断能力の低下を自覚した方や、家族の判断能力が低下してきたと感じている方は、補助開始の申立てをご検討ください。