

財産目録とは、亡くなった方(被相続人)が残した財産を種類ごとに一覧にした書面です。相続では、誰が何を引き継ぐかを決める前に、まず「どんな財産がどれだけあるのか」を整理する必要があります。
決まった書式は法律で定められていません。ノートやパソコンで作ってもかまいませんが、後から誰が見ても分かるように、財産を正確に書き出すことが大切です。
財産目録には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も書きます。
プラスの財産だけを見て「遺産が多い」と思っても、あとから多額の借金が見つかると、相続人が返済を背負うことになりかねません。両方を並べて初めて、相続すべきか放棄すべきかを判断できます。
マイナスの財産の書き漏らしは、判断ミスに直結します。住宅ローンや事業の借入れ、未払いの税金なども忘れずに書き出しましょう。
似た書類と混同しやすいので、役割の違いを整理しておきましょう。
書類 | 役割 |
|---|---|
財産目録 | 財産の中身を一覧にする |
遺産分割協議書 | 誰が何を相続するかを決めて残す |
遺言書 | 本人が生前に分け方を指定する |
財産目録は「何があるか」をまとめるもので、「誰がもらうか」を決めるのは遺産分割協議書や遺言書です。財産目録で全体像を整理してから、分け方を話し合う流れになります。
遺産分割協議書の作り方は、次の記事でひな形とあわせて解説しています。
財産目録は、すべての相続で法律上の作成義務があるわけではありません。ただし、次のような場面では作成が必要だったり、作っておくと手続きがスムーズになります。
生前に遺言書を作るときは、どの財産を誰に渡すかを決めるために、財産目録があると整理しやすくなります。
とくに自筆証書遺言では、財産目録を添付する形でまとめる方法が使えます。書き方には決まったルールがあるため、後ほど「自筆証書遺言に添付するときのルール」でくわしく説明します。
遺言書の書き方は、次の記事も参考になります。
相続人どうしで遺産を分けるときは、財産目録があると「何をどう分けるか」の話し合いが進めやすくなります。
相続放棄を考えるときも、財産目録は重要です。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。この短い期間で、プラスとマイナスのどちらが多いかを見極めるために、財産の一覧が役立ちます。
なお、調査中でも遺産を使ったり処分したりすると、相続を認めたもの(単純承認)とみなされ、放棄できなくなることがあります。財産目録を作る段階では、預貯金の引き出しなどに注意しましょう。
期限の数え方や、間に合わないときの延長については、次の記事でくわしく解説しています。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを進める人のことです。遺言執行者に選ばれた人は、就職後遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付する義務があります(民法1011条)。
相続人から求められたときは、相続人の立会いのもとで作成するか、公証人に作成してもらう必要があります。財産目録の作成を怠ると、任務を果たしていないとして解任される理由にもなります。
遺言執行者の役割や報酬については、次の記事で確認できます。
相続税の申告が必要な場合も、財産の全体像を示す財産目録が土台になります。相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税がかかるかどうかは、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで決まります。この計算にも、財産の合計額を把握する財産目録が欠かせません。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って相続税がゼロになる場合でも、特例を受けるには申告書の提出が必要です。財産目録で全体を把握しておくと、申告が必要かどうかの判断に役立ちます。
話し合いがまとまらず遺産分割調停になったときも、当事者が財産目録(遺産目録)を作って提出するのが一般的です。調停は、調停委員会(裁判官1名・調停委員2名)が間に入って進めます。
正確な財産目録を作るには、まず相続財産調査で「どんな財産があるか」を洗い出す必要があります。ここで漏れがあると、目録も不完全になってしまいます。
主な財産は、次の書類から確認できます。
不動産は、市区町村が発行する名寄帳を取ると、その市区町村内で被相続人が持っていた不動産をまとめて確認できます。預貯金は、各金融機関に残高証明書を請求すると、亡くなった日時点の残高が分かります。残高証明書は、相続人であることを示す戸籍などを添えて請求するのが一般的です。
財産の範囲や調べ方の全体像は、次の記事でくわしく解説しています。
見落としやすいのが、借金とデジタル資産です。
借金は、郵便物の督促状やローンの契約書のほか、信用情報機関に開示請求をすると把握できます。連帯保証人になっていないかも確認しておきましょう。
ネット銀行やネット証券、電子マネー、暗号資産などのデジタル資産は、通帳が手元に残らないため気づかれにくい財産です。スマートフォンやパソコンのメール、アプリから手がかりを探します。
デジタル資産の探し方と注意点は、次の記事が参考になります。
財産の洗い出しができたら、いよいよ財産目録に書いていきます。書式は自由ですが、「後で誰が見てもどの財産か特定できる」ように書くのがポイントです。
ゼロから作るのが不安なときは、無料のテンプレートを使うと簡単です。
裁判所のウェブサイトには、遺産分割調停で使う「遺産目録」の書式(土地・建物・現金預貯金・有価証券など、種類ごと)がWordやExcel、PDFで無料で公開されています。これらを流用しても問題ありません。
出典:「遺産分割調停の申立書」書式のダウンロード(現金,預貯金,株式等遺産目録)
ひな形を参考に、使いやすいものを選べば大丈夫です。項目さえそろっていれば、自分でExcelなどを使って作ってもかまいません。
不動産は、住所(住居表示)ではなく、登記事項証明書に記載された内容で書きます。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積を書き写します。
【土地】所在:東京都◯◯区◯◯一丁目/地番:12番3/地目:宅地/地積:120.50㎡
【建物】所在:東京都◯◯区◯◯一丁目12番地3/家屋番号:12番3/種類:居宅/構造:木造スレート葺2階建/床面積:1階60.00㎡・2階50.00㎡
住所と地番は一致しないことが多いため、登記事項証明書のとおりに書くのがポイントです。
預貯金は、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号・残高を書きます。残高は、いつ時点のものかが分かるように基準日を添えます。
◯◯銀行 ◯◯支店/普通預金/口座番号1234567/残高1,234,567円(令和◯年◯月◯日現在)
手元にある現金も、金額を書いておきます。残高証明書を取っておくと、金額の裏づけになり安心です。
株式や投資信託などの有価証券は、証券会社名・銘柄・数量を書きます。評価額は変動するため、基準日を決めて書きましょう。
生命保険金は、受取人が指定されている場合、その受取人固有の財産で、原則として遺産分割の対象にはなりません。ただし相続税ではみなし相続財産として課税対象になるため、目録には参考として書いておくと整理しやすくなります。
◯◯証券 ◯◯支店/◯◯株式会社 株式 100株
◯◯生命保険/証券番号◯◯◯/死亡保険金1,000万円(受取人:長男◯◯)※みなし相続財産
借金や未払金などのマイナスの財産は、債権者名・残高・基準日を書きます。プラスの財産と区別できるように、負債の欄を分けておくと分かりやすくなります。
◯◯銀行 住宅ローン/残高5,000,000円(令和◯年◯月◯日現在)
◯◯カード 未払残高300,000円
葬式費用は、厳密には被相続人の債務ではありませんが、相続税の計算では控除できます。金額と支払先を控えておくと、あとの申告で役立ちます。

自筆証書遺言に財産目録を添付する場合は、通常の財産目録と違う特別なルールがあります。
2019年1月13日の法改正で、自筆証書遺言に添付する財産目録は、パソコンで作成したり、預貯金通帳のコピーや登記事項証明書を添付する形でもよくなりました。手書きでなくてもかまいません。
ただし、目録の各ページ(両面に記載があるときは両面)に署名し、押印する必要があります。これを忘れると遺言が無効になるおそれがあります。遺言書の本文自体は、これまでどおり全文を自書しなければなりません。
財産目録は、遺言書本文とホチキスで綴じるなど、一体のものとして扱います。あとから修正すると訂正のルールが厳しいため、書き直すほうが確実です。法務局の遺言書保管制度を使うときは、用紙サイズや余白に独自の決まりがあります。
法務局に預ける保管制度のしくみは、次の記事で確認できます。
財産目録は、作り方しだいで相続人どうしのトラブルの火種にもなります。次の3点に気をつけましょう。
財産目録に書き漏れがあると、その財産を除いたまま遺産分割協議が進んでしまいます。あとから財産が見つかると、話し合いをやり直すことになりかねません。漏れを防ぐには、名寄帳や残高証明書で裏づけを取り、財産をもれなく洗い出すことが大切です。
不動産や株式は、評価の仕方によって金額が変わります。財産目録に評価額を書くときは、どの基準で評価したか(いつ時点か・どの評価方法か)を明記しておきましょう。
一方が高く、もう一方が低く見積もると、不公平だと不信感が生まれます。評価額に争いがあるときは、専門家による鑑定が行われることもあります。
不動産の評価額の調べ方は、次の記事でくわしく解説しています。
財産を管理している相続人が、財産目録や取引の記録を見せてくれないことがあります。
「みんなの法律相談」にも、「同居していた家族が親の財産を管理しており、財産目録や生前の金銭の出入りを明らかにするよう求めても応じてもらえない」という相談が寄せられています。
このようなときは、預貯金の取引履歴を金融機関に開示請求する、家庭裁判所の手続きを使うなどの対応が考えられます。自分だけで解決が難しいと感じたら、早めに弁護士へ相談しましょう。
財産が多い、種類が複雑、相続人どうしで対立しているといった場合は、専門家に頼るのも選択肢です。
次のような場合は、弁護士への相談・依頼が向いています。
弁護士は、財産調査から財産目録の作成、遺産分割の交渉や調停まで一貫して任せられます。もめごとの代理交渉ができるのは弁護士だけです。
専門家にはそれぞれ得意分野があります。目的に合わせて選びましょう。
相談先 | 向いている場面 |
|---|---|
弁護士 | 相続人間の争い・交渉・調停 |
税理士 | 相続税の申告・節税の検討 |
司法書士 | 不動産の相続登記 |
相続税の申告が必要なら税理士、不動産の名義変更(相続登記)が中心なら司法書士が適しています。争いがある場合や、何から手をつければよいか分からない場合は、まず弁護士に相談すると全体を見通せます。
財産目録は、多くの手続きで法律上の作成義務があるわけではありません。財産目録がなくても、遺産分割協議や相続手続き自体は進められます。
ただし、財産の全体像が分からないままだと、分け方の判断や相続税の計算を誤りやすくなります。相続放棄の判断や相続税の申告がある場合は、作っておくほうが安全です。
費用は、依頼先や財産の規模、依頼する範囲によって大きく変わるため、一律には決まっていません。財産調査だけを頼む場合と、遺産分割の交渉まで含める場合とでも変わります。
正確な金額は、依頼を検討している事務所の初回相談で見積もりを確認するのが確実です。多くの弁護士事務所が、費用の目安を相談時に説明しています。
必要です。財産は、預貯金の増減や不動産の売買、証券の売却などで変わっていきます。
一度作っただけで放置すると、実際の財産と食い違ってしまいます。とくに遺言書に添付する財産目録は、内容がずれていると分け方の指定が実現できなくなることもあるため、定期的に見直しておきましょう。
財産目録は、亡くなった方の財産を、プラスもマイナスも含めて一覧にする書面です。決まった書式はありませんが、後で誰が見てもどの財産か分かるように、不動産は登記のとおり、預貯金は金融機関名や口座番号まで正確に書くのがポイントです。
記載漏れや評価額のあいまいさは、遺産分割のやり直しやトラブルの原因になります。名寄帳や残高証明書で裏づけを取り、もれなく作成しましょう。
財産が複雑なとき、相続人どうしで対立しているとき、相続放棄や相続税の期限が迫っているときは、判断を誤ると不利になりかねません。
そうしたときは、まずは弁護士への初回相談で、財産の範囲や目録の作り方、進め方に問題がないかを確認しておきましょう。財産調査から遺産分割の交渉までまとめて相談できます。

依頼者の話を十分に聞き、経験した事実の中に隠された解決のポイントを見つけ出すことを重視。費用と時間の面で最も効率的な解決を目指し、一人ひとりに寄り添ってサポートする。相続分野では生前対策からサポートし、遺産分割協議、遺言書作成、遺留分減殺請求、不動産相続など幅広い問題に対応。初めて弁護士に相談する人にもわかりやすい説明を心がけている。登録番号25873(神奈川県弁護士会)