


名寄帳(なよせちょう)とは、市区町村が作る「固定資産課税台帳」を所有者ごとにまとめたもので、特定の市区町村内における特定の名義の不動産(土地・家屋)を一覧で確認できる書類です。
「名寄せ」とは、同じ名義のものを寄せ集めることをいいます。名寄帳は、特定の名義の不動産を集めて一覧にした書類となります。
相続では、被相続人(亡くなった方)がどこにどんな不動産を持っているかを、漏れがないよう調査する必要があります。遺産分割や相続登記、相続税の申告を進めるためには、相続人の確定と並行して、相続財産の確定のため、被相続人名義の財産を調査する必要があります。名寄帳は、そのための重要な手がかりになります。
名寄帳には、特定の名義の不動産について、主に次の情報が記載されています。
複数の不動産が1枚(1冊)の書類にまとめて記載され、課税明細書に載らない非課税の土地も記載されている場合が多い(自治体により扱いは異なります)ことが、名寄帳の大きな利点です。
名寄帳の他にも不動産に関する公的書類はいくつかあり、混同しやすいので整理しておきましょう。
書類 | 何がわかるか | 主な使いどころ |
名寄帳 | 特定の市区町村内の所有不動産の一覧(非課税の土地も記載されている場合が多い) | 相続財産となる不動産の調査 |
課税明細書 | 固定資産税の課税対象となる不動産と税額(納税通知書に同封) | 税額及びその根拠の確認 |
登記事項証明書 | 不動産の所有者や抵当権などの権利関係(法務局) | 権利関係の確認 |
評価証明書 | 不動産の固定資産税評価額 | 固定資産税評価額の確認 |
おおまかに言うと、名寄帳は「市区町村内に持っている不動産の確認」、評価証明書は「固定資産税評価額の確認」、登記事項証明書は「権利関係の確認」のために利用されることが多いと言えます。相続財産の調査では、相続人が把握していない被相続人名義の不動産がないか確認するため、自宅がある市区町村や心当たりのある市区町村の名寄帳を取得しておいた方が良いでしょう。
相続財産の調査において、名寄帳の取得を検討した方が良いと思われる代表的な3つの場面を見ていきましょう。
固定資産税の課税対象とならない私道や墓地、一定の山林などは、課税明細書には記載されません。そのため、これらの土地の存在について相続人がきちんと把握していない場合があります。
特に、自宅前の道路が実は「私道」で、近所の人と持分を共有している、というケースは多くあります。こうした私道は税金がかからないことが多く、生前は本人も意識していないことがあります。名義変更や売却のときに初めて気づくと、それについて相続人全員と再度遺産分割協議をしなければならなくなる可能性があります。
多くの自治体では非課税の土地についても名寄帳に記載されているため、被相続人が私道や山林等の非課税の土地を持っている可能性がある場合には、名寄帳を取得し確認した方が良いでしょう。
亡くなった方が、他の人と共有している不動産を持っていることもあります。マンションの敷地や、開発分譲地の私道、親から受け継いだ田畑などで、共有になっていることは珍しくありません。名寄帳には共有名義の不動産も記載されるので、共有名義の不動産が存在する可能性がある場合は、名寄帳を取得し確認した方が良いでしょう。
ただし、共有名義の不動産は、単独名義のものとは別に管理されている場合があります。交付申請の際に「共有分も含めて」と伝え、共有分の名寄帳も出してもらいましょう(扱いは自治体によって異なります)。
共有名義の不動産は、売却等の処分をする際に、他の共有者全員の協力が必要になります。誰と何を共有しているかを早めに把握しておくことで、売却等に関する判断がしやすくなります。
「亡くなった親の不動産を調べたいが、納税通知書(課税明細書)が見つからない」というときも、名寄帳が役立ちます。相続人であれば、課税明細書がなくても、名寄帳を取得することにより、市区町村内の被相続人名義の不動産を確認することができます。
親と離れて暮らしている等の事情により、親の財産の状況がわからない場合でも、名寄帳を取得することにより、特定の市区町村内にある親名義の不動産をまとめて確認することができます。親が住んでいた市区町村や心当たりのある市区町村を調べてみましょう。相続財産の調べ方の全体像は、次の記事も参考になります。

名寄帳は、不動産がある市区町村の役所(東京23区は都税事務所)で取得します。取り方を順に見ていきましょう。
名寄帳を交付申請できるのは、原則として所有者本人、その相続人、委任を受けた代理人などです。相続人が交付申請するときは、自身が相続人であることを示す必要があります。
相続人であれば、他の相続人の協力がなくても単独で交付申請できます。
相続人が名寄帳を交付申請するには、主に次の書類が必要です。自治体によって多少異なるため、事前に自治体に連絡し、必要となる書類を確認しましょう。
窓口では、交付申請書に必要事項を書き、上記の書類を提出して交付申請します。窓口での交付申請であれば、その場で受け取れることが多いです。遠方の場合は郵送でも交付申請でき、その場合は、交付申請書、本人確認書類のコピー、戸籍謄本などの必要書類、手数料分の定額小為替、返信用封筒(切手付き)を同封します。定額小為替は郵便局の窓口で購入できます。
手数料は自治体によって異なり、都税事務所の場合、所有者ごとに300円となります。金額や必要書類は、交付申請先の市区町村に事前に確認しましょう。
東京23区内の不動産の固定資産税は、区役所ではなく都税事務所が扱っています。23区内の不動産の固定資産課税台帳は都税事務所が管理しているので、名寄帳()は、都税事務所に交付申請することとなります。
一方、23区以外の市(八王子市や町田市など)の不動産は、その市の役所で交付申請します。
政令指定都市などでも扱いが異なることがあるので、事前に自治体に確認するようにしましょう。

出典:「固定資産税・都市計画税 各種閲覧・証明の様式 - 東京都主税局」
名寄帳を取得した場合、名寄帳のどの項目を確認すればよいかを押さえておきましょう。相続では、次の点を確認します。
所在・地番により、どこにある不動産かを確認します。また、地目(宅地・畑・山林など)により、土地の種類がわかります。地番は住所表示とは異なりますが、不動産の特定は地番で行われることが多いため、地番を確認することが重要となります。
地積は土地の面積、床面積は建物の各階の床の面積です。相続財産としての評価額を算出したり、時価額を査定したりする上で、不動産の広さは重要な情報となります。
なお、長年測量されていない土地では、登記上の面積と実際に測った面積が異なる場合があります。
固定資産税評価額は、固定資産税等の計算基準となる価格を各自治体が定めたもので、地域によりますが、時価(実勢価格)の7割程が目安と考えられています。課税標準額は、税金を計算するもとになる金額で、特例などで固定資産税評価額より低くなることがあります。
固定資産税評価額は、原則として3年ごとに見直されます(評価替え)。そのため、年度によって金額が変わることがあります。
また、相続税の計算において、土地は路線価などで評価されます。名寄帳に記載された固定資産税評価額とは別の評価方法になります。路線価による評価は専門的な判断が必要となる場合があるため、専門家に相談するのが良いでしょう。土地の評価額の調べ方は、次の記事でくわしく解説しています。
名義の欄で、亡くなった方の単独名義か、他の人との共有名義かを確認できます。共有の場合は、持分割合(何分の何か)を確認しておきましょう。遺産分割においては、被相続人の有する持分が遺産分割の対象になります。
共有名義の場合、売却等の処分において他の共有者の協力が必要になるため、早めに権利関係を把握しておくことが大切です。他の共有者の氏名と住所、持分割合を確認しておきましょう。
名寄帳を取得する際には、いくつか気をつける点があります。取得方法や確認できる情報を間違えないよう、注意点を押さえておきましょう。
固定資産税は、その年の1月1日時点の固定資産課税台帳の記載内容に基づき課されます。名寄帳もその年の1月1日時点の固定資産課税台帳の記載に基づき作成されます。そのため、1月1日以降に売買や分筆があっても、次の年まで、その情報が名寄帳に反映されないことになります。
たとえば、被相続人が亡くなる前に不動産が売却されていたとしても、その年の名寄帳には被相続人が所有者として記載されていることになります。現在の権利関係を確認するためには、名寄帳に記載された不動産に関し、法務局において登記事項証明書を取得した方が良いでしょう。
名寄帳には、その市区町村内にある不動産でなければ記載されません。亡くなった方が複数の市区町村に不動産を持っている場合、それぞれの市区町村に別々に交付申請する必要があります。
どの地域に不動産があるかわからない場合は、通帳の固定資産税の引き落とし、届いた郵便物、権利証(登記識別情報)などが手がかりになります。故郷や以前住んでいた自治体にも不動産を持っている可能性がある場合は、かかる自治体の名寄帳も確認した方が良いでしょう。
亡くなった方が経営していた会社(法人)名義の不動産は、亡くなった方名義の名寄帳には記載されません。
亡くなった方が所有している会社の株式は相続の対象になるところ、株式の価値を認定する上で会社名義の不動産の存在についても把握する必要があります。会社名義の不動産についても、個人とは別に、名寄帳により調査することができます。また、会社名義の不動産など会社の資産状況は、会社の決算報告書などで確認することができるでしょう。
名寄帳を確認し被相続人名義の不動産が判明した場合、それを相続財産として遺産分割の対象にし、どのように分割するのか話し合います。
存在が判明した被相続人名義の不動産につき、相続財産として、分け方を具体的に検討します。分け方には、主に、現物分割(相続人の1人が不動産を相続し他の相続人は別の財産を相続する、又は、不動産を分筆して相続人間で分け合う)、代償分割(相続人の1人が不動産を相続し、他の相続人に代償金を支払う)、換価分割(不動産を売却して金員を分け合う)があります。
名寄帳によって判明した土地の所在・地番、種類、広さ、固定資産税評価額をもとに、さらに土地を詳しく調査し、どのような分割方法が適切か、良く検討する必要があります。不動産の分け方は、次の記事でくわしく解説しています。
遺産を管理している相続人が、他の相続人に相続財産をきちんと開示してくれない場合があります。相続人であれば被相続人名義の名寄帳を単独で取得することができるため、他の相続人に頼らず被相続人名義の不動産を調査することができます。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「亡くなった祖母の財産を親族の一人が管理していて、どんな不動産があるのかまったく把握できず、勝手に自分名義にして売却しようとしている」という相談が寄せられています。名寄帳などで自身でも財産を確認しておくことが、こうしたトラブルへの備えになります。
相続財産を隠されたり勝手に使われたりしている疑いがある場合の証拠の集め方や対処方法については、次の記事も参考になります。
見落とされがちな私道の持分などの存在が名寄帳により判明した場合、かかる持分も遺産分割協議書にきちんと記載しておきましょう。遺産分割協議書に記載されていない不動産は、遺産分割が未了の財産として、売却等の処分のためには相続人全員の協力が必要となってしまいます。
時が経過することにより、さらなる相続が生じ、より権利関係が複雑になることもあります。持分などについても早めに遺産分割を完了させておくことが、新たな紛争の防止になります。
窓口で交付申請すれば、その場で受け取れることが多いです。郵送の場合は、往復の郵送に時間がかかるため、受け取りまで1〜2週間程度を見込んでおくと良いでしょう。書類の不備があるとさらに時間がかかるので、必要書類については、自治体に事前に連絡し確認しておくと良いでしょう。
これまでは、市区町村ごとに名寄帳を取得する方法しかありませんでした。2026年2月からは、法務局で全国の不動産の登記情報をまとめて検索できる「所有不動産記録証明制度」が始まりました。
相続登記の義務化に関連して設けられた制度で、把握していない不動産の見落とし防止に役立ちます。市区町村単位の名寄帳と、全国を横断して確認できる所有不動産記録証明制度を合わせて利用することにより、不動産の見落としをできる限り防ぐことができるでしょう。
自治体が定める保存期間の範囲内であれば、過去の年度分の名寄帳も取得できる場合が多いです。過去に売却された不動産や、以前の状況を確認したいときに役立ちます。必要な年度分が取れるかは、自治体に確認しましょう。
名寄帳とは、特定の市区町村における特定の名義の不動産を一覧にした書類です。課税明細書に記載されない非課税の私道なども確認できる場合が多く、相続財産の見落としを防ぐことが期待されます。
交付申請は不動産がある市区町村(東京23区は都税事務所)ごとに行い、相続人であれば単独で交付申請できます。その年の1月1日時点の固定資産課税台帳の記載に基づき作成される点や、法人名義の不動産は別に交付申請しなければならない点には注意しましょう。
名寄帳により判明した被相続人名義の不動産は、分割方法を検討する必要があります。また、特定の相続人が相続財産を開示してくれない場合でも、名寄帳により、一人の相続人が単独で相続財産を調査することができます。特に、見落としがちな私道の持分などがないか、名寄帳により確認し、遺産分割協議書に記載もれが生じないよう気をつけましょう。
被相続人が多くの不動産を所有している、共有不動産や私道の持分を有している可能性がある、特定の相続人が相続財産を明らかにしてくれない——そのような場合には、きちんとした相続財産の調査が必要になります。
相続に関し判断に迷う場合には、まずは弁護士に相談し、あなたのケースにおける問題についての解決方法を相談してみましょう。

東京弁護士会所属。相続問題は複雑な法理論を必要とし、また、事実関係が複雑であり、収集すべき証拠も多くなる傾向にあります。当事務所では、手間を惜しまず綿密な計画を事前に立て、迅速に行動することをモットーとしています。