


相続財産清算人とは、相続人がいるかどうかわからない場合や、相続人全員が相続放棄をして1人も相続人がいなくなった場合に、相続財産の管理・処分などをする人のことです。
被相続人の債権者や、特別縁故者として認められた人がいる場合、財産の換金や、預貯金の解約などをして、必要な支払いをするという役割もあります。
また、相続人全員が相続放棄すると、相続人はいなくなりますが、相続放棄をしたときに占有していた相続財産の管理は引き続き元相続人が行わなくてはなりません。このような場合に、相続財産清算人を選任することで、相続財産の管理を任せられます。
そもそも相続人がいない場合に遺産が最終的にどうなるのかは、次の記事でくわしく解説しています。
相続財産清算人の制度は、2023年4月1日に施行された民法改正より前には、相続財産管理人という名称でした。相続財産清算人の役割や権限は、民法改正前の相続財産管理人とほとんど同じですが、相続人や債権者を捜索するための公告期間が改正により短縮されたという違いがあります。
そして、民法改正により、新たに相続財産の管理を行う相続財産清算人という制度ができました。
ここでは、2023年4月1日に施行された民法改正で新たに創設された相続財産管理人と、相続財産清算人との違いを説明します。
まず、選任の申立てができる時期についてです。相続財産管理人の選任は、相続開始後、次の場合を除いていつでも申し立てることができます。
一方で、相続財産清算人の選任は、相続人の有無が明らかでないときに限られます。
次に、それぞれの役割と権限についてです。相続財産管理人は、相続財産の管理のみを行います。一方で、相続財産清算人は、相続財産の管理の他に、相続人や債権者などを捜索するための公告を行い、債権者などがいる場合には弁済を行うという違いがあります。
次のようなケースでは、相続財産清算人の選任の申立てが必要です。
被相続人の債権者が債権を回収したい場合、相続人がいれば、相続人に請求できます。しかし、相続人がいない場合には、請求する相手が誰もいません。
そこで、債権者が相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
相続放棄をした人は、相続放棄をしたときに占有していた相続財産がある場合には、相続放棄の後も引き続き管理する責任を負います。
しかし、引き取り手のいない財産を管理し続けることは負担ですし、空き家のように残しておくよりも処分した方がよい財産もあります。
このような場合には、相続財産の管理や処分する権限のある相続財産清算人を申し立てることで、相続財産の管理や処分を任せられます。
特別縁故者とは、誰も相続人がいない場合に、特別に相続財産を引き継ぐ権利が発生した人のことです。たとえば、被相続人と法律上結婚していないが、事実上夫婦と同じように一緒に生活していた人や、法律上養子縁組の手続きはしていないが、事実上の養子関係にある人などが、特別縁故者にあたる場合があります。
特別縁故者として相続財産を受け取るには、まず相続財産清算人の選任を申し立てて、相続財産清算人が相続人を捜索するための公告期間が終了したあと3か月以内に、特別縁故者としての相続財産分与の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

相続財産清算人は、家庭裁判所への申立てによって選ばれます。申立てから選任までは、おおまかに次の5ステップで進みます。
それぞれのステップを、詳しく見ていきましょう。
相続財産清算人の選任は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
申立てができるのは、利害関係人です。具体的には、被相続人の債権者、特別縁故者の条件を満たす人、相続放棄をした人などが含まれます。
清算人に指名したい人がいれば、その人を候補者として申立書に記載できます。
指名したい人が特にいなければ、裁判所に候補者を選んでもらえます。
裁判所は、被相続人と候補者との利害関係の有無などを考慮して、候補者がふさわしいかを判断します。
裁判所の判断により、弁護士などの専門家が選任されることもあります。
申立てを受けた家庭裁判所は、申立人に対して上記以外の書類の照会や面談などを行い、相続財産清算人を選任するかどうかを判断します。
選任が認められると、申立人や候補者に審判書謄本が送付されます。
申立てから選任までの期間は、およそ1か月が目安です。
相続財産清算人の選任手続きをする際は、以下の書類が必要です。
被相続人の配偶者や子ども(孫)、祖父母、きょうだい(おい・めい)など、相続人になれる人で、既に亡くなっている人がいれば、その人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本も必要です。
裁判所の判断により、他の書類も必要となる場合がありますので、申し立てる裁判所に確認しましょう。
相続財産清算人が選任された後の流れは、次のとおりです。
相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は、相続人に対して期間内に相続権を主張するよう公告します。この期間は、6か月以上とされています。
この公告により相続人が現れた場合には、相続人が財産を相続し、相続財産清算人の手続きは終了します。
民法改正前には、相続権催告の公告は、債権者・受遺者への請求申出の催告の後に行われていました。しかし、期間短縮のため、民法改正により、相続権催告の公告は相続財産清算人の選任と同時に行われるようになりました。
相続権主張の催告の公告がなされたら、相続財産清算人は、被相続人の債権者と受遺者に対して請求を申し出るよう公告しなければなりません。この期間は2か月以上とされています。
被相続人の債権者や受遺者(遺言により相続財産を譲り受けた人)は、この期間内に申し出をしなければ、相続財産から弁済を受けることができません。
相続債権者・受遺者への請求申出の催告が終了したら、相続財産清算人は、相続財産からまず債権者に弁済をします。その後、受遺者に弁済します。
この時点で相続財産が尽きた場合には、相続財産清算人の手続きは終了します。
相続権主張の催告をしても相続人が現れなかった場合に、家庭裁判所は、特別縁故者に対して残りの相続財産の全部または一部を与えることができます。
特別縁故者が相続財産を受け取るには、相続権主張の催告の公告が終了したあと3か月以内に、特別縁故者としての相続財産分与の審判を申し立てる必要があります。
ここまでの手続きで残った相続財産の中に、不動産などの共有持分がある場合には、その持分は他の共有者のものになります。
以上の手続きで残った相続財産は、国庫に帰属します。
相続財産清算人を選任する際は、以下のような費用がかかります。
相続財産清算人には、原則として相続財産の中から報酬が支払われます。しかし、相続財産が少なく報酬をまかなえないと見込まれる場合は、申立人が報酬に相当する額を「予納金」としてあらかじめ家庭裁判所に納めます。予納金は、清算人の報酬だけでなく、財産の管理・処分にかかる費用の原資にもなります。
予納金の額はケースごとに家庭裁判所が決めるため一律ではありませんが、実務上は数十万円から100万円程度に収まることが多いとされています。特に、被相続人に不動産があり、その解体・管理・登記に費用がかかる事案では100万円前後になりやすく、老朽化した家屋や売れにくい土地などがあると、それを上回ることもあります。
弁護士ドットコム「みんなの法律相談」で、相続財産清算人・相続財産管理人の予納金に関する相談170件を見ると、金額として挙げられた回答は「100万円」が最も多く(言及36件)、次いで50万円・30万円などが続きます。多くは数十万円〜100万円程度に収まる一方で、取り壊しが必要な家屋や処分の難しい土地があると、200万〜300万円といった例もみられます。
(2021年4月1日~2026年7月8日に投稿された相談。弁護士ドットコム「みんなの法律相談」相続分野の相談30,302件のうち、相続財産清算人・管理人×予納金の相談170件)
予納金は、清算人(弁護士などの専門家)の報酬に加え、相続財産の管理・処分にかかる費用を見込んで決められます。現金や預貯金が中心で処分の手間が少ない事案では低くなりやすく、取り壊しが必要な古い家や売れにくい土地など、処分に費用と時間がかかる財産があるほど高くなる傾向があります。
正確な額は財産の内容を確認したうえで家庭裁判所が判断するため、申立ての前に、管轄の家庭裁判所や依頼する弁護士に見通しを確認しておくとよいでしょう。
予納金は、清算手続きの中で清算人の報酬や実費にあてられます。手続きが終わった時点で使われずに残った分があれば、申立人に返還されます。反対に、当初の予納金では報酬や処分費用が足りない場合には、追加の予納を求められることもあります。
どの程度返還されるか、追加が必要かは事案によって異なるため、清算人や裁判所に確認しながら進めることになります。
【データで見る】相続財産清算人・管理人の相談は549件、最多は「手続き」と「費用」
弁護士ドットコム「みんなの法律相談」に寄せられた相続分野の相談30,302件のうち、相続財産清算人・相続財産管理人に関する相談は549件ありました。内容別では、選任の手続き・申立ての流れに関する相談が309件と最も多く、次いで相続放棄後の家・空き家など財産の管理に関する相談が250件、予納金・費用に関する相談が124件と続きます。相続人がいない・不存在に関する相談は34件、特別縁故者に関する相談は16件でした。(2021年4月1日~2026年7月8日に投稿された相談)
ここでは、実際に寄せられた相談をもとに、特に多い疑問を紹介します。
相続放棄をした人は、放棄したときに占有していた財産があると、その後も管理する責任を負います。引き取り手のない不動産などを管理し続ける負担を避けたい場合は、相続財産清算人の選任を申し立てることで、財産の管理や処分を任せられます。ただし選任には予納金がかかるため、費用と負担を見比べて検討しましょう。
弁護士ドットコムにも「予納金は多くて100万円ほどと思っているが、それ以上かかることはあるのか」「清算人は予納金を払う前と後、どちらのタイミングで決まるのか」といった相談も寄せられています。
相続財産清算人の報酬は相続財産から支払われますが、財産が少なく報酬をまかなえない場合は、申立人が報酬相当額を「予納金」として裁判所に納めます。金額はケースにより異なるため、事前に申立先の裁判所へ確認するのが確実です。
予納金は申立人が負担するもので、法テラスの費用立替の対象にはならないのが原則です。そのため、予納金を用意できないと選任手続きが進まず、申立て自体を見送らざるを得ないこともあります。
とくに、相続放棄をした人が管理義務から逃れる目的で申立てを考える場合、財産の処分費用まで含めた予納金を負担してまで選任を求めるのは、現実には難しいケースもあります。
このようなときは、債権者など他の利害関係人による申立てを待つ、あるいは専門家に費用の見通しや代替手段を相談するといった方法を検討することになります。
たとえば、相続放棄した共有名義の老朽家屋(ゴミ屋敷)を処分したいものの、予納金を超える処分費用が追加でかかって払えない場合にどうなるか、という相談も寄せられています。
予納金の額は遺産の状況によって決まります。取り壊し費用がかかる古い家など、処分に費用がかかる財産があると、裁判所が金額を決めるまで時間がかかることがあります。申立人がその額を用意できるかどうかで進み方が変わるため、担当の弁護士や裁判所と早めに見通しを確認しておくとよいでしょう。
特別縁故者として財産を受け取るには、まず相続財産清算人の選任を申し立て、相続人を捜索する公告期間が終わったあと3か月以内に、家庭裁判所へ特別縁故者としての相続財産分与の審判を申し立てる必要があります。生計を同じくしていた、療養看護に努めたなどの事情を示す資料の準備も求められます。
実際、内縁の配偶者の親族など「法定相続人がいない人の財産を受け継ぎたい」という立場から、清算人の申立てと特別縁故者の手続きをあわせて検討する相談もあります。
申立て自体は自分でもできますが、被相続人の出生から死亡までの戸籍など、必要書類を集める手間がかかります。予納金の見通しや相続人の有無の確定など判断に迷う点が多い場合は、弁護士などの専門家に依頼すれば、予納金のおおよその金額を提示してもらうこともできます。
相続手続き全体でかかる費用の相場や、費用を抑える方法は、次の記事でくわしく解説しています。
相続財産清算人の選任の申立ては自分でもできますが、戸籍など必要書類を集める手間がかかります。予納金が発生するのか気になる人もいるでしょう。
自分で申立てをすることが不安な場合は、弁護士などの専門家に依頼することを検討してもよいでしょう。財産の内容などから、予納金がどのくらい発生するのか、おおよその金額を提示してもらうこともできます。

旭川弁護士会所属。相続の問題は、専門的な知識が必要なことも多くあります。こじれてしまうと、長い時間を要したり、親族関係がうまくいかなくなったりすることもあります。心配なことがあったら先延ばしにせず、まずはお気軽にご相談ください。