

直系尊属とは、父母・祖父母・曽祖父母など、自分より前の世代の直系の血族のことです。かんたんに言えば、自分から見て「上の世代にまっすぐつながる血のつながりのある親族」を指します。
相続や税金の手続きでよく登場する言葉で、とくに「子がいない人の相続」で誰が相続人になるかを考えるときや、贈与税の特例が使えるかを判断するときに関わってきます。まずは読み方と意味、そして誰が当てはまるのかを押さえておきましょう。
直系尊属は「ちょっけいそんぞく」と読みます。ふだんの会話ではあまり使いませんが、相続の書類や法律の条文ではよく出てくる言葉です。
言葉を2つに分けると理解しやすくなります。「直系」は、親子・祖父母と孫のように世代がまっすぐつながる関係を指します。これに対して、兄弟姉妹やおじ・おばのように枝分かれする関係は「傍系(ぼうけい)」といいます。
「尊属」は、自分より前の世代の親族のことです。反対に、自分より後の世代(子や孫)は「卑属(ひぞく)」といいます。この2つを組み合わせた「直系尊属」は、「直系で、自分より上の世代の血族」という意味になります。
具体的に直系尊属にあたるのは、次の人たちです。
いずれも、自分から見て世代をまっすぐさかのぼった血族です。上の世代であればさらに続きますが、相続で問題になるのはおもに父母と祖父母です。

「直系尊属」と聞くと、上の世代の親族全般をイメージしがちですが、当てはまる人は限られています。混同しやすい人も含めて整理しましょう。
直系尊属になるのは、実の父母・祖父母・曽祖父母です。血のつながりのある、上の世代の直系の親族が当てはまります。
また、養子縁組をした養親も直系尊属になります。養子縁組をすると、縁組の日から実の親子と同じ親族関係が生じるためです(民法727条)。養親の父母(養祖父母)も直系尊属にあたります。
なお、一般的な普通養子縁組では、養親との関係に加えて実の親との親子関係も残ります。そのため、普通養子は実の父母と養父母の両方が直系尊属になります。いっぽう特別養子縁組では実親との関係が原則として終了するため、直系尊属は養親側だけになります。
いっぽう、次の人たちは直系尊属ではありません。
とくに義父母(配偶者の父母)を自分の直系尊属と勘違いしやすいので注意しましょう。義父母は結婚によってつながった「姻族」で、血族ではありません。
離婚があっても、親子の血のつながりは消えません。そのため、離婚して離れて暮らす親も、自分の直系尊属のままです。
養親については、養子縁組をしている間は直系尊属ですが、離縁(養子縁組の解消)をすると、その養親との親族関係は終了します。実の親との関係は、離婚や年月では変わらない点と対照的です。
直系尊属は、似た用語と混同しやすい言葉です。違いを整理しておきましょう。
直系卑属は、子・孫・ひ孫など、自分より後の世代の直系の血族です。直系尊属が「上の世代」を指すのに対し、直系卑属は「下の世代」を指します。
「尊属=上」「卑属=下」と覚えると混同しません。なお「尊」「卑」は上下や偉さを表すものではなく、単に世代の前後を示す法律上の呼び方です。
傍系は、兄弟姉妹やおじ・おばのように、共通の祖先から枝分かれした関係です。直系がまっすぐ縦につながるのに対し、傍系は横に広がります。
なお、おじ・おばのように「自分より上の世代の傍系」は「傍系尊属」と呼ばれますが、直系尊属には含まれません。直系尊属はあくまで父母・祖父母などの直系だけです。相続では、傍系尊属であるおじ・おばは相続人になりませんが、直系尊属である父母・祖父母は一定の場合に相続人になる、という違いにもつながります。
血族は血のつながりのある親族、姻族は結婚でつながった親族(配偶者の血族など)です。そして、6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族をまとめて「親族」といいます(民法725条)。直系尊属は、このうち「直系の血族で上の世代」という位置づけになります。
親族の範囲や相続人になる人の全体像は、次の記事でくわしく解説しています。

直系尊属は、いつでも相続人になれるわけではありません。相続には順位があり、直系尊属は第2順位と決められています。
配偶者は常に相続人になります。それ以外の血族は、次の順位で相続人になります。
上の順位の人がいる間は、下の順位の人は相続人になりません。つまり、直系尊属が相続人になるのは、第1順位の子(や孫)がいない場合です。
直系尊属の中では、親等の近い人が優先されます(民法889条)。父母がいれば父母が相続人になり、祖父母は相続しません。
父母がどちらも亡くなっていて、祖父母が存命の場合には、はじめて祖父母が相続人になります。これは代襲相続ではなく、「近い世代の直系尊属を優先する」というルールによるものです(このあと説明します)。
子がいる場合でも、子が全員相続放棄をすると、第1順位に相続人がいない状態になり、直系尊属に相続権が移ります。相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったものとして扱われるためです(民法939条)。
たとえば、親の借金が多く子が全員相続放棄したケースでは、次順位の親(被相続人の父母)に相続権が移ります。直系尊属が何もしないでいると、思わぬ形で借金を引き継いでしまうことがあるため注意が必要です。
このようなときは、直系尊属も相続放棄を検討することになります。相続放棄には「自分が相続人になったことを知ってから3か月」という期限があるため、子が放棄したら、次順位の直系尊属にも早めに知らせておくことが大切です。相続放棄の影響が及ぶ範囲は、次の記事も参考になります。
代襲相続とは、相続人になるはずだった人が先に亡くなっているとき、その子が代わりに相続人になるしくみです。ただし、代襲相続が起こるのは、子の系統(孫・ひ孫)と兄弟姉妹の系統(甥・姪)だけで、直系尊属には代襲相続はありません。
前に触れた「父母がいなければ祖父母が相続する」のは代襲ではなく、親等の近い直系尊属を優先するルールによるものです。混同しやすいので、「直系尊属には代襲相続はない」と覚えておきましょう。
直系尊属が相続人になったとき、受け取れる割合(法定相続分)は、配偶者がいるかどうかで変わります(民法900条)。

配偶者と直系尊属が相続人になる場合、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。
直系尊属が父母2人の場合は、3分の1をさらに2人で分けて、それぞれ6分の1ずつになります。たとえば遺産が6,000万円なら、配偶者が4,000万円、父母が各1,000万円が目安です。父母のうち1人だけが存命なら、その1人が3分の1(2,000万円)を受け取ります。
配偶者がいない場合は、直系尊属だけで均等に分けます。父母2人が相続人なら各2分の1、父1人だけなら全部を受け取ります。遺産が6,000万円で父母2人なら、各3,000万円が目安です。
同じ直系尊属でも、配偶者がいるかどうかで割合が変わる点を押さえておきましょう。なお、父母がいなくて祖父母が相続人になる場合も、考え方は同じで、存命の祖父母で均等に分けます。
「遺言で全財産を別の人に渡す」と書かれていた場合でも、直系尊属には遺留分(いりゅうぶん)があります。遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分のことです(民法1042条)。
遺留分の全体の割合は、誰が相続人かで変わります。
この全体の割合に、各自の法定相続分をかけたものが、一人ひとりの遺留分になります。たとえば、相続人が父母だけ(子も配偶者もいない)で遺産が6,000万円のとき、遺留分の全体は3分の1(2,000万円)で、父母2人ならそれぞれ1,000万円が遺留分の目安です。
兄弟姉妹には遺留分がありませんが、直系尊属にはある点が特徴です。親が遺言から外されていても、最低限の取り分を求められる可能性があります。
遺言や生前贈与で自分の遺留分より少ない財産しか受け取れなかった場合、遺留分にあたる金額を、多く受け取った人に請求できます(遺留分侵害額請求)。
ただし、この請求には期限があります。相続の開始と遺留分の侵害があったことを知ってから1年以内に請求しないと、時効で請求できなくなります。また、こうした事実を知らないままでも、相続の開始(被相続人が亡くなったとき)から10年が過ぎると、請求できなくなります(民法1048条)。
「知ってから1年」と「相続開始から10年」のどちらか早い方が期限になるため、遺留分を侵害されたと感じたら、早めに動くことが大切です。遺留分のしくみや計算方法は、次の記事でくわしく解説しています。
直系尊属が相続人になるケースでは、税金や手続きの面で気をつけたい点があります。
相続税には、一親等の血族(父母・子)と配偶者以外が財産を受け取ると、税額が2割増しになるしくみがあります(相続税法18条)。
直系尊属のうち、父母は一親等なので2割加算の対象外ですが、祖父母・曽祖父母は一親等ではないため、2割加算の対象になります。同じ直系尊属でも、父母と祖父母で扱いが分かれる点に注意しましょう。
たとえば本来100万円の相続税で済む場合でも、祖父母が相続すると2割加算で120万円になるイメージです。祖父母が相続人になったり、遺言で祖父母に遺贈したりするときは、この加算を見込んでおくとよいでしょう。
生前の贈与では、直系尊属からの贈与であることが条件になる特例があります。住宅取得資金や教育資金の贈与などが代表例で、親や祖父母から子・孫への贈与で使えることがあります。
ただし、適用できるか・非課税になる金額は制度ごとに条件が細かく決まっており、期限が設けられているものもあります。使えるかどうかは個別の事情で変わるため、具体的な利用は税理士に相談すると安心です。
直系尊属が相続人になるのは、「子がいない」「子が全員放棄した」といった場面です。こうしたケースは、相続人の確定に必要な戸籍集めが広範囲になりやすく、手続きが複雑になりがちです。
とくに、子がいないために父母が相続人になるケースでは、被相続人に本当に子がいないか(前婚の子や認知した子がいないか)を戸籍で確認する必要があります。だれが相続人になるのかの判断を誤ると、遺産分割協議をやり直すことにもなりかねません。
また、直系尊属が高齢で判断能力が十分でない場合は、成年後見人が必要になることもあります。相続人の確定や手続きで迷ったときは、早めに専門家に相談しておくと安心です。
いいえ、兄や姉(兄弟姉妹)は直系尊属ではありません。兄弟姉妹は、共通の親から枝分かれした「傍系」の血族です。直系尊属は、父母・祖父母など、自分より上の世代の直系の血族に限られます。なお、相続では兄弟姉妹は第3順位で、直系尊属(第2順位)より後になります。
いいえ、義父母は自分の直系尊属ではありません。義父母は結婚によってつながった「姻族」であり、血族ではないためです。自分の相続で義父母が相続人になることもありません。
自分の直系尊属(父母・祖父母など)や直系卑属(子・孫)の戸籍は、委任状なしで請求できます(戸籍法10条)。相続手続きで戸籍をさかのぼって集める必要があるときも、直系であれば取得しやすくなっています。
いっぽう、兄弟姉妹やおじ・おばなど傍系の戸籍は、原則として取得の理由(正当な理由)を示す必要があり、直系よりハードルが上がります。
直系尊属とは、父母・祖父母・曽祖父母など、自分より前の世代の直系の血族のことです。配偶者・子や孫・兄弟姉妹・義父母は含まれません。
相続では第2順位で、第1順位の子(や孫)がいない場合や、子が全員相続放棄した場合に相続人になります。相続分は配偶者がいれば直系尊属が3分の1、直系尊属だけなら均等で、遺留分も認められています。
ただし、祖父母が相続すると相続税が2割加算されるなど、注意点もあります。
「子がいないので親が相続人になりそう」「子が相続放棄して親に相続権が移った」「直系尊属の遺留分を主張したい」というときは、相続人の確定や手続きが複雑になりやすく、判断を誤ると不利になりかねません。
迷ったときは、まずは初回相談で自分のケースを確認しておくと安心です。
早めに弁護士に相談しておくと、手続きの見通しが立ち、親族間のトラブルも防ぎやすくなります。

広島県出身。日本大学法学部を卒業後、千葉大学大学院専門法務研究科を修了。広島みらい法律事務所での勤務や、熊野ひまわり基金法律事務所での所長弁護士を経て、弁護士不在であった広島県府中市に現事務所を開業。「中国新聞」等のメディア掲載実績を持つ。相続をはじめ、交通事故、離婚、債務整理など幅広い案件に対応。「弁護士にアクセスしづらい方に法的サービスを提供する」という理念のもと、出張相談にも応じ地域に寄り添う。登録番号58216(広島弁護士会)