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親が持っている家(土地・建物)の名義を子に変える方法は、主に次の3つです。どのタイミング・方法で渡すかによって、かかる税金や費用が変わります。
「名義変更」というと1つの手続きのように思えますが、実際には「いつ・どうやって渡すか」でまったく別の税金がかかります。ここを取り違えると、本来払わなくてよい税金を払うことにもなりかねません。まずは3つの方法を押さえましょう。
もっとも一般的なのが、親が亡くなった後に、子が相続で家を受け継ぐ方法です。
このとき、家の名義を親から子へ変える登記を相続登記といいます。後で説明するとおり、相続は税金の面でもっとも負担が軽くなりやすいのが特徴です。
親が生きているうちに、無償で家を子に渡す方法が生前贈与です。
「元気なうちに名義を整理しておきたい」「特定の子に確実に渡したい」というときに選ばれます。ただし、後述のとおり贈与税が高額になりやすい点に注意が必要です。
子が親に代金を支払って家を買い取る、親子間の売買という方法もあります。
親にまとまったお金を渡したい場合や、相続時の争いを避けて特定の子に確実に持たせたい場合などに使われますが、価格の付け方や資金の準備など、注意すべき点があります。売買は無償ではないため、子の側にお金を用意する必要がある点も、贈与や相続との大きな違いです。

なお、離婚のときに使われる財産分与は、夫婦の間で財産を分ける制度です。親子の間の名義変更には使えません。「親から子へ」の名義変更では、相続・生前贈与・売買の3つで考える、と押さえておきましょう。
3つの方法は、かかる税金の種類と金額が違います。ここが選ぶうえでいちばん大事なポイントです。まずは全体像を表で確認しましょう。
相続 | 生前贈与 | 売買 | |
登録免許税(原則) | 評価額×0.4% | 評価額×2% | 評価額×2% |
不動産取得税 | かからない | かかる | かかる |
かかる主な税 | 相続税(基礎控除あり) | 贈与税(高額になりやすい) | 譲渡所得税は親側 |
※上表の「評価額」は、家の固定資産税評価額(課税標準額)を指します。
どの方法でも、名義変更の登記をするときには登録免許税がかかります。
金額は、家の固定資産税評価額(課税標準額)をもとに計算します。税率は、相続なら原則0.4%、生前贈与や売買なら原則2%です。同じ家でも、相続で受け継ぐほうが登記の税金は5分の1で済む計算になります。
なお、売買のうち土地の部分などには軽減措置があり、税率が下がる場合もあります。適用できる軽減があるかは、事前に確認しておきましょう。
不動産取得税は、不動産を取得したときにかかる税金です。
ここで大きな差が出ます。相続で取得した場合は不動産取得税がかかりません。一方、生前贈与や売買で取得した場合はかかります。この点でも、相続は税負担が軽くなります。
生前贈与でとくに注意したいのが贈与税です。
贈与税は、受け取った財産の額が大きいほど税率が高くなり、家のような高額な財産では税額がふくらみやすい傾向があります。後で説明する特例を使わずに家をそのまま贈与すると、思わぬ高額の贈与税がかかることがあります。
相続の場合は相続税がかかりますが、相続税には大きな基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があります。
さらに、亡くなった親と同居していた子などが自宅を相続する場合には、土地の評価額を大きく減らせる特例(小規模宅地等の特例)を使える場合があります。これらにより、相続では税金がかからない、または少なくなるケースが多いのが実情です。
たとえば、相続財産が基礎控除の範囲内におさまれば、相続税そのものがかかりません。実家1軒と少しの預貯金といったケースでは、相続税がゼロになることも珍しくありません。同じ家を生前贈与で渡すと高額の贈与税がかかる一方、相続なら税金がほとんどかからない、ということが起こり得るわけです。
税金のほかに、手続き自体の費用もかかります。
登記に必要な戸籍や住民票などの取得実費のほか、司法書士に登記を依頼する場合はその報酬がかかります。相続登記の費用の内訳や目安は、次の記事でくわしく解説しています。

税金だけを見れば、多くの場合は相続まで待つほうが有利です。ただし、事情によっては生前に動いたほうがよいこともあります。判断の目安を整理します。
次のような場合は、税負担が増えても生前贈与を検討する価値があります。
「税金より、確実に渡せることを優先したい」というときに、生前贈与が選択肢になります。
一方、次のような場合は、相続まで待つほうが無難です。
急いで名義を変える理由がなければ、税負担の軽い相続を待つのが基本の考え方です。「早めに名義を変えておかないと損」と思われがちですが、税金面ではむしろ相続まで待つほうが有利なことが多い、という点は覚えておきましょう。
ただし、「相続まで待つ」場合でも、放置は禁物です。
2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記をしなければならなくなりました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になることがあります。過去に相続した名義未変更の家も対象です。義務化の内容は、次の記事でくわしく解説しています。
ここからは、方法ごとの手続きを見ていきます。まずは相続のケースです。
親が亡くなったら、まず誰がその家を引き継ぐかを決めます。
遺言書があればその内容に従い、なければ相続人全員の遺産分割協議で決めます。家は分けにくい財産のため、1人が家を相続する代わりに他の相続人へお金を渡す(代償分割)など、分け方の工夫が必要になることもあります。
不動産を相続する際の分け方は、次の記事で解説しています。
相続登記には、主に次のような書類が必要です。
必要書類はケースによって変わります。くわしい種類や取得方法は、次の記事にまとまっています。
書類がそろったら、家の所在地を管轄する法務局へ登記を申請します。
申請から完了までは、法務局の混み具合にもよりますが、おおむね1〜2週間程度が目安です。登記が完了すれば、家の名義が正式に子へ変わります。
なお、登記の前提として、遺産分割協議や書類集めに時間がかかることも多く、相続開始から登記完了まで数か月に及ぶこともあります。相続登記には3年以内という期限があるため、早めに動き出すのが安心です。
次に、生前贈与で名義を変えるケースです。親が元気なうちに手続きします。
生前贈与は、贈与する親と受け取る子の双方が合意して成立する契約です。
後々の税務や親族間のトラブルを避けるため、口約束ではなく贈与契約書を作っておくのが安心です。いつ・誰が・どの不動産を・誰に贈与するかを、書面に残しておきましょう。契約書があることで、税務署から贈与の事実を問われたときにも説明しやすくなります。
生前贈与による名義変更(登記)には、主に次のような書類が必要です。
相続と違い、戸籍を大量に集める必要はありませんが、権利証や印鑑証明書など、親本人の書類が必要になります。
家をそのまま贈与すると贈与税が高額になりやすいため、負担を抑える制度の活用を検討します。
たとえば、一定額まで贈与税をかけずに贈与できる相続時精算課税制度や、親から子への住宅取得のための資金贈与を対象にした非課税の特例などがあります。
ただし、相続時精算課税制度を使った贈与財産は、最終的に相続税の計算に含めて精算されるしくみです(2024年からは、この制度にも年110万円の基礎控除ができ、その範囲内は精算不要になりました)。
「贈与税がかからない=完全に非課税」ではなく、あくまで税金の計算方法が変わるものだと理解しておく必要があります。使えるかどうかや有利・不利は、財産の状況によって大きく変わります。制度選びは失敗すると税負担が増えるため、実行の前に必ず税理士に相談することをおすすめします。
親からお金を払って家を買い取る親子間売買には、独特の注意点があります。
親子だからと、相場より大幅に安い価格で売買すると、その差額が贈与とみなされ贈与税がかかることがあります。これをみなし贈与といいます。
「身内だから安くていい」と考えて極端に低い価格を付けると、かえって税金がかかることになりかねません。適正な価格を確認するためにも、税理士や不動産の専門家に相談すると安心です。
親の住宅ローンが残っている家を売買・贈与する場合は、金融機関の承諾が必要です。
また、子が新たにローンを組んで買い取る場合、親子間売買は金融機関の審査が通りにくいことがあります。身内どうしの取引は、価格の妥当性や資金の流れが厳しく見られるためです。ローンがからむ名義変更は、早めに金融機関に相談しておきましょう。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「ローンが残る親名義の不動産を生前贈与で引き継ぎたいが、兄がその土地を譲り受けると主張して対立している」という相談が寄せられています。
ローンや家族の意向がからむと、名義変更は一気に複雑になります。こうしたケースでは、早めに弁護士に相談しておくと安心です。
なお、売買では親側に、売却益が出た場合の譲渡所得税がかかることもあります。しかも、自宅を売ったときに使える3,000万円の特別控除は、親子など身内どうしの売買では使えないため、親側の税負担が思いのほか重くなることがあります。
誰にどんな税金がかかるかは方法によって変わるため、実行前に税理士に確認しておくと安心です。
親から子への名義変更は、他のきょうだいなど親族との関係にも影響します。トラブルを防ぐ視点も大切です。
親が特定の子だけに家を生前贈与すると、後の相続で他のきょうだいの取り分が減り、争いのもとになることがあります。
配偶者や子には、最低限の取り分である遺留分が保障されています。相続人への生前贈与は、原則として相続開始前10年以内のものが遺留分の計算に含められ、贈与を受けた子が他のきょうだいから金銭を請求されることもあります。
遺留分のしくみは、次の記事で解説しています。
「特定の子に家を渡したいが、揉めごとは避けたい」という場合は、生前贈与のほかにも選択肢があります。
遺言で家を渡す相手を指定しておく方法や、親の判断能力が不安なときに備えて家族信託を活用する方法などです。遺言なら、生前に名義を動かさずに「この家は長男へ」と決めておけるため、贈与税をかけずに希望を実現できます。
どれが適しているかは家庭の事情によるため、弁護士に相談しながら設計すると安心です。家族信託については、次の記事も参考になります。
名義変更は必要ありません。
名義(所有権)は親のままで、子が住むだけであれば、名義変更の登記は不要です。無償で住まわせること自体には、贈与税もかかりません。
ただし、その状態のまま親が亡くなれば、結局は相続の手続きが必要になります。「住まわせること」と「名義を変えること」は別の話だと整理しておきましょう。
自分で手続きすることも可能です。
相続登記も贈与の登記も、必要書類をそろえて法務局に申請すれば、自分で行えます。ただし、書類の収集や登記申請書の作成には手間と正確さが求められ、権利関係が複雑な場合は専門家に依頼したほうが確実です。自分でやる場合の流れは、次の記事が参考になります。
親の判断能力が失われると、生前贈与や売買はできなくなります。
贈与も売買も、親本人が内容を理解して契約する必要があるためです。認知症が進んで意思能力がないと判断されると、原則として成年後見人を立てる必要があり、家を自由に処分することは難しくなります。
成年後見人がついた後は、本人の財産を守ることが優先されるため、子への贈与のような本人に不利な処分は基本的に認められません。「そのうち考えよう」と先延ばしにすると、生前贈与という選択肢自体が使えなくなることがあります。生前に名義を動かすなら、親が元気なうちに検討することが大切です。
親から子へ家の名義を変える方法は、相続・生前贈与・売買の3つです。
税金の面では、登録免許税が安く(0.4%)、不動産取得税もかからず、大きな基礎控除のある相続がもっとも有利になりやすく、生前贈与は贈与税が高額になりやすい点に注意が必要です。
急いで名義を変える理由がなければ、相続まで待つのが基本ですが、確実に特定の子へ渡したいときなどは生前贈与も選択肢になります。
家の名義変更は、税金の有利・不利、相続登記の義務化、きょうだい間の遺留分など、複数の論点がからみます。
どの方法が自分の家族にとって得か、生前に動くべきか迷ったときは、まずは初回相談で状況を整理してもらいましょう。早めに弁護士や税理士に相談しておくと、税負担を抑えつつ、揉めない形で名義を引き継げます。
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関西学院大学法学部を卒業後、大阪市立大学法科大学院を修了。税理士、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引士といった多岐にわたる資格を保有し、法律の枠にとどまらない幅広い専門知識を有している。心グループの各士業法人において関西本部長や所長を務める。法律で依頼者の幸せに貢献するとの信条のもと、日々の研鑽を惜しまず、親身な対応で問題解決に尽力している。登録番号57303(大阪弁護士会)