


不在者財産管理人とは、行方不明になっている人(不在者)に代わって、その人の財産を管理する人のことです。
相続の場面では、相続人の中に行方不明の人がいると、その人を抜きに遺産分割を進めることはできません。そこで、家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい、その管理人が本人の代わりに手続きに関わることで、相続を前に進められるようになります。
行方不明の相続人を放置したままでは、預金の解約も不動産の名義変更も進まず、相続全体が止まってしまいます。
不在者財産管理人は、利害関係のある人などの申立てにもとづいて、家庭裁判所が選任します。
ここでいう「不在者」とは、単に少し連絡が取れないという程度ではなく、もとの住所や居所を離れ、簡単に戻る見込みがない状態の人を指します。所在をひととおり調べてもわからない、という場合に検討します。
申立てをするのは、多くの場合、遺産分割を進めたいほかの相続人です。申立てを受けて、家庭裁判所が不在者本人に代わる管理人を選びます。
行方不明の人をめぐる制度には、失踪宣告もあります。両者は目的が違います。
不在者財産管理人は、本人の生存を前提に財産を管理する制度です。一方、失踪宣告は、生死がわからない状態が一定期間続いたときに、本人を法律上「亡くなったもの」として扱う制度です。失踪宣告は、原則として生死不明になってから7年、戦争・船舶の沈没・震災など死亡の原因となる危難に遭遇した場合には、その危難が去ってから1年続いたときに認められます。
「まだ生きている前提で財産を守る」のが不在者財産管理人、「亡くなったものとして相続を確定させる」のが失踪宣告、と整理しておきましょう。
似た名前の「相続財産清算人」とも混同しやすいので、違いを押さえておきましょう。
相続財産清算人は、そもそも相続人がいない場合に、その財産を管理・清算する人です。なお、相続財産清算人は、2023年の法改正までは「相続財産管理人」と呼ばれていた制度です。
これに対し、不在者財産管理人は、相続人はいるけれど行方がわからない場合に選任されます。相続人が存在することは判明しているものの、その相続人の所在がわからない場合には、通常は相続財産清算人ではなく、不在者財産管理人の選任を検討します。
相続人が全員亡くなっていたり相続放棄したりして誰もいない財産は、相続財産清算人が扱います。相続財産清算人については、次の記事でくわしく解説しています。
不在者財産管理人は、行方不明の人がいることで手続きが止まってしまう場面で必要になります。
代表的なケースを見ていきましょう。
もっとも多いのが、相続人の一人が行方不明で、遺産分割協議ができないケースです。
遺産分割協議は、相続人全員でしなければ成立しません。行方不明の人を除いて進めた協議は原則として無効になるため、その人の代わりに参加する不在者財産管理人が必要になります。
たとえば、兄弟のうち一人が長年音信不通で、連絡先も住所もわからない、というケースが典型です。
被相続人の債務が資産を大きく上回るなど、不在者本人にとって相続放棄をすることが利益になる場合には、不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得たうえで、本人に代わって相続放棄の申述を行うことがあります。
相続放棄も権限外の行為にあたるため、家庭裁判所の許可が前提になります。相続放棄の手続き自体の流れは、次の記事が参考になります。
行方不明の人が名義人になっている不動産や、その人と共有している不動産を売りたいときも、本人の意思を確認できません。
このようなときも、不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得たうえで、売却の手続きに関わります。
空き家になった実家を売りたいのに、共有者の一人が行方不明で話が進まない、という相談も少なくありません。
選任された不在者財産管理人は、行方不明の本人の財産を守り、必要な手続きを進める役割を担います。
具体的にどんなことをするのかを見ていきましょう。
不在者財産管理人の基本的な役割は、本人の財産が減ったり傷んだりしないように、保存・管理することです。
預貯金や不動産などを適切に管理し、必要な支払いがあれば本人の財産から行います。
本人の預貯金を勝手に使ったり、財産を減らしたりすることは許されず、あくまで「守る」のが役割です。たとえば、本人名義の不動産の固定資産税を、本人の財産から支払うといった管理を行います。
管理を始めるにあたって、本人にどんな財産があるかを調べ、財産目録にまとめます。
財産目録とは、財産の種類や金額を一覧にした書類のことです。これをもとに、家庭裁判所の監督のもとで管理を進めます。財産の全体像がはっきりすることで、その後の遺産分割の話し合いもスムーズになります。
不在者財産管理人の権限は、原則として財産の保存・管理にとどまります。
遺産分割や不動産の売却のように、財産の内容を大きく動かす行為をするには、あらかじめ家庭裁判所の許可(権限外行為の許可)が必要です。この許可を得てはじめて、本人に代わって遺産分割協議に参加できます。
許可を得ずに行った遺産分割や売却は、効力が認められないおそれがあるため、順序を守ることが大切です。
不在者財産管理人が加わって作成する遺産分割協議書の書き方は、次の記事が参考になります。
不在者財産管理人は、財産の管理状況を、定期的に家庭裁判所へ報告します。
第三者である家庭裁判所の監督が入ることで、本人の財産が適切に守られるしくみになっています。
問題があれば家庭裁判所が是正を求めるため、管理人の独断で財産が処分される心配は小さくなります。

ここでは、不在者財産管理人を選んでもらうための手続きの概要を押さえます。
不在者財産管理人の選任を申し立てられるのは、利害関係のある人(他の相続人など)や検察官です。
利害関係のある人とは、その相続の共同相続人や、不在者にお金を貸している債権者などを指します。
申立先は、行方不明になっている人の従来の住所地などを受け持つ家庭裁判所です。どの家庭裁判所が管轄かわからないときは、裁判所の窓口や公式サイトで確認できます。
申立てには、申立書のほか、不在者の戸籍や戸籍の附票、行方不明であることがわかる資料、財産に関する資料などが必要です。
必要な書類は事案によって変わることがあるため、申立てを予定している家庭裁判所の案内を確認しておくと確実です。
戸籍の附票は、住民票上の住所の移り変わりをたどるための書類で、行方がわからないことを示す手がかりになります。
申立て後、家庭裁判所が書類や事情を審理し、不在者財産管理人を選任します。提出された資料をもとに、不在の事実や本人の財産の状況が確認されます。
誰を選ぶかは家庭裁判所が判断します。選任までには一定の期間がかかるため、余裕をもって準備することが大切です。書類の準備から選任まで、さらにその後の手続きも含めると、数か月かかることも珍しくありません。
前述のとおり、遺産分割や不動産の売却を進めるには、選任後にあらためて権限外行為の許可を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
「管理人を選任すればすぐに遺産分割できる」わけではなく、この許可を挟むぶん、時間がかかる点に注意しましょう。

不在者財産管理人の選任では、申立ての費用に加えて、予納金という大きな負担が生じることがあります。
申立てそのものには、収入印紙や連絡用の郵便切手などの費用がかかります。
金額は大きくありませんが、必要書類の取り寄せにも実費がかかります。戸籍や戸籍の附票を複数の役所から取り寄せることもあり、そのぶん手間と実費が重なります。
不在者財産管理人に弁護士などの専門家が選ばれた場合、その管理業務に対する報酬が発生します。
報酬は本人(不在者)の財産から支払われるのが原則です。金額は、財産の内容や管理の手間に応じて家庭裁判所が決めます。
本人の財産が少なく、管理費用や報酬をまかなえない場合には、申立てをした人が予納金を家庭裁判所に納める必要があります。
予納金は事案によって幅がありますが、数十万円程度が必要になることもあり、申立てをためらう理由になりがちです。管理が終わったときに、使われずに残った分が返還されることもあります。
予納金は、不在者財産管理人の報酬や管理費用に充てるためにあらかじめ納める金銭です。実際に使用されなかった残額があれば返還されることがありますが、全額が戻るとは限りません。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「遺産分割を進めたいが相続人の一人が行方不明で、司法書士から不在者財産管理人の選任が必要と言われた。予納金が数十万円かかると聞き、負担が大きい」という相談が寄せられています。
不在者財産管理人を使って相続を進めるときには、いくつか知っておきたい注意点があります。
不在者財産管理人は、行方不明の本人の利益を守る立場です。
そのため、本人の取り分を不当に減らすような遺産分割はできません。原則として、本人が受け取れるはずの相続分を確保する内容で進めることになります。
ほかの相続人だけが有利になるような分け方は、家庭裁判所に認められないと考えておきましょう。行方不明の人の権利を守ることが、この制度の目的だからです。
例外的に、不在期間や帰来可能性、他の相続人の資力その他の事情によっては、不在者が帰来した場合に一定額を支払うことを条件とする遺産分割が家庭裁判所に許可されることもあります。ただし、常に認められる方法ではありません。
申立ての際に候補者を挙げることはできますが、その人が必ず選ばれるとは限りません。
親族が選ばれることもあれば、利害関係のない弁護士などの専門家が選ばれることもあります。誰が適任かは、家庭裁判所が判断します。
申立て、選任、権限外行為の許可と、いくつもの段階を踏むため、手続き全体には数か月単位の時間がかかるのが一般的です。
急いで遺産分割を終えたい事情があるときほど、早めに動き出すことが大切です。
予納金の負担が大きいと、申立てを取り下げたくなることもあります。
しかし、そのままでは遺産分割が進まず、相続税の申告期限に間に合わなくなるなど、別の不利益が生じるおそれがあります。取り下げる場合は、ほかに手続きを進める方法がないかを含めて、慎重に検討しましょう。取り下げても行方不明という状況は変わらないため、失踪宣告など別の方法とあわせて考える必要があります。
不在者財産管理人による管理は、いつまでも続くわけではありません。
次のような事情が生じると、家庭裁判所が選任の処分を取り消し、管理は終了します。
行方不明だった本人が見つかって連絡が取れるようになったり、亡くなっていたことが確認されたりした場合です。
本人が自分で財産を管理できるようになれば、管理人による管理は必要なくなります。その際は、管理していた財産を本人に引き継いで、管理を終えます。
行方不明の状態が長く続き、失踪宣告が確定すると、本人は法律上亡くなったものとして扱われます。
この場合は、あらためてその人についての相続が発生し、不在者財産管理人による管理は役割を終えます。その後は、亡くなったものとして扱われた本人についての相続手続きに移ります。
遺産分割や清算が済み、管理する財産がなくなった場合も、管理は終了します。なお、遺産分割が成立しただけで不在者財産管理人の職務が当然に終了するわけではありません。 不在者が取得した財産について、本人が現れる、死亡が確認される、失踪宣告がされるなどするまで、管理を継続しなければならない場合があります。
管理の終了にあたっては、家庭裁判所へ最後の報告を行います。残った財産があれば、家庭裁判所の指示に従って処理します。
最後に、不在者財産管理人についてよく寄せられる疑問に答えます。
管理が適切に行われていないなどの事情があれば、家庭裁判所の判断で管理人が改められることがあります。
不満があるからといって、申立人が自由に交代させられるわけではありません。管理人の対応に問題があると感じる場合は、家庭裁判所に事情を伝えて相談することになります。
不在者財産管理人の選任に時間がかかり、相続税の申告期限(原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月)に遺産分割が間に合わないこともあります。
その場合は、いったん法定相続分で分けたものとして申告し、後に遺産分割が成立した場合には、その内容に応じて修正申告や更正の請求などを行います。
このとき、配偶者の税額軽減などの特例を後から使うには、申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。特例に影響することもあるため、税理士に相談すると安心です。
申告や納付が遅れると加算税などがかかることもあるため、間に合わない見込みなら早めに動きましょう。
単に連絡を取っていないだけでは、不在者財産管理人の選任は認められにくいのが実情です。
住民票や戸籍の附票をたどるなど、所在を調べる手を尽くしても見つからないことが前提になります。まずは、可能な範囲で連絡先や居場所を調べることから始めましょう。
戸籍の附票をたどったり、親族に確認したりといった調査の記録は、申立ての際にも役立ちます。
不在者財産管理人とは、行方不明の相続人(不在者)に代わって、その財産を管理する人のことです。相続人の一人が行方不明で遺産分割が進まないときに、家庭裁判所に選任してもらって手続きを前に進めます。
遺産分割や不動産の売却をするには、選任後に家庭裁判所の権限外行為の許可も必要で、予納金として数十万円程度がかかることもあります。手続きには数か月単位の時間がかかるため、早めの準備が欠かせません。
遺産分割が止まっている、予納金の負担や手続きの進め方に迷っている、相続税の期限が近いといったときは、対応を誤ると手続きがさらに長引くこともあります。
そうしたときは、まずは弁護士への初回相談で、あなたのケースで不在者財産管理人の選任が必要か、どう進めるのがよいかを確認しておきましょう。早めに動くことで、相続を滞りなく進めやすくなります。

京都弁護士会所属。当事務所は東京本店を基軸に全国に30以上のオフィスを展開しており、それぞれが地域に密着した法サービスを提供しています。特に相続の不動産の扱いに幅広いノウハウがあり、最適なリーガルプランを提供します。