

「いらない土地だけを手放したい」という希望はよく聞きますが、相続放棄でそれをかなえることはできません。まずはその理由を押さえましょう。
相続放棄とは、プラスの財産も土地も借金も、いっさい引き継がない手続きをいいます。家庭裁判所に申し出て、はじめから相続人ではなかったことにしてもらう制度です。
相続放棄をすると、その人は被相続人の財産を一切受け継ぎません。特定の財産だけを選んで放棄したり、受け取ったりする「いいとこ取り」はできないしくみです。
たとえば、遺産が「預貯金1,000万円と、値段のつかない山林」だったとします。相続放棄をすれば山林を手放せますが、同時に預貯金1,000万円も受け取れなくなります。土地だけを切り離して放棄することはできない、という点がまず出発点です。
「自分は土地を相続しない」と決めること自体は、相続放棄をしなくても可能です。相続人が複数いる場合、遺産分割協議で「土地は他の相続人が相続し、自分は受け取らない」と話し合って決められます。
ただし、これは相続放棄とは別物です。遺産分割で土地を受け取らないと決めても、あなたは相続人のままなので、借金などのマイナスの財産は法定相続分に応じて引き継ぎます。借金からも逃れたいなら、家庭裁判所での相続放棄が必要です。
整理すると、「土地はいらないが借金もない」なら遺産分割で土地を受け取らないと決める方法で足り、「土地も借金もまとめて手放したい」なら相続放棄、という使い分けになります。どちらを選ぶかで手続きも結果も変わるため、まずは借金の有無を確認することが出発点になります。
土地を含めて相続放棄をすると、その土地はどうなるのでしょうか。放棄した後の流れを知っておきましょう。
あなたが相続放棄をすると、相続人ではなくなります。すると、相続権(土地を含む遺産を相続する権利)は次の順位の相続人へ移ります。
法定相続人の順位は、配偶者が常に相続人となり、それ以外は子や孫などの直系卑属(第1順位)、親などの直系尊属(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)の順です。先の順位の人が全員放棄すると、次の順位の人が新たに相続人になり、その土地を相続するかどうかを判断することになります。
たとえば、子が全員相続放棄をすると、次は被相続人の父母へ、父母もいなければ兄弟姉妹へと、土地を含む相続権が移っていきます。自分が放棄しても、その土地が誰にも関係なくなるわけではなく、思わぬ親族のもとへ話が回ることがあります。あとでトラブルにならないよう、放棄したことは次に相続人になる親族へ伝えておくと安心です。
相続人になれる人が全員相続放棄をすると、その土地を相続する人がいなくなります。
この場合、利害関係人などが家庭裁判所に申し立てて、相続財産清算人が選ばれます。相続財産清算人とは、相続人がいないときに、被相続人の財産を管理し、債権者への支払いなどの清算を行う人のことです。

相続財産清算人は、土地を含む財産を換価(現金化)したり、債権者へ支払ったりして清算を進めます。
清算してもなお引き取り手のない土地が残った場合、その土地は最終的に国(国庫)に帰属します。ただし、相続財産清算人を選んでもらうには申し立てや費用(予納金)が必要で、国庫に入るまでには時間がかかります。「放棄すればすぐ国が引き取ってくれる」わけではない点に注意しましょう。
相続放棄でとくに見落とされがちなのが、土地の管理(保存)義務です。「放棄したのだから、もう関係ない」と思い込むと、思わぬ責任を問われることがあります。

2023年4月の民法改正で、相続放棄後の義務の範囲が明確になりました。改正後は、放棄したときにその土地を現に占有していた人が、保存義務を負います。
ここでいう「現に占有していた人」とは、たとえばその土地に実際に住んでいた人や、自分で使っていた人を指します。遠方に住んでいて土地にまったく関わっていなかった人は、相続放棄をすればこの義務を負いません。
改正前は、相続放棄をしても「次に相続人になった人が管理を始められるまで管理を続ける」とされ、義務を負う人の範囲があいまいでした。改正後は、義務を負うのが「放棄のときに現に占有していた人」に限られると明確になり、土地に関わっていなかった相続人の負担は軽くなりました。
保存義務は、ずっと続くわけではありません。他の相続人や、選ばれた相続財産清算人に土地を引き渡すまでの間、自分の財産と同じ程度の注意をもって保存する義務とされています。
引き渡す相手ができれば、義務から解放されます。相続人全員が放棄してしまった場合は、相続財産清算人の選任を申し立て、引き渡すことで義務を終えられます。
逆にいうと、引き渡す相手が決まるまでは保存義務が続きます。「放棄したのに、まだ実家の様子を見に行かないといけないの」と負担に感じるかもしれませんが、引き渡しまでの一時的なものと考え、早めに段取りを進めるとよいでしょう。
保存義務がある人が管理を怠り、たとえば土地の崖が崩れて隣家に被害が出た、建物が倒壊して通行人にけがをさせたといった場合には、損害賠償を求められるおそれがあります。
「相続放棄したから何もしなくてよい」と放置するのは危険です。占有していた土地がある場合は、引き渡しの段取りまで意識しておきましょう。相続人全員が放棄して引き渡す相手がいないときは、相続財産清算人の選任を申し立てることで、義務を引き継いでもらえます。
土地を含めて相続放棄をする手続きは、家庭裁判所への申述で行います。流れと費用を確認しましょう。
相続放棄は、自身が相続人になったことを知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。この3か月の期間を熟慮期間といいます。
期限内に判断できないときは、家庭裁判所に期間の延長を申し立てることもできます。
期限の数え方や延長のしかたは、次の記事でくわしく解説しています。
相続放棄に必要な書類は、申述する人と被相続人の関係によって変わりますが、基本的には次のものです。
続柄によって集める戸籍が変わるため、迷ったときは次の記事を参考にしてください。
費用は、収入印紙800円(申述人1人につき)と、連絡用の郵便切手代がかかります。郵便切手の金額は家庭裁判所によって異なります。戸籍の取得にも1通あたり数百円程度がかかります。相続放棄そのものにかかる実費は、自分で手続きをすれば数千円程度に収まることが多く、手続きの負担に比べて費用は大きくありません。
弁護士や司法書士に依頼する場合の費用相場は、次の記事を参考にしてください。
田舎の土地などでは、登記名義が祖父母など先代のままになっていることがあります。
この場合、相続放棄そのものに登記は必要ありませんが、誰が相続人なのかを確認するために、世代をさかのぼって戸籍を集める必要が出てきます。相続関係が複雑になりやすいため、早めに権利関係を整理しておくと安心です。
なお、土地を相続して名義変更(相続登記)をする場合の流れは、次の記事で確認できます。
「借金はないが土地だけがいらない」という場合、相続放棄をするとプラスの財産まで手放すことになります。そんなときは、相続したうえで土地だけを手放す方法も検討しましょう。
2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を国に引き取ってもらえる制度です。
一定の要件を満たし、審査を通ったうえで負担金を納めることで、いらない土地を手放せます。
ただし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。建物が建っている土地、担保(抵当権など)が設定された土地、境界がはっきりしない土地、土壌が汚染された土地などは対象外です。また、引き取ってもらうには、管理にかかる費用としてまとまった負担金を納める必要があります。利用していない土地でも一定の出費が生じる点は、あらかじめ知っておきましょう。
制度の要件や費用は、次の記事でくわしく解説しています。
買い手がつく土地であれば、売却して手放すのがもっとも分かりやすい方法です。
売却するには、まず相続登記で土地の名義を相続人に変更してから、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。
値段がつきにくい土地でも、あきらめる必要はありません。たとえば、自分の土地と地続きの隣地の所有者であれば、土地を広げられるメリットがあるため、買い取ってもらえることがあります。空き家付きの土地なら、空き家バンクなどの制度を活用できる地域もあります。
売却が難しい土地は、自治体や近隣の人へ寄付・譲渡する方法もあります。
ただし、自治体は利用予定のない土地の寄付を受け付けないことも多く、必ず引き取ってもらえるとは限りません。受け取る相手が個人や法人の場合は、贈与税などの税金がかかることもあるため、事前の確認が大切です。
土地を手放す方法はいくつかあります。自分の状況に合った選び方を整理しましょう。
借金などのマイナスの財産が多く、プラスの財産より上回っているケースでは、相続放棄が向いています。
土地だけでなく借金もまとめて手放せるため、返済義務から解放されます。ただし、預貯金などのプラスの財産も受け取れなくなる点は理解しておきましょう。
借金はなく、プラスの財産は受け取りたいが、土地だけがいらないというケースでは、相続放棄ではなく、相続したうえで国庫帰属制度や売却を選ぶのが向いています。
預貯金などは受け取りつつ、不要な土地だけを手放せるためです。土地に買い手がつきそうなら売却を、つきにくければ国庫帰属制度を検討する、という順で考えると分かりやすいでしょう。
たとえば、「親の預貯金は相続したいが、誰も住まない田舎の実家の土地はいらない」というケースでは、相続放棄をすると預貯金まで失ってしまいます。この場合は相続したうえで、実家を売却するか、売れなければ国庫帰属制度の利用を検討する、という流れが合っています。借金があるかどうか、土地に値段がつくかどうかで、最適な方法は変わります。
土地を相続したあとの手続き全体は、次の記事も参考にしてください。
相続放棄にするか、土地だけ手放すかは、借金の有無や土地の状態によって変わります。判断を迷っているうちに、3か月の期限を過ぎると相続放棄ができなくなることもあるため、早めの検討が大切です。
たとえば、「土地はいらないが借金もなさそう」と思って放置していたら、後から借金が見つかり、すでに期限を過ぎていた、というケースもあります。まずは財産の全体像を調べ、相続放棄が必要かどうかを早めに見極めましょう。
迷ったときは、相続にくわしい弁護士へ相談すると安心です。財産の調査から手続きまで任せられ、自分に合った方法を提案してもらえます。
最後に、土地の相続放棄について多い質問にお答えします。
あなたが相続放棄をしても、土地が宙に浮くわけではありません。次の順位の相続人へ相続権が移り、その人のものになる可能性があります。
相続人全員が放棄した場合は、利害関係人などが裁判所に申し立てることで相続財産清算人が選ばれて清算が行われ、引き取り手がなければ最終的に国(国庫)に帰属します。
農地や山林も、土地だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄をするなら、農地・山林を含めたすべての財産が対象になります。
農地は、売却や宅地などへの転用に農業委員会の許可が必要なケースもあり、ほかの土地より手放しにくいことがあります。山林も買い手がつきにくく、管理の負担が大きい土地です。こうした扱いの難しい土地ほど、相続放棄をするか、相続して国庫帰属制度などで手放すか、早めに方針を決めておくことが大切です。
農地の相続手続きについては、次の記事も参考にしてください。
生前贈与で受け取った土地は、贈与の時点ですでにあなたのものになっています。そのため、相続放棄をしても、生前贈与で受け取った土地を手放すことにはなりません。
相続放棄の対象は、あくまで被相続人が亡くなった時点で持っていた財産です。すでに自分のものになっている土地は、相続放棄をしてもそのまま手元に残ります。
なお、生前贈与の内容によっては、ほかの相続人の遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)が問題になることもあります。生前贈与された土地をめぐって相続人どうしで意見が分かれそうなときは、早めに弁護士に確認しておくと安心です。

東北大学法学部を卒業後、2007年に弁護士登録。福島県内の法律事務所で経験を積んだ後、名取市に拠点を移し、2020年に現在の事務所を開業。遺言作成などの生前の相続対策から、遺産分割協議や分割後の手続きまで相続問題全般に注力し、他士業と連携した柔軟な解決も得意とする。深刻な悩みを抱える依頼者に親身に寄り添い、誰もが気軽に相談できる「かかりつけの弁護士」となることを目指している。初回相談は1時間無料。登録番号35825(仙台弁護士会)