

農地は一般的な宅地と異なり、相続すると税制面で優遇を得られる一方で、農地を適切に管理する義務を負い、農地を売却したり賃貸したりする場合に一定の制限があります。
そのため、農地が相続財産に含まれる場合には、農地を相続するかどうかを慎重に決める必要があります。農地を相続するメリットとデメリットを理解した上で、よく検討しましょう。
農地を相続するメリットは、税金が優遇されることです。具体的には、次の点で優遇があります。
農地を相続すると、相続税の納税が猶予される場合があります。被相続人が生前に農業を営んでおり、相続人が農地を相続して引き続き農業を営んだり、農地を貸し出したりするなどの一定の条件を満たす場合です。猶予された相続税は、その後に相続人が死亡した場合などに免除されます。
農地は一般的に固定資産税が宅地よりも低いため、固定資産税の負担が軽くて済みます。
ただし、農地のある場所や、農地の種類によっては、固定資産税が低くならないケースもあります。都市計画法による「市街化区域」(すでに市街地を形成している区域・おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域として指定されている区域)にある農地は、宅地並みの評価と課税がなされるため、納税額が高くなるケースがあります。
例外的に、市街化区域にある農地でも、「生産緑地」(宅地への転用を防止し保全する目的で指定される農地)に指定されている場合には、通常の農地と同様の扱いになるため、固定資産税が低くなります。
具体的な固定資産税の金額を確認しましょう。
農地を相続した場合、農地の維持や管理をしなければなりません。草刈りや除草などの農地の管理を怠ると、病害虫の発生やゴミの不法投棄、火災などの原因となり、近隣の住民や農地に悪影響を及ぼす可能性があります。
農地を管理するには時間も労力もかかります。自分で行えない場合には、費用を出して業者に依頼しなければなりません。
もし農地を相続した相続人が、農地を適切に管理せずに放置した場合には、過料や罰金の制裁が課される可能性があります。
具体的には、放置された農地について農業委員会の調査が入り、農業委員会に利用計画の届出をするよう指導が行われます。農業委員会の指導を無視してさらに農地を放置した場合には、農地中間管理機構(農地バンク)と協議を行うよう農業委員会から勧告されます。
利用計画の届出をしなかった場合や、虚偽の届出をした場合、農業委員会の勧告を受けて報告をしなかった場合や、虚偽の報告をした場合には、30万円以下の過料が課せられる可能性があります。
農地中間管理機構は、農地の所有者から農地を借り入れて、農業の担い手に農地を貸し付ける事業を行っています。農業委員会の勧告を受けた場合には、農地を農地中間管理機構に貸し付けるための協議を行わなければなりません。協議が整わない場合には、都道府県の裁定が行われ、農地中間管理機構への貸し付けが強制的に行われる可能性があります。
放置された農地に病害虫が発生するなど、緊急で対応する必要がある場合には、市町村長から草刈りなどの必要な対応を直ちに行うよう農地の相続人に対して措置命令が行われます。措置命令に従わない場合には、市町村長による代執行として、農地の相続人に代わり必要な措置が取られます。農地の相続人は、代執行にかかった費用を負担しなければならず、30万円以下の罰金を受ける可能性があります。
さらに、農業委員会から、農地中間管理機構と協議すべきことを勧告されたにもかかわらず、機構への貸付けの意思を表明せず、耕作の再開も行わない場合には、農地の固定資産税評価額が1.8倍になる可能性があります。
農地を売却したり、農地以外の土地に転用したりするには、農地法に定められた許可や届出が必要です。農地法に定められている条件を満たさない場合には、売却や転用ができない可能性があります。
農地を農地のまま売却するには、農業委員会の許可が必要です。
許可を受けるには、買主が農地法に定められている条件を満たす必要があります。具体的には、農家であり、一定の面積の農地と、すべての農地を効率よく耕作するための機械や労働力を有し、地域の他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれることなどが必要です。
条件に合う買主を探すのに苦労する可能性もあります。もし買主を自力で探せない場合には、農業委員会に相談するとよいでしょう。
農地を賃貸するには、農業委員会の許可が必要です。許可の条件は、農地を農地のまま売却する場合とほぼ同様です。
また、農地の賃貸借を終了させるには、原則として都道府県知事の許可が必要です。自己都合で自由に解約できない点にも注意が必要です。
農地を転用して、農地以外の土地として活用することもできますが、農地法所定の手続きが必要です。
農地を転用するための手続きは、農地がある場所によって異なります。農地が市街化区域にある場合には、農業委員会への届出が必要です。農地が市街化区域以外の場所にある場合には、都道府県知事の許可が必要です。
一般的には、農業委員会への届出は、必要書類が揃っていれば受理される点で、手続きが簡易です。一方で、都道府県知事の許可については、要件が厳しく設定されているため、農地転用のハードルが高いと言えます。
遺産分割時に農地を売却しお金に変えて相続人に分配する場合(換価分割)にも、農地法所定の手続きが必要です。
売約には方法が2つあります。
1つは、農地を相続人全員の共有名義にして、農地を売却する方法です。売却の際に相続人の代表者を決める必要がない反面、相続人全員が手続きに関わらなければならないため、手間や時間がかかる可能性があります。
もう1つは、相続人の代表者を決めて、農地を代表者の名義にした上で売却する方法です。代表者1人が手続きを行うためスムーズに進められやすい一方で、売却代金の使い込みなどのトラブルが生じる可能性があります。
いずれの方法で手続を進める場合にも、先に農地法上の手続きを済ませておく必要があります。
農地の名義変更手続きとしては、まず一般的な不動産の相続手続きと同じく、法務局で所有権移転登記手続きを行います。提出書類として、登記申請書、遺言書または遺産分割協議書、相続関係を示す戸籍謄本、新所有者の住民票、固定資産評価証明書などが必要です。具体的な必要書類については、法務局に確認しましょう。
これに加えて、農地の場合、農業委員会への届出が必要です。農業委員会は市町村ごとに設置されているので、市町村役場で手続きを確認しましょう。
農地を相続したくない場合には、他の相続人に農地を相続してもらうか、自分が相続放棄をする方法があります。
相続放棄をすれば、農地を相続しなくて済みますが、農地以外のすべての遺産について相続する権利を失います。農地のみを相続放棄することはできないので注意が必要です。
相続放棄をするには、被相続人が最後に住んでいた住所を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述の申立てをする必要があります。
必要書類は被相続人との続柄によって異なりますが、共通して必要なのは、相続放棄申述書、被相続人の住民票除票か戸籍附票、相続放棄する人の戸籍謄本です。この他、800円分の収入印紙と切手も必要です。
必要な書類をそろえれば、郵送で手続きすることもできます。ただし、裁判官から面接を求められることもあるので、その場合は裁判所に行く必要があります。
農地の相続には、通常の土地の相続とは異なるメリットとデメリットがあります。農地を管理できるのか、売却などの処分が可能かをよく検討した上で、相続するか慎重に決めるようにしましょう。どうすればよいかわからない場合には、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
