

相続人代表者指定届とは、亡くなった方が納めていた固定資産税などの納税通知書を、誰が受け取るかを決めるために市区町村へ提出する書類です。不動産などを持っていた方が亡くなり、相続人が2人以上いる場合に、役所から送られてきます。
見慣れない書類が突然届くと不安になりますが、まずは「税金の通知書の送り先を決めるためのもの」と理解しておけば大丈夫です。
固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を所有している人に対してかかる税金です。ところが、所有者が亡くなって相続人が複数いると、役所は「次に誰へ通知書を送ればよいのか」がわかりません。
そこで、相続人の中から通知書を受け取る代表者を1人決めてもらうために送られてくるのが、この相続人代表者指定届です。つまり「あなたが必ず払う人」という意味ではありません。通知の宛先を整理するための事務的な書類だと考えてください。
勘違いされやすいのですが、代表者に選ばれても、その人が固定資産税を1人で支払う義務を負うわけではありません。不動産は新しい所有者が決まるまで相続人全員の共有財産です。
固定資産税は相続人全員の連帯納税義務で、市区町村は誰にでも全額を請求できます(法定相続分は相続人どうしの精算の話です。相続放棄をした人を除きます)。
代表者の役割は、あくまで通知書を受け取って内容を共有することです。受け取った人が立て替えて納めた場合でも、他の相続人に負担分を求めることができます。
相続人代表者指定届と似た制度に、「固定資産税現所有者申告制度」があります。この制度は、相続によって土地・建物の新所有者(現所有者)になった者に対して、相続登記がなされるまでの間に、固定資産税を負担すべき現所有者の情報を市町村(東京23区の場合には東京都主税局)に届け出るよう義務付けた制度です。
相続により土地・建物の現所有者になった場合、 現所有者になったことを知った日の翌日から3か月を経過した日までに 、現所有者申告書を市町村(東京23区の場合には東京都主税局)に提出しなければなりません。
もし、現所有者申告書を期限内に提出しなかった場合には、市町村の条例により10万円以下の過料に科せられる可能性があるので、注意しましょう。 市町村によっては、相続人代表者指定届と現所有者申告書を共通の書類として一体にしている場合もあります。
相続税申告時にも、相続人代表者指定届の提出を求められることがあります(正式名称は、「納税義務等の承継に係る明細書(兼相続人の代表者指定届出書)」)。これは、相続税の申告人が申告時に亡くなっているような場合に、申告人の相続人代表者を税務署に知らせるために提出する書類で、税務署の窓口に用意されています。
区市町村が住民税・固定資産税・都市計画税・軽自動車税の課税のために法定相続人に送付する相続人代表者指定届とは異なるものです。

相続人代表者指定届は、相続人が2人以上いる場合に必要になる書類です。ただし、すべての相続で必ず出さなければならないわけではありません。自分が提出すべき状況かどうかを、まず確認しましょう。
次のようなケースでは、提出しておくのが望ましいといえます。
いずれも共通するのは、不動産の名義がまだ故人のままになっているという点です。
一方、次のような場合は提出が不要、またはほとんど問題になりません。
2024年4月から相続登記が義務化され、期限内に登記しないと過料の対象になることがあります。相続登記そのものの進め方や期限は、次の記事でくわしく解説しています。
代表者は、法定相続人の中から、相続人同士の話し合いで決めるのが原則です。「長男が必ず代表」といった法律上の決まりはありません。誰を選んでも構いませんが、手続きの窓口になる人なので、選び方には少しコツがあります。
一般的には、次のような人が代表者に向いています。
誰が代表者になれるかは、相続人の範囲とも関わります。自分が相続人にあたるか不安な場合は、こちらをご確認ください。
代表者の候補だと役所が判断した人に書類が送られますが、誰に届くかの明確な基準は公表されていません。被相続人の家に住んでいる相続人や、死亡届を出した人に届くことが多いようです。
もし手元に書類がない場合でも、多くの自治体は公式サイトで様式をダウンロードできます。「自治体名+相続人代表者指定届」で検索してみましょう。
「面倒だから」と代表者を押し付け合い、話がまとまらないこともあります。その場合でも、無理に提出する必要はありません。提出しなければ、役所が相続人の中から代表者を選び、その人へ通知書を送ります。
ただし、放置すると後述のとおり納税の遅れや延滞金につながるリスクがあります。まずは誰か1人が受け取り役になり、支払いは全員で精算する形にするのが現実的です。話し合い自体がこじれてしまう場合は、早めに弁護士へ相談するのも一つの方法です。
様式は自治体によって異なりますが、書き方の基本はどこもほぼ同じです。記入する内容は大きく3つだけなので、順番に見ていきましょう。
書類に記入するのは、主に次の3点です。
記入する情報 | 主な内容 |
相続人代表者の情報 | 氏名・住所・生年月日・続柄・電話番号など |
被相続人(故人)の情報 | 氏名・死亡時の住所・死亡年月日など |
相続人全員の情報 | 氏名・住所・続柄など(相続分の記載を求める自治体もある) |
次の記入例は、東京都国分寺市のホームページに掲載されている相続人代表者指定届の記入例です。


相続人代表者指定届は、区市町村役場から送付されます。住民税、固定資産税、都市計画税、軽自動車税を課税する区市町村が異なる場合には、それぞれの役所から相続人代表者指定届が届きます。
記入が終わったら、次のいずれかの方法で提出します。
窓口で提出する場合は、代表者の本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)の提示を求められることがあります。状況によっては戸籍謄本など相続関係がわかる書類が必要になることもあるため、事前に提出先へ確認すると安心です。
遠方に住む相続人がいる場合など、本人の同意があれば代筆を認める自治体が多いです。ただし代筆を受け付けない役所や、備考欄に代筆である旨の記載を求める役所もあるため、こちらも事前確認が必要です。
また、不動産が複数の市区町村にある場合は、それぞれの自治体に提出しなければなりません。様式も自治体ごとに違うので、まとめて1枚で済ませることはできない点に注意しましょう。

「出さなかったら罰則があるの?」と心配される方も多いところです。結論からいえば、相続人代表者指定届そのものは提出が義務ではなく、出さないこと自体に罰則はありません。
ただし注意したいのが、多くの自治体でこの届出が「現所有者(相続人)の申告」と一体の様式になっている点です。相続登記が済んでいない不動産について、この申告を正当な理由なく怠ると、条例で過料が科される場合があります。届いた書類は放置しないようにしましょう。
提出しない場合、役所が独自に相続人の中から代表者を選び、その人へ通知書を送ります。相続人同士の仲が良く、情報を共有できていれば大きな問題は起きません。
問題になるのは、相続人が疎遠だったり、関係がこじれていたりするケースです。通知書が届いた事実が共有されず、気づかないうちに納期限が過ぎてしまうことがあります。
固定資産税は、新しい所有者が決まるまで相続人全員に納める義務があります。誰も納めなければ滞納となり、延滞金が発生します。さらに滞納が続くと役所から督促を受け、最終的には不動産が差し押さえられるおそれもあります。
こうした事態を防ぐためにも、相続人代表者を早めに決めて提出しておくことをおすすめします。
「相続放棄をするつもりなのに、相続人代表者指定届が届いた」という相談は少なくありません。相続放棄をする人は、この書類を提出する必要はありません。ただし、対応を誤ると相続放棄ができなくなる危険があるため、ここは特に注意してください。
相続放棄とは、家庭裁判所で手続きをして相続を辞退することです。手続きが認められるとはじめから相続人ではなかったものとして扱われ、固定資産税などの納税義務も負いません。
ここで最も重要な注意点があります。相続放棄をする前に故人の財産から固定資産税を支払ってはいけません。故人の財産から税金を納めてしまうと、「単純承認」(相続を受け入れたこと)とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。納税通知書が届いても、まずは支払わずに家庭裁判所での手続きを進めましょう。
相続放棄を考えている方が避けるべき行動は、ほかにもあります。
すでに相続放棄をしたのに書類が届いた場合は、他の相続人に提出してもらうか、役所へ相続放棄済みであることを伝えます。役所から、家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理通知書の写しの提出を求められることもあるため、手元に用意しておくとスムーズです。
固定資産税の課税の基準日である1月1日までに相続登記が終わっていれば、その年の提出は不要です。基準日を過ぎてから登記した場合は、その年の通知書は故人名義で発行されるため、提出しておくと送付先が明確になります。
はい。固定資産税だけでなく、住民税や軽自動車税の未納分がある場合も、同様に提出を求められることがあります。自治体によっては複数の税目をまとめた共通様式になっていることもあります。
法律上の明確な期限はありませんが、できるだけ早く提出するのが望ましいです。なお、役所から届いた書類に提出期限が記載されている場合は、その期限に従いましょう。健康保険や年金の手続きで役所を訪れる際に、あわせて相談すると効率的です。
相続人代表者指定届は、故人の固定資産税などの納税通知書を、相続人のうち誰が受け取るかを市区町村へ届け出る書類です。提出は義務ではなく、指定届そのものに罰則はありません。ただし放置すると、納期限に気づかず滞納や延滞金につながることがあります。
代表者に選ばれても、その人だけが税金を負担するわけではありません。固定資産税は相続人全員で納める共有の負担で、立て替えた分は後から精算できます。
相続放棄を考えている場合や、代表者・遺産分割で相続人同士の話がまとまらない場合は、対応を誤ると相続放棄ができなくなるなど、思わぬ不利益が生じることもあります。
まずは弁護士への初回相談で、自身のケースで届出を出すべきか、納税や相続放棄をどう進めればよいかを確認しておきましょう。

中央大学法学部、慶應義塾大学法科大学院を卒業後、LINEヤフー株式会社の法務部や都内法律事務所での勤務を経て、2023年に地元である静岡で同事務所を開設した。女性ならではの柔軟な視点を活かして問題解決に取り組む。相続では、遺産分割や遺留分減殺といった典型的な案件に加え、寄与分や遺言無効確認などの複雑な案件の実績も豊富。依頼者との信頼関係を重視し、丁寧かつ迅速な対応で解決をサポートしている。登録番号55919(静岡県弁護士会)