「遺言書」とは、作成者の死後における遺産の分け方などを記載した書面です。実務上は、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類が作成されています。
遺言書は自力で作成するケースもありますが、専門家に作成サポートを依頼した方が安心です。
遺言書では、遺産の分け方を自由に指定できます(民法908条1項、民法964条)。相続人に対して遺産を与えることもできますし、それ以外の者に遺産を与えることも可能です。
遺言書であらかじめ遺産の分け方を指定すれば、遺産分割の必要がなくなるため、相続トラブルの予防にも繋がります。
また、遺言書には以下の事項を記載することもできます。
遺言書は、民法の方式に従って作成しなければなりません。方式を守らずに作成された遺言書は、無効となってしまいます。
実務上は、自筆証書遺言と公正証書遺言のうちいずれかを作成するのが一般的です。
遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。手軽に作成できるメリットがあります。
ただ、方式の不備によって無効になってしまうことが非常に多いです。また、第三者による判断能力の確認なども通常行われないので、遺言能力がないことを理由に無効となってしまうこともよくあります。
また自筆証書遺言は、偽造・変造・紛失のリスクが高い点にも注意が必要です。
詳しい書き方については、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:遺言書(自筆証書遺言)の書き方は?自分で作成するための例文・見本付きで詳しく解説
証人2名の立会いの下、公証人が内容を遺言者に読み聞かせた上で作成する遺言書です。公証人が作成するため無効になりにくく、変造(改ざん)や紛失などを防止できるメリットがあります。
ただ、公正証書遺言は、作成時に公証人手数料などを支払う必要があります。遺産の金額によりますが、数万円程度の費用がかかるケースが多いです。
公正証書遺言の作成に必要な書類や流れについては、以下の記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
関連記事:公正証書遺言とは?メリットや作成手順、自筆証書遺言との違いについても解説
遺言書の作成サポートを依頼できる専門家としては、主に弁護士・司法書士・行政書士が挙げられます。
法律事務全般を取り扱う専門家です。遺言書の作成サポートも行っており、相続トラブルのリスクを踏まえた効果的な相続対策のアドバイスを受けられます。
法律事務の中でも、登記手続きを中心に取り扱う専門家です。不動産の相続や遺贈を内容とする遺言書の作成について依頼できます(行政書士資格を併有する司法書士には、それ以外の遺言書の作成も依頼可能です)。
なお司法書士には、高度な法律的判断が含まれる遺言書の作成のための相談をすることはできません。
法律文書の作成を取り扱う専門家です。あらかじめ決めた遺産の分け方を反映して、遺言書の案文を作成してもらえます。
なお行政書士にも、高度な法律的判断が含まれる遺言書の作成のための相談をすることはできません。
遺言書を自分で作る場合に、かかる主な費用は以下のとおりです。
特になし
1通につき3,900円 ※住民票の写しの提出が必要(取得費用:200円~300円)
下表のとおり (例)遺言書が4枚、相続・遺贈の対象財産が4,000万円の場合は4万円(=2万9000円+1万1000円)
1枚当たり250円 (例:4枚の遺言書の正本・謄本の交付を受ける場合は計2,000円)
※自分で証人を手配できない場合。証人は2名必要 1人当たり1万1000円程度
公証人手数料は以下のとおりです。
相続・遺贈の対象財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
200万円超~500万円以下 | 1万1000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 1万7000円 |
1,000万円超~3,000万円以下 | 2万3000円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 2万9000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 4万3000円 |
1億円超~3億円以下 | 4万3000円に超過額5,000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円超~10億円以下 | 9万5000円に超過額5,000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円超 | 24万9000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
※公証人に出張を依頼する場合は、上記金額の50%および交通費を加算
※対象財産の価額が1億円以下のときは、1万1000円を加算
※原本の枚数が4枚(横書きの場合は3枚)を超えるときは、超過1枚ごとに250円を加算
遺言書作成を弁護士に依頼する際の費用は、依頼先の弁護士によって異なります。
2008年に実施された日本弁護士連合会のアンケート調査では、不動産・預金・株券の総額が5,000万円のケースにおける定型的な公正証書遺言の作成サポート費用につき、以下のとおり回答が分布しています。10万円から20万円で作成できるケースが多いようです。
報酬額 | 回答数 | 割合 |
---|---|---|
10万円前後 | 492 | 50.7% |
20万円前後 | 293 | 30.2% |
30万円前後 | 123 | 12.7% |
40万円前後 | 8 | 0.8% |
50万円前後 | 20 | 2.1% |
その他 | 34 | 3.5% |
ただし、弁護士を遺言執行者に指定する場合は、相続発生時に別途遺産から遺言執行者報酬を支払う必要があります。
「日本弁護士連合会弁護士報酬基準」(現在は廃止)によると、遺言執行者報酬の金額は以下のとおりです(実際には弁護士が自由に決めています)。
<遺言執行者報酬>
対象財産額 | 弁護士報酬 |
---|---|
300万円以下 | 33万円 |
300万円超~3,000万円以下 | 対象財産額の2.2%+26万4000円 |
3,000万円超~3億円以下 | 対象財産額の1.1%+59万4000円 |
3億円超 | 対象財産額の0.55%+224万4000円 |
遺言書の作成サポートを依頼する弁護士を選ぶ際には、作成自体の弁護士費用だけでなく、遺言執行者報酬についても考慮しましょう。
司法書士や行政書士に遺言書作成を依頼する場合の費用は、弁護士に依頼する場合よりも安くなる傾向にあります。ただし、司法書士や行政書士によるサポートの範囲は、弁護士よりも狭く限定されている点に注意が必要です。
また、実際の依頼費用は依頼先によって異なるので、一概に弁護士よりも司法書士・行政書士が安いとは言い切れません。正式に依頼する前に見積もりを取得し、複数の専門家を比較することをおすすめします。
遺言書によって起こりやすい相続トラブルは以下の2点です。
以下のような場合には、遺言書が無効になってしまいます。遺言書が無効になると、すべての遺産について遺産分割を行わなければなりません。
弁護士などの専門家に依頼することで、アドバイスを受けながら、適切な内容・方式によって遺言書を作成することができます。せっかく作った遺言書が遺言無効になるリスクを防ぎましょう。
遺留分とは、相続などによって取得できる財産の最低保障額です。兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。
遺言書による遺産の配分に大きな偏りがある場合は、一部の相続人の遺留分が侵害されることがあります。
たとえば、遺言書で一人に全財産を相続させることは可能ですが、他の相続人が不満を持った場合、遺産を多く取得した者に対して遺留分侵害額請求を行い、金銭の支払いを受けられます(民法1046条1項)。
相続発生後に遺留分侵害額請求(民法1046条1項)が行われることで、相続人同士でトラブルに発展してしまいます。
関連記事:遺留分侵害額請求とは?請求のやり方や期限、請求された場合の対処法も解説
そのため、遺言書を作成する際には、相続人の遺留分に配慮する形で遺産の配分を決めることが望ましいです。どうしても一部の相続人だけに多くの財産を与えたいと希望する場合は、遺留分対策について弁護士にご相談ください。
遺言書の作成費用は、自分で作成すれば無料から数千円程度に抑えられます。
しかし、相続トラブルの予防に繋がる遺言書を作成したい場合は、弁護士に依頼するのが安心です。想定されるトラブルのリスクに配慮して、適切な対策を盛り込んだ遺言書の内容を提案してもらえるでしょう。
遺言書の作成に関する弁護士費用は、依頼先の弁護士によって異なります。また、遺言書作成の費用だけでなく、遺言執行者報酬がかかる点にも注意が必要です。
複数の弁護士を比較した上で、トータルで合理的な費用を提示する弁護士に依頼するとよいでしょう。