


内縁の妻や事実婚のパートナーに、相続権はありません。婚姻届を出していなければ、法律上は配偶者として扱われないためです(民法890条)。
何も対策をしなければ、財産は子ども、親、兄弟姉妹などの法定相続人が相続します(民法887条・889条・890条)。同居が20年でも30年でも、内縁の妻の手元には原則として何も残りません。
立場 | 相続権 | 備考 |
法律上の配偶者 | あり | 常に法定相続人 |
内縁の妻・夫 | 原則なし | 遺言などの対策が必要 |
認知された子 | あり | 父母の相続人になる |
認知されていない子 | 父側は原則なし | 認知の手続きが問題になる |
法律上の配偶者は、相続で常に法定相続人になり、遺留分も配偶者の税額軽減も使えます。内縁の妻には、そのどれも認められません。
そのため、住まいや預貯金を残したいなら、生前に渡し方を決めておく対策が欠かせません。
法定相続分とは法律で定められた相続割合の目安(民法900条)、遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の取り分です(民法1042条1項)。
内縁の妻は法定相続人ではないため、どちらも主張できません。ただし、遺言で財産を受け取る側になることはできます。
寄与分(民法904条の2)とは、財産を維持・増やした貢献を取り分に上乗せするしくみです。介護や家業を手伝っていても、内縁の妻は請求できません。主張できるのは相続人だけだからです。
相続人以外でも請求できる特別寄与料(民法1050条)も、対象は被相続人の親族に限られます。婚姻届を出していない内縁の妻は親族に含まれず、この制度も使えません。看病や介護を尽くしても、それだけで金銭を請求できる制度はありません。

「何年同棲すれば内縁になるのか」という質問は多いのですが、法律に年数の基準はありません。夫婦になる意思と、夫婦としての生活の実体で判断されます。
内縁と認められても、相続人にはなりません。内縁の成立が効いてくるのは、遺族年金や借家の承継といった相続権とは別の場面です。
・同居の実態|住民票の続柄、生活の拠点が同じか
・家計が1つになっているか|生活費の負担、共同の口座
・周囲への紹介や親族との付き合い|夫婦として扱われていたか
・婚姻の意思|結婚式の有無、将来の約束、葬儀の喪主
同居5年でも夫婦の実体が濃ければ認められ、10年一緒に暮らしていても、住民票が別で家計も別なら否定されることがあります。
なお、法律上の配偶者がいるまま別の人と内縁関係になった場合(重婚的内縁)は、法的な保護を受けにくくなります。法律婚が形だけになっていたとしても、相続権が生じることはありません。
内縁だったと後から示すには、生前から記録を残しておきましょう。亡くなった後では、相続人と対立していると資料が手に入らなくなります。
・住民票の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」にしておく
・健康保険の被扶養者として認定を受けておく
・賃貸借契約書の同居人欄に名前を入れておく
・生活費の振込履歴や共同名義の口座を残しておく
・生命保険金の受取人に指定し、その履歴を残しておく
なかでも住民票の続柄は、費用をかけずに整えられます。手続きの可否や必要書類は、お住まいの市区町村の窓口で確認しましょう。
財産を残すには、相続権がないことを前提に、生前から渡し方を決めておく必要があります。
よく使われるのは、遺言、死因贈与、生命保険金、生前贈与、家族信託の5つです。1つに絞らず、組み合わせて使うのが基本です。
方法 | 向いているケース | 注意点 |
遺言(遺贈) | 行き先を自身で決めたい | 遺留分を侵害すると金銭請求を受ける |
死因贈与 | 生前に本人と約束したい | 契約書と仮登記で守る |
生命保険金 | まとまった現金を残したい | 受取人に指定できるか保険会社に確認 |
生前贈与 | 今のうちに渡したい | 贈与税がかかる |
家族信託 | 認知症になった後も任せたい | 設計に専門家の関与が必要 |
遺贈とは、遺言で財産を特定の人に渡すことをいいます。預貯金、不動産、株式など、どれを渡すのかを1つずつ特定して書きましょう。自宅を残したいなら、遺言で不動産を指定しておくことが重要です。
形式は公正証書遺言を選びましょう。自筆証書遺言は、方式の不備や筆跡をめぐる争いで無効になることがあり、相続人と対立しやすい内縁では危険が大きくなります。遺言執行者も指定しておくと、名義変更を相続人の協力なしに進められます。
公正証書遺言の作り方と公証役場の手数料は、次の記事でくわしく解説しています。
遺言書作成の費用は、相続弁護士ドットコムの掲載事務所681件のうち、料金の記載があった273件の中央値で110,000円でした。
最も多いのは110,000円(138件・51%)、次いで220,000円(39件・14%)でした。
(2026年8月時点・当社調べ、n=681)。
死因贈与とは、贈与する人が死亡したときに効力が生じる贈与契約です(民法554条)。財産を渡す約束を契約に残す方法で、渡す側と受け取る側の合意が必要です。
遺言との違いは、遺言が本人ひとりで書ける単独行為なのに対し、死因贈与は二者の合意で成立する契約だという点です。口約束では争いになりやすいので、契約書は必ず作りましょう。
自宅など不動産が対象なら、始期付所有権移転仮登記を入れておきます。登記簿に約束が残り、相続人が先に売られる事態を防ぎやすくなります。介護を条件に自宅を渡す「負担付死因贈与」も選べ、負担を果たした後は撤回が認められにくくなります。
契約書の書き方や、死因贈与にかかる税金は、次の記事でくわしく解説しています。
生命保険金の受取人に内縁の妻を指定できれば、まとまった現金を残せます。ただし指定の可否は保険会社の基準によって異なります。契約前に、受取人指定の可否と必要書類を保険会社へ確認しましょう。
なお、内縁の妻が受け取る生命保険金は相続税の課税対象になります。相続人だけに認められた「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も使えません(相続税法12条)。
生前贈与は、生きている間に財産を渡す方法です。贈与税がかかる場合があるため、金額や時期には注意が必要です。
贈与した事実を残すため、贈与契約書を作成し、銀行振込など記録が残る方法で渡しましょう。名義を変えただけに見えると、後から有効性や税務上の扱いが問題になります。
毎年同じ金額を同じ時期に渡し続けると、はじめから一括で贈与する約束だった(定期贈与)と扱われる場合があります。贈与のたびに契約書を作りましょう。
遺言や死因贈与でも財産を受け取る場合は、相続開始前の一定期間に受けた贈与が、相続税の計算に加算されることがあります。加算される期間は贈与の時期で変わるため、渡し方を決める前に税理士へ確認しましょう。
家族信託(民事信託)とは、財産の管理を信頼できる人に託しておくしくみです。認知症になった後もパートナーのために自宅や預貯金を使えるようにし、亡くなった後の引き継ぎ先まで決められます。
死後事務委任契約は、葬儀、納骨、賃貸物件の解約といった亡くなった後の事務を誰に頼むかを決めておく契約です。内縁の妻は相続人ではないため、契約がないと葬儀すら仕切れないことがあります。財産を渡す手当てとは別物なので、遺言と組み合わせておきましょう。
家族信託が向いているかどうかの判断材料は、こちらで確認できます。
なお、相続の問題をまとめて片づけたいなら、婚姻届を出すのが最も確実です。ただし氏や年金にも影響するため、相続対策だけで決めないようにしましょう。

内縁の妻からの相談で最も多いのが住まいの問題です。亡くなった直後に明け渡しを求められ、行き先が決まらないまま交渉になるケースが目立ちます。
打てる手は、持ち家か賃貸かで大きく変わります。
配偶者居住権(民法1028条)は、自宅の所有権を相続人に渡しつつ配偶者が住み続けられる制度です。使えるのは法律上の配偶者だけで、内縁の妻は対象外です。
配偶者短期居住権も同じです。「配偶者」と名の付く制度は、内縁の妻には使えないと考えておきましょう。
借りていた家に一緒に住んでいた場合、亡くなった人に相続人がいなければ、内縁の配偶者が賃借人の権利義務を引き継ぎます(借地借家法36条)。原則として、家賃を払い続ければ住み続けられます。
ただし、相続人なしに亡くなったことを知ってから1か月以内に、引き継がない意思を大家へ伝えたときは承継しません(借地借家法36条1項ただし書)。
相続人がいる場合、賃借権は相続人が引き継ぎます。それでも最高裁は、内縁の妻が相続人の賃借権を援用して、大家に住む権利を主張できると判断しています(最高裁昭和42年2月21日判決)。
明け渡し請求が権利の濫用にあたるとして認められなかった例もあります(最高裁昭和39年10月13日判決)。ただし、どのケースでも守られるわけではありません。同居の長さ、住み続ける必要性、相続人側の事情から判断されます。
遺言で遺贈する、死因贈与契約を結んで始期付所有権移転仮登記を入れる、生前贈与する、という順に確実性が高くなります。生前に自宅の権利を渡しておくほど、住み続けられる見込みは固くなります。
所有権まで渡さず、無償で住み続けられる権利(使用貸借)を遺言で設定する方法もあります。所有権は相続人に残るため、遺留分の争いが生じにくくなります。
税金も忘れないようにしましょう。遺贈で不動産を受け取ると、登録免許税は相続人が相続する場合の1000分の4ではなく1000分の20になり、特定遺贈なら不動産取得税もかかります。
遺言や贈与で財産を受け取る場合でも、法定相続人との関係や税金には注意が必要です。残す方法だけでなく、受け取った後に何が生じるかまで確認しましょう。
子や親など遺留分を持つ法定相続人がいるのに内縁の妻へ多くを遺贈すると、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺言自体が無効になるわけではありませんが、金銭請求のトラブルにつながります。
請求されると、内縁の妻は侵害額を金銭で支払う義務を負います。受け取ったのが自宅だけでも支払いは現金で、手元になければ売らざるを得なくなることもあります。
備えるなら、遺留分を侵害しない範囲に遺贈をとどめるか、生命保険金で支払いの原資を用意しておきましょう。兄弟姉妹には遺留分がないため、相続人が兄弟姉妹だけなら全財産を遺贈しても請求は受けません。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「別居中の妻と子がいる人が、内縁のパートナーへ財産の半分を遺す遺言を考えており、妻の遺留分との関係を確かめたい」という相談が寄せられています。
誰にいくらの遺留分があるのか、請求されたらいくら払うことになるのかは、次の記事で確認できます。
内縁の妻が遺贈で財産を受け取る場合、法律上の配偶者ではないため、配偶者の税額軽減を使えず、相続税額の2割加算の対象になります(相続税法18条)。
自宅の土地の相続税の課税価格を大きく下げられる小規模宅地等の特例も、対象は配偶者と親族に限られるため使えません。使えない制度が重なるぶん、同じ財産でも法律婚の配偶者より税負担は重くなりやすくなります。
生前贈与では贈与税が問題になります。年間110万円の基礎控除を超える贈与には贈与税がかかります(暦年課税)。婚姻期間20年以上の夫婦に認められる贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)や相続時精算課税制度も使えません。
税金の負担は財産額や渡し方で大きく変わるため、早めに税理士へ確認すると安心です。
住まいを守る目的で不動産を共有名義にすることもありますが、売却や担保設定には共有者の同意が要ります。
預金も、誰の財産か曖昧だと相続開始後に争いになります。名義と実態を一致させておきましょう。
すでにパートナーが亡くなっている場合でも、できることは残っています。ただし動ける範囲は限られ、早く動くほど選択肢が多くなります。相続人と連絡が取れるうちに、何を求めるかを決めておきましょう。
金融機関が死亡を把握すると口座は凍結され、内縁の妻は相続人ではないため解約も引き出しもできません。凍結後は公共料金の引き落としも止まるのが一般的です。
生活費が止まるときは、まず自身の名義の口座と収入を確保しましょう。生命保険金の受取人になっていれば、そのお金は遺産分割を待たずに受け取れます。
携帯電話や電気・ガス、賃貸の名義変更は、相続人でないと手続きできないことがあります。誰が手続きできるかは契約先ごとに扱いが違うため、契約先に確認しましょう。
「みんなの法律相談」には、夫を亡くして2週間ほどで、相続人である娘から「この家を売るから出ていって」と言われた内縁の妻の相談も届いています。
いきなり明け渡しを求められても、その場で応じる必要はありません。賃貸なら借地借家法36条や判例で守られる可能性があり、持ち家でもすぐに退去しなければならないとは限りません。
避けたいのは、口約束で退去日を決めたり、内容を確かめずに誓約書へ署名したりすることです。一度署名すると、後から覆すのは難しくなります。
こうした場面は、交渉を始める前に弁護士へ相談したほうが結果が変わります。判例があると自身で伝えても、相手を納得させるのは難しいためです。
10年連れ添った内縁の夫を看取った女性が、相続人である娘たちから、生前にもらった腕時計や共用していた車まで引き渡すよう求められたという相談も、「みんなの法律相談」に寄せられています。
亡くなった人の所有物は、原則としてすべて相続人のものです。一緒に使っていた車や家電も、名義が亡くなった人なら相続財産です。
一方、自身のお金で買ったものや、生前に贈与を受けたものは自身の財産です。ただし「もらった」と言うだけでは足りず、領収書や振込履歴など、自身のものだと示す資料が要ります。
勝手に処分すると、相続人から返還や損害賠償を求められることがあります。迷うものは、動かす前に写真を撮って一覧にしておきましょう。
法定相続人が誰もいない場合に限り、内縁の妻が特別縁故者として財産の分与を受けられることがあります(民法958条の2)。生計を同じくしていた人や、療養看護に努めた人が対象です。
自動的に受け取れるわけではありません。家庭裁判所で相続財産清算人を選び、相続人を捜す公告が終わるのを待って、分与の申立てをします。申立てができるのは、公告期間が満了してから3か月以内です。
認められるかは、同居期間、生計の状況、療養看護の実態から総合的に判断され、希望どおりの財産を受け取れるとは限りません。
認められた人の例や、申立てにかかる費用と流れは、次の記事でくわしく解説しています。
前提になる相続財産清算人の選任は、予納金の負担が大きい手続きです。金額の目安はこちらで確認できます。
結婚した夫婦の子どもは、親が亡くなった場合に常に相続人になります(民法887条1項)。一方、内縁・事実婚のカップルの間に生まれた子は、父親の認知を受けていないと父親の相続人になれません。
認知をするには、父親が役所へ認知届を提出するか、遺言に認知する旨を記載します(民法781条)。父親が認知をしない場合は、子どもや母親が父親を相手に、家庭裁判所へ認知の調停の申立てができます。
また、父親が亡くなった場合でも、亡くなった日から3年以内に限り、検察官を相手に認知の訴えを起こせます(民法787条)。
認知されれば、その子は法律上の夫婦の子と同じ割合で相続人になります。母である内縁の妻に相続権がなくても、子には相続権が生じます。
認知された子の取り分や、認知をめぐって生じやすいトラブルは、次の記事で確認できます。
ここでは相談の多い4つの質問に答えます。
10年同居した内縁のパートナーがいる女性が亡くなり、相続人は誰になるのかを尋ねた相談も「みんなの法律相談」に届いています。
長年同居していても、婚姻届を出していなければ、内縁の妻に相続権はありません。同居期間の長さが特別縁故者の判断で考慮されることはありますが、法定相続人になるわけではありません。
この相談でも、内縁のパートナーは相続人にならず、先に亡くなった姉の子2人が代襲相続人になるという結論でした。代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、相続人になるはずだった人が先に亡くなっている場合に、その子が代わりに相続人になるしくみです。
遺族年金では、法律婚の配偶者だけでなく、事実婚関係にあった人が対象になる場合があります。ただし相続権とは別の制度です。生計維持関係や事実婚関係を示す資料が必要になることがあるため、年金事務所で確認しましょう。
同じです。内縁関係に相続権がないのは男女どちらでも変わらず、遺言、死因贈与、生命保険金といった対策の中身も同じです。
借地借家法36条による賃借権の承継も、遺族年金での事実婚の扱いも、性別では区別されません。この記事の内容は、内縁の夫にもそのまま当てはまります。
有効な遺言があれば、内縁の妻が財産を受け取れる可能性は高くなります。ただし、遺言の形式不備、遺言能力の争い、遺留分、相続税や登記の問題が残ることがあります。
確実性を高めたいなら、公正証書遺言を作成し、遺言執行者を指定しておきましょう。遺言を書くだけで終わらせず、実際に財産を移せる形にしておくことが大切です。
弁護士ドットコムが保有する「みんなの法律相談」に寄せられた相続の相談30,302件のうち、内縁・事実婚に触れた相談は258件でした。
内訳は、遺言や遺贈で財産を残したい75件、遺産の持ち出しや遺品の扱い55件、子の認知と相続権32件、住まいの退去や居住の継続27件、遺留分23件でした。
(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=30,302。分類は相談タイトルと質問文の語句による概算で、重複を含みます)。
内縁の妻に相続権はありません。何年一緒に暮らしていても結論は変わらず、法定相続分も遺留分も寄与分も認められません。
財産を残すには、遺言、死因贈与、生命保険金、生前贈与、家族信託を組み合わせて生前に手を打ちます。住まいの手立ては持ち家か賃貸かで変わり、亡くなった後でも遺品の扱いや明け渡しの交渉で動ける余地は残っています。
遺言の書き方1つで、パートナーが住まいを失うかどうかが変わります。相続人から明け渡しを求められている、遺留分を請求された、遺品の引き渡しを迫られているときは、返事をする前に動きましょう。
まずは弁護士への初回相談で、自宅を残す方法と、いま相続人にどう返答すべきかを確認しましょう。内縁関係を示す資料が手元にあるかどうかでも、取れる手は変わります。

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