内縁・事実婚とは、婚姻を届け出ていない(法律婚していない)が実態として夫婦と同じ生活を送っているカップルのことです。法律婚と内縁・事実婚には次のような違いがあります。
この記事では、内縁・事実婚のパートナーの相続に関して解説します。
内縁・事実婚のパートナーには、通常、相続権がありません。法律上の夫婦であれば、配偶者のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者は法定相続人になりますが、内縁関係や事実婚の場合には、法律上は他人のため、相続人ではありません。
内縁・事実婚のパートナーには通常、相続権がないため、何も対策をしなければ、パートナーは遺産を受け取ることができません。遺産はすべて、子どもや親、兄弟姉妹などの法定相続人が相続します。
たとえば、被相続人の持ち家に内縁・事実婚のパートナーが住んでいた場合、被相続人が亡くなった後は原則として住み続けることはできません。住み続けるためには、相続人からその家を買い取るか、賃貸借契約を締結し、家賃を支払う必要があります。相続人が売買や賃貸に同意しない場合は、別の家を探す必要があります。
亡くなったパートナーに法定相続人が誰もいないケースで、特別縁故者として家庭裁判所に認められると相続できる可能性があります。しかし、亡くなった方と同一生計であったことや、療養や看護のために尽くしたなどの事情がないと特別縁故者とは認められないため、例外的なケースといえるでしょう。また、特別縁故者と認められても、すべての遺産を受け取れるとは限りません。
このように、生前に何も対策をしなければ、内縁・事実婚のパートナーは原則として遺産を受け取れません。そのため、内縁・事実婚のパートナーに遺産を残すためには、生前に対策する必要があります。
遺言書を作成すれば、内縁・事実婚のパートナーにも遺産を残すことができます。
遺言書は主に、自筆証書遺言と公正証書遺言という形式があります。自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書で、手軽に作成できます(財産目録はPCでの作成が認められています)。
偽造・改ざんや紛失のリスクがありますが、法務局で自筆証書遺言を預かってもらえる制度(自筆証書遺言書保管制度)を利用すれば安心です。自筆証書遺言保管制度を利用すれば、亡くなったあとの遺言の審査(検認)も不要になります。
公正証書遺言は、証人2名の立会いの下で、公証人が作成する遺言書です。あらかじめ遺言者が公証役場へ提出した案文の内容を基に公証人が作成し、原本は公証役場で保管されます。公証人が形式面や遺言能力の有無などを確認するため、無効になるリスクが低いのがメリットです。ただし、公証役場に納める手数料がかかります。
遺言書を作成する際には、法定相続人の遺留分を侵害しないよう配慮したほうがよいでしょう。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の遺産の取り分です。
つまり「パートナーに全ての遺産を譲る」といった遺言を残しても、パートナーが法定相続人から遺留分を請求されたら、その分は法定相続人に渡さなければならないことになります。遺留分をめぐるトラブルを避けるためにも、遺言書を作成する段階で、遺留分に配慮した内容を検討しておくことをおすすめします。
遺言書の作成方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
関連記事:遺言書(自筆証書遺言)の書き方は?自分で作成するための例文・見本付きで詳しく解説
関連記事:公正証書遺言とは?メリットや作成手順、自筆証書遺言との違いについても解説
もうひとつは、生前のうちにパートナーに財産を贈与しておく(生前贈与)ことです。
遺言でパートナーに遺産を残すことも可能ですが、その場合には相続税がかかる可能性があります。生前贈与の場合には、1年間に110万円の基礎控除があるため、1年間の贈与の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。年数をかけて財産を生前贈与することで、相続税対策にもなります。
ただし、生前贈与して遺言でも遺産を残そうとしていた人が亡くなった場合、死亡時から遡って最大で7年間分の生前贈与が相続財産に組み込まれて相続税の算定の基礎になる可能性があるので注意しましょう。詳しい計算方法は税理士などの専門家に相談しましょう。
遺産を渡すわけではないですが、生命保険の受取人を内縁・事実婚のパートナーにしておけば自身が亡くなったときに保険金をパートナーに残せます。生命保険の受取人に指定できる要件は、保険会社によって異なるので、詳しくは保険会社に確認しましょう。
内縁・事実婚のパートナーが遺産を受け取る場合にも、相続税がかかる場合があります。その際、法律婚の配偶者が受けられる控除や優遇措置を受けられないので、注意が必要です。
相続や遺贈により遺産を取得した人が、亡くなった人の一親等の血族・配偶者以外の場合には、通常の相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
そのため、内縁・事実婚のパートナーが遺産を受け取る場合にも、通常の相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
法律婚の配偶者が遺産を受け取る場合には、相続税の配偶者控除が受けられます。配偶者控除では、配偶者の法定相続分相当額か1億6000万円のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。
しかし、内縁・事実婚のパートナーは法律上の配偶者ではないため、配偶者控除を受けられません。
結婚した夫婦に子の子どもは、親がなくなった場合常に相続人になります。
一方で、内縁・事実婚のカップルの間に生まれた子は、親子関係がないことを理由に相続人になれない場合があります。父親が亡くなるまでに父親の認知を受けていない場合です。
内縁・事実婚のカップルの間に生まれた子と父親は、当然には法律上の親子とは扱われないため、親子として扱われるためには認知が必要となります。
認知をするには、子どもの父親が役所に認知届を提出するか、遺言に認知する旨を記載します。父親が認知をしない場合、子どもや母親が父親を相手として、家庭裁判所に認知の調停を申し立てることができます。また、父親が亡くなった場合でも、亡くなった日から3年以内に限り、検察官を相手に認知の訴訟を申し立てることができます。
内縁・事実婚のパートナーには相続権がありません。パートナーに遺産を残すには、生前に遺言書を作成するなどの対策が必要です。また、相続税も法律婚の配偶者の場合と大きく異なるので、相続税対策を考える必要もあるでしょう。具体的な対策を検討する際には、弁護士に相談して専門的なアドバイスを得ることをおすすめします。