「公正証書遺言」とは、公証人が作成する本人のための遺言書です。
遺言者が自分で作成する遺言書は「自筆証書遺言」と呼ばれています。
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成します(民法968条1項)。ただし、財産目録については、手書きではなく、パソコンで作成する・通帳のコピー添付するなどの方法も認められます。その場合、財産目録の全ページに被相続人の署名と押印が必要です(同条2項)。
遺言書の原本は遺言者本人が保管するケースが多いですが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することも可能です。
これに対して公正証書遺言は、遺言者が作成した案文を基に、公証役場の公証人が作成します。公証人・遺言者・証人2名が立ち会って公正証書遺言が作成された後、その原本は公証役場で保管されます。
公正証書遺言は無効になりにくく、変造や紛失を防止できるメリットがあります。その一方で、自筆証書遺言よりも多くの費用が必要になる点がデメリットです。
公正証書遺言の大きなメリットは、法律の専門家である公証人が作成するため、無効になるリスクが低い点です。
遺言書は民法の方式に従って作成しなければ無効になりますが、公証人が方式についてミスをする可能性は極めて低いと思われます。内容面でも、不明確な内容や公序良俗に反する内容が含まれている場合は、公証人に指摘してもらえるケースが多いです。
また、変造や紛失を防止できる点も、公正証書遺言のメリットの一つです。
自筆証書遺言については変造や紛失がしばしば問題になりますが、公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、変造や紛失のリスクがありません。
公正証書遺言のデメリットは、自筆証書遺言よりも作成費用が高くなる点です。
自筆証書遺言の場合、作成自体に費用はかかりません。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合にも、1通当たり3900円の手数料がかかるだけです。
これに対して公正証書遺言は、作成時に公証人手数料などを支払う必要があります。遺産の金額によりますが、数万円程度の費用がかかるケースが多いです。
また、弁護士に公正証書遺言の作成サポートを依頼する場合には、弁護士費用が加算されることになります。
公正証書遺言を作成する際には、公証役場に必要書類を提出します。主な必要書類は以下のとおりです。
公正証書遺言の作成手続きは、おおむね以下の流れで進行します。
まずは遺言者が、公正証書遺言の案文を作成します。
弁護士に依頼すれば、財産の状況や家庭の事情、遺言者の希望を踏まえた案文を作成してもらえます。特に相続トラブルを予防したい場合は、公正証書遺言の案文作成を弁護士に依頼するのが安心です。
公正証書遺言の案文が固まった段階で、公証役場に連絡をとります。窓口担当者の指示に従い、公正証書遺言の案文と必要書類を送付しましょう。
公正証書遺言の案文は、公証人がチェックした上で、法的な観点から必要な調整を行います。
調整後の案文は遺言者本人(または代理人)に返送されるので、遺言者の意向に沿った内容であるかどうかチェックしましょう。
公証人とのやり取りを経て案文が固まったら、公正証書遺言を作成する日程を調整します。遺言者本人と公証人のほか、証人2名ともスケジュールを合わせる必要があります。特に遺言者の側で証人を手配する場合は、証人の予定を早めに聞いておくとよいでしょう。
なお、公証人に出張を依頼することも可能ですが、公証人手数料が1.5倍になるほか、交通費などの負担が発生する点にご注意ください。
公正証書遺言の作成当日は、まず公証人が遺言者と証人2名に対して、原本となる書面を見せながら、その内容を読み聞かせます。
遺言者と証人は、公正証書遺言の内容を承認した後、それぞれ署名と押印を行います。最後に公証人が署名と押印を行えば、公正証書遺言は完成です。
公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。遺言執行者を指定した場合は、正本を遺言執行者が、謄本を遺言者本人が保管するケースが多いです。
公正証書遺言の作成には、以下の費用がかかります。
下表のとおり
(例)遺言書が4枚、相続・遺贈の対象財産が4,000万円の場合は4万円(=2万9000円+1万1000円)
1枚当たり250円(例:4枚の遺言書の正本・謄本の交付を受ける場合は計2,000円)
公証人手数料は以下のとおりです。
相続・遺贈の対象財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万7000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 2万3000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 2万9000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 4万3000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5,000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5,000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
※公証人に出張を依頼する場合は、上記金額の50%および交通費を加算
※対象財産の価額が1億円以下のときは、1万1000円を加算
※原本の枚数が4枚(横書きの場合は3枚)を超えるときは、超過1枚ごとに250円を加算
公正証書遺言は無効になりにくく、変造や紛失のリスクを防げるメリットがあります。遺言書によって相続対策を行う際には、公正証書遺言を作成するのが安心でしょう。
公正証書遺言の作成については、弁護士に相談すればアドバイスを受けられます。遺言者本人の意向を適切に反映しつつ、相続トラブルの予防にも役立つ遺言書の案文を提案してもらえるでしょう。
また、公証役場における手続きの手配についても、弁護士に依頼すれば代理で進めてもらうことができます。
公正証書遺言の作成をご検討中の方は、その内容や手続きなどについて、一度弁護士にご相談ください。