「遺留分」とは、相続などによって取得できる財産の最低保障額です。 被相続人は原則として、生前贈与や遺言書などにより、自分の財産を自由に処分できます。しかし、偏った割合で財産が分けられると、一部の相続人の相続に対する期待が害されてしまいます。
そこで民法では、被相続人の自由意思による財産の処分と相続への期待保護のバランスを図るため、兄弟姉妹以外の相続人およびその代襲相続人に遺留分を認めています。
現行民法において、遺留分を確保する方法として設けられているのは「遺留分侵害額請求」です。
しかし、2019年6月まで施行されていた旧民法では、遺留分を確保する方法は「遺留分減殺請求」とされていました。
遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する贈与または遺贈を特定して行います。
遺留分減殺請求を行うと、贈与または遺贈の目的物である財産の全部または一部が遺留分権利者に移転します。
たとえば銀行口座に振り込まれる形で行われた生前贈与の場合、目的物である預貯金債権は分けられるため、権利者は侵害された遺留分相当額の預貯金債権を取得します。
これに対して、不動産のように分けられない財産が遺留分減殺請求の対象とされたときは、その全部が権利者に移転する場合を除き、遺留分の権利者と負担者がその財産を共有することになります。
遺留分減殺請求ができるのは、以下の1および2の両方に該当する人です。
遺留分減殺請求は、権利行使によって共有関係が生じることがあり、特に不動産の共有についてトラブルが生じやすい点が問題視されていました。
そのため、2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」に改められました。
現行の遺留分侵害額請求は、遺留分減殺請求とは異なり、金銭による遺留分の精算を求めるものです。贈与や遺贈の目的物そのものを移転させるわけではなく、共有関係も生じないため、簡明な処理によって遺留分を精算できます。
2019年7月1日以降に発生した相続については、遺留分減殺請求ではなく遺留分侵害額請求によって遺留分の精算を行います。
これに対して、2019年6月30日以前に発生した相続については、旧民法の規定に従って遺留分減殺請求を行うことになります。
2019年6月30日以前に発生した相続について遺留分減殺請求を行う際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
遺留分侵害の有無および遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈を把握するためには、基礎財産の内容と取得者を把握する必要があります。
旧民法における遺留分の基礎財産に当たるのは、以下の財産です。
※相続債務の額は、基礎財産額から控除します。
なお、現行民法における遺留分侵害額請求については、相続人に対する贈与(上記3)が遺留分の基礎財産に含まれるのは、相続開始前10年間に行われた場合に限定されています。
基礎財産の内容と取得者が把握できたら、以下の式によって侵害されている遺留分額を計算します。
侵害されている遺留分額=遺留分額-実際に取得した基礎財産額
遺留分額=基礎財産額×遺留分割合
※遺留分割合は、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1。それ以外の場合は法定相続分の2分の1
(例)
基礎財産の総額が4000万円、相続人は被相続人の配偶者Aと子B・Cの計3名の場合
→Aの遺留分額は1000万円(=4000万円×4分の1)
→Aが500万円の遺産しか相続できなかった場合、Aの侵害された遺留分額は500万円
遺留分減殺請求の対象となるのは、以下の要領に従った負担順位が最上位である贈与・遺贈です。
最上位の贈与・遺贈だけでは侵害された遺留分額に満たない場合には、後順位の贈与・遺贈について、順次遺留分減殺請求を行います。
上記の検討が済んだら、内容証明郵便によって遺留分減殺請求を行いましょう。内容証明郵便を送付すると、遺留分減殺請求権の消滅時効が6か月間停止します。
請求書においては、減殺の対象となる贈与・遺贈の内容および価額、ならびに減殺すべき金額(=侵害された遺留分額)を明記する必要があります。正確に金額を計算するためには専門技術的な検討が求められますので、弁護士にご相談ください。
遺留分減殺請求に関する協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。民間の有識者から選任される調停委員の仲介によって、話し合いによる解決を目指します。
遺留分減殺請求に関する調停が不成立となった場合は、地方裁判所に対して訴訟を提起しましょう。
遺留分侵害の状況や減殺すべき価額などを立証すれば、裁判所が対象となる贈与・遺贈から遺留分を減殺する旨の判決を言い渡します。訴訟の判決が確定すれば、権利者は自動的に目的物の権利を取得します。
遺留分減殺請求権は、以下のうちいずれかの期間が経過すると時効により消滅します。
時効が完成する前に、内容証明郵便の送付や調停の申立てなどによって時効を停止または中断させる必要がありますので、お早めに弁護士へご相談ください。
遺留分減殺請求に当たっては、主に以下の費用がかかります。
他の相続人から遺留分減殺請求を受けた場合には、協議・調停・訴訟へ臨むに当たり、相手方の請求が妥当かどうかを検証しなければなりません。その上で、相手方の主張が誤っている場合には反論し、正しい場合には遺留分減殺に応じましょう。
弁護士に相談すれば、相手方の請求の当否を検討した上で、どのような落としどころを目指すべきかについてアドバイスを受けられます。
2019年6月30日以前に発生した相続について、想定よりも取得できた遺産が少なかった場合は、他の相続人などに対する遺留分減殺請求を検討しましょう。
遺留分減殺請求の制度は、現行の遺留分侵害額請求よりも複雑かつトラブルのリスクが高いため、請求に当たっては弁護士へのご依頼をおすすめします。
遺留分減殺請求には期限(時効)があるので、お早めに弁護士へご相談ください。