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遺留分減殺請求とは? 改正による変更点・手続き・期限・かかる費用などを解説

兄弟姉妹以外の相続人には、相続などにより取得できる財産の最低ラインとして「遺留分」が認められています。現行民法では、遺留分を確保する方法は「遺留分侵害額請求」とされていますが、2019年6月以前に相続が発生した場合は「遺留分減殺請求」を行うことになります。弁護士に相談して、どのような方法で遺留分を確保すべきかを検討しましょう。この記事では遺留分減殺請求について、改正による変更点や手続き・期限・かかる費用などを解説します。

遺留分とは

「遺留分」とは、相続などによって取得できる財産の最低保障額です。

被相続人は原則として、生前贈与や遺言書などにより、自分の財産を自由に処分できます。しかし、偏った割合で財産が分けられると、一部の相続人の相続に対する期待が害されてしまいます。

そこで民法では、被相続人の自由意思による財産の処分と相続への期待保護のバランスを図るため、兄弟姉妹以外の相続人およびその代襲相続人に遺留分を認めています。

遺留分減殺請求とは

現行民法において、遺留分を確保する方法として設けられているのは「遺留分侵害額請求」です。

しかし、2019年6月まで施行されていた旧民法では、遺留分を確保する方法は「遺留分減殺請求」とされていました。

遺留分減殺請求の効果

遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する贈与または遺贈を特定して行います。

遺留分減殺請求を行うと、贈与または遺贈の目的物である財産の全部または一部が遺留分権利者に移転します。

たとえば銀行口座に振り込まれる形で行われた生前贈与の場合、目的物である預貯金債権は分けられるため、権利者は侵害された遺留分相当額の預貯金債権を取得します。

これに対して、不動産のように分けられない財産が遺留分減殺請求の対象とされたときは、その全部が権利者に移転する場合を除き、遺留分の権利者と負担者がその財産を共有することになります。

遺留分減殺請求ができる人

遺留分減殺請求ができるのは、以下の1および2の両方に該当する人です。

  1. 兄弟姉妹以外の相続人またはその代襲相続人であること
  2. 2019年6月30日以前に被相続人が死亡して発生した相続の相続人であること

【2019年7月施行】遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求への改正ポイント

遺留分減殺請求は、権利行使によって共有関係が生じることがあり、特に不動産の共有についてトラブルが生じやすい点が問題視されていました。

そのため、2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」に改められました

現行の遺留分侵害額請求は、遺留分減殺請求とは異なり、金銭による遺留分の精算を求めるものです。贈与や遺贈の目的物そのものを移転させるわけではなく、共有関係も生じないため、簡明な処理によって遺留分を精算できます。

2019年7月1日以降に発生した相続については、遺留分減殺請求ではなく遺留分侵害額請求によって遺留分の精算を行います

これに対して、2019年6月30日以前に発生した相続については、旧民法の規定に従って遺留分減殺請求を行うことになります

遺留分減殺請求のやり方(手続き)

2019年6月30日以前に発生した相続について遺留分減殺請求を行う際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

  1. 基礎財産の内容と取得者を把握する
  2. 侵害されている遺留分額を計算する
  3. 遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈を特定する
  4. 請求書を送付する
  5. 調停を申し立てる
  6. 訴訟を提起する

基礎財産の内容と取得者を把握する

遺留分侵害の有無および遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈を把握するためには、基礎財産の内容と取得者を把握する必要があります。

旧民法における遺留分の基礎財産に当たるのは、以下の財産です。

  1. 相続財産
  2. 遺贈された財産(​​遺言で財産の割合を指定し、特定の誰かに引き継がせた財産)
  3. 相続人に対して贈与された財産(特別受益に当たるものに限る)
    ※最高裁平成10年3月24日判決
  4. 3に当たるものを除き、相続開始前1年間に贈与された財産

※4について、贈与の当時において贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っていたときは、それより前の期間の贈与も遺留分の基礎財産に含まれます。

※相続債務の額は、基礎財産額から控除します。

なお、現行民法における遺留分侵害額請求については、相続人に対する贈与(上記3)が遺留分の基礎財産に含まれるのは、相続開始前10年間に行われた場合に限定されています。

侵害されている遺留分額を計算する

基礎財産の内容と取得者が把握できたら、以下の式によって侵害されている遺留分額を計算します。
侵害されている遺留分額=遺留分額-実際に取得した基礎財産額
遺留分額=基礎財産額×遺留分割合

※遺留分割合は、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1。それ以外の場合は法定相続分の2分の1

(例)
基礎財産の総額が4000万円、相続人は被相続人の配偶者Aと子B・Cの計3名の場合
→Aの遺留分額は1000万円(=4000万円×4分の1)
→Aが500万円の遺産しか相続できなかった場合、Aの侵害された遺留分額は500万円

遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈を特定する

遺留分減殺請求の対象となるのは、以下の要領に従った負担順位が最上位である贈与・遺贈です。

  1. 遺贈を贈与よりも先に減殺する。遺贈の間では、目的の価額の割合に応じて減殺する。
  2. 贈与は、後に行われたものから順に減殺する。同時期に行われた贈与の間では、目的の価額の割合に応じて減殺する。

最上位の贈与・遺贈だけでは侵害された遺留分額に満たない場合には、後順位の贈与・遺贈について、順次遺留分減殺請求を行います。

請求書を送付する

上記の検討が済んだら、内容証明郵便によって遺留分減殺請求を行いましょう。内容証明郵便を送付すると、遺留分減殺請求権の消滅時効が6か月間停止します

請求書においては、減殺の対象となる贈与・遺贈の内容および価額、ならびに減殺すべき金額(=侵害された遺留分額)を明記する必要があります。正確に金額を計算するためには専門技術的な検討が求められますので、弁護士にご相談ください。

調停を申し立てる

遺留分減殺請求に関する協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。民間の有識者から選任される調停委員の仲介によって、話し合いによる解決を目指します。

訴訟を提起する

遺留分減殺請求に関する調停が不成立となった場合は、地方裁判所に対して訴訟を提起しましょう。

遺留分侵害の状況や減殺すべき価額などを立証すれば、裁判所が対象となる贈与・遺贈から遺留分を減殺する旨の判決を言い渡します。訴訟の判決が確定すれば、権利者は自動的に目的物の権利を取得します。

遺留分減殺請求の期限(時効)

遺留分減殺請求権は、以下のうちいずれかの期間が経過すると時効により消滅します。

  1. 相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年
  2. 相続開始の時から10年

時効が完成する前に、内容証明郵便の送付や調停の申立てなどによって時効を停止または中断させる必要がありますので、お早めに弁護士へご相談ください。

遺留分減殺請求にかかる費用

遺留分減殺請求に当たっては、主に以下の費用がかかります。

  1. 調停申立ての費用
    家庭裁判所へ調停を申し立てる際の費用です。収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手が必要です。

  2. 訴訟費用
    遺留分減殺請求訴訟を提起する際の費用です。請求額に応じて変わる手数料と、連絡用の郵便切手が必要です。

  3. 弁護士費用
    弁護士に依頼する際の費用です。依頼先によって金額が異なりますが、着手金として請求額の8%程度、報酬金として獲得額の16%程度が標準的です。

遺留分減殺請求を受けたらどうすべき?

他の相続人から遺留分減殺請求を受けた場合には、協議・調停・訴訟へ臨むに当たり、相手方の請求が妥当かどうかを検証しなければなりません。その上で、相手方の主張が誤っている場合には反論し、正しい場合には遺留分減殺に応じましょう。

弁護士に相談すれば、相手方の請求の当否を検討した上で、どのような落としどころを目指すべきかについてアドバイスを受けられます。

まとめ

2019年6月30日以前に発生した相続について、想定よりも取得できた遺産が少なかった場合は、他の相続人などに対する遺留分減殺請求を検討しましょう。

遺留分減殺請求の制度は、現行の遺留分侵害額請求よりも複雑かつトラブルのリスクが高いため、請求に当たっては弁護士へのご依頼をおすすめします。

遺留分減殺請求には期限(時効)があるので、お早めに弁護士へご相談ください。

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この記事の監修者
監修者の名前
関根翔弁護士
監修者の所属事務所
池袋副都心法律事務所

東京弁護士会所属。相続問題は複雑な法理論を必要とし、また、事実関係が複雑であり、収集すべき証拠も多くなる傾向にあります。当事務所では、手間を惜しまず綿密な計画を事前に立て、迅速に行動することをモットーとしています。

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