

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の遺産取り分のことです。
被相続人(亡くなった方)は、遺言や生前贈与によって自身の財産を自由に渡すことができます。しかし、特定の人だけにほとんどの財産を渡してしまうと、残された家族の生活が立ちゆかなくなることもあり得ます。そこで、近しい一定の相続人には一定割合の取り分を保障しておく制度が遺留分です。
遺留分が認められるのは、配偶者・子(その代襲相続人を含む)・直系尊属(父母など)です。兄弟姉妹には遺留分は認められません。

遺留分として保障される割合は、被相続人と相続人の親族関係によって変わりますが、原則として法定相続分の2分の1(相続人が直系尊属だけの場合は3分の1)が基準になります。
遺言などによって自身の遺留分が侵害されている場合に、侵害されている遺留分を回復するために行うのが、この記事で取り上げる請求内容となります。

遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)とは、遺留分を侵害されている場合に、侵害されている遺留分を回復させることができる制度です。
ただし、この「遺留分減殺請求」は法改正前の制度であり、法改正によって、現在は「遺留分侵害額請求」という新しい制度に置き換わっています。
そのため、インターネットや書籍で「遺留分減殺請求」に関する記述を見かけても、これから新たに利用する制度は、基本的に遺留分侵害額請求になります。法改正前の制度と法改正後の制度のどちらが適用されるかは、次に説明するとおり相続が開始した時期によって決まります。
遺留分減殺請求は、改正前の民法で定められていた旧制度です。2018年の民法改正によって見直され、現在は遺留分侵害額請求に変わりました。
旧制度と現制度は、どちらも侵害されている遺留分を取り戻す制度ですが、取り戻し方の中身は大きく異なります。旧制度では財産そのものを取り戻すのが原則だったのに対し、現制度では侵害された遺留分を金員に換算して金員の支払いを請求します。この違いの詳細は、後半の改正ポイントで説明します。
まずは、「減殺請求=旧制度」「侵害額請求=現在の制度」という関係を押さえておきましょう。
法改正前と法改正後のどちらの制度が適用されるかは、相続が開始した日によって決まります。相続開始日は、被相続人が亡くなった日になります。請求する日が基準となるわけではない点に注意してください。
境目となるのは、改正法が施行された2019年7月1日です。
すでに被相続人が亡くなった日が決まっている以上、どちらの制度を利用するか選択することはできません。亡くなった日を基準に、自動的に適用される制度が決まることになります。

遺留分減殺請求又は遺留分侵害額請求をすることができるのは、遺留分が認められる人(遺留分権利者)に限られます。具体的には、配偶者・子(その代襲相続人を含む)・直系尊属が遺留分権利者となります。兄弟姉妹は遺留分権利者とはなりません。
請求先は、遺留分を侵害している受遺者(遺贈を受けた人)や受贈者(生前贈与を受けた人)です。
注意したいのが請求の期限です。遺留分侵害額請求には次の時効と除斥期間があり、過ぎてしまうと請求できなくなるため、早めの対応が欠かせません。
旧制度の遺留分減殺請求についても、時効と除斥期間の考え方は同様です。遺留分侵害のおそれがある場合は、早めに弁護士に相談した方が良いでしょう。

ここからは、旧制度の遺留分減殺請求から新制度の遺留分侵害額請求へと法改正された主な改正ポイントを見ていきます。
最大の改正点が、請求の中身が金銭の支払いを求める権利に統一されたことです。これを金銭債権化といいます。
旧制度の遺留分減殺請求では、遺留分を侵害している財産そのものを取り戻すのが原則でした。たとえば不動産を遺贈された人に遺留分減殺請求した場合、その不動産に対し共有持分が認められることにより、侵害された遺留分の回復が図られていました。
これに対し、新制度の遺留分侵害額請求では、侵害された遺留分に相当するお金を請求する権利が認められることにより侵害された遺留分の回復が図られることとなりました。財産の現物ではなく、金銭に換算して請求するしくみとなりました。
金銭債権化には、財産が共有状態になるのを避けるというねらいがあります。
旧制度では、減殺請求をすると不動産や自社株などが請求した人と元の取得者との共有になってしまうことがありました。共有になると、売却などの処分に全員の同意が必要になり、不動産の処分や事業の承継に支障が生じやすいという問題がありました。
新制度では金銭での清算になったため、こうした共有状態が生じません。会社や不動産を受け継いだ人が、事業や財産をそのまま維持しやすくなったのが大きな利点です。
金員を支払うしくみに変わったことで、新たに設けられたのが支払期限の許与という制度です。
遺留分侵害額を請求された受遺者や受贈者が、すぐにまとまった金員を用意できるとは限りません。受け取った財産が不動産などの場合、売却して金員に換価するには時間がかかるからです。
そこで、受遺者又は受贈者の申し出により、裁判所が支払いについて相当の期限を与えることができるようになっています。許与された期限までの間は、支払いが遅れたとの扱いにならず、遅延損害金は発生しません。
請求される側にとっては、支払うべき金員を用意するだけの猶予を確保できるという点で、重要な制度になります。
2019年6月30日以前に発生した相続について遺留分減殺請求を行う際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
遺留分侵害の有無および遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈を把握するためには、基礎財産(遺留分算定の基礎となる財産)の内容と取得者を把握する必要があります。
旧民法における遺留分の基礎財産に当たるのは、以下の財産です。
なお、現行民法における遺留分侵害額請求については、相続人に対する生前贈与(上記4)が遺留分の基礎財産に含まれるのは、相続開始前10年間に行われた場合又は被相続人と受贈者が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合に限定されます。
基礎財産の内容と取得者が把握できたら、以下の式によって侵害されている遺留分の金額を計算します。なお、遺留分侵害額を算出している間に1年の時効が経過してしまうおそれがあるような場合は、時効にかかることを避けるため、金額を明示せずに、まずは遺留分減殺請求をする旨の意思表示を内容証明郵便で行う必要があります。
侵害されている遺留分の金額=遺留分額-実際に取得した基礎財産額
遺留分額=基礎財産額×遺留分割合
※遺留分割合は、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1。それ以外の場合は法定相続分の2分の1
(例)
基礎財産の総額が4000万円、相続人は被相続人の配偶者Aと子B・Cの計3名の場合
→Aの遺留分額は1000万円(=4000万円×4分の1)
→Aが500万円の遺産しか相続できなかった場合、Aの侵害された遺留分額は500万円
遺留分減殺請求の対象となる贈与・遺贈は、以下の通り決められます。
遺贈の目的の価格だけでは侵害された遺留分額に満たない場合には、後順位の贈与について、順次遺留分減殺請求を行います。
上記の検討が済んだら、内容証明郵便によって遺留分減殺請求を行いましょう。遺留分減殺請求権及び遺留分侵害額請求権は、相手に「請求します」という意思表示をした時点で行使したことになる権利です。そのため、1年以内に内容証明郵便が相手に届けば、1年の時効にかかる心配はなくなります。
遺留分侵害額請求において注意したいのは、請求によって新たに発生する「お金を支払ってもらう権利(金銭債権)」には、別途5年の消滅時効がある点です。相手が支払いに応じない場合は、新たな時効にかかることがないよう、調停の申し立てを検討しましょう。
請求書には、減殺の対象となる贈与・遺贈の内容および価額、ならびに減殺すべき金額(=侵害された遺留分額)を明記しましょう。正確に金額を計算するためには専門的な検討が求められますので、弁護士にご相談ください。
遺留分減殺請求に関する協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。民間の有識者から選任される調停委員2名と裁判官1名により構成される調停委員会の仲介によって、話し合いによる解決を目指します。
遺留分減殺請求に関する調停が不成立となった場合は、地方裁判所に訴訟を提起しましょう。
遺留分侵害の事実や減殺すべき価額などを立証すれば、裁判所が対象となる贈与・遺贈から遺留分を減殺する旨の判決を言い渡します。判決が確定すれば、権利者は目的物に対する権利を取得します。
なお、目的物に対する権利を取得するのは旧制度(遺留分減殺請求)における効果です。2019年7月1日以降に開始した相続に適用される現在の遺留分侵害額請求では、請求できるのは「お金」であり、判決が確定しても不動産などの目的物に対する権利を取得できるわけではない点に注意してください。
遺留分減殺請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効又は除斥期間により消滅します。
時効が完成する前に、内容証明郵便の送付などにより遺留分減殺請求をする旨の意思表示をする必要がありますので、お早めに弁護士へご相談ください。
遺留分減殺請求に当たっては、主に以下の費用がかかります。
他の相続人から遺留分減殺請求を受けた場合には、協議・調停・訴訟へ臨むに当たり、相手の請求が妥当かどうか検証する必要があります。その上で、相手の主張に納得のいかない点がある場合には反論し、適切と思われる内容を主張しましょう。
弁護士に相談することにより、相手の請求の当否を検討した上で、どのような落としどころを目指すべきかについてアドバイスを受けることが期待できます。
遺言書などにより取得できた遺産が少なかった場合は、遺留分の侵害が生じていないか検討してみましょう。
遺留分減殺請求(旧制度)及び遺留分侵害額請求(現制度)は、請求にあたって専門的な検討が必要となりますので、弁護士に相談することをおすすめします。
時効も短いため、お早めに弁護士へご相談ください。

東京弁護士会所属。相続問題は複雑な法理論を必要とし、また、事実関係が複雑であり、収集すべき証拠も多くなる傾向にあります。当事務所では、手間を惜しまず綿密な計画を事前に立て、迅速に行動することをモットーとしています。