

はじめに、兄弟姉妹で相続放棄が検討される代表的な場面を整理します。自分が亡くなった人の子として相続人になるのか、亡くなった人の兄弟姉妹として相続人になるのかで、手続きの重さが変わる点も押さえておきましょう。
亡くなった人に借金や連帯保証、使い道のない空き家などがある場合、相続放棄をすればこれらを引き継がずに済みます。プラスの財産よりマイナスの財産が多いと見込まれるときは、兄弟全員での放棄がよく検討されます。
ただし、相続放棄をするとプラスの財産も一切受け取れなくなります。借金の額がはっきりしないときは、まず財産調査をして、放棄すべきか・受け継いでも大丈夫かを見極めることが大切です。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」に寄せられた相続の相談のうち、兄弟姉妹の相続放棄に関する相談は919件ありました。
内容別に見ると、最も多いのは借金・負債にかかわる相談で397件(約43%)、次いで手続き・書類・費用が182件、次順位や甥・姪への影響が101件です。(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=919)
「実家を継ぐ長男にまとめたい」など、特定の一人に遺産を集めたいときにも相続放棄が使われます。ただし、遺産分割協議で取得者を決める方法でも同じ結果にできるため、放棄が最適かは状況によります。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかった扱いになり、後から「やはり少し受け取りたい」と変更することはできません。遺産を集めたいだけなら、まずは遺産分割協議での調整を検討し、放棄は借金などを引き継ぎたくない場合の手段と整理しておくとよいでしょう。
亡くなった人(被相続人)に子も親もいない場合、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)が相続人になります。この立場で放棄するときは、必要な戸籍が大きく増えるなど手続きの負担が重くなります(必要な戸籍は、後述の必要書類の章と関連記事で確認できます)。
また、亡くなった人より先に亡くなっている兄弟姉妹がいれば、その子(甥・姪)が代わりに相続人になるため、相続人の範囲も変わります。自分が第3順位として相続放棄を求められたときは、まず誰が相続人になっているのかを確認するところから始めると安心です。
相続放棄は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行います。財産を調べて放棄を決めたら、書類をそろえて申述します。家庭裁判所から照会書(回答書)が届いた場合は回答し、相続放棄申述受理通知書が届けば完了です。
兄弟でまとめて申述する場合も、申述書は1人1通ずつ作ります。照会書が送られてくる場合は申述した人それぞれに届くため、兄弟ごとに自分で回答して返送します。
申述書の書き方や、申述から受理までの各ステップは、次の記事で順を追って解説しています。
申述書の記入例を見ながら書きたいときは、こちらの記事が参考になります。
兄弟姉妹は、条件を満たせば一緒に(まとめて)相続放棄の手続きができます。ただし、同時に放棄が認められるのは、亡くなった人の子どうしや、配偶者と子のように同じ順位で相続人になる人どうしです。
まとめて手続きできるかどうかは、次のように整理できます。
相続人になる順番は、子が第1順位、親などの直系尊属が第2順位、被相続人の兄弟姉妹が第3順位です。亡くなった人の子である兄弟姉妹は全員が第1順位で同じ立場なので、同時に申述できます。申述書は1人ずつ作成しますが、まとめて家庭裁判所へ提出してかまいません。
亡くなった人の配偶者は常に相続人で、子がいる場合は子と同じ順位として扱われます。そのため、配偶者と子も同時に申述でき、同時に放棄が認められます。
相続放棄は一人ひとりが自分の意思で決める手続きなので、兄弟全員の同意は必要ありません。同じ順位でも別々に申述でき、先に誰かが放棄した後から、残りの兄弟が申述してもかまいません。
その場合も、期限の3か月は兄弟それぞれについて数えます。後から申述する人は、自分の期限を過ぎないように注意しましょう。

一方、相続の順位が違う人は、同じタイミングで放棄を認めてもらうことはできません。先順位の人が放棄して次順位に相続権が移ってからでないと、次順位の人は相続人にならないためです。
次順位の人の3か月の期限は、先順位の人が全員放棄して、自分が相続人になったことを知った時から数えます。先順位の放棄を待っている間に、次順位の人の期限が過ぎてしまうことはありません。
たとえば子が全員放棄してはじめて親が相続人になります。親や被相続人の兄弟姉妹まで連鎖して放棄するときは、順番に手続きする必要があり、全体で時間がかかる点に注意しましょう。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「母に多額の借金があり、子3人が放棄すると母の兄姉や甥・姪にまで相続が及ぶ。全員が放棄する方法はあるか」という相談が寄せられています。
まとめて手続きする最大の利点は、亡くなった人の戸籍など共通書類を1通にまとめられることです。書類集めの手間と取得費用を抑えられ、家庭裁判所とのやり取りも一度で済みます。
さらに、兄弟全員の足並みをそろえやすいのもメリットです。一人だけ放棄して他の兄弟に負担が偏る、という事態を避けやすく、放棄するかどうかを兄弟で話し合ってから一緒に進められる点も安心につながります。
弁護士や司法書士に頼むときも、兄弟全員でまとめて依頼できます。それぞれが委任状を出して窓口を一本化すれば、戸籍集めや家庭裁判所とのやり取りを任せられ、遠方に住む兄弟がいても手続きを進めやすくなります。
費用は、自分たちで手続きするか専門家に依頼するかで大きく変わります。まずは目安を一覧で確認しましょう。
手続きの方法 | 費用の目安(1人あたり) |
|---|---|
自分たちでまとめて手続き | 収入印紙800円+郵便切手・戸籍取得費(数千円程度) |
司法書士に依頼 | 数万円〜 |
弁護士に依頼 | 数万円〜10万円程度 |
自分で行う場合の費用は、申述する人1人につき収入印紙800円、連絡用の郵便切手、戸籍などの取得費です。1人あたり数千円程度に収まることが多く、まとめて手続きすれば共通の戸籍は1通分で済むため割安になります。
戸籍は、戸籍謄本1通450円、除籍・改製原戸籍は1通750円が目安です。亡くなった人の兄弟姉妹が放棄する場合は集める戸籍が増えるため、その分費用も上がります。
亡くなった人の子である兄弟がまとめて申述する場合の実費を、人数別に計算すると次のとおりです。共通書類(亡くなった人の除籍謄本と住民票の除票)を1通ずつ、申述する人ごとに収入印紙と戸籍謄本を用意する想定です。
申述する兄弟の人数 | 実費の目安(郵便切手代を除く) |
|---|---|
2人 | 約3,500円 |
3人 | 約5,000円 |
4人 | 約6,000円 |
郵便切手の金額は家庭裁判所ごとに異なるため、提出先の家庭裁判所で確認しましょう。
専門家に依頼すると、1人あたり数万円〜10万円程度が相場です(事案や人数で変動)。複数人をまとめて依頼すると、2人目以降が割引になる事務所もあります。
相続弁護士ドットコム掲載事務所の料金表681件のうち、相続放棄の費用を載せている事務所は115件でした。金額を集計できた110件の中央値は1人7万円で、約9割(101件)が11万円以下です。
また、115件のうち13件は「2人目以降は半額」「2人目以降は1人3万3,000円」など、2人目以降の料金を1人目と分けて定めています。(2026年9月時点・当社調べ、n=115)
単純で期限に余裕があるなら自分でも進められますが、期限が迫っている、債権者とのやり取りがある、第3順位で戸籍が複雑といった場合は専門家に頼むと安心です。迷ったら早めに相談すると、期限切れのリスクを避けやすくなります。
依頼先は、書類作成が中心なら司法書士、債権者対応や交渉まで任せたいなら弁護士が向いています。兄弟でまとめて頼める事務所も多いので、人数や事情を伝えて見積もりをとるとよいでしょう。
弁護士と司法書士で費用がどう変わるか、費用を抑えるコツも次の記事で確認できます。
必要書類は、全員に共通するものと、申述する人ごとに必要なものに分かれます。
亡くなった人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本と住民票の除票は、まとめて手続きすれば兄弟で1通ずつで足ります。
申述書と、申述する人自身の戸籍謄本は、1人ずつ用意します。
亡くなった人の兄弟姉妹(第3順位)が放棄するときは、先順位の相続人がいないことを示すため、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍や、親・祖父母など直系尊属が亡くなっていることがわかる戸籍まで必要です。亡くなった人の子が先に亡くなっている場合は、その子の死亡がわかる戸籍も加わります。
続柄ごとにそろえる戸籍の一覧や取り寄せ方は、次の記事でくわしく解説しています。

相続放棄は、自分が相続しないだけでなく、他の相続人にも影響します。放棄する前に、相続権が誰に移るのかを確認しておきましょう。
特に借金がある相続では、誰かが放棄するとその負担が別の人に移るだけになります。「自分さえ放棄すれば終わり」ではなく、関係する親族全体でどう対応するかを考えることが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
兄弟のうち一人だけが放棄すると、その人の相続分は放棄していない他の兄弟に振り分けられます。プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産の負担も増える点に注意が必要です。
たとえば子が3人で、1人が放棄すると、残り2人で遺産を分けることになり、1人あたりの取り分(と借金の負担)はおよそ1.5倍になります。借金が多いケースで一人だけ放棄すると、残った兄弟に負担を押しつける形になりかねないため、兄弟で方針をそろえるのが安心です。
相続放棄では代襲相続は起こりません。そのため、被相続人の兄弟姉妹が放棄しても、その子(甥・姪)に相続権が移ることはありません。亡くなった人の子が放棄しても孫に移らないのも同じ理由です。
放棄によって相続権が誰にどう移るのか、パターン別の影響は次の記事で整理しています。
亡くなった人の子が全員放棄すると、相続権は第2順位の直系尊属(親や祖父母)へ移ります。直系尊属もいなければ、第3順位の被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
なお、配偶者は順位に関係なく常に相続人です。子が全員放棄しても配偶者は相続人のままで、配偶者と次順位の人(親や被相続人の兄弟姉妹)が一緒に相続人になります。
相続人になり得る人が全員放棄すると、相続人が誰もいない状態になります。この場合、利害関係人などの申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、清算人が借金の支払いなどを行います。
清算人の選任の申立てをするときは、数十万円程度の予納金が必要になることがあります。「全員で放棄すれば終わり」ではなく、空き家や残った財産の後始末に費用や手間がかかることもある点は知っておきましょう。
自分が放棄すると、知らないうちに次順位の親族が借金つきの相続人になってしまうことがあります。放棄したら、次に相続人になる人へ伝えておくと、後のトラブルを防げます。
反対に、自分が次順位の立場なら、先順位の人の放棄が受理されたかを確かめる必要があります。利害関係人として家庭裁判所に相続放棄の申述の有無を照会したり、放棄した本人に相続放棄申述受理証明書を見せてもらったりする方法があります。
相続放棄申述受理証明書の取り方や使い道は、次の記事で確認できます。
取り返しのつかない失敗を避けるための注意点を確認します。
相続放棄には、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内という期限があります。間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ期間伸長の申立てをすれば延ばせる場合があります。
起算日は「死亡日」ではなく「自分が相続人になったと知った日」です。そのため、後から借金が判明したケースなどでは、3か月を過ぎていても放棄が認められることがあります。期限が近い・過ぎたか不安なときは、自己判断せず早めに専門家へ相談しましょう。
次順位の人の期限は、先順位の人の放棄によって自分が相続人になったと知った日から3か月です。
「みんなの法律相談」には、「疎遠で住所もわからない兄が亡くなったら、兄の子が放棄した後に自分も放棄できるか」という相談も寄せられています。
期限の数え方や、期間伸長の申立ての方法は、次の記事でくわしく解説しています。
受理された相続放棄は、原則として撤回できません。また、放棄する前に預貯金を使う・遺品を売るなど遺産を処分すると、相続を承認したとみなされ放棄できなくなります(法定単純承認)。
迷いやすいのが、葬儀費用の支払いや形見分けです。常識的な範囲なら問題になりにくい一方、高価な遺品を持ち帰る・預金を生活費に充てるなどは処分とみなされるおそれがあります。放棄を考えているなら、遺産には手をつけないのが安全です。
どんな行為が「処分」にあたって放棄できなくなるのか、失敗しやすいケースは次の記事にまとめています。
2023年4月施行の民法改正により、相続放棄をしても放棄の時に現に占有している財産については、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務が残ります(民法940条)。
以前は占有していない財産まで管理が必要かが不明確でしたが、義務の範囲は「現に占有しているもの」に限られることが明確になりました。空き家に住んでいた場合などは、引き渡しまで最低限の管理が必要です。
相続放棄をしても、受取人が指定された生命保険金は受取人固有の財産なので受け取れます。また、遺族年金や香典なども相続財産には含まれないため、放棄しても受け取れます。「放棄すると何も受け取れない」と思い込んで判断を誤らないようにしましょう。
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続できなくなります。一部の財産のみを放棄することはできません。
なお、土地だけを手放したい場合に取れる方法は、次の記事でくわしく解説しています。
兄弟姉妹の一部のみが相続放棄をした場合、他の兄弟姉妹の相続割合が均等に増えることになります。たとえば、亡くなった人の子4人のみが相続人でそのうち1人が相続放棄をした場合、それぞれの相続分は1/4から1/3に増えます。
亡くなった人の子である兄弟姉妹の全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人に相続権が移ります。具体的には、被相続人に複数の子がいて、その子たちが全員相続放棄をした場合、相続権は被相続人の父母へ移ります。
次順位の相続人は、自身で相続手続きに対応する必要があります。もし、次順位の相続人が遺産の取得を望まない場合には、その相続人も相続放棄をする必要があります。
一方で、被相続人の兄弟姉妹が全員相続放棄をした場合には、次順位はないので、相続人が存在しないということになります。配偶者も含めて相続人が誰もいなくなった場合は、相続財産清算人が借金の清算などを行い、特別縁故者への分与などを経て、残った財産は最終的に国庫に帰属します。
兄弟が全員で相続放棄した後に相続財産清算人(当時の名称は相続財産管理人)を選ぶことになり、「誰が選ばれ、何をするのか」と尋ねる相談も「みんなの法律相談」に寄せられています。
相続放棄をしても代襲相続は起こらないため、放棄した兄弟姉妹の子である甥や姪が相続することはありません。
ただし、被相続人より先に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合は、その子(甥・姪)が代わりに相続人になります。
このケースにあたる、「叔父が借金を残して亡くなり、叔父の弟だった父がすでに亡くなっている。姪の自分も放棄が必要か」という相談も「みんなの法律相談」に寄せられています。
被相続人の生命保険金や死亡退職金は、民法上の遺産ではありませんが、相続税では「みなし相続財産」として課税対象になります。相続人が受け取る場合は、それぞれ「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。
相続放棄をした場合でも、生命保険金や死亡退職金を受け取ることはできますが、放棄した人自身が受け取った分には非課税枠を使えません。
なお、非課税枠を計算するときの「法定相続人の数」には、放棄した人も含めて数えます。受取額や遺産の総額によっては相続税がかかる場合があるため、具体的な税額は税理士に確認しましょう。
相続放棄は、一度手続きすると原則として撤回できません。事前に慎重に判断しましょう。
亡くなった人の子である兄弟姉妹どうしや、配偶者と子のように同じ順位であれば、まとめて相続放棄できます。順位が違う人の放棄は、先順位の人の放棄が受理されてから順番に受理されます。
自分たちでまとめて手続きすれば、共通の戸籍が1通で済み、実費は兄弟3人でも5,000円前後(郵便切手代を除く)です。専門家に頼む場合は、掲載事務所の中央値で1人7万円が目安です。
借金の全体像がわからない、次順位の親族まで放棄が必要になりそう、期限が迫っている——こうした場合は、兄弟だけで判断せず早めに専門家を頼りましょう。
まずは弁護士への初回相談で、兄弟の誰がいつまでに申述すべきか、まとめて依頼した場合の総額がいくらになるかを確認しておきましょう。

弁護士登録番号41073。相続・遺産のほか、マンション管理や医療問題、刑事問題まで幅広く対応。一橋大学商学部商学科(国際金融専攻)卒業後、生命保険会社勤務を経て首都大学東京法科大学院に入学。その後、馬場亨二法律事務所を設立。文部科学省研究開発室主任専門官、日本プロ野球選手会 公認選手代理人、世田谷区支援事業委託事業審査委員、東京簡易裁判所民事調停委員、総務省参与などの実績を持つ。趣味は釣り、剣道、ゴルフ。