

はじめに、兄弟姉妹で相続放棄が検討される代表的な場面を整理します。自分が亡くなった人の子として相続人になるのか、亡くなった人の兄弟として相続人になるのかで、手続きの重さが変わる点も押さえておきましょう。
亡くなった人に借金や連帯保証、使い道のない空き家などがある場合、相続放棄をすればこれらを引き継がずに済みます。プラスの財産よりマイナスの財産が多いと見込まれるときは、兄弟全員での放棄がよく検討されます。
ただし、相続放棄をするとプラスの財産も一切受け取れなくなります。借金の額がはっきりしないときは、まず財産調査をして、放棄すべきか・受け継いでも大丈夫かを見極めることが大切です。
「実家を継ぐ長男にまとめたい」など、特定の一人に遺産を集めたいときにも相続放棄が使われます。ただし、遺産分割協議で取得者を決める方法でも同じ結果にできるため、放棄が最適かは状況によります。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかった扱いになり、後から「やはり少し受け取りたい」と変更することはできません。遺産を集めたいだけなら、まずは遺産分割協議での調整を検討し、放棄は借金などを引き継ぎたくない場合の手段と整理しておくとよいでしょう。
亡くなった人に子も親もいない場合、被相続人の兄弟(第3順位)が相続人になります。この立場で放棄するときは、必要な戸籍が大きく増えるなど手続きの負担が重くなります(詳しくは必要書類の章で解説します)。
また、先順位の甥・姪が亡くなっているかどうかで相続人の範囲も変わります。自分が第3順位として相続放棄を求められたときは、まず誰が相続人になっているのかを確認するところから始めると安心です。

相続放棄は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行います。おおまかな流れは次の5ステップです。
ステップ4の照会書は、家庭裁判所が「本当に自分の意思で放棄するのか」「いつ相続を知ったのか」「遺産に手をつけていないか」を確認するための書面です。質問に正直に答えて返送すれば、特別な事情がない限り受理されます。
受理されると、その人ははじめから相続人でなかったものとして扱われます。申述から受理までは、書類に不備がなければ通常2週間〜1か月程度が目安です。
受け取る相続放棄申述受理通知書は、放棄が認められたことを知らせる書面です。債権者などに放棄を証明する必要があるときは、別途相続放棄申述受理証明書を取得します。
申述書の具体的な書き方や記入例、そろえる書類は、次の記事でくわしく解説しています。

兄弟姉妹は、条件を満たせば一緒に(まとめて)相続放棄の手続きができます。ただし「まとめてできる」のは、同じ順位の相続人どうしの場合に限られます。
亡くなった人の子である兄弟姉妹は全員が第1順位で同じ立場なので、同時に申述できます。申述書は一人ずつ作成しますが、まとめて家庭裁判所へ提出して構いません。
一方、亡くなった人の配偶者と子、子と親など、相続の順位が違う人は同時に放棄できません。先順位の人が放棄して次順位に相続権が移ってからでないと、次順位の人は放棄できないためです。
たとえば子が全員放棄してはじめて親が相続人になるため、親が放棄できるのは子の放棄が受理された後です。親や被相続人の兄弟まで連鎖して放棄するときは、順番に手続きする必要があり、全体で時間がかかる点に注意しましょう。
まとめて手続きする最大の利点は、亡くなった人の戸籍など共通書類を1通にまとめられることです。書類集めの手間と取得費用を抑えられ、家庭裁判所とのやり取りも一度で済みます。
さらに、兄弟全員の足並みをそろえやすいのもメリットです。一人だけ放棄して他の兄弟に負担が偏る、という事態を避けやすく、放棄するかどうかを兄弟で話し合ってから一緒に進められる点も安心につながります。
費用は、自分たちで手続きするか専門家に依頼するかで大きく変わります。まずは目安を一覧で確認しましょう。
手続きの方法 | 費用の目安(一人あたり) |
|---|---|
自分たちでまとめて手続き | 収入印紙800円+郵便切手・戸籍取得費(数千円程度) |
司法書士に依頼 | 数万円〜 |
弁護士に依頼 | 数万円〜10万円程度 |
自分で行う場合の費用は、申述する人ひとりにつき収入印紙800円、連絡用の郵便切手、戸籍などの取得費です。一人あたり数千円程度に収まることが多く、まとめて手続きすれば共通の戸籍は1通分で済むため割安になります。
戸籍は、戸籍謄本1通450円、除籍・改製原戸籍は1通750円が目安です。亡くなった人の兄弟が放棄する場合は集める戸籍が増えるため、その分費用も上がります。
専門家に依頼すると、一人あたり数万円〜10万円程度が相場です(事案や人数で変動)。複数人をまとめて依頼すると、二人目以降が割引になる事務所もあります。
単純で期限に余裕があるなら自分でも進められますが、期限が迫っている、債権者とのやり取りがある、第3順位で戸籍が複雑といった場合は専門家に頼むと安心です。迷ったら早めに相談すると、期限切れのリスクを避けられます。
依頼先は、書類作成が中心なら司法書士、債権者対応や交渉まで任せたいなら弁護士が向いています。兄弟でまとめて頼める事務所も多いので、人数や事情を伝えて見積もりをとるとよいでしょう。
弁護士と司法書士で費用がどう変わるか、費用を抑えるコツも次の記事で確認できます。
必要書類は、全員に共通するものと、申述する人ごとに必要なものに分かれます。
相続放棄申述書のほか、亡くなった人の死亡が分かる戸籍(除籍)謄本と住民票の除票が必要です。これらの共通書類は、まとめて手続きすれば1通でかまいません。
戸籍は最寄りの市区町村役場で取得できます。2024年3月から始まった戸籍の広域交付で本籍地以外でも取れるようになりましたが、兄弟の分の取得や郵送・代理での取得は対象外なので、第3順位のケースでは本籍地での取り寄せが必要になることがあります。
申述する各人について、その人自身の戸籍謄本が必要です。亡くなった人と同じ戸籍に入っている場合は、共通の戸籍で足りることもあります。
申述書は家庭裁判所の窓口や裁判所のウェブサイトで入手できます。申述人ごとに1枚ずつ作成し、収入印紙を貼って提出します。書き方に迷うときは、記入例を見ながら進めると間違いを防げます。
亡くなった人の兄弟(第3順位)が放棄するときは、子や親など先順位の相続人がいないことを証明する必要があります。そのため、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍や、先順位者が亡くなっていることが分かる戸籍まで集めることになり、書類が大幅に増えます。

相続放棄は、自分が相続しないだけでなく、ほかの相続人にも影響します。放棄する前に、相続権が誰に移るのかを確認しておきましょう。
特に借金がある相続では、誰かが放棄するとその負担が別の人に移るだけになります。「自分さえ放棄すれば終わり」ではなく、関係する親族全体でどう対応するかを考えることが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
兄弟のうち一人だけが放棄すると、その人の相続分は放棄していない他の兄弟に振り分けられます。プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産の負担も増える点に注意が必要です。
たとえば子が3人で、1人が放棄すると、残り2人で遺産を分けることになり、一人あたりの取り分(と借金の負担)はおよそ1.5倍になります。借金が多いケースで一人だけ放棄すると、残った兄弟に負担を押しつける形になりかねないため、兄弟で方針をそろえるのが安心です。
相続放棄では代襲相続は起こりません。そのため、放棄した人の子(甥・姪)に相続権が移ることはありません。亡くなった人の子が放棄しても孫に移らないのも同じ理由です。
放棄によって相続権が誰にどう移るのか、パターン別の影響は次の記事で整理しています。
亡くなった人の子が全員放棄すると、相続権は第2順位の直系尊属(親や祖父母)へ移ります。直系尊属もいなければ、第3順位の被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
なお、配偶者は順位に関係なく常に相続人です。子が全員放棄しても配偶者は相続人のままで、配偶者と次順位の人(親や兄弟姉妹)が一緒に相続人になります。
相続人になり得る人が全員放棄すると、相続人が誰もいない状態になります。この場合、利害関係人などの申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、清算人が借金の支払いなどを行います。
清算人の選任の申立てをするときは、数十万円程度の予納金が必要になることがあります。「全員で放棄すれば終わり」ではなく、空き家や残った財産の後始末に費用や手間がかかることもある点は知っておきましょう。
自分が放棄すると、知らないうちに次順位の親族が借金つきの相続人になってしまうことがあります。放棄したら、次に相続人になる人へ必ず伝えておくと、後のトラブルを防げます。
最後に、取り返しのつかない失敗を避けるための注意点を確認します。
相続放棄には、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内という期限があります。間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ期間伸長の申立てをすれば延ばせる場合があります。
起算日は「死亡日」ではなく「自分が相続人になったと知った日」です。そのため、後から借金が判明したケースなどでは、3か月を過ぎていても放棄が認められることがあります。期限が近い・過ぎたか不安なときは、自己判断せず早めに専門家へ相談しましょう。
受理された相続放棄は、原則として撤回できません。また、放棄する前に預貯金を使う・遺品を売るなど遺産を処分すると、相続を承認したとみなされ放棄できなくなります(法定単純承認)。
迷いやすいのが、葬儀費用の支払いや形見分けです。常識的な範囲なら問題になりにくい一方、高価な遺品を持ち帰る・預金を生活費に充てるなどは処分とみなされるおそれがあります。放棄を考えているなら、遺産には手をつけないのが安全です。
どんな行為が「処分」にあたって放棄できなくなるのか、失敗しやすいケースは次の記事にまとめています。
法改正により、相続放棄をしても放棄の時に現に占有している財産については、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務が残ります(民法940条)。以前は占有していない財産まで管理が必要かが不明確でしたが、義務の範囲は「現に占有しているもの」に限られることが明確になりました。空き家に住んでいた場合などは、引き渡しまで最低限の管理が必要です。
相続放棄をしても、受取人が指定された生命保険金は受取人固有の財産なので受け取れます。また、遺族年金や香典なども相続財産には含まれないため、放棄しても受け取れます。「放棄すると何も受け取れない」と思い込んで判断を誤らないようにしましょう。
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続できなくなります。一部の財産のみを放棄することはできません。
兄弟姉妹の一部のみが相続放棄をした場合、他の兄弟姉妹の相続割合が均等に増えることになります。たとえば、兄弟姉妹4人のみが相続人でそのうち一人が相続放棄をした場合、それぞれの相続分は1/4から1/3に増えます。
兄弟姉妹の全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人に相続権が移ります。
具体的には、被相続人に複数の子がいて、その子たちが全員相続放棄をした場合、相続権は被相続人の父母へ移ります。
次順位の相続人は、自身で相続手続きに対応する必要があります。もし、次順位の相続人が遺産の取得を望まない場合には、その相続人も相続放棄をする必要があります。
一方で、被相続人の兄弟姉妹が全員相続放棄をした場合には、次順位はないので、相続人が存在しないということになります。相続人がいない場合、遺産は最終的には国庫に帰属します。
相続放棄をしても代襲相続は起こらないため、甥や姪が相続することはありません。
相続人が被相続人の生命保険金や死亡退職金を受け取った場合、相続税が課せられますが、それぞれ「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。
相続放棄をした場合でも、生命保険金や死亡退職金を受け取ることはできますが、相続人ではなくなるため、相続税の非課税枠が使えなくなります。
そのため、相続放棄をした場合でも、生命保険金や死亡退職金を受け取ることで、相続税の支払いが発生してしまう可能性があります。
相続放棄は、一度手続きすると原則として撤回できません。事前に慎重に判断しましょう。

弁護士登録番号41073。相続・遺産のほか、マンション管理や医療問題、刑事問題まで幅広く対応。一橋大学商学部商学科(国際金融専攻)卒業後、生命保険会社勤務を経て首都大学東京法科大学院に入学。その後、馬場亨二法律事務所を設立。文部科学省研究開発室主任専門官、日本プロ野球選手会 公認選手代理人、世田谷区支援事業委託事業審査委員、東京簡易裁判所民事調停委員、総務省参与などの実績を持つ。趣味は釣り、剣道、ゴルフ。