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相続税対策を考える前に、まず確かめたいのが「そもそも自分の家に相続税がかかるのか」です。財産の額によっては、対策をしなくても税金がかからないこともあります。

相続税には基礎控除という非課税のラインがあります。金額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
たとえば妻と子ども2人が相続人なら、3000万円+600万円×3人=4800万円までは相続税がかかりません。
法定相続人とは、民法で定められた相続する権利を持つ人のことです。正味の遺産額がこのラインを超えそうなときに、はじめて相続税対策が意味を持ちます。
対策の第一歩は、財産の棚卸しです。預貯金、株式などの有価証券、自宅などの不動産、生命保険金を、おおまかでよいので書き出してみましょう。
借入金や未払いの税金といったマイナスの財産は差し引けます。
正確な評価額の計算は複雑ですが、まずは「基礎控除を超えそうか、超えないか」の見当をつけることが大切です。ここがずれると、必要のない対策に労力をかけてしまいます。
基礎控除の範囲に収まりそうなら、税金を減らす対策よりも、遺産を誰にどう分けるかを先に決めておくほうが役立ちます。
相続税がかからなくても、分け方でもめる家庭はたくさんあります。とくに主な財産が自宅だけ、というケースは注意が必要です。
見落とされがちですが、相続税対策は財産を持つ本人が判断できるうちにしかできません。
認知症などで判断能力が下がると、贈与も生前の契約も原則としてできなくなります。
「まだ早い」と思っているうちに動けなくなることもあります。対策を考え始めたなら、早めに手をつけておくと安心です。
代表的な相続税対策を11個、効果と向いている人でまとめました。まずは全体を眺めて、自分に関係しそうなものに当たりをつけてみてください。
各対策の細かい要件や税額は、あとの見出しでひとつずつ説明します。
対策 | 節税の効果 | 向いている人 |
1 暦年贈与 | 年110万円まで非課税で渡せる | 早めに少しずつ渡したい |
2 相続時精算課税 | 累計2500万円まで贈与税がかからない | まとまった額を先に渡したい |
3 住宅取得資金の贈与 | 一定額まで非課税(期限あり) | 子や孫の家の購入を助けたい |
4 教育・結婚子育て資金 | 一括贈与が一定額まで非課税 | 孫の学費などを出したい |
5 生命保険 | 500万円×法定相続人まで非課税 | 現金を非課税枠に移したい |
6 死亡退職金 | 500万円×法定相続人まで非課税 | 会社の経営者・役員 |
7 お墓・仏壇 | 生前の購入分は非課税 | 近く用意する予定がある |
8 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地を最大8割減 | 自宅が財産の中心 |
9 賃貸不動産 | 土地・建物の評価額が下がる | 手元資金に余裕がある |
10 配偶者の税額軽減 | 1億6000万円まで非課税 | まず配偶者が受け取る |
11 養子縁組 | 基礎控除と非課税枠が増える | 相続人を増やせる家族構成 |
大きく分けると、財産そのものを減らす(1〜4)、非課税枠を使う(5〜7)、評価額を下げる(8・9)、控除と相続人の数で減らす(10・11)の4つの考え方があります。自分の財産が現金中心か、自宅中心かで、入り口が変わります。
暦年贈与とは、1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った贈与が110万円までなら贈与税がかからない、という基本の贈与です。
たとえば子ども2人に毎年110万円ずつ渡せば、10年で2200万円を無税で移せます。コツコツ財産を減らせる、もっとも取り組みやすい対策です。
注意したいのが生前贈与加算(持ち戻し)です。亡くなる前の一定期間の贈与は、相続財産に足し戻して相続税を計算します。
この期間は、2024年1月以降の贈与から、これまでの3年から7年へ段階的に延ばされています。2026年に相続が起きた場合はまだ3年分ほどですが、今後は対象期間が延びていきます。
そのため、贈与は元気なうちに早く始めるほど効果が出やすいといえます。なお延長された期間の贈与のうち総額100万円までは加算しない扱いです。
相続時精算課税とは、累計2500万円までの贈与について贈与税をいったんかけず、相続のときにまとめて精算する制度です。まとまったお金を早く渡したいときに向きます。
2024年からは、この制度にも年110万円の基礎控除が加わりました。
相続時精算課税を選んだあとの年110万円の基礎控除分は、相続財産に持ち戻されません。ここが暦年贈与との大きな違いです。
ただし、いったんこの制度を選ぶと暦年贈与には戻せません。渡した財産は相続時に精算するため、単純に「節税になる」とは限らない点に注意しましょう。
どちらが有利かは、渡す金額・期間・財産の種類で変わります。長い年数をかけて少しずつなら暦年贈与、早めにまとまった額を動かしたいなら相続時精算課税が向く場合があります。
迷いやすい点 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
非課税の枠 | 毎年110万円 | 累計2500万円+毎年110万円 |
相続時の持ち戻し | 一定期間分は戻す | 年110万円分は戻さない |
あとで変更できる? | 相続時精算課税に変更可 | 暦年には戻せない |
判断を誤ると税額が変わるため、選ぶ前に税理士に試算してもらうと安心です。
子や孫が住宅を買うための資金援助には、贈与税の非課税特例があります。
非課税になる金額は住宅の性能などで変わり、この特例で贈与できるのは2026年12月末までが期限とされています。マイホーム購入の予定が近いなら、検討する価値があります。
期限や限度額は変わることがあるため、使う前に最新の内容を国税庁の情報や税理士で確認しておきましょう。
孫などへの教育資金や、結婚・子育て資金をまとめて渡すときにも、一定額まで非課税になる特例があります。
ただし教育資金の一括贈与は、2026年3月末で新規の受付が終了しました。結婚・子育て資金の一括贈与は、2027年3月末までの贈与が対象とされています。
これらは期限つきで内容も何度も見直されてきた制度です。使えるかどうかはその時点の最新情報を必ず確認してください。なお、そもそも扶養している家族の教育費や生活費を必要な都度渡す分は、こうした特例を使わなくても課税されません。
生命保険は、相続税対策としてよく使われます。現金のまま残すより、非課税の枠を活かせるためです。
受け取った生命保険金には、「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠があります。相続人が3人なら1500万円までが非課税です。
現金1500万円はそのまま課税対象ですが、同じ額を保険金で受け取れば非課税にできる場合があります。
「年齢的にもう入れないのでは」と思われがちですが、告知が少なく高齢でも加入しやすい保険もあります。健康状態によって選べる商品は変わります。
生命保険金は、受取人を指定して特定の人に直接渡せるお金です。納税資金を用意したい人や、自宅を継ぐ子が他の子に払うお金(代償金)にあてたいときにも役立ちます。
保険金は遺産分割の対象外になるため、渡したい相手に確実に残しやすい点も特徴です。
非課税枠のしくみは、みなし相続財産の考え方とあわせて理解すると分かりやすくなります。
会社の役員や従業員が亡くなり、遺族が受け取る死亡退職金にも、生命保険金と同じく「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠があります。
会社を経営している場合は、退職金の規程を整えておくことで、この枠を活かせることがあります。
生命保険金の枠とは別に使えるため、経営者・役員の家庭では覚えておきたい対策です。
お墓や仏壇、仏具などの祭祀財産(お墓や仏壇など先祖をまつる財産)は、相続税がかからない非課税財産です。
同じ費用でも、亡くなったあとに遺産から支払うと相続税の節税にはなりませんが、生前に購入しておけば、その分だけ課税される財産を減らせます。
ただし、購入代金をローンにして未払いのまま残した場合、その未払金は債務として差し引けない点に注意しましょう。
小規模宅地等の特例は、自宅などの土地の評価額を大きく下げられる、効果の大きい対策です。

住んでいた自宅の土地は、一定の面積まで評価額を最大80%減らせます。評価額が下がれば、その分だけ相続税も下がります。
配偶者が引き継ぐ場合や、同居していた親族が引き継ぐ場合など、誰が引き継ぐかで使えるかどうかが決まります。要件が細かいため、自宅が財産の中心なら早めに確認しておきましょう。
土地の評価額の調べ方は、次の記事でくわしく解説しています。
よかれと思って自宅を生前に贈与すると、かえってこの特例を使えなくなり、税額が増えてしまうことがあります。
自宅は「贈与」より「相続で引き継ぐ」ほうが有利になるケースが多く、判断には注意が必要です。
現金を不動産に換えたり、土地に賃貸物件を建てたりすると、財産の評価額を下げられることがあります。
現金は額面がそのまま評価されますが、不動産は路線価をベースに評価されるため相続税の評価額が実際の時価より低くなるのが一般的です。この差が節税につながります。
人に貸している土地や建物は、借りている人の権利がある分、自分で使う場合より評価額が下がります。アパートや賃貸マンションの活用がこれにあたります。
一方で、節税だけを狙った不動産の購入が、税務署に認められなかった例もあります。
不動産は値下がりや空室のリスクもあり、「節税になるから」という理由だけで手を出すのは危険です。事業として行うことを前提に収益や資金繰りも含めて慎重に判断しましょう。
配偶者の税額軽減は、配偶者が受け取る遺産にかかる相続税を大きく軽くする制度です。
配偶者が取得した遺産は、1億6000万円か法定相続分のいずれか多い金額まで、相続税がかかりません。多くの家庭では、配偶者にはほとんど相続税がかからない計算になります。
ただし、目先の税額を抑えたいからと配偶者にすべて寄せると、次にその配偶者が亡くなったとき(二次相続)に、子の負担が大きくなることがあります。
一次相続と二次相続を通した合計で考えないと、かえって損をする場合があります。配偶者にどれだけ寄せるかは、試算のうえで決めるのが安心です。
養子縁組で法定相続人が増えると、基礎控除(600万円×人数)や生命保険金の非課税枠(500万円×人数)が増え、相続税を減らせることがあります。
相続人が1人増えれば、基礎控除は600万円、生命保険金と死亡退職金の非課税枠もそれぞれ広がります。孫や子の配偶者を養子にする方法がよく使われます。
ただし、相続税の計算で法定相続人に含められる養子の数には上限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
孫を養子にすると相続税が2割加算される点にも注意が必要です。ただし、亡くなった子の代わりに相続する孫(代襲相続人)は2割加算されません。養子縁組の相続への影響は、次の記事でまとめています。

ここまで11の対策を見てきましたが、節税を優先しすぎて家族がもめるのが、相続税対策で最も多い失敗です。税金は減っても、そのあと兄弟姉妹が争っては元も子もありません。
子や孫の名義で口座を作ってお金を移しても、通帳や印鑑を親が管理していると「名義預金」とみなされ、贈与と認められないことがあります。
贈与が成立するには、もらう側がその財産を自由に使える状態になっている必要があります。
毎年決まった時期に同じ額を贈り続けると、「最初からまとまった額を贈る約束だった」(定期贈与)とみなされ、全体に贈与税がかかるおそれがあります。
これを避けるには、贈与のたびに金額や時期を記した贈与契約書を作っておくと安心です。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「退職金を毎年110万円ずつ子ども名義の口座に移していけば贈与税はかからないか」という相談が寄せられています。
特定の子だけに多く生前贈与すると、他の相続人との間で不公平感が生まれます。
生前贈与は特別受益(相続分の前渡しとして扱われる利益)とされ、遺産分けの計算に影響することがあります。さらに、最低限の取り分である遺留分をめぐって争いになることもあります。
「みんなの法律相談」にも、「実家が母から姉へ生前贈与されていたと後で分かり、ほかのきょうだいが遺留分をめぐってもめている」という相談が寄せられています。
偏った贈与を考えるときは、特別受益の扱いを知っておくと、争いを防ぎやすくなります。
養子縁組は節税になる一方で、もともとの相続人の取り分が減るため、感情的な対立を生むことがあります。
とくに孫を養子にする場合、他の子や孫との間で不公平感につながりやすい点に注意しましょう。
節税のために現金を不動産に換えると、いざ相続のときに物理的に分けられず、かえってもめることがあります。
現金なら簡単に分けられますが、不動産は「誰が住むか」「売るか残すか」で意見が割れがちです。分け方まで考えて対策する必要があります。
不動産をどう分けるかは、次の記事の4つの方法が参考になります。
本人が認知症などで判断能力を失うと、贈与も生前の対策もできなくなります。相続が起きたあとも、認知症の相続人がいると遺産分割協議が進みません。
対策は「元気なうち」が鉄則です。判断能力があるうちに、家族信託や遺言なども含めて備えておきましょう。
認知症の相続人がいる場合の進め方は、次の記事で解説しています。
相続税対策は、税金の話と、分け方・もめごとの話が入り混じります。おおまかには、税額の試算・特例の適用・申告は税理士、遺産の分け方・遺言・争いの予防は弁護士が専門です。
「わが家はどちらに相談すべきか」で迷ったら、まずは相談先の違いを整理しておくとよいでしょう。
相続税対策は、まず自分の家に相続税がかかるかを確かめ、財産の中身に合わせて対策を選ぶのが基本です。
生前贈与・生命保険・不動産・控除など手段は多くありますが、大切なのは数をこなすことではありません。
税金を減らすことばかりを優先すると、名義預金や偏った贈与で、かえって家族がもめてしまいます。「減らす」と同時に「誰にどう残すか」を一緒に考えることが、いちばんの対策です。
相続税の計算や特例が使えるかどうかの判断は複雑で、選び方ひとつで税額が変わります。
迷ったときや、まとまった財産の対策を始めるときは、まずは税理士への初回相談で、自分の家に合う対策と有利・不利の試算を確認しましょう。
分け方やもめごとの予防もあわせて備えたいときは、税理士と弁護士の両方の視点で進めておくと安心です。
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VSG相続税理士法人溝の口オフィス代表税理士。実務の傍ら、執筆やセミナー講師を務める。東京地方税理士会所属。VSG相続税理士法人では、相続税申告において日本最大級の実績とノウハウにより、顧客の立場に立って一番有利な相続アドバイスを行う。グループの行政書士・司法書士・社会保険労務士法人と連携をとり、あらゆる相続の悩みに対応している。