


子どもが親の代わりに祖父母や伯父などの遺産を相続する「代襲相続」は、親が相続放棄した場合には発生しません。
「父が祖父の相続を放棄したのだから、代わりに孫である自身が相続人になるのでは」と考える方は少なくありません。しかし、そうはなりません。相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったものとして扱われるためです(民法939条)。
「代襲相続」とは、本来相続人となるはずだった人が死亡・相続欠格・廃除などにより相続権を失った場合に、その子どもなどが代わって相続人になるしくみです。
(例)
たとえば被相続人が死亡した時点で、子どもがすでに死亡していたとします。この場合、次男の子どもは、次男に代わって被相続人の遺産の相続人になります。これが代襲相続です。
代襲相続には、大きく2つのパターンがあります。
どちらのパターンにあたるかで、代襲が続く範囲が変わります。
代襲相続そのものの範囲や、代襲相続人の相続分については次の記事でくわしく解説しています。
代襲相続が発生するのは、以下の1〜3の要件をすべて満たす場合です。
1. 以下のいずれかの者が相続権を失ったこと
2. 相続権を失った原因が、以下のいずれかに当たること
3. 相続権を失った者に子どもがいること
※子どもがすでに亡くなっていた場合や相続欠格にあたる場合は、その子(孫・ひ孫)へと代襲が続くことがあります(再代襲)。
代襲相続のきっかけになるのは、上記2の死亡・相続欠格・相続廃除の3つだけです。相続放棄はここに含まれません。
なお、廃除の対象は遺留分をもつ推定相続人に限られるため、遺留分のない兄弟姉妹は廃除の対象になりません(民法892条・1042条1項)。また、兄弟姉妹には再代襲も認められません。
そのため、相続放棄をしても、自身に代わって子どもが祖父母や伯父の遺産を相続することはありません。では、相続権は実際に誰へ移るのでしょうか。

相続人になれる人と、その順番は法律で決まっています。まず、配偶者(夫や妻)は常に相続人です。それ以外の血族には次のような順位があり、上の順位の人がいる間は、下の順位の人は相続人になりません。
相続放棄をすると、その人ははじめから相続人でなかったものとして扱われます。その結果、同じ順位に他の相続人がいなければ、相続権は次の順位の人へ移っていきます。具体的なパターンは次のとおりです。
順位 | 相続人 | 全員が放棄すると |
|---|---|---|
第1順位 | 子(孫) | 第2順位の直系尊属へ |
第2順位 | 父母・祖父母 | 第3順位の兄弟姉妹へ |
第3順位 | 兄弟姉妹(甥・姪) | 相続人がいなくなる(相続財産清算人の選任へ) |
注意したいのは、配偶者は他の順位の人が放棄しても相続人のままという点です。ただし、一緒に相続する人(共同相続人)が変わると、配偶者の法定相続分も変わります。
たとえば子が全員放棄して父母が相続人になると、配偶者と父母で遺産を分けることになります。
そして最も誤解が多いのが、「子が放棄したら孫が相続するのでは?」という点です。相続放棄では代襲相続が生じないため、子が放棄しても孫には相続権は移らず、同順位の子が全員放棄した場合は、第2順位の直系尊属がいれば直系尊属が相続人になります。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「独身で子どもがいない兄が亡くなったとき、唯一の相続人である弟が相続放棄をしたら弟の子どもに相続権が移るのか、移らないなら遺産はどうなるのか」という相談が寄せられています。
相続人になる順番や、それぞれの相続分の割合は、次の記事で早見表とあわせて確認できます。

相続放棄をした場合は、自身の子どもが代わりに相続するのではなく、残りの相続人で法定相続分を計算し直すか、後順位相続人が相続人になります。
相続分(相続権)の移動につき、想定されるパターンは以下の3つです。
それぞれのパターンについて、具体的な例を用いて、相続分(相続権)がどのように移動するのかを解説します。
相続放棄をしていない相続人が残っているケースで、以下のいずれかに該当する場合は、残りの相続人へ相続分が移動します。
※相続順位は以下のとおり/第1順位:被相続人の子/第2順位:被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)/第3順位:被相続人の兄弟姉妹

→Aははじめから相続人でなかったものとして扱われ、残りの相続人であるB・Cだけで相続分を計算します。その結果、B・Cの相続分は各2分の1となります。

→Bははじめから相続人でなかったものとして扱われ、配偶者Aと同順位の相続人であるCだけで相続分を計算します。その結果、A・Cの相続分は各2分の1となります。
→B・Cははじめから相続人でなかったものとして扱われ、他に血族相続人がいないため、配偶者Aがすべての遺産を相続します。

相続放棄をした者と同順位の相続人がおらず、後順位相続人がいる場合には、後順位相続人へ相続権が移動します。
例
→B・Cの相続放棄により、相続権が弟Dに移ります。配偶者と兄弟姉妹の相続分は3対1なので(民法900条3号)、Aの相続分は4分の3、Dの相続分は4分の1となります。
相続人全員が相続放棄をし、他に相続人がいない場合は、相続人不存在の状態になります。この場合、債権者などの利害関係人が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることがあります(民法952条1項)。
相続財産清算人は、相続債務・遺贈の弁済や特別縁故者への財産分与などを行った後、残った遺産を国庫に帰属させます(民法959条)。
なお、相続放棄をした時点で被相続人の財産を現に占有している場合は、相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存しなければなりません(民法940条)。
典型例は、被相続人名義の自宅に住み続けている人が相続放棄をしたケースです。
清算人を選ぶまでの流れや、申し立てに必要な予納金の目安は、次の記事で確認できます。
代襲相続によって相続権を取得した者(=代襲相続人)も、遺産を相続したくなければ相続放棄ができます。
代襲相続人が相続放棄をする際には、特に以下の2点にご注意ください。
代襲相続人が相続放棄をする際には、親の死亡などによって代襲相続が発生し、自身が相続人になったことを証明しなければなりません。そのため、通常よりも家庭裁判所に提出すべき書類(戸籍謄本など)の種類が増えます。
借金のある叔父の相続で、従兄弟が先に相続放棄を済ませたあとに自身が代襲相続人だと知った方が、書類を省略できないかと弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」でも尋ねています。
戸籍謄本などの取得には一定の期間を要するので、相続放棄の準備は早めに進めましょう。どの続柄でどの戸籍が必要になるかは、次の記事で一覧にまとめています。
相続放棄の判断および手続きは、個々の相続について別個に行う必要があります。たとえば、以下のようなケースを考えます。
例

上記の設例において、孫は父の相続人です。また、孫は祖父の相続についても、父の死亡に伴う代襲相続によって相続人となります。
孫は、祖父・父の相続についていずれも相続放棄ができますが、それぞれの手続きは別個に行わなければなりません。つまり、祖父の相続を放棄しても父の相続を放棄したことにはならず、逆も同様ということです。
設例のようなケースにおいて、両方相続放棄をする必要がある場合は、どちらも忘れずに家庭裁判所で手続きを行いましょう。
相続放棄をしたとき、次順位の相続人へ連絡する法律上の義務はありません。しかし、実務的には連絡しておくことを強くおすすめします。理由は、あなたの放棄によって次順位の人が新たに相続人になる可能性があるからです。
相続放棄には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という熟慮期間があります(民法915条1項)。次順位の人がこの事実を知らないままでいると、相続放棄を検討する機会が遅れ、債権者対応などで混乱するおそれがあります。特に、亡くなった人に借金がある場合は注意が必要です。
連絡せずに放置すると、後から「なぜ知らせてくれなかったのか」と親族間のトラブルに発展することもあります。法的な義務がなくても、早めに事情を伝えておくことが、結果的にトラブル防止につながります。
次順位の人へ伝えておきたいのは、次のような内容です。
連絡するときは、熟慮期間の数え方もあわせて伝えられると親切です。期限の起算点や、間に合わないときの延長方法は次の記事で解説しています。
内訳で最も多いのは相続放棄との関係に触れた相談で271件、次いで甥・姪や孫の立場を尋ねた相談が113件です。この2つで、代襲相続の相談の半数以上を占めます。
代襲相続の相談は、制度の意味そのものよりも「放棄したら誰に相続権が移るのか」「自身にも順番が回ってくるのか」という不安から寄せられています。答えはいずれも同じで、相続放棄では代襲相続は生じません。
(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=30,302。うち代襲相続に触れた713件を分類)
相続しません。相続放棄では代襲相続が生じないため、子が全員放棄しても孫に相続権は移りません。この場合、相続権は第2順位の直系尊属(被相続人の父母や祖父母)へ移り、直系尊属もいなければ第3順位の兄弟姉妹へ移ります。
相続放棄では代襲相続が生じないため、兄弟姉妹が放棄しても甥・姪が代わりに相続することはありません。甥・姪が相続人になるのは、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合などの代襲相続に限られます。放棄とは仕組みが異なります。
なお、その代襲相続も甥・姪の一代限りで、甥・姪の子までは続きません。子や孫の系統であれば、ひ孫以降も代襲が続く点と異なります。
相続放棄をしても、代襲相続は発生しません。相続放棄をした者の子どもが代わりに相続するのではなく、残りの相続人で相続分を計算し直すか、後順位相続人が相続人になります。
相続放棄を行う際には、相続分(相続権)の移動による影響に注意が必要です。また、期間制限(熟慮期間)や法定単純承認のリスクにも留意しなければなりません。
相続放棄にはさまざまな注意点があるため、弁護士のアドバイスを受けながら手続きを進めましょう。

鳥取県出身。明治大学法学部を卒業後、中央大学法科大学院を修了し、2018年に弁護士登録。上級相続診断士の資格を有し、専門的知見から高度な支援を行うほか、裁判所から成年後見人や相続財産清算人に選任されて裁判所案件の業務も行う。相続分野では遺産分割協議をはじめ、遺留分侵害額請求、遺言書作成、事業承継など様々な事案に対応。依頼者の気持ちに寄り添い、丁寧なヒアリングを通して最善の解決策を提案する。趣味はクロスバイクと猫カフェ巡り。