.png?ar=1%3A1&fit=crop&w=60&fm=webp&auto=compress)

不動産の生前贈与とは、家や土地の持ち主が生きているうちに、その不動産を無償で他の人へ渡すことです。まずは、どういう手続きが必要で、どんな目的で使われるのかを押さえましょう。
贈与とは、財産をタダで相手に渡し、相手がそれを受け取ることに合意して成立する契約です。亡くなったことをきっかけに財産が移る相続と違い、生前贈与は当事者が生きているうちに行います。
渡す相手に制限はありません。子や孫、配偶者はもちろん、相続人ではない人へも渡せます。この「渡す相手を自分で選べる」点が、生前贈与の大きな特徴です。
現金なら手渡しで渡せますが、不動産はそうはいきません。贈与の合意(贈与契約)と、名義を変える手続き(所有権移転登記)がセットになります。
口約束でも贈与契約は成立しますが、不動産では後々のトラブルを避けるために贈与契約書を作るのが一般的です。そのうえで法務局に登記を申請し、名義を受け取る人へ変更します。この登記をしないと、第三者に「自分のものだ」と主張できません。
不動産の生前贈与は、次のような目的で選ばれます。
- 渡したい相手に、確実に、自分の意思で不動産を渡したい
- 値上がりしそうな土地や、家賃収入のある物件を早めに移したい
- 将来の相続税の負担を軽くしたい
- 配偶者に自宅を残しておきたい
ただし、目的によっては相続で渡したほうが有利なこともあります。次章から、メリットとデメリットを具体的に見ていきましょう。
不動産の生前贈与には、相続にはない利点がある一方で、税金や手続きの面で不利になる面もあります。まずメリットを3つ、続けてデメリットを2つ整理します。
生前贈与の最大のメリットは、誰に、いつ渡すかを自分で決められることです。
相続では、遺言がなければ法定相続人が話し合って分けることになり、必ずしも希望どおりにいきません。生前贈与なら、「同居して支えてくれた子に自宅を渡す」「相続人ではない孫に土地を渡す」といったことを、自分の判断で実行できます。
将来値上がりが見込まれる不動産や、家賃収入を生む物件は、早めに渡すほど有利になることがあります。
たとえば、後述する相続時精算課税を使えば、贈与したときの評価額で相続税を計算します。値上がり後ではなく贈与時の低い評価額で固定できるため、値上がりが見込まれる土地では税負担を抑えられる可能性があります。
また、収益物件を先に渡せば、その後の家賃収入は受け取った人のものになり、贈与した人の財産がむやみに増えるのを防げます。
不動産の生前贈与では、目的に合った特例を使える場合があります。
代表的なのが、贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)です。婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用の不動産またはその取得資金を贈与した場合、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円まで贈与税がかからない仕組みです。配偶者に自宅を残しておきたいときに使われます。
このほか、子や孫の住宅取得資金を援助する住宅取得等資金の非課税特例など、生前だからこそ使える枠もあります。
ここからはデメリットです。まず押さえたいのが、不動産を生前贈与すると、相続で渡すより税金や費用の負担が重くなりやすい点です。
贈与税は相続税より基礎控除が小さく、税率も高くなりがちです。さらに不動産では、名義変更にともなう登録免許税や不動産取得税も加わります。具体的な金額は「不動産の生前贈与にかかる税金」で後述します。
もう一つのデメリットは、相続なら使えたはずの特例が使えなくなることと、一度贈与すると元に戻せないことです。
代表的なのが、自宅の土地の評価を最大80%下げられる小規模宅地等の特例です。これは相続で取得した場合の特例で、生前贈与した不動産には使えません。
また、贈与はいったん成立すると、気が変わっても一方的には取り消せません。老後の生活資金が足りなくなっても自宅を渡してしまった、という事態を避けるため、渡す前に慎重に判断する必要があります。
不動産を生前贈与すると、受け取った人に贈与税がかかるほか、名義変更にともなう税金も加わります。ここでは、それぞれの税金がいくらかかるのかを整理します。
贈与税は、財産をもらった人(受贈者)にかかる税金です。計算方法には、暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。
- 暦年課税:1年間にもらった財産の合計から110万円を差し引き、残りに税率をかけます。税率は財産が多いほど高く、10%から55%まで段階的に上がります。
- 相続時精算課税:原則60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べます。累計2,500万円までの特別控除に加え、2024年からはこれとは別に年110万円の基礎控除も使えます。
不動産は評価額が大きくなりやすいため、暦年課税では税率が高くなりがちです。まとまった評価額の不動産を渡すなら、相続時精算課税が検討されます。ただし、精算課税で渡した不動産は相続のときに相続財産へ加算される点に注意が必要です(後述)。
なお、贈与税の計算に使う不動産の価額は、売買価格ではなく相続税評価額(土地は路線価など、建物は固定資産税評価額)です(負担付き贈与は時価評価となります)。
不動産取得税は、不動産を取得したときに都道府県が課す税金です。
贈与で取得した場合は課税されますが、相続で取得した場合は課税されません。ここは贈与と相続で大きく異なる点です。税率は土地・住宅で原則3%で、宅地は評価額を2分の1にして計算する特例などの軽減措置もあります。
不動産の名義を変えるには、法務局で所有権移転登記を行い、登録免許税を納めます。
税率は贈与なら固定資産税評価額の2.0%、相続なら0.4%です。同じ不動産でも、贈与で渡すと相続より登記の税負担が5倍になります。
たとえば固定資産税評価額2,000万円の不動産なら、贈与では40万円、相続では8万円です。登録免許税と不動産取得税をあわせると、名義を移すだけで数十万円単位の負担が生じることも珍しくありません。
不動産の贈与契約書には、収入印紙を貼る必要があります。
贈与契約書は金額を記載しない契約書として扱われ、印紙税は1通200円です。金額としては小さいものの、契約書に貼り忘れると過怠税がかかることがあるため、忘れずに貼りましょう。

ここまで見た税金を合算すると、不動産は「贈与」と「相続」でどちらの負担が軽いのかを比べられます。結論を先に言えば、税負担だけなら相続のほうが軽くなるケースが多い一方、目的によっては生前贈与に意味があります。
不動産を渡すときの税負担は、次のように整理できます。
- 生前贈与:贈与税+登録免許税(2.0%)+不動産取得税(原則3%)
- 相続:相続税(基礎控除を超えた場合のみ)+登録免許税(0.4%)+不動産取得税は非課税
相続には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という大きな基礎控除があり、この枠に収まれば相続税はかかりません。一方、贈与税の基礎控除は年110万円と小さく、不動産のようにまとまった評価額のものを渡すと税率が高くなりがちです。
さらに、贈与では取得税がかかり、登録免許税も5倍。こうした差から、単純な税負担の比較では相続が有利になるケースが多いのです。
それでも、次のような場合は生前贈与を選ぶ意味があります。
- 値上がりが見込まれる不動産を、低い評価額のうちに移したい
- 家賃収入のある収益物件を早めに渡し、その後の収入を移したい
- 相続では希望どおりに渡せないため、特定の相手に確実に渡したい
- 婚姻20年以上の夫婦で、おしどり贈与を使って配偶者に自宅を残したい
これらは「税額の損得」だけでは測れない目的です。税負担が多少増えても、目的を優先して生前贈与を選ぶ判断はあり得ます。
反対に、次のような場合は相続で渡したほうが有利になりやすいといえます。
- 相続税の基礎控除の範囲に収まり、そもそも相続税がかからない
- 自宅の土地に小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価を最大80%下げられる相続税の特例)を使いたい
とくに小規模宅地等の特例は、生前贈与した不動産には使えません。同居していた家族が自宅を引き継ぐようなケースでは、生前贈与でこの特例を失うと、かえって税負担が重くなることがあります。
どちらが得かは、不動産の評価額・家族構成・相続税がかかるかどうかで変わります。金額が大きい不動産を動かすなら、実行前に税理士へ試算を依頼すると安心です。

生前贈与のルールは、2024年(令和6年)に大きく変わりました。不動産の生前贈与を考えるうえでも影響が大きいため、要点を押さえておきましょう。
改正前の相続時精算課税は、累計2,500万円の特別控除だけで、少額の贈与でも申告が必要でした。
2024年からは、この2,500万円とは別に、年110万円の基礎控除が新設されました。年110万円までの贈与なら申告が不要で、しかもこの分は相続のときに相続財産へ加算する必要もありません。使い勝手が大きく向上したため、相続時精算課税を選びやすくなりました。
なお、この年110万円の枠は、もらう人1人あたりの金額です。父と母の両方から相続時精算課税で贈与を受ける場合は、それぞれの贈与額に応じて枠を分けて使います。
暦年課税には、亡くなる前の一定期間の贈与を相続財産に加算する「生前贈与加算」という仕組みがあります。
この加算の対象期間が、相続開始前3年以内から7年以内へ段階的に延長されました。2024年1月1日以後の贈与から順次適用され、実際に7年分が加算されるのは2031年以降の相続からです。延長された4年分(相続開始前3年超〜7年以内)については、合計から100万円を差し引いた残りが加算されます。
注意したいのは、加算されるのが年110万円を超えた分だけではなく、基礎控除の範囲内で渡した分も含めた贈与額そのものである点です。相続の直前に駆け込みで不動産を暦年贈与しても、7年以内なら相続財産に戻して計算されるため、節税効果は限定的です。
大まかには、長い期間をかけて少しずつ渡すなら暦年課税、まとまった不動産を早めに渡したいなら相続時精算課税が向きます。
- 暦年課税が向く人:相続まで年数がありそう/少しずつ渡したい/将来の選択肢を残したい
- 相続時精算課税が向く人:まとまった評価額の不動産を早く渡したい/値上がりしそうな土地や収益物件を移したい
ただし、相続時精算課税は一度選ぶと、その相手からの贈与について暦年課税に戻せません。不動産のように金額が大きい贈与では、選ぶ前に税理士へ相談し、相続まで見通した試算をしておくと安心です。

不動産の生前贈与は、贈与契約書の作成から登記、贈与税の申告まで、いくつかの手続きが必要です。流れと費用の目安を押さえておきましょう。
まず、贈与する側と受け取る側で贈与契約書を作成します。
口約束でも贈与は成立しますが、不動産では「いつ・誰が・どの不動産を・誰に贈与したか」を書面で残すことが重要です。契約書があれば、名義変更の登記にも使え、後の税務調査や相続トラブルの際の証拠にもなります。対象の不動産は、登記事項証明書のとおりに正確に特定して記載します。
次に、法務局で所有権移転登記を申請します。主な必要書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 贈与契約書(登記原因証明情報)
- 贈与する人の登記済権利証または登記識別情報
- 贈与する人の印鑑証明書(3か月以内のもの)
- 受け取る人の住民票
- 固定資産評価証明書
この登記の際に、登録免許税(贈与は固定資産税評価額の2.0%)を納めます。書類の準備や申請が複雑なため、司法書士に依頼するのが一般的です。
贈与を受けた人は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税を申告・納付します。
暦年課税で年110万円以下なら申告は不要ですが、不動産は評価額が110万円を超えることが多く、通常は申告が必要です。相続時精算課税やおしどり贈与などの特例を使う場合は、税額がゼロでも申告が必要なものがあります。申告を忘れると特例を使えなかったり、加算税がかかったりするため注意しましょう。
不動産の生前贈与では、税金のほかに専門家への報酬もかかります。
- 司法書士:所有権移転登記の代行。報酬は事務所により幅がありますが、数万円〜十数万円程度が目安です。
- 税理士:贈与税の申告や、相続まで見通した試算。こちらも内容により幅があります。
金額の大きい不動産では、登録免許税・不動産取得税に専門家報酬を加えた総額で判断することが大切です。具体的な費用は依頼先に見積もりを取りましょう。
不動産の生前贈与は、税金の損得だけで判断すると、あとから思わぬ問題が生じることがあります。実行前に押さえておきたい注意点を整理します。
相続時精算課税を選ぶと、贈与した不動産は相続のときに相続財産へ加算されますが、その際の価額は贈与したときの評価額で固定されます。
値上がりしそうな不動産では有利に働く一方、値下がりした場合は、下がる前の高い評価額のまま加算されてしまいます。将来の値動きが読みにくい不動産では、この点がリスクになります。
住宅ローンの残る家を「ローンごと」渡すような贈与を、負担付贈与といいます。
負担付贈与では、不動産の価額から引き継ぐ債務を差し引いた分に贈与税がかかります。このとき、不動産は相続税評価額ではなく時価で評価されるため、通常の贈与より贈与税が高くなることがあります。
さらに、渡した側にも譲渡所得税がかかる場合があります。ローン付きの不動産を渡すときは、事前に税理士へ相談しましょう。
不動産の生前贈与は、ほかの相続人との間で不公平感を生み、相続トラブルの火種になりやすい点に注意が必要です。
特定の子だけに自宅や土地を生前贈与すると、その贈与が特別受益(一部の相続人が受けた特別な利益)とみなされ、遺産分割の際に「持ち戻し」て計算されることがあります。また、ほかの相続人の遺留分(最低限保障された取り分)を侵害していれば、遺留分侵害額請求を受けるおそれもあります。
実際に、弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも「親が生前に実家の名義を配偶者へ変えていたため、亡くなった後に子へ残る財産がほとんどなく、遺留分を検討している」という相談が寄せられています。
不動産は金額が大きいだけに、渡し方を誤ると「争族」に発展しかねません。生前贈与を考えるときは、税金だけでなく、ほかの相続人の取り分にも目を配ることが大切です。
生前贈与が特別受益にあたるかどうかや、遺産分割で持ち戻して計算する方法は、次の記事でくわしく解説しています。
自分の遺留分がいくらになるか、請求できる期限はいつまでかは、こちらで確認できます。
不動産そのものではなく、持分を毎年少しずつ贈与して110万円の枠に収めようとする方法もあります。ただし、毎年同じ時期に同じ額を贈与していると、はじめからまとまった持ち分を贈与する約束だった(定期贈与)とみなされ、まとめて贈与税がかかるおそれがあります。
これを避けるには、贈与のたびに契約書を作り、時期や金額に幅をもたせるなどの工夫が必要です。不動産の持分の贈与を続ける場合は、税理士に進め方を確認しておくと安心です。
最後に、不動産の生前贈与でよく寄せられる質問に答えます。
必要です。親子だからと口約束で済ませると、贈与があった事実や時期を証明できず、名義変更の登記にも支障が出ます。また、贈与契約書がないと、税務署から「いつの贈与か」を問われたり、相続財産とみなされたりするおそれもあります。親子間でも、必ず書面を残しましょう。
基本的に把握されます。不動産の名義を変えると、法務局から税務署へ登記の情報が渡ります。税務署は「なぜ名義が変わったのか」を確認でき、贈与税の申告がなければお尋ねが来ることもあります。申告が必要な贈与は、正しく申告しましょう。
暦年課税で年110万円以下なら、贈与税の申告は不要です。ただし、不動産は評価額が110万円を超えることが多く、実際には申告が必要になるケースがほとんどです。
また、相続時精算課税やおしどり贈与などの特例を使う場合は、税額がゼロでも申告が必要です。自分のケースで申告が要るかどうかは、税理士に確認すると確実です。
不動産の生前贈与は、渡す相手やタイミングを自分で決められ、値上がりしそうな不動産や収益物件を早めに移せるのが利点です。一方で、贈与税に加えて登録免許税・不動産取得税がかかり、相続で使える小規模宅地等の特例が使えなくなるなど、税負担だけなら相続のほうが軽くなるケースが多いのも事実です。
どちらが得かは、不動産の評価額・家族構成・相続税がかかるかどうか、そして「何のために渡すのか」という目的で変わります。さらに、特定の相続人への生前贈与は特別受益や遺留分をめぐるトラブルにつながることもあり、税金と相続の両面から考えることが欠かせません。
判断に迷ったら、税額の試算は税理士へ、争いの予防は相続にくわしい弁護士へ相談するのがおすすめです。多くの法律事務所が初回相談を無料としており、渡す前に確認しておくことで、あとからの後悔や家族間のトラブルを防げます。
.png?ar=1%3A1&fit=crop&w=140&fm=webp&auto=compress)
VSG相続税理士法人溝の口オフィス代表税理士。実務の傍ら、執筆やセミナー講師を務める。東京地方税理士会所属。VSG相続税理士法人では、相続税申告において日本最大級の実績とノウハウにより、顧客の立場に立って一番有利な相続アドバイスを行う。グループの行政書士・司法書士・社会保険労務士法人と連携をとり、あらゆる相続の悩みに対応している。