

遺産を分け合うべき相続人がいるケースで、すべての遺産を相続することは、他の相続人の合意なしにはできません。
相続人が遺産を相続する割合は、法律で定められており、相続人全員の合意なしに変更することはできないからです。法律で決められた相続分(法定相続分)の主なパターンは次のようになります。
法定相続人 | 相続できる割合 |
|---|---|
配偶者のみ | 配偶者が100% |
配偶者と子ども(第1順位) | 配偶者1/2、子ども1/2 ※子ども(孫)が複数いるときは1/2を均等に分ける |
配偶者と父母(第2順位) | 配偶者2/3、父1/6、母1/6 |
配偶者と兄弟姉妹(第3順位) | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 ※兄弟姉妹が複数いるときは1/4を均等に分ける |
子どものみ | 子どもが100% ※子どもが複数いるときは均等に分ける |
父母のみ | 父1/2、母1/2 |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹で均等に分ける |
家族構成ごとの取り分は、次の記事の早見表でも確認できます。
また、遺言が残されていて、「一人の相続人にすべての財産を譲る」という内容だったとしても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の取り分が法律で定められています。そのため、兄弟姉妹以外の相続人が遺留分を主張した場合には、その相続人に遺留分相当額の遺産を分けなければならず、すべての財産を独り占めすることはできません。
遺留分を請求できる人と、それぞれの割合は、次の記事でくわしく解説しています。
逆に言うと、遺言がないケースですべての相続人が合意した場合や、「一人の相続人にすべての財産を譲る」という遺言があるケースで他の相続人が遺留分侵害額請求権を行使しない場合には、一人の相続人がすべての遺産を相続できます。
一人の相続人が他の相続人の合意なく遺産を独占したり使い込んだりしている場合には、他の相続人から返還を求められる可能性があります。また、他の相続人をだまして、一人の相続人がすべての遺産を相続することに合意させたような場合には、遺産分割協議を取り消した上でやり直しになる可能性もあります。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」に寄せられた、遺産の独り占めに関する相談は182件ありました。内容別に分類すると、実家や土地などの不動産をめぐる相談が61件で最も多くなっています。
次いで、遺言で全財産を一人に相続させる内容に関する相談が43件、預金の使い込みに関する相談が38件、遺産を隠されている・開示してもらえないという相談が9件、その他が31件でした。
(2021年4月1日〜2026年7月8日に投稿された相談。当社調べ、n=182)

一人の相続人がすべての遺産を相続したいと主張している場合、最も大切なことは、その主張に合意しないことです。相続人が全員合意すると、遺産分割協議が成立してしまいます。一度成立した遺産分割協議をやり直すことは、原則としてできません。他の相続人の主張に納得できない場合には、合意をせず、書類への署名や押印もしないようにしましょう。
その上で、すべての遺産を相続したいという主張の理由が法的に認められるかを考える必要があります。たとえば、「長男だから」「家業を継ぐから」などの理由は、法的には根拠になりません。
一方で、「相続人の中で自分だけが介護をしていたから」など、生前に被相続人に対して貢献していたことを理由とする場合には、寄与分といって、他の相続人よりも多く相続分を主張する法的権利があります。
介護などの貢献がどこまで認められるかは、次の記事が参考になります。
また、「他の相続人に生前贈与があったから」という理由の場合にも、特別受益といって、生前贈与を考慮して相続分を調整するよう主張する法的権利があります。
生前贈与をどう差し引いて計算するかは、こちらで確認できます。
寄与分や特別受益など、法的に理由として認められ得る主張を相続人がしている場合には、その主張に耳を傾ける必要はあります。ただし、本当に寄与分や特別受益として認められるのか、その金額はいくらになるのかは、別途検討する必要があります。この点については、個別のケースによって結論が異なるため、弁護士に相談して、専門的なアドバイスをもらうことをおすすめします。
相続人同士の話し合いが平行線で進まない場合には、遺産分割調停を提起するとよいでしょう。遺産分割調停とは、家庭裁判所で行われる、遺産分割の方法を話し合う手続きです。家庭裁判所で行われるため、相続人同士の話し合いでは強気だった相続人の態度が軟化する可能性があります。
また、調停は裁判官1名と調停委員2名以上でつくる調停委員会が進めるため、法定相続分を基準にした分け方の提案を受けながら話し合えます。調停がまとまらなければ審判に移り、最後は裁判官が分け方を決めます。
調停の申し立て方や当日の流れは、次の記事でまとめています。
遺言に「すべての遺産を一人の相続人に譲る」と書かれている場合には、まずはその遺言の有効性を確認しましょう。
遺言には、主に被相続人が自分で作成する自筆証書遺言と、公証役場で作成される公正証書遺言があります。
自筆証書遺言の場合には、次の点を確認しましょう。当てはまる場合には、無効になる可能性があります。
公正証書遺言の場合には、公証人という法律の専門家と打ち合わせを重ねて作成するため、形式面を理由に無効になる可能性は高くありません。ただし、次の点に当てはまる場合には無効になる可能性があります。
遺言が無効の可能性がある場合には、他の相続人に対して遺言の無効を主張しましょう。他の相続人が納得しない場合には、遺言無効確認調停または訴訟を提起して、遺言の無効を裁判所に認めてもらう流れになります。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、「余命宣告を受けた母を姉が囲い込み、遺言書の偽造や強制をしたかもしれない」という相談が寄せられています。
遺言が無効になるケースは、こちらで一覧にしています。
遺言が有効だった場合には、遺留分を請求できないか検討しましょう。遺留分とは、相続人に法律で認められている最低限の取り分です。「すべての遺産を一人の相続人に譲る」という遺言のとおりに遺産を分けると、他の相続人の遺留分を侵害することになります。そこで、遺留分が侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを、遺産を相続した相続人に対して請求できます。
遺留分を求める権利があるのは、兄弟姉妹をのぞく法定相続人、つまり、被相続人の配偶者、子、父母です。
被相続人の子がすでに亡くなっていて、その子ども、つまり被相続人の孫がいた場合、孫が相続する権利を有します。これを「代襲相続」といいます。代襲相続した孫も、遺留分を求める権利も引き継ぎます。
相続放棄をした人、相続欠格や廃除にあたる相続人には、遺留分を求める権利はありません。
遺留分の割合は、基本的に法定相続分の2分の1です。たとえば、被相続人の配偶者と子が相続人の場合、法定相続分が2分の1ずつなので、遺留分割合は4分の1ずつとなります。
ただし、相続人が父母や祖父母などの直系尊属だけである場合には、遺留分割合は法定相続分の3分の1です。たとえば、被相続人の父と母が相続人の場合、法定相続分は2分の1ずつなので、遺留分割合は6分の1ずつとなります。
なお、同じ順位の相続人が複数いる場合は、遺留分割合を均等に分け合います。たとえば、被相続人の子の遺留分割合が4分の1で、子が3人いる場合、遺留分割合は12分の1ずつとなります。
家族構成ごとの遺留分の割合をまとめると、次のとおりです。
相続人の組み合わせ | それぞれの遺留分 |
|---|---|
配偶者のみ | 配偶者1/2 |
配偶者と子ども | 配偶者1/4、子ども全体で1/4 |
子どものみ | 子ども全体で1/2 |
配偶者と父母 | 配偶者1/3、父母全体で1/6 |
父母のみ | 父母全体で1/3 |
遺留分侵害額を算出したら、内容証明郵便で相手方に請求書を送付するのが一般的です。相手方から返信があれば、遺留分の精算に関する協議を行いましょう。協議が不成立となった場合は、調停・訴訟を提起する流れになります。
なお、遺留分侵害額の請求には期限があります。請求の期限や内容証明の書き方は、こちらにまとめています。
遺産の調査は、通常は被相続人の自宅で、通帳や契約書、郵便物などを探し、調べていきますが、遺産隠しが疑われる相続人が被相続人と同居していたケースなどでは、そうした調査が困難なことが予想されます。
財産ごとの調べ先をまとめると、次のとおりです。
財産 | どこで調べるか |
|---|---|
預貯金 | 心当たりのある金融機関(口座の有無、残高証明書、取引明細書) |
不動産 | 市区町村の名寄帳、法務局の所有不動産記録証明書・登記事項証明書 |
上場株式など | 証券保管振替機構(口座のある証券会社がわかる) |
預貯金については、近隣の金融機関やメガバンクにあたりをつけて、口座の有無を問い合わせましょう。被相続人の氏名や住所、生年月日の情報から口座の有無を調べてもらえます。相続人であることを証明するために、戸籍謄本などの書類が必要になるので、くわしくは金融機関に問い合わせましょう。口座が判明した場合には、残高証明書や取引明細書を取り寄せて、預貯金の詳細を確認しましょう。
不動産に関しては、被相続人が不動産を所有していたと推測される市区町村役場で「名寄帳」を取得することで、その市区町村で被相続人が所有していた不動産を一覧できます。名寄帳とは、市区町村が固定資産課税台帳を所有者別にまとめたものです。
市区町村ごとに作成されているため、他の市区町村にある不動産は掲載されていません。不動産があると思われる市区町村にあたりをつけて名寄帳を調べる必要があります。不動産を把握できたら、被相続人がその不動産の所有者だったことを正確に確認するために、「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得しましょう。
株式などの金融資産を調べたい場合には、「証券保管振替機構」に問い合わせることで、被相続人が所有していた株式の預け先となる金融機関を調べられます。証券保管振替機構で確認できるのは、金融商品取引所に上場されている内国株式、新株予約権、新株予約権付社債、投資口(REIT)、協同組織金融機関の優先出資、投資信託受益権(ETF)、受益証券発行信託受益権(JDR)などの預け先となる金融機関です。非上場株式等、外国株式の預け先は調べられないので注意が必要です。
ご自身で財産を調べる手順と、専門家に頼む目安はこちらで確認できます。
他の相続人が現在も遺産を使い込んでいる疑いがある場合には、被相続人の銀行の口座を早急に凍結しましょう。被相続人が亡くなったことを銀行に伝えることで、銀行が口座を凍結します。
その上で、銀行から「取引明細書」を取り寄せて、過去の使い込みの金額や時期を把握しましょう。
取引明細書では、遺産が何のために使われたかまではわかりません。そこで、遺産を使い込んだと疑われる相続人に対して、遺産の使い道を確認し、領収書や契約書、家計簿などで金額や時期が合っているかを確認しましょう。
確認の結果、相続人が遺産を使い込んでいることが判明した場合には、使い込んだ分の遺産を返還するよう求めることができます。まずは話し合いで返還を求めましょう。話し合いが難しい場合には、不当利得返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起する流れになります。
使い込まれたお金を取り戻すための証拠の集め方は、次の記事で解説しています。
これまでの説明をまとめると、他の相続人全員が認めれば遺産を独り占めすることは可能です。他の相続人の合意がない場合には、法定相続分や遺留分などを理由に、相続人に分配するよう求められる可能性があります。
遺言がない場合は、他の相続人は法定相続分に沿って遺産分割を行うよう求めることが可能です。要求を無視していても、調停・審判など裁判所の手続きを経て、最終的には強制的に分割されることになります。
「すべての遺産を自分に譲る」と遺言に書かれていても、兄弟姉妹以外の相続人がいる場合は、遺留分相当額の金銭を支払うよう請求される可能性があります。遺産分割と同様に、請求を無視していても最終的には裁判手続きによって強制的に支払わなければならない可能性があります。
遺産隠しをした場合でも、財産調査などを経て最終的には遺産がすべて明らかになるリスクがあります。また、遺産を使い込んだ場合には、他の相続人から使い込んだ遺産を不当利得や不法行為として返還請求されるリスクがあります。遺産分割や遺留分と同様、返還請求は最終的には裁判手続きで強制的に実現される可能性があります。
相続弁護士ドットコム掲載事務所の解決事例のうち、遺産の独り占め・使い込み・遺産隠しに関わる99件を集計しました。調停で解決したものが36件、訴訟が33件、審判が4件で、裁判所の手続きで解決したものが73件(74%)を占めます。
話し合い(協議)で解決したのは24件、その他が2件でした。話し合いでまとまらない場合でも、裁判所の手続きで決着をつける道があることがうかがえます。
(当社調べ・2026年10月集計。公開中の解決事例1,212件から抽出、n=99)
「みんなの法律相談」には、「長男がどんな書類も無視して遺産を分けなかったら、最後は粘った者勝ちになるのか」という相談も寄せられています。回答した弁護士は、調停でまとまらなくても審判に移り、裁判所が分け方を決めるため、無視し続けても粘り勝ちにはならないと説明しています。
遺産の独り占めを予防する方法は、大きく2つあります。遺言を作成してもらうことと、他の相続人とこまめに連絡を取って遺産の状況を把握しておくことです。
遺言を作成してもらい、遺産の分け方を指定してもらうことで、一人の相続人がすべての遺産を相続したいと主張することを予防できます。相続人が相続争いをすることは被相続人も望まないでしょう。認知症などで遺言能力を失う前の元気な間に、遺言を作成するよう提案してみてはいかがでしょうか。
ただし、「すべての遺産を一人の相続人に譲る」という内容の遺言を作成されると、新たな争いの種になります。遺言の内容は、遺留分を考慮した内容にしてもらうようにしましょう。遺言作成時に弁護士に相談することもおすすめです。
親に遺言を書いてもらうときは、そのまま使える文例が参考になります。
遺産隠しや遺産の使い込みを防止するには、遺産の管理を特定の相続人のみに任せきりにしないことが大切です。日頃から他の相続人とこまめに連絡を取り、遺産の状況を把握できるようにしておきましょう。
特定の相続人が、他の相続人の合意なしに遺産を独り占めすることはできません。遺産を独り占めされそうになった場合には、状況を把握し、法的に適切な対処をとるようにしましょう。相続人個人の力では、対処が難しい場合もあります。その場合には、弁護士に相談して法的に適切なアドバイスをもらいましょう。

1999年京都大学法学部卒、郵政省・総務省などの勤務を経て、2008年弁護士登録、2024年1月、大阪市北区堂島に「田阪法律事務所」を設立。相続全般について豊富な経験を有し、特に財産の使い込みや遺言無効といった難しい案件に注力している。