対話を重ねて事案の特徴を掴み、柔軟なアプローチで有利な解決へ。農地相続など難しい問題にも対応
秋田県秋田市の菅原法律事務所で相続問題を専門に扱う菅原佳典弁護士にお話を伺いました。菅原弁護士は「依頼者の立場に立ち、親身に迅速に対応すること」を大切にし、依頼者の感情面にも配慮しながら問題解決に当たっています。今回のインタビューでは、相続における弁護士の役割や印象に残る案件、相続で悩む方々へのアドバイスなどをお聞きしました。(秋田弁護士会所属)
インタビュー
地域に根ざした法律事務所として約36年、様々なトラブルを解決に導いてきました
事務所設立の経緯を教えてください。
私が弁護士登録したのは1988年で、その後すぐに秋田市で独立しました。当時は、他の事務所に所属して経験を積むより、早めに独立する弁護士が多い時代でした。私も1年ほどの研修を経て、1989年に事務所を設立し、1991年に今の場所に移転しました。
独立して自分で全てをこなすことで、依頼者に対して柔軟に対応できる環境を作りたかった想いがあります。私自身の故郷でもある秋田に根ざして36年近く、この地域の皆さんに寄り添った仕事を続けています。
事務所の理念を教えてください。
地域に根ざした事務所であり続けたいという思いがあります。
地方では、東京のような大都市圏のように特定の分野に特化することが難しく、幅広い案件に対応することが求められます。私の事務所でも、依頼者から持ち込まれるさまざまな案件に対し、その都度学びながら柔軟に対応してきました。基本的にどのような案件も断ることなく引き受けてきたため、幅広い分野での経験を積めました。
事務所がある山王地区には秋田地方裁判所があり、周辺には多くの弁護士事務所や法律関連の事務所が集まっています。地域の弁護士同士のつながりも強く、互いに事件を紹介し合ったり、協力して対応したりすることがよくあります。
相談に来られる方のほとんどは地元の方々です。私は、この地域に根ざしたサポートを大切にし、依頼者に寄り添った丁寧な対応を心がけています。
農地相続が抱える問題点 売却の難しさと共有のリスク
相続案件に注力している理由を教えてください。
相続案件が特に多いわけではありませんが、最近では少しずつ増えている印象があります。私が弁護士として独立した当初は、相続問題自体が少なく、相談もあまり受けていませんでした。しかし、最近は遺産分割の争いが増えてきたように感じます。
特に、相続人同士でうまく話し合いができず、私のところに相談に来られるケースが多くなっています。相続人の一人に対して「遺産を勝手に使い込んだのではないか」という疑念を抱いて、相談に来る方が多いです。
使い込みが事実であったことが証明できれば、使い込みをした相続人に対して不当利得として、遺産の返還を求めることができます。
ただし、遺産を不当に使ったと証明するのは難しいことが多いです。特に、少ない額のお金を頻繁に引き出しているケースでは証拠を集めるのが困難です。
熱心な依頼者の中には、相談に来る前に、自分で通帳を細かく調べる方もいます。私が入ってさらに細かく調査した結果、使い込みが明らかになることもあれば、はっきりした証拠が見つからないケースもあります。後者の場合、やはり見通しは厳しいと言わざるを得ません。
不動産が相続財産に含まれる場合、トラブルが起きやすいと聞きました。
不動産がからむ相続問題で、特に田んぼや農地が財産に含まれる場合、いくつか問題が生じます。かつては長男が家や土地を引き継ぎ、農業を継ぐのが一般的でしたが、最近では農業を引き継がない相続人も増えてきました。
このため、相続した農地をどうするか、処分に困るという状況が多く発生しています。農地を相続しても使い道がないため、売却を検討する相続人も多いです。
しかし、農地の売却にはいくつか課題があります。まず、農業を続けている方が少ないため、買い手がなかなか見つかりません。また、売却には他の相続人全員の同意が必要で、話し合いがスムーズに進まないこともあります。特に、農地を共有状態のまま放置すると、相続人同士でトラブルが生じやすくなります。
さらに、土地の一部にすでに家を建てている相続人がいる場合、その部分はその人の所有となりますが、残りの土地の扱いが問題になります。共有状態では、他の相続人が売却に同意しない限り、売却を進められないため、行き詰まることが多いです。
具体的な解決策としては、まず近隣の方や農地を必要としている方に声をかけ、買い手を探すことから始めます。売却先が見つかれば、得られた売却金を相続分に応じて分けられますが、売却までに時間がかかることが多く、すぐに解決するのは難しいのが実態です。
遺言についても相談を受けていますか。
はい。財産をお持ちの方から「遺言書を作りたい」と依頼を受けています。依頼者の話をじっくり聞き、家族構成や財産の詳細を確認しながら、本人の意向に沿った内容になるように作成していきます。
遺言書にはいくつか種類がありますが、私は公証人役場で公正証書にすることをおすすめしています。公正証書遺言は公証人の立ち合いのもとで作成するため、書式の不備などで無効になるリスクが低いです。公証役場に保管されるため、紛失や偽造も防げます。自筆証書遺言よりも後々のトラブルを防ぎやすいので、基本的には公正証書の形で作成しています。
「揉めそうだな」と思ったら、こじれる前に相談を
相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
依頼者にとって有利な解決を目指すことを常に心がけています。場合によっては、「この方法が最も有利です」と説得することもあります。ケースごとに柔軟に対応し、依頼者の話を丁寧に聞き、事実関係や重要な情報を漏らさないように注意しています。
必要に応じて遺産や相続人の調査も行いますが、依頼者自身がすでに調査を進めていることも多いです。また、インターネットや書籍で調べた情報を元に相談に来られる方も増えていますが、誤った情報を信じていることもあります。その際は、正しい情報を伝え、適切に修正しています。
相続について弁護士に相談するメリットを教えてください。
弁護士がそばにいることで、依頼者は大きな安心感を得られます。1人で調停に臨むよりも、弁護士の存在が依頼者を勇気づけるようです。
また弁護士が隣にいることで、調停がスムーズに進むこともあります。調停は依頼者の利益を最優先にするわけではなく、当事者にとって公平な条件を取り決める場です。弁護士の存在により調停員に対する説得力が増し、1人で臨むよりも、依頼者に有利な条件で調停が成立することが期待できます。
相続問題は感情が絡むことが多く、話し合いがこじれてから相談に来る依頼者が多いです。「揉めそうだな」と感じたら、早い段階で弁護士に相談するのが最善です。
自分の判断で行動すると不利益を被ることも。弁護士に相談して正しい対応を知ることが重要
早めに相談するメリットを教えてください。
相続案件では、もっと早く相談すれば良かったのにと思うケースがよくあります。たとえば、相続人同士で遺産分割協議書にサインした後に相談に来られる方がいますが、「署名するよう脅迫された」などよほどの事情がない限り、決定事項を覆すことは難しいです。
また、多くの依頼者は、相手に実印や印鑑証明を渡すことの重大さを十分に理解していません。名義変更に必要な実印と印鑑証明を渡すことで、名義変更に承諾したことになり、後からやり直すことは困難です。
サインをしたり、実印を渡したりする前に弁護士に相談していれば、防げる問題も少なくありません。少しでも不安に思うことがあれば、行動する前に弁護士に相談し、適切な対応についてアドバイスを受けることをおすすめします。
依頼者の気持ちには、どのように寄り添って対応されていますか。
相続問題では、依頼者が感情的になることがよくあります。その際は、誤解や勘違いを丁寧に解消し、「それは違いますよ」と説明することを心がけています。依頼者が感情的になる背景には、相手方への不満や疑念が潜んでいることも多いです。相手方に問題があれば、その対応策も一緒に考えます。
私と話をする中で徐々に冷静になる方もいますが、全ての依頼者が納得するとは限りません。その場合でも、感情を理解しながらサポートを続け、正しい方向に導けるよう努めています。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
相続に関する悩みを抱えている方は、ぜひ一度、法律の専門家である弁護士に相談してみてください。相続問題は非常に複雑で、一人で抱え込んでしまうと正しい解決策が見つからないことが多いです。弁護士に相談することで、正確な情報を得られ、次に何をすべきかが見えてくると思います。
相談料もそれほど高額ではないので、気軽にご相談いただければと思います。相談することで、解決の糸口が見つかることもありますし、問題が整理されて進むべき方向がはっきりします。1人で悩まず、解決に向けて一歩を踏み出してみてください。