依頼者のこれまでの生い立ちにもしっかり耳を傾け、分かりやすく具体的な解決策を提示
愛知県名古屋市で「かやがき法律事務所」を経営する萱垣建弁護士(愛知県弁護士会所属)に、相続案件に携わる上で心がけていることなどを伺いました。法律相談時に難しい言葉を使わず、曖昧な説明を避け、しっかりと内容を説明することを大切にしていると語る萱垣弁護士。相続について弁護士に相談・依頼するメリットについても詳しく聞きました。
インタビュー
息子の弁護士登録が10年近くなったことを機に、共に現在の事務所を設立
事務所設立の経緯を教えてください。
弁護士登録してからは、勤務弁護士として3年間働いた後、パートナー弁護士となりました。その後に同じ事務所の弁護士と共に独立して事務所を立ち上げ、2年前まで活動していましたが、息子の弁護士登録が10年近くなったのを機に、息子と現在の事務所を立ち上げました。
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
分かりやすさを大切にし、難しい言葉を使わないようにしています。
また、必ず具体的な指針を示し、曖昧な説明を避けることも心がけています。相談時や依頼を受けた後には、なるべく書面などを用いて説明の内容をしっかりと示すようにしています。
私自身、愛知県弁護士会の法律相談センター運営委員会で委員長を務め、法律相談の運営に携わっていました。その際、利用者の方々から「弁護士に相談したが、回答が分かりにくい」といった意見が多く寄せられました。
もともと意識していたことではありましたが、さらに一層、丁寧で分かりやすい説明をしなければならないと感じたできごとです。
相続案件に注力している理由を教えてください。
相続は誰にでも問題が生じる可能性がある分野であり、多くの人が直面する案件だからです。実際、当事務所でも相続に関するご相談が多く寄せられています。
また、私は名古屋家庭裁判所で調停委員を10年以上務めていますが、調停でも遺産分割や遺留分など相続に関わる案件が多く扱われています。そうした経験を活かし、少しでもお役に立てればと考えています。
調停委員の経験が弁護士活動にどのように活かされていますか。
弁護士は依頼者の話を聞き、その主張を基に相手方と交渉しますが、調停委員の場合、両者の意見を公平に理解し、調整を図る役割が求められます。
調停委員としての経験を通じて、弁護士としても依頼者の話をしっかりと受け止めるだけでなく、相手方の反論や主張を予測しながら、戦略を練ることの重要性を改めて実感しています。
金銭面だけでは解決できない当事者の生い立ちにも耳を傾ける
相続について、よくある相談内容を教えてください。
様々な相談があります。
例えば、「特定の相続人が遺産を多く欲しがっているが、どう対応すればいいか」や、「親の面倒を見たので、自分が多く遺産を受け取りたい」といった相談です。
また、「相続人の所在が不明になっているが、どうすればいいか」というケースもよくあります。
事前に遺言を作成したいという相談も少なくありません。例えば、「兄弟姉妹や息子に遺産を残したくないが、どうすればいいのか」といった内容で、遺言書の作成について相談されることも多いです。
相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
相続案件では、金銭面だけでは解決できない問題が多くあります。当事者が納得できる解決に至らないと、心の奥深くに傷が残ってしまうことも少なくありません。
例えば、「兄は希望の高校に進学させてもらえたのに、自分はそうしてもらえなかった」というような、これまでの生い立ちや経験が最終的な相続の話し合いに影響を与えることがあります。そうした金銭だけでは片付けられない感情にしっかりと配慮することが大切だと感じています。
依頼者の言葉に対して「それは関係ない」とすぐに切り捨てるのではなく、まずはしっかりと耳を傾けることが大切です。最終的には法律的な問題に直接関係しないとしても、初めから聞く耳を持たない姿勢では不満が残ってしまいます。丁寧に話を伺い、その上で解決に取り組むことが重要だと考えています。
相続について弁護士に相談するメリットを教えてください。
相続に関しては、弁護士以外にも司法書士や行政書士、さらには知人などに相談することも可能ですが、弁護士に相談するメリットは、最終的な解決に向けた包括的なサポートが受けられる点です。
法的な解決方法には、交渉や調停、裁判などさまざまな手段があります。これらの手続きに進んだ場合、最終的にどうなるのかという見通しを立てて具体的なアドバイスができるのは弁護士のみです。
早めに弁護士に相談した方がよい理由を教えてください。
相続争いを防ぐためには、ご本人が存命のうちに相談することが望ましいです。生前であれば、遺言を作成し、遺産の分け方を明確にしておくことで、相続に関する争いを未然に防ぐことができます。
また、相続人の誰かが勝手に遺産を使ってしまうケースでは、亡くなってからではできる対応が限られてしまいます。そのため、存命のうちに相談することをお勧めします。
たとえば、特定の親族が親の通帳を管理している場合など、財産の使い込みのリスクがあると感じたら、早めにご相談ください。
財産の使い込みを防ぐためには、ご本人の判断能力を考慮して後見人を選任することや、相続人同士で財産の管理方法についてあらかじめ合意し、一人に任せないようにするなどの対策が考えられます。こうした対応を早めに行うことで、相続に関する不要なトラブルを避けることが可能になります。
多角的な視点で案件を検討し、依頼者の利益を最大化
先生の事務所ならではの強みを教えてください。
息子と一緒に事務所を運営している点です。長年の経験を持つ私と、新しい視点を持つ息子が意見を交わすことで、幅広い相談に柔軟に対応できると考えています。
私と息子が一緒に案件に取り組むことも多くあります。お互いに異なる意見を持つことがあり、多角的な視点で案件を検討することで、依頼者の利益を最大化できると考えています。
これまで取り組んできた相続案件の中で、印象に残っているものはありますか。
被相続人が長男の妻子と養子縁組をしており、その事実が相続開始後に発覚した案件が印象に残っています。様々な争点があり、それぞれの段階で徹底的に争ったため、解決までに長い時間がかかりました。
依頼者は相続人の一人で、長男の兄弟でした。依頼者は、長男が相続人を増やして遺産を多く受け取るために妻子との養子縁組を画策したのではないかと疑念を持っていました。
そのため、まず、養子縁組の無効を求めて裁判を提起しました。
地裁では「養子縁組は有効」との判断だったので、控訴して高裁で争いました。高裁では、「長男の妻との養子縁組は税金対策目的で無効」である一方、子どもとの養子縁組は有効と認める内容の和解で決着しました。妻は相続人として認められないことになるので、一定程度こちらの言い分が認められた形です。
しかし、争いはそれで終わりませんでした。長男と依頼者がお互いの遺産の使い込みを主張して裁判となり、最終的な解決までには10年の月日を要しました。
最終的に依頼者の要望にほぼ沿う形で解決することができましたが、これほど長期間にわたり、また争点が多岐にわたった案件ははじめてだったので印象に残っています。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
相続トラブルで悩んでいる場合、まずは弁護士に相談することをお勧めします。司法書士や行政書士も相談先として考えられますが、弁護士に相談することで、必要に応じて税理士など他の専門家を紹介してもらえることがあります。初回相談を無料で行っている法律事務所も多いので、まずは気軽に訪れてみてください。
弁護士を探す際には、インターネットの情報を参考にするのも良いですが、信頼できるかどうかは実際に話してみることで判断できます。自分に合う弁護士が見つかれば、そのまま依頼するのが良いでしょう。
もし合わなければ、他の弁護士を探してみるのも一つの方法です。最初の相談で合わなかったからといって諦めずに、いろいろな弁護士に相談してみてください。
相談する際には、何でも率直に話してみることが大切です。弁護士も人間ですから、緊張せずにリラックスしてお話しいただければと思います。