高齢者問題に精通、成年後見制度はじめ生前対策に強み 「問題が起きる前でもご相談ください」
神奈川県藤沢市で「宮下・大川法律事務所」を経営する宮下京介弁護士(神奈川県弁護士会)に、相続でよくある相談や印象に残っている事案について聞きました。高齢者・障害者に関する問題を多く取り扱ってきた宮下弁護士。成年後見制度などの生前対策にも精通しているのが強みだといいます。
インタビュー
丁寧なヒアリングでトラブルを解きほぐす
事務所設立の経緯を教えてください。
2001年に弁護士登録し、横浜市内の法律事務所で17年間業務しました。当時一緒に勤務していた大川宏之弁護士が藤沢で独立開業していたので、一緒に事務所をやろうということになり、2018年7月に「宮下・大川法律事務所」を設立しました。
事務所で大切にしていることはなんですか。
一番には、相談者や依頼者を大事にしたいと思っています。いつも自分が依頼者の立場だったら、どういうふうなことを弁護士にしてほしいかを考えています。
ご本人としては普通に接しているだけなのに、相手とトラブルになって悩むことがあります。また、すでに周りの方に相談していて、そこでの回答が納得できない、腑に落ちないという思いを抱えていらっしゃる方もいます。
単に事件を処理するだけではなく、ご本人の気持ちや経緯を詳しく聞いて、トラブルの原因を解きほぐしていくようにしています。
高齢者問題に精通、生前対策からお任せください
相続案件に注力している理由を教えてください。
神奈川県弁護士会の「高齢者・障害者の権利に関する委員会」に所属し、成年後見制度や福祉制度を含めて、高齢者・障害者に関する問題を多く取り扱ってきました。成年後見人の仕事は相続とも密接な関係があり、私自身この分野にとても興味があったので、この分野なら自分でもお役に立てることがあるのではないかと思ったからです。
相続についてよくある相談内容を教えてください。
相続というのは人生の中で誰もが経験する、大きなライフイベントです。長く高齢者や障害者の生活を巡る法律問題に取り組んできましたので、生前対策のご相談は多く、中でも成年後見制度に力を入れています。
日本は超高齢社会に突入しており、認知症の方も増えています。自分の親や兄弟が財産を持っていても、相続人が自分の生活で忙しいために、どうしても自分では支援ができない。そうした問題を解決するための制度である成年後見制度に着目して、成年後見事件を多く担当するようになりました。
成年後見制度は本人が亡くなるまで続きます。私が成年後見人に選任された場合には、生前から関わっていき、ご相談があれば、亡くなったあとの相続手続までお手伝いしています。
今の日本では、相当額の貯蓄をもった高齢者が多いと感じます。現役時代に頑張って仕事をして、老後の蓄えのこともしっかり計画してこられたのでしょう。一方で、今の若い人はいくら働いても給料が上がらず、なかなか貯蓄にまで手が回らないという話を聞きます。相続制度は、亡くなった方の財産を相続人などに引き継ぐ制度であり、日本経済にとっても重要な制度であると考えています。
生前対策として、遺言書を書くことも重要です。公正証書遺言は作成するのに手数料がかかりますが、スムーズな相続のためには、お金をかけてでもきちんと用意した方がいいと思います。自筆証書遺言ですと、不備があった場合、財産移転がスムーズにできないこともあります。
成年後見制度のメリットはなんですか。
成年後見制度の趣旨は、判断能力が乏しくなったご本人の支援です。
しかし、ご本人の親族にとっては、ご本人の支援を成年後見人等に任せ、自分の人生の時間を自分のために使えるというメリットもあると思います。親には親の人生があり、子どもには子どもの人生があります。
今の時代は昔のように3世帯で住むことが少なく、子どもはある程度の年齢になったら、別の場所に住み、自分の給料で自分やその家族を支えるので精一杯だと思います。親の面倒を成年後見人等に任せることで、限られた時間を自分のために使うことができます。
依頼者や相手方の意見を丁寧に聞いて進めます
相続発生後の相談もありますか。
もちろん、相続発生後のご相談も受けています。「相続人の一人が遺産を抱え込んで開示してくれない」「遺言書が特定の人に全てあげるという内容で一円ももらえない」「遺産の中に不動産があるが揉めている」などのご相談があります。
相続発生後に相談に来られたケースは、話し合いでまとまらない状態がほとんどですので、そのような場合には、家事調停や審判によって解決することが多いように思います。
不動産が絡む場合、共有名義にすることは簡単ですが、デメリットが多いので、できるだけ共有にしない形で相続問題を解決するよう努めています。
不動産が遺産に含まれている場合、その不動産に子どもの頃の思い出があるなど、感情的に思い入れのある場合もあります。そうした気持ちも大事にしたいと思いますので、そのような気持ちについて、他の相続人に話して理解を求める場合もあります。
しかし、その不動産を単独で取得しようとする場合には、他の相続人には代償金を払わなければなりません。どうしても代償金が払えない場合には、やむを得ず売却しなければならないこともあります。
遺産分割は、法定相続分だけでなく、相続人の思いや税金など、さまざまな要素を組み合わせてまとめていくものです。依頼者や相手方の意見を丁寧に聞いて進めることを大切にしています。
これまで取り組んできた相続案件の中で、印象に残っているものはありますか。
後妻と先妻との間の子どもが相続人となっている場合には、相続トラブルになりやすいと思います。
私は後妻側の代理人になったのですが、亡くなったお父さんの気持ちを私なりに想像して、それぞれの相続人の考えも聞きながら粘り強く調整しました。
その方の遺産の中には不動産も含まれていたので、時間がかかるだろうと予想していましたが、最終的には相続人全員が納得する形で解決することができ、依頼者の方から「遺産分割が終わった後も交流が続いています」というお話を聞いた時には、私もホッとしました。
遺産の分け方については、遺産分割が終わった後に、それぞれの相続人の生活がそれなりに成り立っていくことを中心に考えていくようにしています。
もちろんお金がたくさん入れば入るほどその後の生活は楽になると思いますが、金銭感覚は人によって異なるものです。しかし、あまり計算式で算定された金額だけにこだわりすぎてしまうと、紛争が長期化して、かえって不利益になることもあります。そう思われるときには、速やかな解決によるメリットについても目を向けていただくように努めています。
相続手続きの完了後も相続人の人生は続いていくのであり、遺産分割がきっかけでそれまで続いていた親族の縁が切れてしまうのは寂しいことだと思います。相続においては、金額の多寡だけに固執するのではなく、各相続人がそれぞれ譲歩して、円満に話し合って決めるのが、一番良い解決だと考えています。
生前から準備しておくメリットは大きい
相続案件を手掛ける上で、心がけていることを教えてください。
相続は、長い歴史の中で定まってきた人の営みの一つと考えています。相続は昔から変わらずあるものですが、残された財産は亡くなった人が築き上げたものであり、その人が自分の財産をどう分けたいのかという気持ちも大切にしたいと考えています。
弁護士に早めに相談するメリットを教えてください。
生前から亡くなった後のことを予測して、遺言を書いたり、不動産を整理したりすることによって、相続紛争を防止することができます。早めに誰かに相談することで、将来の紛争を防止するメリットは大きいと思います。問題が起きる前からでも、気軽に弁護士に相談いただければと思っています。
先生の事務所ならではの強みや、他の事務所との違いはどんなところでしょうか。
これまで弁護士会の専門委員会にも所属し、高齢者・障害者に関する問題を多く取り扱ってきた経験が、相続案件の事務処理にも役立っていると思います。
成年後見事件を担当する中で、コミュニケーション不全が生じて関係が悪くなっている家族に割って入っていき、親族間の関係を調整するような仕事をしてきました。
マンツーマンで裁判をして、判決によって紛争を解決するのとは異なり、揉め事や紛争に入っていき、話し合いで紛争を解決する経験が多いかもしれません。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
「弁護士は敷居が高い」と言われることがありますが、決してそんなことはありません。お役に立てることがあれば、自分の知識や経験を活かして、お役に立ちたいと思っていますので、お気軽にご相談ください。
依頼者からは「話しやすい」と言われることも多いですが、直接的に言いすぎてしまい、反省することもあります。弁護士も人間ですし、相性がありますので、複数の弁護士に相談してみて、自分が一番信頼できる弁護士に依頼するのが良いと思います。