徹底的な調査で、難しい案件にも粘り強く対応。地域の実情を理解し、実態に沿った解決策を提案
宮城県気仙沼市の東忠宏弁護士(弁護士法人東法律事務所)に、相続案件に携わる上で心がけていることなどを聞きました。難しい案件でも徹底的に調査を行い、じっくりと検討して粘り強く解決策を探る東弁護士。相続について弁護士に相談・依頼するメリットについても詳しく聞きました。(仙台弁護士会所属)
インタビュー
弁護士過疎地域に法的サービスを提供する法律事務所としてスタート
事務所設立の経緯を教えてください。
最初は「気仙沼ひまわり基金法律事務所」として2007年に設立しました。
「ひまわり基金」は、弁護士が少ない地域、いわゆる弁護士過疎地域の問題に対応するための基金です。若手弁護士を中心に弁護士過疎地域に派遣し、事務所開業を支援する目的で、日本弁護士連合会によって設立されました。
その後5年間の任期を経て、「弁護士法人東法律事務所」へ移行されたのですね。東日本大震災で被災されたそうですが、当時のお話をお伺いできますか。
震災発生時、私は石巻に出張中でした。事務所と自宅が被災し、弁護士活動も困難な状況でした。
事務所の本格的な再稼働には2週間位を要しましたが、以後、被災者の法律相談や震災に関係する事件をかなりの件数扱いました。その後の、全国各地で起こった大規模災害後の弁護士・弁護士会の取り組みもフォローしていますが、件数的には、私も有数のレベルだと自負しています。
このうち、相続関係では、津波で流された土地を復興事業のために公共団体に売却する場面で、登記名義が数代前のままになっているケースが多く、複数の相続登記を順番に行い、現在の名義に直すというような事案がよくありました。時効取得という方法を活用することもありました。
その後、2013年に現在の事務所に移転し、活動を続けています。
難しい案件でも、徹底的な調査と検討により新たな展望を開く
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
難しそうに見える局面でも、すぐに結論を出さずに、徹底的に調べて検討を尽くすことが大切だと考えています。
相手の主張がしっかりしていて、証拠も十分に揃っている場合、反論が難しく思われることがあります。また、依頼者が不当な扱いを受けていると直感的に感じる場合でも、一般的な法律論ではその救済が難しく、前例のない法的主張を組み立てる必要があるケースなどもあります。
そのような場合でも、依頼者と共に現地を訪れたり、詳細に調査したりすることで、新たな展望が開けることがあります。例えば、亡くなった方の古い通帳の履歴や情報開示による確定申告の資料、家の中にある書類や郵便物、遺産となる不動産の現地の状況などです。これまでにも、そうした努力の結果がよい結果に繋がった事例がいくつもありました。
相続案件に注力している理由を教えてください。
弁護士としての経験に加え、家庭裁判所の調停委員としても10年以上の経験があります。そうした知識や経験を提供できる場として相続案件に注力しています。
家庭裁判所の調停委員として遺産分割調停なども担当されているのですね。調停委員の経験が弁護士活動にどのように活かされていますか。
私はもともと、自分が担当していない民事事件の記録を閲覧することを、自分なりの勉強方法として実践してきました。調停委員になってからは、当事者や弁護士からお話を聞き、また書面を双方の立場から読むことで、さらに考えが深まったように思います。
調停では、代理人による主張書面に主張が一通りのことは書かれていますが、その主張を前提にして具体的にどのように配分するのかが明確ではない、そもそも、どのような目的のために記述が成されているのかすら分からない主張がある、ということすら珍しくありません。
書面の作成者としては当然の前提なのでしょうが、調停委員側としては理解が難しい場合があります。
調停委員を務める中で、このような主張する側と読み手のギャップに気づくことが多くありました。弁護士としての視点が広がり、受け手を目標にした調査なり説明なりを、よく考えるようになったと思います。
そして、なんと言っても、調停員として、審判官(裁判官)と評議して、調停の方向性を探る中で、具体的な事件・状況を前にした裁判官の考え方に触れてきたことは、なによりの財産となっています。
地域の人々や現地の様子をよく理解し、実態に沿った解決策を提案
相続について、よくある課題を教えてください。
最近よくある課題として、2つほど挙げてみます。
1つは、遺産となる不動産の押し付け合いです。例えば、誰も住んでおらず管理もされていないような空き家は、欲しがる人がいないことが多いです。
当地に誰も居住していない事案では、遺産分割審判でもってその不動産を競売とし、競売で得たお金を相続人全員で分配する方法を取ったこともあります。
もう1つは、相続人が全国各地に居住しているため、各自が受け取れる遺産があるにもかかわらず、誰も率先して手続きを進めようとしない事例です。相続人同士の人間関係が希薄なため、積極的に動く人がいない結果、遺産が宙に浮いたままになり、時間だけが経過してしまうことがあります。
私もよく、依頼者の、全国の兄弟姉妹・そのご子息と連絡を取り合い、必要な書類を集める・預金などの遺産を現金化して配当する手続きをしています。
このようなケースでは、相続人としては争うつもりはなくても、他の相続人に一言伝えたい思いを抱えていることが少なくありません。通常の交渉事案と同様、各位と丁寧にコミュニケーションを取ることが大切です。
### 「ちょっと変だな」と思ったらどんなタイミングでも弁護士に相談を
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
どんなタイミングでも、「ちょっと変だな」と思った時点で弁護士に相談することが大切です。中には、最終的な遺産分割協議書の提案を受けて判子を押す直前になって、「これでいいのか」と不安になり、初めて相談に来られるケースもあります。
家族で話し合い、法定相続分とは異なる分け方で遺産分割を行うケースが実際にはよくあるでしょう。親の介護をした相続人や長男、跡継ぎに遺産を多く分けることもあるでしょう。また、夫の遺産を、残された妻が全部取得する・子どもらは取得しない、という分配も、あると思います。
このような分け方も、話し合いによって全員が納得した結果であれば、尊重されるべきです。しかし、腑に落ちないことがあれば、ぜひ一度弁護士に相談してください。私なりの経験や知識を元にお話しすることで、モヤモヤした気持ちに区切りがつくこともあると思います。不動産の所在、各位の職種の他、地域の実情もよく分かっており、把握が容易なこともあります。
どうぞお気軽にご相談ください。